Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0055) GEORGIA SATELLITES / THE GEORGIA SATELLITES 【1986年リリース】

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今回取り上げたTHE GEORGIA SATELLITES〔ザ・ジョージア・サテライツ〕の1stアルバム「GEORGIA SATELLITES」がリリースされたのは1986年。


このバンドでヴォーカル&リズム・ギターを担当しているDan Baird〔ダン・ベアード〕は1953年生まれなので、このアルバムがリリースされた時は既に33歳、他のメンバーのプロフィールは不明なのだが見た感じでは大体同じくらいの年齢だろう。


かなり遅咲きのデビューである。


1980年代はTHE GEORGIA SATELLITESのような米国のルーツ・ミュージックに根差したストレートなロックン・ロールを演奏するアーティストにとって、なかなか厳しい時代だった。


否、Bruce Springsteenブルース・スプリングスティーン〕、John Mellencamp〔ジョン・メレンキャンプ〕、Tom Pettyトム・ペティ〕、Bob Seger〔ボブ・シーガー〕等、名前を挙げるとキリが無いが、ベテラン勢のルーツ・ロック系アーティストは高い人気を維持していたので、そういう音楽自体の人気が落ちていた訳ではないのだろう。


そもそも米国人というのは(例外もあるだろうが)、こういうルーツ系ロックを好む人が多いのだろう。


しかし、その割には不思議なくらいこの手の新人アーティストが出てこなかった。


出てくるアーティストは、DURAN DURANデュラン・デュラン〕やCULTURE CLUBカルチャー・クラブ〕に代表される第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンや、MOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕やRATT〔ラット〕に代表されるグラム・メタル(日本での呼称はLAメタル)が、その殆どを占めていた。


これらのアーティストに共通するのが「視覚的インパクトが大きい」ということである。


これは、1981年に開局したミュージック・ビデオを24時間放送するMTVと無関係ではないだろう。


そうなると、THE GEORGIA SATELLITESのようなMTV映えする視覚的インパクトに欠けるアーティストは、なかなかレコード会社に見出してもらい難くなるのだろう。


THE GEORGIA SATELLITESのメンバーを見てもらうと解かると思うのだが、みんなロックン・ローラー然としたルックスなのだが、グラマラスな化粧もしていないし、煌びやかな衣装も着ていない。


アルバム・ジャケットでは頑張って制帽を被っているメンバーもいるが、カッコ良いというより、なんだか「がきデカ」みたいでちょっとコミカルに見える。


もしかするとMTVが無ければTHE GEORGIA SATELLITESはもっと早くデビュー出来ていたのかもしれない。


そんなTHE GEORGIA SATELLITESも、どうにかこうにかエレクトラからメジャー・デビュー出来たわけだが、そんな彼らの1stシングル"Keep Your Hands To Yourself"は徐々にチャートを上昇し、全米第2位の大ヒットとなった。


筆者は、ヒットしたかヒットしなかったかを尺度にして音楽を聴くことは無いが、今、改めて当時を振り返ると、やはり米国人はこういうルーツに根差したストレートなロックン・ロールが好きな人が多く、その音楽のクオリティが高ければヒットする可能性は高いということを証明したバンドがTHE GEORGIA SATELLITESだったのではないかと思う。


THE GEORGIA SATELLITESの曲はどれもこれも、とにかくカッコ良い。


THE GEORGIA SATELLITES は、1970年代初期に英国人であるTHE ROLLING STONESやFACESがやっていた米国南部のルーツ・ミュージックに根差したロックン・ロールから多大な影響を受けたバンドである。


そんな音楽をTHE GEORGIA SATELLITESという本物の米国南部のミュージシャンがやると、当たり前だが更に南部の香りが強いロックン・ロールになる。


所謂(いわゆる)、サザン・ロックにもカテゴライズされるバンドなのだが、彼らの曲はいずれもキャッチ―でコンパクトに纏められており、サザン・ロック的な長いインプロビゼーションは苦手という人でも楽しんで聴けるのではないかと思う。


