これは間違いなく大物になると睨んだ新人アーティストが、思いのほか評価されることなく失速していくことがある。
自分の目が節穴だったのか、或いは、ショービジネスとは実力だけで成功を掴み取れるような世界ではないのか?
筆者は、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERS〔トミー・コンウェル&ザ・ヤング・ランブラーズ〕が登場した時、「これは、Bruce Springsteen〔ブルース・スプリングスティーン〕やTom Petty〔トム・ペティ〕クラスの大物になるぞ」と睨んだ。
今回は、米国フィラデルフィア出身、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERSの2ndアルバムにしてメジャー・デビュー・アルバムである「RUMBLE」を取り上げる。
既に述べたとおり、筆者はこのアルバムがリリースされた時、Tommy Conwell〔トミー・コンウェル〕こそは将来のハートランド・ロックの担い手となるビッグ・スターだと感じ、周りの洋楽仲間にも聴かせたのだが、彼らからの反応も概ね上々だった(ただし、当時はハートランド・ロックというジャンル名は無かったと記憶している)。
「RUMBLE」に収録されている曲の多くは、特に新しさなんてまるで無い8ビートの効いた普通のロックン・ロールで、歌詞も地方都市の若者の心情を歌った素朴なものなのだが、こういうアーティストは、曲が良ければ米国では大抵受けるのである。
先ほど、「新しさなんてまるで無い」と書いたが、Tommy Conwellのヴィジュアルは新しかった。
明らかにパンクを通過した彼のヴィジュアルは、新しい世代のロックン・ローラーの息吹を感じさせ、少しかすれ気味の声で歌われる曲と共にヴィジュアルも完璧だったのである。
ところが全米チャートでの結果は芳しいものではなく、このアルバムに収録されているシングルの"I'm Not Your Man"は74位、"If We Never Meet Again"は48位という具合に、トップ40に入らなかったのである。
ちなみにアルバム「RUMBLE」も103位である。
メジャー・レーベルからデビューした新人アーティストが出した結果としては、それほど悪くは無いのかもしれないが、ちょっと期待外れの感は否めない。
しかし、Bruce Springsteenも本格的にブレイクしたのは3rdアルバム「BORN TO RUN」からなので、Tommy Conwellもこれから徐々にブレイクしていくのだろうと思っていたところ、次作の「GUITAR TROUBLE」や、そこからカットしたシングルは全米チャートに入ることもなく、その後は徐々にフェード・アウトし、バンドは解散となる。
しかし、いまだにこのアルバムが何故、全米でヒットしなかったのか分からない。
収録曲のクオリティが高く、しかし、マニアックに渋くなることもなく、適度にキャッチーであり、この手の(ハートランド・ロック系)のアーティストのメジャー・デビュー作としては完璧だった。
一つ弊害があったとするなら、この時期の米国はグラム・メタルがチャートの上位を占めることが多く、その波が去った後はグランジ・ロックが台頭し始めるので、そんな時代にあって、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERSの何の変哲もないロックン・ロールは少々地味に映ってしまったのかもしれない。