#0126でJohn Hiatt〔ジョン・ハイアット〕の「BRING THE FAMILY」を取り上げた時に、筆者がよく聴くハートランド・ロック(米国のルーツ・ミュージックから影響を受けたロック)のアーティストとして、Bruce Springsteen〔ブルース・スプリングスティーン〕、John Cougar Mellencamp〔ジョン・クーガー・メレンキャンプ〕、Tom Petty〔トム・ペティ〕の名を挙げたのだが、もう一人、大切な人の名を書き忘れた。
その人の名はBob Seger〔ボブ・シーガー〕であり、今回は彼の8thアルバム「BEAUTIFUL LOSER」を取り上げることにする。
8thアルバムと書いたが、元々はTHE BOB SEGER SYSTEM〔ザ・ボブ・シーガー・システム〕としてデビューしているので、ソロ名義のBob Segerになってからは5thアルバムということになる。
そして、この「BEAUTIFUL LOSER」の次のアルバムとなる「NIGHT MOVES」から暫くの間はBOB SEGER & THE SILVER BULLET BAND〔ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド〕名義のアルバムが続くので、「BEAUTIFUL LOSER」は第1期ソロ名義時代の最後の作品でもある。
筆者が初めて聴いたBob Segerのアルバムは、1986年にBOB SEGER & THE SILVER BULLET BAND名義でリリースされた13thアルバム「LIKE A ROCK」だった。
しかし、この頃の筆者は同じハートランド・ロックなら「LIKE A ROCK」よりも、その前年(1985年)にリリースされたTOM PETTY & THE HEARTBREAKERS〔トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ〕の「SOUTHERN ACCENTS」の方を熱心に聴いていた(余談だが、1980年代当時、ハートランド・ロックというジャンル名は無かったと記憶している)。
筆者がBob Segerへの興味を強く持ち始める切っ掛けとなったのは大好きなTHIN LIZZY〔シン・リジィ〕の"Rosalie"という曲がBob Segerのカヴァーであることを知ってからだ。
"Rosalie"の作曲者であるBob Segerに興味が湧き、レンタルレコード店で彼のアルバムを借りたり、レンタルレコード店にないアルバムはお小遣いを貯めて買ったりしていたのだが、その中で最も愛聴したのが今回取り上げた「BEAUTIFUL LOSER」なのである。
先ずこのアルバムはタイトルが良い。
Beautiful Loser、美しき敗者、何とも素敵なタイトルではないか。
ハートランド・ロックにカテゴライズされているアーティストの曲のテーマは、地方都市に暮らす労働者の心情を歌ったものが多いのだが、Bob Segerの書く曲には特にその傾向が強く現れているように思える。
「BEAUTIFUL LOSER」というアルバムは、そのタイトルのとおり、夢破れ、うらぶれた暮らしを余儀なくされている敗者たちに、そっと語り掛けるような美しい作品である。
その傾向はミディアム・ナンバーやスロー・ナンバーに顕著なのだが、アップテンポのロックン・ロールにもその傾向が見られるのが面白い。
後に筆者がJACOBITES〔ジャコバイツ〕のNikki Sudden〔ニッキー・サドゥン〕やDave Kusworth〔デイヴ・カスワース〕、THE REPLACEMENTS〔ザ・リプレイスメンツ〕のPaul Westerberg〔ポール・ウェスターバーグ〕、THE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕のTyla〔タイラ〕等、敗者の心情を歌えるアーティストたちに心を惹かれていった原点は「BEAUTIFUL LOSER」というアルバムにあるような気がする。