しかし、この手の音楽というのは、何年経っても、いつ聴いても、変わらない普遍的な魅力があることに改めて気付かされた。

 

#0054) DUMMY / PORTISHEAD 【1994年リリース】

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筆者がロック以外の音楽、特にエレクトロニカを積極的に聴くようになった切っ掛けは、間違いなくGoldie〔ゴールディー〕の「TIMELESS」を聴いてからである。


今でも「ロック以外のジャンルで最も好きなアルバムは?」と問われた場合、「TIMELESS」と答える。


そして、「TIMELESS」と同じくらい好きなアルバムがPORTISHEADの1stアルバム「DUMMY」だ。


このアルバムを聴いたときの衝撃は物凄かった。


バックトラックは紛うことなきヒップ・ホップのそれなのだが、上に乗っているのがラップではなく歌なのである。


それも「ラッパーが歌ってみた」というレベルの歌ではなく、本格的なシンガーの歌なのである。


実はロックと平行してヒップ・ホップも僅かだが聴いていた。


例えば、大好きなスラッシュ・メタル・バンドのANTHRAXアンスラックス〕との共演で知ったPUBLIC ENEMYパブリック・エナミー〕や、ロックとの繋がりが深いCYPRESS HILLサイプレス・ヒル〕、そもそもパンク・バンドからそのキャリアをスタートさせたBEASTIE BOYSビースティ・ボーイズ〕等はレコードやCDを買ってそこそこ聴いていた


しかし、ロックを聴いて育った筆者の耳にはラップというものが馴染みにくく、ロックほどのめり込むには至らなかったのである。


ところが、PORTISHEADはヒップ・ホップのバックトラックの上で本格的に歌っているのである。


これまでにもそういうものは在ったのかもしれないが、筆者にとってこれはとても新しかった。


更に、歌っているBeth Gibbons〔ベス・ギボンズ〕が筆者の好きなタイプである「闇を感じさせる女性シンガー」であり、そこもまたPORTISHEADに魅かれた理由の一つだった。


陰鬱ではあるが、時に情念が迸る(ほとばしる)Beth Gibbonsの歌は危ないくらいに中毒性が高く、聴き終わっても直ぐにまた聴きたくなるのである。


音楽のジャンル等、さほど気にしない筆者ではあるが、PORTISHEADはジャンル的にはヒップ・ホップのサブジャンルであるトリップ・ホップということになるのだろう。


しかし、ロックで育った筆者にとってPORTISHEADの音楽はむしろ極上のゴシック・ロックのごとく聴こえるのである。

 

#0053) THE SCENE CHANGES: THE AMAZING BUD POWELL (VOL. 5) / Bud Powell 【1959年リリース】

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以前、Thelonious Monkセロニアス・モンク〕を取り上げときに「一番好きなピアニストである」と書いた。


ただし、人から「お薦めのジャズ・ピアニストを教えて」と問われたときにMonkを薦めることはまずない。


そもそも、人に蘊蓄(うんちく)を語れるほど筆者はジャズに詳しくないし、それほど多くのジャズ・ミュージシャンを聴いてきた訳でもないので持ちネタ自体が少ない。


それでも、やはり、Monkを薦めることはしない。


Monkの個性的すぎるピアノは安易に人に薦められるようなものではないからだ。


では、そういうときにどのジャズ・ピアニストを薦めるのかというと、これはもういつも決まっていて、必ずBud Powellバド・パウエル〕ということになる。


そして、薦めるアルバムはというと、「THE SCENE CHANGES: THE AMAZING BUD POWELL (VOL. 5)」である。


このアルバムは、「普段ジャズを聴く習慣の無い人でも一度は聴いたことがあるのでは?」というほどの名曲"Cleopatra's Dream (クレオパトラの夢)"で始まるところが良い。


