Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0148) IMMIGRANTS, EMIGRANTS AND ME / POWER OF DREAMS 【1990年リリース】

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以前、あまり売れなかったが個人的には大好きな英国のアーティストとして、 THE SEERS〔ザ・シアーズ〕ADORABLE〔アドラブル〕を取り上げたが、同じ時代(1990年代前半)のアイルランドにもそのようなアーティストがいた。


それは、POWER OF DREAMS〔パワー・オブ・ドリームズ〕というバンドであり、本日は彼らの1stアルバム「IMMIGRANTS, EMIGRANTS AND ME」を取り上げることにする。


2019年現在でPOWER OF DREAMSを知っている人など殆どいないのかもしれないし、このアルバムもロックの歴史において重要な作品ではない。


しかし、筆者はこのアルバムがリリースされた当時、毎日のように聴いていた。


POWER OF DREAMSというバンドは若くして結成されたバンドだ。


デビュー時のメンバー全員が10代であり、筆者にとっては自分より若いバンドなのである。


このバンドのどこがそれほど好きだったのかと言えば、彼らがインタビューで見せてくれたその攻撃的な姿勢である。


彼らにとっては祖国の英雄であるはずのU2〔ユートゥー〕を歯に衣着せぬ言葉で批判したり、メディアに対して「俺たちをアイリッシュ・ロックなんて呼ぶな」と言って安易なカテゴライズを拒否したりと言う具合に、巨大な力に立ち向かう10代の若者らしい姿が筆者にとっては美しく映ったのである。


きっと、U2のフォロワー扱いされたり、出身国だけで固定されたイメージを持たれたりすることが嫌だったのだろう。


そして、そんな彼らが奏でるのは、力強く、儚く、激しく、美しく、正に彼らの姿勢そのものが現されている偽りのない音だったのである。


新しさなんて無い、普通のインディー・ギター・ロックと言ってしまえばそれまでなのだが、このアルバムで聴ける音は、巨大な権力や社会の不公平さ、人を愛することの意味に対し、疑問や不安を感じる10代にしか作れない音である。


このアルバムに収録されている"100 Ways To Kill A Love"という曲はとても美しい曲なのだが、完全に大人になってしまった今の耳で聴くと、とても青臭く聴こえる。


そして、自分が大人になる過程で、現実社会に迎合するために捨ててしまったイノセントな心を思い出し、悲しい気分になるのである。