Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0408) HOTWIRED / THE SOUP DRAGONS 【1992年リリース】

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英国で1990年前後に勃発したダンスとロックの融合を目指した一大ムーヴメントであるマッドチェスターを代表するアーティストと言えば、その名称の由来でもあるマンチェスター出身のTHE STONE ROSESザ・ストーン・ローゼズ]、HAPPY MONDAYSハッピー・マンデーズ]、INSPIRAL CARPETS[インスパイラル・カーペッツ]のマッドチェスター御三家だろう。


マッドチェスター・ムーヴメントというのは全てのアーティストがマンチェスター出身だったわけではなく、上記の御三家と肩を並べる人気バンドだったTHE CHARLATANS[ザ・シャーラタンズ]はウェスト・ミッドランズの出身だ。


また、シングル"Loaded"からアルバム「SCREAMADELICA」あたりのPRIMAL SCREAMプライマル・スクリーム]は、かなりマッドチェスターに接近していたと思うのだが、こちらはグラスゴー出身だ。


このあたりのグループがマッドチェスター・ムーヴメントにおける1軍であり、筆者もTHE STONE ROSESの「THE STONE ROSES」とPRIMAL SCREAMの「SCREAMADELICA」は相当な回数を聴いたはずだ。


ただし、どんなムーヴメントであれ、1軍だけがそのムーヴメントを盛り上げているわけではなく、2軍、3軍といったアーティストの存在も重要なのである。


一方的に2軍、3軍扱いするのは失礼なのだが、今回取り上げているグラスゴー出身のTHE SOUP DRAGONS[ザ・スープ・ドラゴンズ]には、ちょっと2軍っぽいイメージがある。


筆者はこのバンドの2ndアルバム「LOVEGOD」と3rdアルバム「HOTWIRED」の2枚を、上記した「THE STONE ROSES」と「SCREAMADELICA」よりも好んで聴いていた。


「LOVEGOD」と「HOTWIRED」は同じくらい好きなのだが、今日、直感的に聴きたいと思ったのは「HOTWIRED」だったのでこちらを取り上げてみた。


THE SOUP DRAGONSは、しばしばPRIMAL SCREAMのパクリと言われることがあるのだが、批判を恐れずに言えば、そもそもPRIMAL SCREAMがパクリの天才だ。


THE SOUP DRAGONSPRIMAL SCREAMをパクったのかどうかは知らないが、もしそうだとしても、盗人から盗むというのは、なかなかのセンスだと思う。


HOTWIRED」というアルバムはマッドチェスターの美味しいところ集めてコンパイルしたようなアルバムであり、ある意味、最もマッドチェスターらしいアルバムだと言える(ちなみにこれは「LOVEGOD」も同じだ)。


筆者はロックに精神性を求めるリスナーではなく、ロックを音楽として楽しみたいリスナーなのでこういうアルバムは大歓迎なのである。

 

#0407) FOREST OF EQUILIBRIUM / CATHEDRAL 【1991年リリース】

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英国のハードコア・パンク・バンドNAPALM DEATHナパーム・デス]からは凄いバンドが派生しており、一つはメロディック・デス・メタルの始祖であるCARCASS[カーカス]、そして、もう一つは今回取り上げているドゥーム・メタルの帝王CATHEDRAL[カテドラル]だ。


CARCASSのギタリストBill Steer[ビル・スティアー]と、CATHEDRAL[カテドラル]のシンガーLee Dorian[リー・ドリアン]は、二人とも1987年にNAPALM DEATHに参加し、1989年に脱退している。


CARCASSも大好きなバンドなので、いずれ必ず取り上げるつもりだが、今回はCATHEDRALだ。


CATHEDRALを知ったのは、今回取り上げている彼らの1stアルバム「FOREST OF EQUILIBRIUM」のディスクレビューがハード・ロック/ヘヴィ・メタル専門誌の「BURRN!」に掲載された時だ。


FOREST OF EQUILIBRIUM」というアルバムにどのような音が詰め込まれているのかは、Dave Patchett[デイヴ・パチェット]が描くアルバム・カヴァーを見ただけで想像がつくだろう(ちなみにDave Patchettは、この1stアルバム以降、殆どのCATHEDRALのアルバム・カヴァーを手掛けることになる)。


このアルバムの音楽性は、所謂BLACK SABBATHブラック・サバス]を始祖に持つドゥーム・メタルなのだが、BLACK SABBATHを極端にディフォルメし、極限までスピードを落としたそのサウンドは、これ以降に登場するドゥーム・メタル・バンドに多大なる影響を与え、1990年代におけるドゥーム・メタルの方向性を決定付けた名盤中の名盤と言えるだろう。


このアルバムがリリースされた年は1991年、つまり、NIRVANAの「NEVERMIND」と同じ年である。


当時は「NEVERMIND」もかなりの頻度で聴いていたのだが、当時の筆者にとって衝撃の大きさでは「FOREST OF EQUILIBRIUM」の方が各段に上であり、今では「NEVERMIND」を聴くことは殆どなくなってしまったが、「FOREST OF EQUILIBRIUM」は今でも頻繁に聴くアルバムとして定着している。


