表題曲の"Born To Run (明日なき暴走)"や"Thunder Road (涙のサンダーロード)"であまりにも有名なBruce Springsteen〔ブルース・スプリングスティーン〕の3rdアルバム「BORN TO RUN」。
筆者が最初に"Born To Run"という曲を聴いたのはBruce Springsteenのオリジナルではなかった。
中学生の時(1984年)にFRANKIE GOES TO HOLLYWOODの1stアルバム「WELCOME TO THE PLEASUREDOME」を聴き、その中で一番良い曲だなと思ったのが"Born To Run"であり、後にアルバムのライナーノーツでそれがBruce Springsteenのカヴァーであることを知った。
それを切っ掛けにして「BORN TO RUN」というアルバムも知ることになり、一時はこのアルバムに相当のめり込んだのだが、その後、このアルバムへの熱が急激に冷めていった。
ロックを聴き始めて数年が経過していた当時の筆者は色々なジャンルのロックを聴くようになっていたのだが、へそ曲がりな性格のせいか、ちょっと捻くれた感性を持つアーティストに魅かれ始めていた。
そんな屈折した筆者にとって、"Born To Run (走るために生まれてきた)"という言葉は、あまりにもカッコ良すぎるように聞こえたのである。
むしろ、「~ために生まれてきた」という言い方をするのであれば、Johnny Thunders〔ジョニー・サンダース〕の"Born To Lose (失うために生まれてきた)"の方が何十倍、何百倍、何千倍も共感することが出来た。
そんな理由もあり、筆者はこの「BORN TO RUN」というロックの歴史的名盤から永い間離れることになる。
そして、再びこのアルバムが聴きたくなったのは2000年代に入ってからだ。
2000年代になってからは新しく出てくるアーティストを殆ど聴かなくなった。
というよりも、「聴けなくなった」と言った方が正しいのかもしれない。
時々、音楽雑誌で猛烈にプッシュしているアーティストのアルバムを買ってみることもあったが、その殆どが馴染めなかった。
これは、そのアーティストの質が低いからではない。
むしろ、その殆どのアーティストは、演奏も上手いし、曲作りも器用だし、サウンド・プロダクションも素晴らしい。
要は筆者の感性が古すぎて新しい音に付いていけなくなったのである。
2000年代以降のロックの苦手なところは色々とあるのだが、最も苦手なのがディジタルなタイム・クリックのガイドに従って録音されたであろう、その正確すぎるピッチである。
アナログすぎる耳を持つ筆者には、その正確すぎるピッチがどうにもロックらしく、或いは、ロックン・ロールっぽく聴こえないのである。
そんな時、急に聴きたくなったのがBruce Springsteenの「BORN TO RUN」だった。
このアルバムは、「綿密なサウンド・プロダクションを経て制作された」と紹介されている文章をどこかで読んだ記憶があるのだが、どうもそういう感じがしない。
どちらかというと、ラフにスタジオ一発撮りしたアルバムのように聴こえる。
表題曲の"Born To Run"なんて、サビに向かうにつれて興奮を抑えきれずに演奏が走っていくし、歌詞をちゃんと伝えたいのか、ヴォーカルが少々もたっている個所がある。
しかし、ロックには、或いは、ロックン・ロールには、そういう人間臭い不完全さが必要な時もあるのではないだろうか?
2000年代以降は、作り手も聴き手も潔癖になり過ぎているのではないだろうか?
十代の頃はカッコ良すぎると感じた"Born To Run (走るために生まれてきた)"というタイトルも、五十代が直前に迫っている現在では、「確かに走ってきたよ、惨敗の人生だったけど」と聞こえるようになった。
意訳も甚だしいのだが。