筆者にとって、テクノ等エレクトロニック・ミュージックの入り口となったのはAPHEX TWIN〔エイフェックス・ツイン〕やGoldie〔ゴールディー〕であり、主に1990年代から活動を始めたアーティストである。
テクノを追いかけ始めると、必ず「デトロイト・テクノ」というキーワードに出くわすわけだが、このデトロイト・テクノの創始者と呼ばれている一人が今回取り上げたDerrick May〔デリック・メイ〕なのである。
「創始者と呼ばれている一人」と書いたとおり、他にも創始者がおり、Juan Atkins〔ホアン・アトキンス〕とKevin Saunderson〔ケヴィン・サンダーソン〕がそれに該当する。
そして、このDerrick May、Juan Atkins、Kevin Saundersonの3人を「デトロイト・テクノの三巨頭」と呼び、テクノの世界では神格化される存在となっているのである。
先に述べたとおり、英国のテクノでエレクトロニック・ミュージックに目覚めた筆者は、その影響源としてのデトロイト・テクノを聴いてみたいと思うようになったのだが、デトロイト・テクノのアーティストは、アルバムというフォーマットへの執着が薄いのか、どちらかと言うとシングルのリリースに力を注いでいるように感じられる。
筆者のようなアルバムという単位で音源を聴くことに慣れているロック・リスナーにとって、「デトロイト・テクノ」という世界は、どこから聴き始めればいいのか分からないアーティストが多い。
そんな中で、比較的入り易かったのが、今回取り上げたDerrick Mayの「INNOVATOR」であり、たぶん個人名義でリリースした最初のアルバムだ。
デトロイトと言えば、ロック・リスナーにとってはTed Nugent〔Ted Nugent〕、MC5〔エム・シィー・ファイヴ〕、THE STOOGES〔ザ・ストゥージズ〕、THE GORIES〔ザ・ゴーリーズ〕、LAUGHING HYENAS〔ラフィング・ハイエナズ〕等、強面のアーティストを輩出する都市のイメージが強い(正確にはTHE STOOGESとLAUGHING HYENASはデトロイトの近くの都市アナーバーの出身である)。
そんな強面の音を予想してDerrick Mayの「INNOVATOR」を聴いてみたのだが、予想に反して品の良い美しい曲が鳴らされていることに驚かされた。
心地よい16ビートとシンセサイザー、時折出てくるストリングスも美しく、薄っすらとではあるがソウルからの影響も感じられる。
筆者は、このアルバムを聴いていると嫌なことを忘れて瞑想に耽ることが出来るのである。