とにかく、前編に渡り非常にキャッチ―なアルバムである。


以前、取り上げたMonkとは同時代の人であり(Monkが1917年生まれ、Powellが1924年生まれ)、PowellはMonkに音楽理論を師事したということだが、ピアニストとしてのPowellはMonkからそれほど影響を受けていないように思える。


筆者はジャズ理論については全くの無知だが、そんな筆者が聴いても二人は全く違う個性の持ち主であることが解かる。


ひたすら自分の世界に入り込むMonkに対し、Powellには聴き手を楽しませようというエンターテイナーとしての資質を感じる。


それでいて、聴き手に媚を売るような薄っぺらで軽薄な音楽になっていないところが凄い。


なにかこう、命を削ってピアノを弾いているような鬼気迫る迫力がPowellの演奏にはある。


そのためだろうか、Powellは41歳という若さで亡くなっている。


それにも関わらずリリースされた作品の数は多く、筆者もまだ聴いていない作品が多い。


そろそろ人生のゴールが見えつつある筆者だが、この先の人生の楽しみの一つがPowellの作品を発掘していくことだ。


残された時間はあまり多くないので急がなければならない。

 

#0052) IN THE COURT OF THE CRIMSON KING / KING CRIMSON 【1969年リリース】

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聴いた回数の多さでは今回取り上げるKING CRIMSONキング・クリムゾン〕の1stアルバム「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」もかなり上位に入る。


このアルバムは筆者が洋楽を聴き始めた1980年代の初期、洋楽雑誌「MUSIC LIFE」で「過去の名盤」的な特集記事が組まれると、必ず取り上げられる一枚だった。


2018年現在の今でもその輝きが失われることはなく、ロック史上に燦然と輝く名盤である。


当時の筆者はまだ聴いたことのないプログレッシヴ・ロックに強烈に魅かれていた時期で、Progressive(進歩的な)なロックというものがどんなものなのか、聴きたくて聴きたくて仕方がなかった。


そして、なけなしのお小遣いをはたいてようやく購入できたのが、この「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」とPINK FLOYDの「THE DARK SIDE OF THE MOON」だった。


余談だが筆者はあるジャンルの音楽を聴いてみたい場合、そのジャンルの代表的なアーティストを二組選んでそれぞれの名盤と呼ばれているアルバムを一枚ずつ買うようにしていた。


そうしていた理由は二つ有り、一つは、一組だけを聴いてもそのジャンルの特徴を掴み切れないと思っていたから、そしてもう一つは、二組聴けば一方が×でも、もう一方は○ということもあるだろうと思っていたからだ。


ただし、二組とも×の場合は大損をすることにもなるのだが。


「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」と「THE DARK SIDE OF THE MOON」の場合、最初に聴いたときは「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」は○で、「THE DARK SIDE OF THE MOON」は×だった(ただし、一年後くらいには「THE DARK SIDE OF THE MOON」も○になり、こちらも頻繁に聴きまくるようになった)。


「IN THE COURT OF THE CRIMSON KING」を聴くまで、ロックとはノリノリで聴くものだという先入観があったのだが、「IN THE COURT OF~」を聴いて、初めて「じっくり聴くロック」というものが有ることを知った。


Robert Fripp〔ロバート・フリップ〕(guitars)、Greg Lakeグレッグ・レイク〕(vocals & bass)、Ian McDonald〔イアン・マクドナルド〕(keyboards, 木管楽器)、Michael Giles〔マイケル・ジャイルズ〕(drums)の4人が繰り出すクラシックやジャズからの影響を受けた超絶的なプレイヤビリティにも圧倒されたが、作詞のみを担当するPeter Sinfield〔ピート・シンフィールド〕がバンド・メンバーとして名を連ねていることに相当な衝撃を受けた。


