Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0160) 逆光 / 孫燕姿 【2007年リリース】

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「ロックン・ロール・プリズナーの憂鬱」というブログ・タイトルを付けていながら、全くロックン・ロールとは無関係なアーティストの作品もけっこう取り上げてしまっている。


そもそもは自分の最も好きな音楽ジャンルであるロックン・ロールについての文章を書こうと思って始めたブログなのだが、書き始めて直ぐに自分が無節操に色々なジャンルの音楽を聴きまくる人間だと気付き、看板に偽り有りのブログとなってしまった。


「無節操に色々なジャンルの音楽を聴きまくる」と書いたが、冷静に考えてみると実はけっこう偏った聴き方をしている。


どのように偏っているのかと言うと、聴いている音楽の殆ど(90%くらいか?)が英国と米国の音楽なのである。


英国と米国以外では、アイルランド、カナダ、オーストラリア、スウェーデンノルウェーデンマークフィンランド等のアーティストのレコードやCDも持ってはいるが、ヴォーカル入りの曲の場合、いずれも英語を母国語としてている国の曲か、そうでは無い場合でも英語で歌っている曲ばかりである。


今回取り上げた孫燕姿〔スン・イェンツー〕の9thアルバム「逆光」は、そんな筆者が持っている数少ない英語以外で歌っている曲が詰められたCDだ。


孫燕姿とは、中華民国(台湾)を活動拠点とし、北京語で歌うシンガポール出身の女性アーティストである。


筆者は2007年~2008頃、仕事で中国の某都市に出張することが多かったのだが、孫燕姿のことはその時に知った。


実は、この時期を境に筆者はメンタルをやられ、人生が上手く行かなくなり始めた。


宿泊していたホテルでぼんやりと言葉の解らないテレビを見ている時、このアルバムに収録されている"我怀念的"という曲を偶然に聴き、何故か猛烈にこの曲に魅かれた。


失恋を歌ったシンプルなバラードなのだが、華奢な身体から絞り出すように歌われる彼女のヴォーカルが、異国の地で寂しく過ごしていた筆者の心を癒してくれたのである。


早速、翌日、通訳さんに付き合ってもらい、この曲"我怀念的"が収録されているアルバム「逆光」を買いに行った。


当時、崩れ始めていた筆者のメンタルは、このアルバムにより少しだけ救われたのである。

 

#0159) LUCY / CANDLEBOX 【1995年リリース】

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筆者が洋楽に聴き始めた1980年代初頭は、当然だが今のような安価な音楽配信サービスは無かった。


故に、レコードやCDを買うというのは、なかなか勇気のいる行為だった。


レコードやCD は2,500円から3,200円くらいする高価な代物なので、「絶対に聴きたい」物にはその予算を投入できるが、「何となく聴いてみたい」程度の物は先ずレンタル店で借りて聴き、それを手元に置いておきたいほど気に入ったら購入するというのが当時の筆者のお決まりの流れだ。


ちなみに、レンタル店での取り扱いの無い場合は周りの仲間がそれを買うまで待つのだが、誰も買わない場合は諦めるしかない。


「絶対に聴きたい」と思って購入しても、「あぁ~、失敗したわぁ~、えらいもん買うてしもたわぁ~、どないしょ~」となることも度々で、そんな場合は何とか好きになれるように頑張って聴き込むのだが、そうすると、不思議なことに、物によっては好きになってしまう場合もある。


Amazon Music Unlimitedに加入してからは、プライム会員なら月額780円で聴き放題なので、昔、「何となく聴いてみたい」と思っていたが、いつの間にか聴き逃してしまったアーテイストの作品を頻繁に聴くようになった。


今回取り上げたCANDLEBOX〔キャンドルボックス〕の2ndアルバム「LUCY」も、そんな一枚だ。


Amazon Music Unlimitedに1st~3rdまでのボックスセットがあったので聴いてみたのだが、特に、2ndアルバム「LUCY」が気に入ったので、最近のヘヴィ・ローテーションになっている。


