王者Yngwie Malmsteen〔イングヴェイ・マルムスティーン〕のディスコグラフィから1枚取り上げるにあたり、初期のアルバムを改めて聴いてみたのだが、悩んだあげく4thアルバム「ODYSSEY」を取り上げることにした。
「初期のアルバム~」と書いたのは、筆者がYngwieのアルバムを聴いていたのは1992年リリースの6thアルバム「FIRE & ICE」までだからだ。
Yngwieの速弾きギタリストとしての神髄を味わいたいのであれば「ODYSSEY」はそれに向いているアルバムではない。
よく知られている話だが、Yngwieはこの「ODYSSEY」収録の前年に自動車事故を起こし、指に致命的なダメージを負っているので「ODYSSEY」では1st~3rdアルバムほど高速なギター・ソロを弾いていないからだ(それでも充分に速いギター・ソロもある)。
筆者は1st~3rdまでのYngwieのアルバムはレンタル・レコード店で借りて聴いたのだが、「ODYSSEY」に関してはリリースの情報を知った時から買うと決めていた。
何故なら「ODYSSEY」に参加するヴォーカリストがJoe Lynn Turner〔ジョー・リン・ターナー〕だからだ。
Joe Lynn Turnerと言えば、かつてRitchie Blackmore〔リッチー・ブラックモア〕が率いたRAINBOW〔レインボー〕の3代目ヴォーカリストであり、今なお高い評価を得るロック界きっての名ヴォーカリストである。
筆者がロックを聴き始めた頃にリリースされたRAINBOWの7thアルバム「BENT OUT OF SHAPE」は当時の筆者の愛聴盤であり、そのアルバムで歌っていたJoe Lynn Turnerの声に筆者は魅せられていた。
そのJoe Lynn Turnerが歌っているのであれば、これは当時の筆者にとって、どうしても買わなければならないアルバムだったのである。
そして、その音はどうだったかと言うと、1st~3rdまでのYngwieのアルバムとはかなりテイストの異なるアルバムとなった。
米国ニュージャージー出身のJoe Lynn Turnerによってもたらされた後期RAINBOWのアメリカナイズされたハード・ロックと、スウェーデン人であるYngwieの持つヨーロピアンなネオクラシカル・メタルが交じり合った、非常に秀逸なアルバムになったのである。
そして、このアルバムはYngwieが彼のキャリアにおいて、唯一自分よりも格上のアーティストと制作したアルバムであるという意味合いにおいても特殊な一枚なのである。