PARADISE LOST〔パラダイス・ロスト〕は、MY DYING BRIDE〔マイ・ダイイング・ブライド〕、ANATHEMA〔アナセマ〕と共にザ・ピースヴィル・スリーと称される英国のゴシック・メタル・バンドである。
いずれのバンドもピースヴィル・レコードに所属していたことがザ・ピースヴィル・スリーという呼び方の所以である。
ゴシック・メタルの始まりは諸説あるが、筆者の中ではPARADISE LOSTが1991年にリリースしたそのものズバリのタイトルを持つ2ndアルバム「GOTHIC」がその起源だと認識している。
ゴシックとは、Wikipediaによると「12世紀の北西ヨーロッパに出現し、15世紀まで続いた建築様式を示す言葉」と記載されているが、我々日本人の認識としては「中世ヨーロッパ風の様式を指す言葉」というイメージで捉えている人が多いのではないだろうか。
筆者の場合、ゴシックという言葉から先ず思い浮かべるものは1897年に発表されたBram Stoker〔ブラム・ストーカー〕の怪奇小説『ドラキュラ』や、1970年代後半から1980年代前半のポストパンク期に登場したSIOUXSIE & THE BANSHEES 〔スージー&ザ・バンシーズ〕、THE CURE〔ザ・キュアー〕、JOY DIVISION〔ジョイ・ディヴィジョン〕、BAUHAUS〔バウハウス〕、THE SISTERS OF MERCY〔ザ・シスターズ・オブ・マーシー〕といったゴシック・ロック・バンドだったりする。
今回取り上げたのはゴシック・ロックではなく、ゴシック・メタルであり、そのジャンルの金字塔とも言えるPARADISE LOSTの5thアルバム「DRACONIAN TIMES」だ。
ゴシック・ロックとゴシック・メタル、同じゴシックという言葉を冠する音楽だが、その感触は大きく異なる。
上記したゴシック・ロック・バンドも、たぶんPARADISE LOSTの音楽的影響源だと思うのだが、やはりベースにメタルがあるため、かなりきっちりとした様式美が感じられるのである。
特に今回取り上げた「DRACONIAN TIMES」というアルバムにはそれが顕著であり、メタルの様式美の上に「死」、「退廃」、「宿命」、「暗黒」といったイメージが重なり合い、美しくも荘厳なる世界観が構築されている。
実のところ、ポストパンク期に登場したゴシック・ロックよりも、1990年代に登場したゴシック・メタルの方が我々日本人のイメージするゴシックのイメージに近い。
「ゴシックとは何か?」、その分かり易い答えが「DRACONIAN TIMES」なのである。