CANDLEBOXは、所謂グランジ、或いは、ポスト・グランジとして知られていると思うのだが、いやいや、これは王道ハード・ロックだ。


そして、上手いことグランジ特有の殺伐感を散りばめている。


初期のプリミティヴなグランジだけを愛する原理主義者の方に聴かせたら、「こんな物は流行に便乗しただけの産業グランジだ」と言われそうな音だ。


あのMadonna〔マドンナ〕が設立したマーベリックからCDをリリースしてるので、それを狙ってやっている確信犯の可能性も大いにある。


しかし、筆者のような、とにかく質の高い楽曲には目が無いリスナーにとって、CANDLEBOXというバンドは有難い存在なのである。

 

#0158) RAISE / SWERVEDRIVER 【1991年リリース】

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SWERVEDRIVER〔スワーヴドライヴァー〕はシューゲイザーにカテゴライズされているバンドだが、実際にはシューゲイザーの定義からは少しはみ出るバンドである。


このバンドのミュージック・ヴィデオを初めて見た時、シューゲイザーという呼称の由来となった「靴を見つめながら演奏する」ようなコミュ障なイメージは無かった。


ヴォーカル&ギターのAdam Franklin〔アダム・フランクリン〕はドレッド・ヘアで、その面影がLenny Kravitzレニー・クラヴィッツ〕と酷似しており、シューゲイザーと呼ぶには少々ロックン・ローラー過ぎる印象を与えていたのである。


音の方も真正シューゲイザー・バンドのRIDE〔ライド〕ほど内省的な要素は無く、ロック・バンドとしてのダイナミズムを感じさせてくれる逞しさがある。


#0058で取り上げたADORABLE〔アドラブル〕シューゲイザーとネオ・グラムの間に咲いた徒花だとすれば、SWERVEDRIVERシューゲイザーグランジの間に生まれた突然変異だ。


SWERVEDRIVERは英国オックスフォード出身のバンドではあるが、英国のRIDE やCHAPTERHOUSE〔チャプターハウス〕よりも、米国のDINOSAUR JR.〔ダイナソーJr.〕やPIXIESピクシーズ〕に近いテイストが感じられる。


今回取り上げた、そんなSWERVEDRIVERの1stアルバム「RAISE」は、なかなかの名盤である。


RIDEを厳つくしたと言うべきか、或いは、DINOSAUR JR.を耽美的にしたと言うべきか、似たようなテイストを持つバンドが見つからない。


このアルバム「RAISE」はシューゲイザー・ムーヴメントの真っただ中と言える1991年にリリースされおり、RIDE、MY BLOODY VALENTINEマイ・ブラッディ・ヴァレンタインSLOWDIVE〔スロウダイヴ〕等も所属しているシューゲイザーの名門、クリエイションからリリースされている。


従って、どうしてもシューゲイザーという文脈の中で扱われてしまう傾向があるのだが、それがこのバンドにはマイナスに作用した。


3rdアルバム「EJECTOR SEAT RESERVATION」をリリースした頃にはムーヴメントが沈静化していたため、バンドへの注目度が下がったことを察したのか、あっけなく解散することになる。


SWERVEDRIVERシューゲイザーとう波に乗らず、孤高のオルタナティヴ・ロック・バンドとして活動していた方が息の長い活動が出来たのではいかと思えて仕方がない。

 

#0157) LOOK WHAT THE CAT DRAGGED IN / POISON 【1986年リリース】

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1980年代に隆盛を極めたグラム・メタル(ヘア・メタル)のイメージと言えば、スプレーで立てた長髪、ド派手なメイク、ヒラヒラした衣装あたりだろう。


そんなグラム・メタルの最大公約数的なイメージに最も近いバンドは、たぶんPOISON〔ポイズン〕なのではないだろうか?


グラム・メタル・バンドの多くは米国カリフォルニア州ロサンゼルス、つまりはL.A.を活動拠点にしており、これがグラム・メタルのことを日本ではLAメタルと呼ぶ由縁となっているのだが、POISONもレコード契約を求めてペンシルベニア州からL.A.に移住したバンドだ。


グラム・メタルというのは、1990年代前半に興ったグランジ/オルタナティヴ・ロックのムーヴメント以降は笑いのネタとして馬鹿にされることが殆どだが、当時はあれをカッコ良いと思う少年少女が沢山いたのである。


筆者もその一人であり、MOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕、RATT〔ラット〕、DOKKEN〔ドッケン〕、TWISTED SISTER〔トゥイステッド・シスター〕、W.A.S.P.〔ワスプ〕、CINDERELLA〔シンデレラ〕等のグラム・メタル・バンドを毎日のように聴いていた。


しかし、そんな筆者でも「POISONが好き」、「POISONを聴いている」とは言い難かった。


当時、筆者の周りに居たグラム・メタル・マニアの間では、「POISONはアカン」、「POISONは軟弱」という空気があり、POISONは男が聴くバンドではないとされていたのである。


この感じは、1970年代におけるANGEL〔エンジェル〕の扱われ方に近いのではないだろうか?


