ピークを過ぎたと思われていたアーティストが素晴らしい作品を届けてくれた時の嬉しさは筆舌に尽くしがたい。
SOUL ASYLUM〔ソウル・アサイラム〕が2006年に届けてくれた9thアルバム「THE SILVER LINING」を聴いた時は涙が出そうになった。
前作の「CANDY FROM A STRANGER」から8年ぶりのリリースである。
SOUL ASYLUMにとって、この8年の間には多くの良くないことが起きている。
メジャー・レーベルのコロンビアから契約を切られたり、ミネアポリスからニューオーリンズに移住していたDave Pirner〔デイヴ・パーナー〕(vocals & guitars)がハリケーン・カトリーナに被災したり、そして、今回取り上げた「THE SILVER LINING」のレコーディング中にKarl Mueller〔カール・ミュラー〕(bass)が喉頭癌で亡くなったりと...
このアルバムの1曲目"Stand Up And Be Strong"はハリケーン・カトリーナの被災者に向けてのメッセージだと言う。
"Stand Up And Be Strong (立ち上がれ、そして、強くなれ)"というタイトルは、Karl Muellerを失った自分たちへのメッセージのようにも聞こえる。
"Success Is Not So Sweet (成功は甘美ではない)"という曲は、かつて、"Runaway Train"や"Misery"のヒットで味わった栄光から転落していった彼らだからこそ歌える曲なのだろう。
このアルバムの収録曲はどれもメロディが感動的で、聴いていると彼らのここ数年の不運が続いた背景と重なり、感傷的な気分にさせられる。
レコーディング中に亡くなったKarl Muellerの後を受け、彼らの朋友とも言える元THE REPLACEMENTS〔ザ・リプレイスメンツ〕のTommy Stinson〔トミー・スティンソン〕がベースを弾いているということも、このアルバムを感動的なものにしている要因の一つだ。
こういう感動的なメロディを書くと、コンサバ(保守的)とかセルアウト(売れ線)という言葉で批判されることもある。
しかし、このアルバムにはそんな言葉を寄せ付けない説得力がある。
SOUL ASYLUMのファン、もっと言うなら全てのロックファンへの優しさが感じられるのである。
こんなに素晴らしいアルバムを届けてくれたにも関わらず、このアルバムは彼らの全盛期のアルバムのように売れることは無かった。
そもそも、2000年代以降というのは世界がロックを求めていないのだろう。
ロックを求め、ロックに救われた筆者には、それが少し寂しく感じられる。
偶然ではあるが、SOUL ASYLUMがこの「THE SILVER LINING」をリリースした2006年には、彼らと同様に劇的な復活作を届けてくれたアーティストが他にもいる。
いずれ、そのアーティストのアルバムも取り上げたい。