Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0108) PARADE / SPANDAU BALLET 【1984年リリース】

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1980年代初頭に英国で興ったニュー・ロマンティック・ムーヴメントから登場したアーティストの中で最も大きな成功を収めたアーティストはたぶんDURAN DURANデュラン・デュラン〕だろう。


そして、そのDURAN DURANの最大のライヴァルと言えば英国ではSPANDAU BALLETスパンダー・バレエ〕ということになっているらしい。


今日はそのSPANDAU BALLETの4thアルバム「PARADE」を取り上げてみる。


英国におけるDURAN DURANの最大のライヴァルがSPANDAU BALLETであると書いたが、当時を知る者の感覚から言わせてもらうと、日本では「DURAN DURAN vs SPANDAU BALLET」という構図は無かった。


当時の日本でDURAN DURANの最大のライヴァルと言えばCULTURE CLUBカルチャー・クラブ〕だったのである。


では、当時の日本でSPANDAU BALLETがどのような存在だったのかを思い出そうとすると、どう言う訳か殆ど記憶に残っていない。


少なくても人気バンドではなく、音楽雑誌のMUSIC LIFEも毎月DURAN DURANCULTURE CLUBのことは取り上げていたが、SPANDAU BALLETは殆ど取り上げていなかったような気がする。


当時の日本でSPANDAU BALLETの人気が英国ほど高くなかった理由の一つは、たぶん彼らの音楽性がアダルト過ぎて、日本の10代の女子が好むような類の音楽性ではなかったからだろう。


そして、メンバーのルックスも「可愛い」、「美しい」という感じではなく、「ダンディ」、「男前」という感じであり、この辺りも日本の10代の女子の好みとずれていた。


今回取り上げた「PARADE」に関してはニュー・ロマンティック・ムーヴメントが沈静化した1984年にリリースされたアルバムであり、大人のリスナーをターゲットにしたアダルト・コンテンポラリー・ミュージックの名盤である。


SPANDAU BALLETと言えば、米国のビルボードで4位(アダルト・コンテンポラリー部門では1位)となった大ヒット曲"True"が収録されている前作の3rdアルバム「TRUE」の方が有名かもしれないが、筆者の個人的な感想では本作「PARADE」の方がより高い完成度を備えていると感じている。


"True"のような即効性の高い大ヒット曲は収録されていないが、「PARADE」の方がアルバム全体を俯瞰して楽しめる大人向けの一枚に仕上がっていると言えるだろう。


実は本音を言うと、筆者は"True"のことを凡庸で面白みのないバラードだと感じており、本作収録の"Round And Round"の方が起伏に富んだ秀逸なバラードだと感じている。


このアルバムを最初に聴いたのは中学生の頃だが、当時の筆者は何となく大人になったような気分に浸りながら収録曲の全てに酔いしれていた。


本当の大人になった今、改めてこのアルバムを聴いても、それぞれ曲の良さは全く色あせていない。


ちなみに、この「PARADE」までのSPANDAU BALLETのアルバムは全8曲収録だった。


全8曲というのは現在の感覚ではミニ・アルバムかEPだが、当時はこのヴォリュームのアルバムがけっこう多かった。


しかし、クオリティの低い捨て曲を詰め込んで無駄にヴォリュームを膨らますより、そのアーティストが全てを注ぎ込んで書き上げた曲だけが詰まったコンパクトなアルバムの方が聴いた後の満足感が大きいと筆者は感じている。

 

#0107) BONDED BY BLOOD / EXODUS 【1985年リリース】

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このブログでは既にスラッシュ・メタル四天王と呼ばれているMETALLICAメタリカ〕、MEGADETHメガデス〕、SLAYER〔スレイヤー〕、ANTHRAXアンスラックス〕のアルバムを取り上げた。

#0097) METALLICA
#0087) MEGADETH
#0077) SLAYER
#0067) ANTHRAX


では、このスラッシュ・メタル四天王の位置に最も近いバンドは何かと考えた場合、これには賛否両論あると思うのだが、筆者はEXODUS〔エクソダス〕がそれに相当するのではないかと考えている。


EXODUSはスラッシュ・メタル四天王ほどの商業的な成功は納めていないが、METALLICAのKirk Hammett〔カーク・ハメット〕が過去に在籍していたり、METALLICA、SLAYER 、ANTHRAX と同時期(1980年代初頭)から活動を開始していたりという具合に、スラッシュ・メタル・バンドとしての歴史や存在感は申し分ない。


そして何よりも決定的なのは、数年前に音楽雑誌BURRN!がミュージシャンに対して行った、「あなたの好きなスラッシュ・メタルのアルバムは?」的なアンケートで物凄い得票を集めていたのが今回取り上げたEXODUSの1sアルバム「BONDED BY BLOOD」なのである。