メタルというジャンルにおいて、速さの魅力は伝わり易いと思うのだが、遅さの魅力を伝えるというのは難しいのではないだろうか。


当時、筆者が購入した日本盤には「この森の静寂の中で」という邦題が付いてたのだが、この邦題がフルートとアコースティック・ギターで幕を開けるこのアルバムの世界観にあまりにも合い過ぎている。


いきなり11分を超える大作であり、その後の曲も殆どが長尺なのだが、ストレスを全く感じることなく聴き続けられる1枚なのである。

 

#0406) PERPETUAL BURN / Jason Becker 【1988年リリース】

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テクニカルなギタリストのアルバムが好きだ。


これまでこのブログでは、Yngwie Malmsteenイングヴェイ・マルムスティーン]、Chris Impellitteri[クリス・インペリテリ]、Joe Satrianiジョー・サトリアーニ]、Richie Kotzenリッチー・コッツェン]、Steve Stevens[スティーヴ・スティーヴンス]、Steve Vaiスティーヴ・ヴァイ]等、テクニカルなギタリストのアルバムを取り上げてきた。


まだ、取り上げていないが、Tony MacAlpine[トニー・マカパイン]、Greg Howe[グレッグ・ハウ]、Vinnie Moore[ヴィニー・ムーア]、Vinnie Vincent[ヴィニー・ヴィンセント]等、取り上げたいギタリストは山ほどいる。


今回は、そんなテクニカルなギタリストの中でも、筆者が洋楽を聴き始めた1980年代に若手の筆頭として注目を集めたJason Becker[ジェイソン・ベッカー]の1stアルバム「PERPETUAL BURN」を取り上げることにした。


このアルバムはインストゥルメンタル・ロックの最高峰に位置するアルバムだ。


とにかく、この手のギタリストに共通して言えるのは音楽的な教養が高いということだ。


しばしば、「ロックはテクニックじゃない」と言われることがある。


それも一理あると思うのだが、筆者がそこに一言付け加えることが出来るのであれば、「テクニックが全てではないが、テクニックは無いよりも有る方が良い」ということだ。


Jason Beckerとは、その圧倒的な音楽的教養の高さと、作曲能力の高さに、ただただ圧倒されるギタリストなのである。


この胸をえぐられるような狂おしい彼のギターを筆者の稚拙な文章で、どう表現したら良いのか全く分からない。


筆者はクラシック音楽も好きで頻繁に聴くのだが、Jason Beckerの弾くギター、そして、書く曲の美しさはクラシック音楽を聴いている時に味わうことの出来る恍惚感に似ている。


筆者はテクニカルなギタリストのアルバムは、どちらかと言えばヴォーカル無しのインストゥルメンタルで聴きたい。


正直なところ、彼らがバンドで演奏してる時は、ヴォーカル・パートには速く終わってもらって、ギター・ソロになって欲しいと思うことが多い。


ヴォーカル・パートを早送りすることもある。


やはり、テクニカルなギタリストのアルバムはインストゥルメンタルが良いのである。


Jason BeckerDavid Lee Roth[デイヴィッド・リー・ロス]のアルバム「A LITTLE AIN'T ENOUGH」に参加した頃に筋萎縮性側索硬化症という難病を患い現在も闘病を続けている。


「どないなってんねん、この世界は!」って言いたい。


これほどまでに凄い才能が病に侵されるのは、何ともアンフェアな感じがしてやり切れ気分になるのである。


実は、筆者はJason Beckerと同い年だ。


彼がまたロック・シーンの最前線に戻ってきてくれる日をいつまでも待ち続けるつもりだ。

 

 

#0405) ADVENTURES IN JAZZLAND / Jeff Healey 【2004年リリース】

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このブログでは、ごく稀にジャズを取り上げるのだが、しばらくの間、ジャズから遠ざかっているような気がしたので、調べてみたところ、かなり昔の2019年5月19日に#0202でジャズ・フュージョンWEATHER REPORTウェザー・リポート]を取り上げたのが最後だった。


その前は予想が付いたので調べてみたところ、2019年4月21日に#0192で、これもまたジャズ・フュージョンRETURN TO FOREVERリターン・トゥ・フォーエヴァー]を取り上げており、予想どおりだった。


今日は久しぶりにジャズが聴きたくなった。


どのアーティストにしようか考えてみたのだが、歴史的な過去に遡ってモダン・ジャズのレジェンド達を聴く気分ではなかった。


そこで、思いついたのが今回取り上げているJeff Healey[ジェフ・ヒーリー]の「ADVENTURES IN JAZZLAND」だ。


Jeff Healeyは盲目のブルース・ギタリストであり、筆者の大好きなギタリスト・ランキングで常に上位にいる人である。


Jeff Healeyについては、既にこのブログの#0005において、彼がTHE JEFF HEALEY BAND[ザ・ジェフ・ヒーリー・バンド]として1988年にリリースした1stアルバム「SEE THE LIGHT」を取り上げている。