1曲目の"21st Century Schizoid Man"こそハードな展開を見せるものの、2曲目以降はラストまで幽玄の美を感じさせる深遠な世界が続く。


十代の頃、筆者はこのアルバムを聴くことで、今、自分が存在する現実世界から逃避していた。


あれからもう30年以上の時間が経過した。


50歳を迎えつつある今でもこのアルバムを聴くと、ちょっと普通の精神状態ではいられなくなることがある。

 

#0051) まにぐるま / 騒音寺 【2004年リリース】

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これまで一度も日本のアーティストを取り上げてこなかったので、ここら辺で日本のアーティストを取り上げてみる。


取り上げるアーティストは、筆者が日本のアーティストの中で最も好きなロックン・ロール・バンド騒音寺だ。


そして、取り上げるアルバムは4thアルバムの「まにぐるま」にする。


何故「まにぐるま」にしたかと言うと、筆者が最初に聴いた騒音寺のアルバムが「まにぐるま」だからであり、それ故に思い入れが深いからである。


実はこの騒音寺というバンド、筆者にとっては地元のバンドである。


故に地元のライヴハウスで何回か彼らのライヴを見たことがある。


そんな筆者が断言する。


騒音寺は、現存する日本のロック・バンドの最高峰だ。


否、世界的に見てもトップクラスのロック・バンドだと思う。


騒音寺ほどロックを、そしてロックン・ロールを解っているバンドはなかなかいない。


騒音寺の音楽性は、曲のタイトルを見るだけで何となく想像ができるのではないかと思う。


以下に「まにぐるま」の収録曲を列挙してみる。


01. 読経「騒音寺
02. 社会の窓から
03. ブルースが来るぜ
04. ガキのくせに
05. Let's go Danny
06. 夏の墓標
07. 道成寺 (安珍清姫)
08. ベルボトムは穿かない
09. 乱調秋田音頭
10. グッドナイト
11. Old man river


何曲か和風テイストを感じさせるタイトルがある。


騒音寺の音楽性を乱暴に説明すると、和風テイストのあるロックン・ロールだと言える。


しかし、筆者が言いたいのはそういう表面的なことではない。


筆者はこの騒音寺というバンドに、筆者の大好きなTHE GEORGIA SATELLITES〔ザ・ジョージア・サテライツ〕やHANOI ROCKSハノイ・ロックス〕やTHE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕といったバンド達と同じ資質を感じている(他にも挙げたいバンドはあるのだが、きりが無いので80年代以降に登場したバンドから選んだ)。


もしかすると騒音寺からは「そんなバンド好きちゃうし」と言われるかもしれない。


音楽性については、上記したバンドはそれぞれが全く違うし、騒音寺と似ているわけでもない。


しかし、彼らのロックン・ロールに対するアティテュードは似ている。


いずれのバンドもTHE ROLLING STONESから影響を受けていることは確実なのだが、彼らのカッコ良いところは単にSTONESの模倣で終わるのではなく、そこに自分たちのルーツを反映させているところだ。


THE GEORGIA SATELLITESからは米国南部の匂いを感じ取ることができるし、HANOI ROCKSからは北欧フィンランドの匂いを感じ取ることができる。


THE DOGS D'AMOURはTHE ROLLING STONESと同じ英国のバンドだが、明らかにSTONESとは異なる英国の匂いを感じ取ることができる。


そして、騒音寺からは日本の、もっと突っ込んで言うと、京都の匂いを感じ取ることができるのである。


ロックとは、否、ロックン・ロールとは、流行りのリズムに聴き易いメロディをのせて、共感してもらい易い歌詞を詰め込んで歌うことではない。


信じている音楽、そして、愛している音楽に己の血を注ぎ込んで歌い演奏することだ。


時には簡単に共感してもらえないことを歌わなければならない場合もある。


でも、それがロックン・ロールだ。


そして、本物のロックン・ロールを聴きたいのなら、迷わず今直ぐ騒音寺を聴け!