1980年代中盤に英国から登場したバンドで最も大きな支持を集めたバンドは間違いなくTHE SMITHS〔ザ・スミス〕だろう。
筆者はTHE SMITHSの登場をリアルタイムで知った世代だが、THE SMITHSに対するファンの思いは信仰に近いものがあった。
そして、その次はと言うと、これはけっこう難しくなるのだが、筆者はTHE JESUS AND MARY CHAIN〔ザ・ジーザス・アンド・メリーチェイン〕だと思っている。
時代が同じなので当然ながらTHE JESUS AND MARY CHAINの登場もリアルタイムで知ったが、彼らの場合はファンを突き放すような冷やかさがあり、ファンもまたそれを楽しんでいるふしがあった。
上記二つのバンドほどインパクトのあるデビューではなかったが、同じ時代のバンドではLLOYD COLE & THE COMMOTIONS〔ロイド・コール&ザ・コモーションズ〕もかなり良いバンドだった。
今回は、LLOYD COLE & THE COMMOTIONSの1stアルバム「RATTLESNAKES」を取り上げてみる。
筆者は、THE SMITHS、THE JESUS AND MARY CHAIN共に、今でも好きなのだが、彼らのCDを聴くのは一年に1~2回くらいである。
それに対し、LLOYD COLE & THE COMMOTIONSのCDは今でも通勤電車の中で頻繁に聴く。
中でも再生回数が多いのが「RATTLESNAKES」だ。
LLOYD COLE & THE COMMOTIONSはスタジオ・アルバムを3枚リリースしているが、2ndアルバムと3rdアルバムはバンドとして成熟した音になっている。
それに対し、1stアルバムの「RATTLESNAKES」はLloyd Cole〔ロイド・コール〕のシンガー・ソングライターとしての資質が濃く出たアルバムだ。
とても綿密にアレンジされたバンド・サウンドなのだが、全ての曲が美しく、アコースティック・ギター一本の弾き語りであったとしても成立する名曲が揃っている。
中でも"Forest Fire"の美しさは絶品である。
静寂の中で揺蕩う(たゆたう)ようにしっとりと歌い上げられるこの曲は、"Forest Fire (森林火災)"という物騒なタイトルとは相反する癒しを聴く者に与えてくれる。
THE SMITHSやTHE JESUS AND MARY CHAINがとても良いバンドであることに異論はないのだが、彼らの曲はどこか日常とかけ離れた世界観を持っており、気軽に聴けない重みがある。
それに対し、LLOYD COLE & THE COMMOTIONSの曲は日常にスッと溶け込んでくる軽さがある。
彼らがすぐそばで歌って演奏してくれているような親しみが感じられるのである。
活動期間中も、そして現在でも、LLOYD COLE & THE COMMOTIONSの日本での人気は低い。
それはたぶん、愛想のないLloyd Coleの仏頂面が原因ではないだろうか?
しかし、筆者は彼の仏頂面を見ると、不思議とほっこりした気分になれるのである。