#0005という若い番号で取り上げているので、Jeff Healeyに対する筆者の思い入れの強さを分って頂けるのではないだろうか。


そんなJeff Healeyがブルース・ギタリストではなく、ジャズ・トランペッターとなってリリースしたアルバムが今回取り上げている「ADVENTURES IN JAZZLAND」なのである。


「ブルースの天才はジャズの天才でもあった」


そんな言葉が思わず口に出てしまうような、リラックスして聴けるご機嫌な1枚だ。


ジャンルとしてはクラシック・ジャズであり、ラグタイムやジャズのスタンダードをカヴァーしている。


Jeff Healeyがギターを演奏している動画を見たことのある人なら分かると思うのだが、この人は天才にして、物凄い努力家でもある。


筆者はコツコツと積み上げて努力することが好きな質であり、何故それが好きなのかと言うと、自分には天賦の才能が無いということをよく分かっているからであり、そうなると何事も一所懸命に努力して積み上げるしか道が無いからである。


Jeff Healeyの凄いところは、天賦の才能がありながらも、コツコツと積み上げて努力するところだろう。


そうでなければ、あんなにも凄いギターを弾けるわけがない。


残念ながら、Jeff Healeyは2007年に41歳という若さでガンにより亡くなってしまった。


死に方というのは色々あるが、筆者は親から貰った命を捨てて自殺する人や、ドラッグの快楽に溺れて死んでしまう人に対しては全く同情の気持ちを持つことができない。


自殺しようとする人がいたら「泥を啜ってでも生き続けろ」と言うだろうし、ドラッグで死んだ人には「自業自得だ」と言うだろう。


しかし、病気で亡くなってしまう人に対しては、何ともやり切れない気持ちになり、同情の想いを禁じ得ない。


Jeff Healeyは1歳の時にガンで視覚を失いながらも、天賦の才能とコツコツと積み上げた努力により凄腕のブルース・ギタリストとなり、その才能をジャズでも開花させた。


ところが、再びガンに侵され亡くなってしまったのである。


こういうことを目の当たりにすると、この世には神や仏は居ないんだなと思えてくる。


筆者はJeff Healeyの音楽を聴く時に感傷的な気分では聴かない。


彼が残した素晴らしい演奏や歌を、どんな時でも楽しんで聴きたいのだ。

 

#0404) THE INNOCENTS / ERASURE 【1988年リリース】

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母体のバンドやグループよりも、そこから派生したバンドやグループの方が好きになるケースがけっこうな頻度であったりする。


いきなり話が横道に逸れるが、筆者の中では、正式メンバーだけで自分たちの曲をライヴで再現できる集合体のことをバンド、正式メンバーだけでは自分たちの曲をライヴで再現できない集合体のことをグループという具合に呼び分けている。


話を戻すと、「母体のバンドやグループよりも、そこから派生したバンドやグループの方が好きになる」というのは、例えば、DEEP PURPLE[ディープ・パープル]よりもRAINBOW[レインボー]が好きだったり、METALLICAメタリカ]よりもMEGADETHメガデス]が好きだったりするということだ。


ただし、L.A. GUNS[LAガンズ]よりはGUNS N' ROSES[ガンズ・アンド・ローゼズ]が好きなので絶対的な法則ではない。


ジャンルをシンセポップに向けてみると、THE HUMAN LEAGUE[ザ・ヒューマン・リーグ]よりもヘヴン17[HEAVEN 17]が好きだし、DEPECHE MODEデペッシュ・モード]よりも今回取り上げているERASURE[イレイジャー]の方が好きだ。


書くまでも無いが、ERASUREとは、DEPECHE MODEのメイン・ソングライターだったVince Clarke[ヴィンス・クラーク]が、YAZOO[ヤズー]~THE ASSEMBLY[ジ・アッセンブリー]の活動を経て、シンガーのAndy Bell[アンディ・ベル]と結成したシンセポップ・デュオだ。


筆者の中におけるDEPECHE MODEERASUREでは、圧倒的にERASUREの方が自分の好みに合っており、レコードを聴いた回数もERASUREの方が大きく上回る。


その理由はと言うと、DEPECHE MODEの曲よりもERASUREの曲の方が断然にキャッチーだからだと思う。


1980年代の英国は多くの優れたシンセポップ・グループを輩出したが、一緒に歌えるキャッチーな曲を書かせたらVince Clarkeがダントツの1位なのではないだろうか。


Vince Clarkeの書く曲は、とにかくしつこいくらい耳に残るのだが、音域の広いAndy Bellの卓越したヴォーカルが更にそれに拍車をかけている。


逆に言えば、これほど優れたソングライターを失いながらも、後に世界規模の成功を修めたDEPECHE MODEも凄いグループだ。


1980年代のERASUREのアルバムは名盤揃いだが、1枚選ぶなら、これぞERASUREというべき名曲"A Little Respect"が収録されている3rdアルバムの「THE INNOCENTS」を推したい。