2018年現在、あと数年で50歳になろうとしている筆者の世代はGENESIS〔ジェネシス〕というバンドよりも先に、同バンドのドラマーであり、1980年代にソロ・アーティストとして数々のヒットを連発したPhil Collins〔フィル・コリンズ〕の方を先に知った人が多いのではないだろうか。
筆者が洋楽を聴き始めて数年が経過した頃、映画『カリブの熱い夜』のサントラであり、Phil Collinsの大ヒット曲でもある"Against All Odds (Take A Look At Me Now)"が洋楽番組のベストヒットUSAでチャート1位を記録していたことを鮮明に記憶している。
ちなみにこの曲には"見つめて欲しい"という邦題が付けられており、少し前にヒットしていたTHE POLICEの"見つめていたい"(原題は"Every Breath You Take")と似ていて、なんだかとても紛らわしかった。
当時の筆者は10代で尖がっていたので前述の"Against All Odds (Take A Look At Me Now)"を「オッサンが歌っている緩くて退屈なラヴ・バラード」くらいにしか思っておらず、Phil CollinsがGENESISのドラマーだという情報も知ってはいたが、GENESISというバンドに興味を持つことはなかった。
それが俄然GENESISに興味を持ち始めたのはGENESISの元シンガーであり、当時既にGENESISを脱退してソロ・アーティストとして活躍していたPeter Gabriel〔ピーター・ガブリエル〕の5thアルバム「SO」を聴いてからだ。
「SO」を聴いて、「こんな先鋭的で緊張感のある音楽を創り出す人なら、きっとバンド時代にも凄い曲を書いているはずだ」という思い込みの下、GENESISのバック・カタログを調べてみたところ、どうやら今回取り上げた5thアルバム「SELLING ENGLAND BY THE POUND」の評価が高いことを知った。
バック・カタログを調べる過程でPeter Gabriel 在籍時のGENESISの音楽性が筆者の好きなプログレッシヴ・ロックであることも判り、最高潮に期待が高まったところで「SELLING ENGLAND BY THE POUND」を購入。
冒頭の"Dancing With The Moonlit Knight"が鳴った瞬間、中世ヨーロッパの童話世界を連想させるそのドリーミーな音に一発で魅了されていた。
このアルバムの凄いところは、一歩間違うと独りよがりで難解な音楽になりそうでありながら、ポップであることをけして捨てていないところだ。
このアルバム以降、Peter Gabriel 在籍時のGENESISの他のアルバムも一通り聴いたが、この「SELLING ENGLAND BY THE POUND」が最もポップで聴き易い。
実のところ、筆者はポップな音楽が好きなのである。
10代の頃、退屈だと思っていたPhil Collinsの"Against All Odds (Take A Look At Me Now)"も、今では「なんてアダルトで素敵なラヴ・バラードなんだろう」と思うようになった。