Rufus Wainwright〔ルーファス・ウェインライト〕が今回取り上げた彼の1stアルバム「RUFUS WAINWRIGHT」でデビューした頃、Loudon Wainwright III〔ラウドン・ウェインライトIII〕の息子という紹介のされ方をしていたが、筆者はLoudon Wainwright IIIというシンガー・ソングライターのことは全く知らなかった。
故に、父親の方を先に知っていたJulian Lennon〔ジュリアン・レノン〕(John Lennon〔ジョン・レノン〕の息子)やJeff Buckley〔ジェフ・バックリィ〕(Tim Buckley〔ティム・バックリィ〕の息子)が登場した時とは受け止め方が違っていて、二世ミュージシャンというよりも、父親の面影の無い新人シンガー・ソングライターのデビューとして受け止めた記憶がある。
このアルバムがリリースされても暫くの間は全く興味が無かった。
このアルバムがリリースされた1998年頃の筆者はロックへの興味が薄らいでいたからだ(Rufus Wainwrightの音楽をロックにカテゴライズ出来るかどうかは微妙だが)。
ある日、地元のデパートの中に入っているCDショップに立ち寄ったところ、このアルバムがディスプレイされていて、更に試聴も出来るようになっていたので聴いてみたところ、ちょっと平常心を保っていられないほど驚いた。
アルバム冒頭の"Foolish Love"を聴いただけではあったが、これはもう間違いないと確信して反射的にレジに持って行き購入である。
それから暫くの間はこのアルバムだけを聴き続けた。
全ての曲が素晴らしいのはもちろんだが、アルバムとしての構成も完璧である。
豊潤で演劇的で、ゆったりとした時の流れの中で揺蕩う(たゆたう)ような彼の歌は、もうそれを聴かずにはいられないほど、当時の筆者はこのアルバムに取り憑かれたのである。
何となく近い感触を挙げるなら"Tennessee Waltz (テネシー・ワルツ)"だろうか?
ニューヨークで生まれ、カナダで幼少期を過ごしたRufus Wainwrightにとって、テネシーは全く縁の無い場所なのだろうが、"Tennessee Waltz"が放つ「失った愛への儚い想い」の様な感触を筆者は彼の音楽から感じ取った。
音楽の愛好家にとって、他人の評価は関係なく、自分にとって完璧と呼べるアルバムが何枚かあると思うのだが、筆者にとってこのアルバムは正にその一枚なのである。