記憶が定かではないが、確か1位だったような気がする。


と、書いてはみたものの筆者がこのアルバムを聴いたのは上記のBURRN!のアンケート結果を見てからである。


その得票の凄さを見て、それまでさほど興味を持っていなかったEXODUSに俄然興味が湧いてきたのである。


このバンドには何となく、出遅れた感があった。


METALLICAやSLAYER とほぼ同じ時期に活動を開始したものの(EXODUSは1980年、METALLICAとSLAYER は1981年)、EXODUSが1stアルバムを漸くリリース出来たのは1985年である。


翌年の1986年は、METALLICAは3rdアルバムの「MASTER OF PUPPETS」、SLAYER は3rdアルバムの「REIGN IN BLOOD」という、それぞれの音楽性を研ぎ澄ませたアルバムをリリースしていた時期だ。


実のところ、筆者はこの「BONDED BY BLOOD」というアルバムの日本盤がリリースされていたかどうかも記憶にないほど、このアルバムに対する認識が薄かった(2ndアルバムの「PLEASURES OF THE FLESH」のレビューが音楽雑誌MUSIC LIFEに載っていた記憶はある)。


上記のBURRN!のアンケートを見なければ、たぶんこのアルバムを聴かなかっただろう。


遅まきながら聴いてみて驚いたのは、そのあまりにも解り易いスラッシュ・メタルっぷりである。


これをスラッシュ・メタルと呼ばずして、何をスラッシュ・メタルと呼ぶのかというほどのスラッシュ・メタルっぷりなのである。


スラッシュ・メタルについて書かれた記事でよく目にするベイエリア・クランチが何なのかを知りたいのであれば、このアルバムを聴けば直ぐに解るだろう。


このアルバムから始終かき鳴らされるザクザクとしたギター・リフにやられた人はスラッシュ・メタル・マニアとなり、やられなかった人はスラッシュ・メタルが必要ないということである。

 

#0106) PICTURES FOR PLEASURE / Charlie Sexton 【1985年リリース】

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最近、ロックを聴き始めた頃(1980年代前半)に愛聴していたアルバムを聴く機会が増えた。


その中には、当時、既にレジェンドになっていたアーティストの旧譜もあれば、新人としてデビューしたアーティストの新譜もある。


今回は当時の期待の新人、Charlie Sexton〔チャーリー・セクストン〕の1stアルバム「PICTURES FOR PLEASURE」を取り上げてみる。


当時、若干17歳でデビューしたCharlie Sexton は洋楽雑誌のMUSIC LIFEでアイドルとして毎月大々的に取り上げられており、当然のことながらこのアルバムも同雑誌で協力にプッシュされていた。


そのアイドル的な扱われ方を見た筆者はCharlie Sexton に対し距離を置いていたいたわけだが、テレビの洋楽番組(たぶんベストヒットUSA)で"Beat's So Lonely"のミュージック・ヴィデオを見て考えが変わることになる。


若干17歳とは思えない、そのセクシーで表現力豊かな歌声に魅了されてしまったのだ。


実は筆者はCharlie Sextonとは殆ど歳が変わらないのだが、彼の歌声を聴いた時、自分と殆ど歳の変わらないティーンエージャーだということがちょっと信じられなかった。


上手いと言っても、ベテランの大御所シンガーと比べるとまだまだ線も細いし青臭いところもある。


しかし、その当時の彼の全てを出し尽くしたかのような歌声が、線の細さや青臭さも含めた上で素晴らしかったのである。


女子からの人気が高かった彼のアルバムをレコード店に買いに行くときは多少の気恥ずかしさがあったのだが、既に"Beat's So Lonely"で彼の歌声に魅了されてしまっていたので恥ずかしがっている場合ではなかった。


そしてこのアルバムを聴くことで出会った名曲が"Hold Me"だ。


筆者は暫くの間、この曲をCharlie Sextonのオリジナルだと思っていたのだが、実は1933年に発表されている米国のポピュラー・ソングのカバーである。


原曲とは全くかけ離れたロッカ・バラード調にアレンジされたこの曲をCharlie Sextonは切なく、そして、狂おしく歌い上げる。


1980年代風のゴージャスなアレンジが古臭さを感じさせるアルバムだが、未聴の方には是非"Hold Me"一曲だけでも聴いて頂きたい。

 

#0105) THE ALLMAN BROTHERS BAND / THE ALLMAN BROTHERS BAND 【1969年リリース】

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筆者が高校生の頃、バイト先で知り合った歳上のロック・ファンの人たち(確か5~7歳くらい上だっと思う)は、どう言う訳かLYNYRD SKYNYRDレーナード・スキナード〕を好む人が多かった。


そして、これもまたどう言う訳か、彼らは同じサザン・ロック・バンドであるにも関わらずTHE ALLMAN BROTHERS BAND〔ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド〕のことを苦手としていた。