しかし、他人からどう評価されていようが、好きなものは好きなのだから仕方がない。


今回取り上げた1stアルバム「LOOK WHAT THE CAT DRAGGED IN」(「ポイズン・ダメージ」というカッコ悪い邦題が付けられていた)は、洋楽雑誌MUSIC LIFEの新譜レビューで見つけ、リリースとほぼ同時に買った。


演奏は前評判どおりで、聴いているとズッコケそうになる箇所もあったが、どの曲もポップで、メロディアスで、何より1曲目の"Cry Tough"で「君の夢を実現するために、叫ぶんだ」と歌っているのが気に入った。


#0127でTWISTED SISTER〔トゥイステッド・シスター〕を取り上げた時にも同じこと書いたのだが、今、この時代のキッズに必要なバンドは、POISONのように「難しく考えなくても良いんだよ」と言って、ロックの楽しさを解り易く教えてくれるバンドなのではないかと思う。

 

#0156) BOOGIE PEOPLE / GEORGE THOROGOOD & THE DESTROYERS 【1991年リリース】

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米国デラウェア州ウィルミントン出身のGEORGE THOROGOOD & THE DESTROYERS〔ジョージ・サラグッド&ザ・デストロイヤーズ〕の本国での人気というのはどれくらいなのだろう?


1stアルバム「GEORGE THOROGOOD & THE DESTROYERS」(1977年作)をリリースして以降、2019年現在での最新作である15thアルバム「2120 SOUTH MICHIGAN AVE.」(2011年作)まで、コンスタントに作品のリリースを続けているので、たぶん一定以上の支持を得ているのだろう。


ところで、Thorogoodという姓はサラグッドと読むのかソログッドと読むのか、どちらなのだろう?


そもそも英語をカタカナで読むこと自体に無理があるので拘ったところで無意味なのかもしれないが、今回取り上げる8thアルバム「BOOGIE PEOPLE」の日本盤を買った時は、確かサラグッドと書かれていたように記憶しているので、この記事ではサラグッドと書くことにする。


このアルバムを買った当時は、筆者が最もロックン・ロールに飢えていた時期であり、評判の良いロックン・ロール・バンドのアルバムの購入に、稼いだバイト代を最も落としていた時代である。


GEORGE THOROGOOD & THE DESTROYERSの音楽性は、確かにロックン・ロールと言えばそのとおりなのだが、ブルース・ロックであり、ブギー・ロックと言った方が解り易いだろう。


このアルバムの面白いところは、ファン気質が丸出しになっているところだ。


John Lee Hooker〔ジョン・リー・フッカー〕、Muddy Waters〔マディー・ウォータース〕、Howlin' Wolf〔ハウリン・ウルフ〕、Chuck Berryチャック・ベリー〕という大物達の曲のカヴァーが収録されており、筆者は不勉強のため知らないのだがNick Gravenites〔ニック・グレイヴナイツ〕というアーティストの曲やEarl Green & Carl Montgomeryというソングライターによって書かれたカントリーの曲のカヴァーも収録されている。


全10曲を収録しているアルバムで、実に6曲ものカヴァー曲を収録しているのである。


実は、GEORGE THOROGOOD & THE DESTROYERSは他のアルバムにも多くのカヴァー曲を収録しているのだが、好きな曲は躊躇なく自分のバンドでカヴァーしてリリースしてしまうその潔さが良い。


オリジナル曲を書くことに拘るのも、もちろんアリだと思うのだが、有名なブルースやR&Bの曲をこんなにもグルーヴィーに演奏できるなんて、それもまた素晴らしい芸の一つだ。