Jimi Hendrix〔ジミ・ヘンドリックス〕が率いたTHE JIMI HENDRIX EXPERIENCE〔ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス〕や、Arthur Lee〔アーサー・リー〕が率いたLOVE〔ラヴ〕のように、黒人が中心メンバーとなるロック・バンドはロックの歴史の初期からあった。
そもそも、ロックとは、或いは、ロックン・ロールとは、Chuck Berry〔チャック・ベリー〕、Little Richard〔リトル・リチャード〕、Bo Diddley〔ボ・ディドリー〕、Fats Domino〔ファッツ・ドミノ〕等、黒人によって産み出されたポピュラー・ミュージックなのである。
ところが、いつの間にかロックの世界からは黒人が追い出されてしまい、白人中心の音楽産業になった。
それによってロックが発展したという側面もあるのだが、黒人がロックの中心に残ったままロックを発展させていたらどんな音楽が産まれていたのかなと考えることがあった。
BAD BRAINS〔バッド・ブレインズ〕を初めて聴いた時、その答えを見つけたような気がした。
初めて聴いたBAD BRAINSのアルバムは今回取り上げた3rdアルバムの「I AGAINST I」だ。
一般的には、1stアルバム「BAD BRAINS」や2ndアルバム「ROCK FOR LIGHT」の方が評価は高いのかもしれない。
しかし、ロック・ファンになら分かって頂けると思うのだが、一般的に評価の高いアルバムよりも初めて聴いたアルバムの方に強い愛着を感じてしまうことは多々ある。
筆者にとっては「I AGAINST I」もそんな一枚なのである。
BAD BRAINSをハードコア・パンク・バンドとして捉えるのであれば「I AGAINST I」というアルバムは少々物足りないアルバムなのかもしれない。
もちろんハードコア・チューンも収録されてはいるが、「BAD BRAINSにしては」という枕詞付ではあるものの、けっこうメロディアスで聴き易い曲も入っていて、ハードコア・パンクというよりはミクスチャー・ロックという感じなのである。
BAD BRAINSというバンドは、彼らがSEX PISTOLSを聴いてパンクに目覚めるまではフュージョン・バンドだったのでメンバー全員の演奏技術が非常に高い。
「I AGAINST I」とは、その高度な演奏技術を駆使して色々なジャンルの音楽を融合させることに成功したアルバムなのである。