今回は、PANTERA〔パンテラ〕の8thアルバム「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を取り上げるが、PANTERAで「この一枚」という時にこれを選ぶ人は少ないのではないだろうか。
ちなみに、PANTERAのオフィシャル・サイトではインディー・レーベルからリリースされた1stから4thまでのアルバムは無かったことにされていて、メジャー・レーベルのAtcoからリリースされた通算では5thアルバムにあたる「COWBOYS FROM HELL」が1stアルバムという扱いになっている。
上記のようなバンド側の意向に従うなら、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」は4thアルバムということになる。
細かい話はこれくらいにするとして、PANTERAで「この一枚」と言えば、6thアルバム(バンド側の意向に従うなら2ndアルバム)の「VULGAR DISPLAY OF POWER」を選ぶのが普通だろう。
はっきり言って、ベスト盤を聴くより「VULGAR DISPLAY OF POWER」を聴いた方がPANTERAというバンドの本質が分かると思う。
筆者も初めて「VULGAR DISPLAY OF POWER」を聴いた時は衝撃を受けた。
スラッシュ・メタルと言われれば確かにその要素もあるのだが、ずるずると深みに引きずり込まれるような重いグルーヴは、それまでに聴いたことのない音であり、同じ年(1992年)にリリースされてHELMET〔ヘルメット〕の「MEANTIME」と共に愛聴した作品だった。
ただし、今回、そんな「VULGAR DISPLAY OF POWER」ではなく、あえて、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を取り上げたのは、やはり、筆者のこのアルバムに対する思い入れが深いからだ。
「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を初めてCDプレイヤーで再生した時、けたたましいドラムの連打と、雄叫びと言った方がいいであろうヴォーカルに驚き、焦ってヴォリュームを落とした。
そして、「メタルは、まだ大丈夫だ」と思ったのである。
1991年にリリースされたNIRVANA〔ニルヴァーナ〕の「NEVERMIND」により、グランジ/オルタナティヴ・ロックの人気が爆発し、1990年年代のメタル・シーンは焼け野原になっていた。
正直なところ、筆者自身もグランジ/オルタナに嵌っていたので、こんなこと言うのは気が引けるのだが、とにかくヘヴィ・メタルにとって苦難の時代に、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」の出だしのドラムと雄叫びを聴いた瞬間、「メタルは、まだ大丈夫だ」と思えたのである。