今回はドイツのKMFDM〔ケーエムエフディーエム〕の8thアルバム「NIHIL」を取り上げてみる。
1990年代に興ったオルタナティヴ・ロック・ムーヴメントの波から出てきたNINE INCH NAILS〔ナイン・インチ・ネイルズ〕の成功に牽引される形でインダストリアル・ロック系のアーティストが一定の人気を得るようになったわけだが、KMFDMは1stアルバム「OPIUM」を1984年にリリースしているのでこのジャンルのアーティストとしては米国のMINISTRY〔ミニストリー〕と並ぶ老舗と言えるだろう。
KMFDMもこの手のアーティストによくいる「ユニット名を名乗ってはいるが実質的にはソロ・プロジェクト」というパターンで、Sascha Konietzko〔サシャ・コニエツコ〕以外のメンバーは極めて流動的だ。
このアルバム「NIHIL」には英国におけるインダストリアル・ロックの雄PIG〔ピッグ〕ことRaymond Watts〔レイモンド・ワッツ 〕が参加している。
そもそもRaymond WattsはKMFDMに入ったり出たりを繰り返していたのだが、この「NIHIL」がリリースされた時期はPIGとしての創作活動がのっていた時期と重なっているためか、PIGの作風と似ている部分がある。
KMFDMもPIGも共にヨーロピアン・テイストが漂うシンセポップ(具体的なアーティスト名を挙げるとDEPECHE MODE〔デペッシュ・モード〕ということになるのだが)をメタリックにアップデートした音楽性を聴かせてくれるという点では共通するのだが、KMFDMの方がより躊躇なくシンセポップからの影響と堂々とさらけ出しているように思える。
この「NIHIL」というアルバムでは特にそれが顕著であり、インダストリアル・ロックというジャンルにおいては少々ポップすぎるのかもしれない。
EP「BROKEN」以降のNINE INCH NAILSや、3rdアルバム「THE LAND OF RAPE AND HONEY」以降のMINISTRYでインダストリアル・ロックに目覚めたリスナーには少々激烈さが足りないと感じさせる部分があるのかもしれないが、筆者のように1980年代初期の英国のシンセポップが好きなリスナーにとっては嵌る可能性の高いアルバムである。
このアルバムはKMFDMのアルバムの中ではジャケットのアート・ワークも異質である。
他のアルバム(1stは除く)はB級コミックのようなアート・ワークで統一されているのに対し、このアルバムだけはかなりテイストの異なる不気味なアート・ワークとなっているのも興味深い。