英国のエレクトロニカのアーティストであるSQUAREPUSHER〔スクエアプッシャー〕ことTom Jenkinson〔トム・ジェンキンソン〕は、元々は打込みを使うエレクトロニック・ミュージック全般を馬鹿にしていたらしい。
Tom Jenkinsonのような巨匠と自分を比較するのは失礼な話だが、筆者も実はエレクトロニカのことを馬鹿にはしていないものの、かなり距離を置いていた。
ただし、全ての打込み系の音楽に距離を置いていた訳ではなく、KRAFTWERK〔クラフトワーク〕やNEU!〔ノイ!〕等のジャーマン・テクノ・ロック、DEPECHE MODE〔デペッシュ・モード〕やERASURE〔イレイジャー〕等のシンセポップは大好きだったので、今となっては何故エレクトロニカに距離を置いていたのか解らない。
薄っすらと、「何か違う」と感じていたのかもしれない。
そんな思い込みもGoldie〔ゴールディー〕の「TIMELESS」を聴いたことで木っ端みじんに吹き飛んで、その後は一気にエレクトロニカに傾倒し、その手のアーティストのCDを馬鹿買いするという、お決まりの道を辿っていた。
今回取り上げた、SQUAREPUSHERの2ndアルバム「HARD NORMAL DADDY」も上記の馬鹿買いで出会ったアルバムであり、APHEX TWIN〔エイフェックス・ツイン〕の「RICHARD D. JAMES ALBUM」、μ-ZIQ〔ミュージック〕の「LUNATIC HARNESS」、PLUG〔プラグ〕の「DRUM 'N' BASS FOR PAPA」と並ぶ、筆者の永遠の愛聴盤である。
エレクトロニカにカテゴライズされるアルバムだが、筆者にとってこのアルバムはモダン・ジャズである。
下品なくらい無節操に色々なジャンルの音楽を聴き漁る筆者ではあるが、基本的にはやはりロック・リスナーである。
なので、エレクトロニカの本質を解っていない。
もちろん、ジャズの本質も解っていない。
そんな解っていない筆者が、SQUAREPUSHERの「HARD NORMAL DADDY」を「モダン・ジャズ」と言ってしまうと、エレクトロニカとジャズの両方のファンからお叱りを受けるかもしれない。
言い訳をさせて頂けるなら、モダン・ジャズの「モダン(modern)」とは「近代的」という意味である。
かつて、それまでとは違う近代的なジャズとして構築されたモダン・ジャズを、そのまま現代で踏襲してしまうと、それは「モダン(modern)」ではなくなってしまうのではないだろうか?
故に、筆者にとって、SQUAREPUSHERの「HARD NORMAL DADDY」は、ジャズの素養を持った凄腕のベーシストでもあるTom Jenkinsonがエレクトロニカとセッションし、緻密に構築したモダン・ジャズ(近代的なジャズ)なのである。
しかし、そんな「HARD NORMAL DADDY」も、2018年現在では既に20年以上も過去の作品になってしまっている。