活動期間が短く、アルバムを1枚だけ残して解散したものの、未だに忘れられないバンドがいくつかある。
今回取り上げるIMPERIAL DRAG〔インペリアル・ドラッグ〕もその一つであり、残したアルバムは「IMPERIAL DRAG」一枚のみ。
このバンドは、高性能パワー・ポップ・バンドJELLYFISH〔ジェリーフィッシュ〕の中心メンバーだったRoger Joseph Manning Jr.〔ロジャー・ジョセフ・マニング・ジュニア〕(keyboards)と、同じく、後期JELLYFISHのギタリストだったEric Dover〔エリック・ドーヴァー〕(vocals, guitar)によって結成されたバンドである。
JELLYFISHは日本での人気が高かったので、IMPERIAL DRAGはその後を引き継ぐバンドとしてデビュー前から当時の洋楽雑誌でかなりの注目を浴びていた。
日を追うごとにバンドへの期待の高まる中、満を持してリリースされたデビュー・アルバムの完成度が高かったので筆者もその後の活動を楽しみにしていたのだが、アルバムをリリースした翌年に解散してしまったので、がっかりしたことを記憶している。
IMPERIAL DRAGがこのアルバムで鳴らしている音はグラム・ロックだ。
誤解されるかもしれないので、もう少し詳しく書くと、グラム・メタルではなく、グラム・ロックなのである。
1980年代に隆盛を極めたMOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕やRATT〔ラット〕等に代表されるグラム・メタルではなく、1970年代初期に興ったグラム・ロック・ムーヴメントから出てきたT. REX〔T・レックス〕やMOTT THE HOOPLE〔モット・ザ・フープル〕等を彷彿とさせる音なのである。
故にメンバーの4分の3は長髪だがメタル感はゼロである。
Roger Joseph Manning, Jr.が操るアナログ・シンセサイザーが何とも言えない懐古的な雰囲気を醸し出し、Eric Doverのクセのある爬虫類的なヴォーカルが絡んでくると、時代が1970年代初期にタイムスリップしたような気分にさせられる。
余談だが、Eric DoverはGUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕のSlash〔スラッシュ〕が結成したSLASH'S SNAKEPIT〔スラッシュズ・スネイクピット〕にもシンガーとして参加しているのだが、こちらではハード・ロックを歌っており、かなり器用なシンガーである。
IMPERIAL DRAGがこのデビュー・アルバムをリリースした1996年頃の米国ではポストグランジやニュー・メタルが流行しており、IMPERIAL DRAGのようなアナログ・シンセサイザーを駆使したグラム・ロックをやるバンドは異色であった。
アルバムの収録曲は、全てRoger Joseph Manning, Jr.とEric Doverによって書かれているのだが、とにかくこの二人の曲作りが器用で、おそらく、普段からかなりマニアックに音楽を聴いているはずだ。
IMPERIAL DRAGが解散した理由は不明なのだが、デビュー・アルバムをリリースして直ぐの解散なので、たぶん穏やかなものではないはずだ。
今では「知る人ぞ知る」感じのバンドになっており、再結成されそうな気配も無い。
願わくは、もう1枚くらいはこのバンドのアルバムを聴いてみたかったのだが。