最も聴いたアルバムは何かと考えてみた。
いくつか候補はあるが、今回取り上げたTHE PSYCHEDELIC FURS〔ザ・サイケデリック・ファーズ〕の4thアルバム「MIRROR MOVES」は確実にその候補に上がる作品だ。
やりたくない受験勉強をしている頃、その合間に「MIRROR MOVES」を聴き、歌詞カードを見ながら一緒に歌うことが当時の筆者の唯一の楽しみだった。
THE PSYCHEDELIC FURSを知ったきっかけは、音楽雑誌「音楽専科」に載っていたDURAN DURAN〔デュラン・デュラン〕のJohn Taylor〔ジョン・テイラー〕のインタビュー記事で、彼がその年の最も好きなアルバムとして「MIRROR MOVES」を上げていたからだ。
それ以前にも筆者はDURAN DURANのメンバーがインタビューで語っていた、彼らが影響を受けたミュージシャン、例えばDavid Bowie〔デヴィッド・ボウイ〕やROXY MUSIC〔ロキシー・ミュージック〕に嵌まることが多かったので、なけなしのお小遣いで「MIRROR MOVES」を買いに走った。
THE PSYCHEDELIC FURSは、1970年代後半から1980年代前半に英国で勃興したポストパンク~ニュー・ウェーヴのムーヴメントから出てきたバンドだが、このムーヴメントから出てきた他のバンドがロック・スター的な姿勢を否定することが多かった時代に、積極的にロック・スターに駆け上がっていったバンドだった。
しかし、彼らは中身のない軽薄なロック・スターになったわけではない。
彼らが影響を受けているであろうTHE VELVET UNDERGROUND〔ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド〕やDavid Bowieに通ずる知性を残しながらロック・スターになった。
その姿は筆者の目にはとても美しく映った。
「MIRROR MOVES」は一聴すると1980年代的なシンセポップに聴こえるのだが、初期のTHE PSYCHEDELIC FURSが持っていたアート・パンク的な要素もしっかりと残っている。
アーティスティックな姿勢も残しながら、メイン・ストリームに接近した作品であり、このバランスが実に絶妙だ。
これが、次作の「MIDNIGHT TO MIDNIGHT」になるとバランスが崩れてしまい、普通のポップ・ロックになってしまう。
言うなれば「MIRROR MOVES」はその一歩手前、果実が腐る一歩手前の爛熟した甘さがこのアルバムの魅力だ。