ちなみに、話はそれてしまうが、彼らはハード・ロック・バンドでもDEEP PURPLEは好むが、LED ZEPPELINレッド・ツェッペリン〕は苦手という人が多かった。


かく言う筆者も、実はサザン・ロックやハード・ロックを聴き始めた頃、彼らと全く同じだったのである。


LYNYRD SKYNYRDのストレートで豪快な曲はロックを聴き始めたばかりの初心者にも伝わり易いのだが、THE ALLMAN BROTHERS BANDのタメを聴かせた繊細な曲はなかなか伝わり難いのである。


ちなみにこれはバンド名をDEEP PURPLELED ZEPPELINに置き換えても成立するのではないだろうか?


筆者がTHE ALLMAN BROTHERS BANDの良さが解ってきたのは30代も半ばを過ぎた頃からだ。


若かりし頃にTHE BLACK CROWES〔ザ・ブラック・クロウズ〕のライヴで聴いたTHE ALLMAN BROTHERS BANDのカヴァー"Dreams"は長いばかりで全くその良さが解らなかったのだが、30代も半ばを過ぎた頃に友人のバンドの演奏で聴いた"Dreams"はあまりにもカッコ良く、聴きながらしばし恍惚としてしまった記憶がある。


これはTHE ALLMAN BROTHERS BANDを改めてちゃんと聴き直さなければと思い買った一枚が今回取り上げた1stアルバムの「THE ALLMAN BROTHERS BAND」だ。


普通、THE ALLMAN BROTHERS BANDで一枚となると名盤と言われているライヴ・アルバム「AT FILLMORE EAST」になることが多いと思うのだが、ライヴ・アルバムというのは反則技のような気がするので、このブログでは取り上げないようにしている。


THE ALLMAN BROTHERS BAND」は1stアルバムだからなのか、瑞々しさが溢れだすような作品である。


スタジオ・アルバムでありながら、このバンドの魅力でもあるインプロヴィゼーションを所々で楽しめるのも良い。


7分を超える大作"Dreams"を聴いていると、「この曲の良さに気付くまでに長い時間が掛かってしまった。この先の付き合いは短いと思うが一つよろしく頼む」という気分になる。

 

#0104) NIHIL / KMFDM 【1995年リリース】

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今回はドイツのKMFDM〔ケーエムエフディーエム〕の8thアルバム「NIHIL」を取り上げてみる。


1990年代に興ったオルタナティヴ・ロック・ムーヴメントの波から出てきたNINE INCH NAILSナイン・インチ・ネイルズ〕の成功に牽引される形でインダストリアル・ロック系のアーティストが一定の人気を得るようになったわけだが、KMFDMは1stアルバム「OPIUM」を1984年にリリースしているのでこのジャンルのアーティストとしては米国のMINISTRY〔ミニストリー〕と並ぶ老舗と言えるだろう。


KMFDMもこの手のアーティストによくいる「ユニット名を名乗ってはいるが実質的にはソロ・プロジェクト」というパターンで、Sascha Konietzko〔サシャ・コニエツコ〕以外のメンバーは極めて流動的だ。


このアルバム「NIHIL」には英国におけるインダストリアル・ロックの雄PIG〔ピッグ〕ことRaymond Watts〔レイモンド・ワッツ 〕が参加している。


そもそもRaymond WattsはKMFDMに入ったり出たりを繰り返していたのだが、この「NIHIL」がリリースされた時期はPIGとしての創作活動がのっていた時期と重なっているためか、PIGの作風と似ている部分がある。


KMFDMもPIGも共にヨーロピアン・テイストが漂うシンセポップ(具体的なアーティスト名を挙げるとDEPECHE MODEデペッシュ・モード〕ということになるのだが)をメタリックにアップデートした音楽性を聴かせてくれるという点では共通するのだが、KMFDMの方がより躊躇なくシンセポップからの影響と堂々とさらけ出しているように思える。


この「NIHIL」というアルバムでは特にそれが顕著であり、インダストリアル・ロックというジャンルにおいては少々ポップすぎるのかもしれない。


EP「BROKEN」以降のNINE INCH NAILSや、3rdアルバム「THE LAND OF RAPE AND HONEY」以降のMINISTRYでインダストリアル・ロックに目覚めたリスナーには少々激烈さが足りないと感じさせる部分があるのかもしれないが、筆者のように1980年代初期の英国のシンセポップが好きなリスナーにとっては嵌る可能性の高いアルバムである。


このアルバムはKMFDMのアルバムの中ではジャケットのアート・ワークも異質である。


他のアルバム(1stは除く)はB級コミックのようなアート・ワークで統一されているのに対し、このアルバムだけはかなりテイストの異なる不気味なアート・ワークとなっているのも興味深い。