1990年前後の英国におけるロックのトレンドと言えば、先ずはTHE STONE ROSES〔ザ・ストーン・ローゼズ〕やHAPPY MONDAYS〔ハッピー・マンデーズ〕等によって生み出されたロックとダンスを融合させた享楽的なムーヴメント、「マッドチェスター」ということになるのだろう。
そして、MY BLOODY VALENTINE〔マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン〕やRIDE〔ライド〕等によって生み出されたサイケデリック・ロックの新解釈とも言えそうな内省的なムーヴメント、「シューゲイザー」の人気も高かった。
筆者も当時はこのムーヴメントから出てくる新しいバンドの情報を洋楽雑誌で仕入れ、購入したCDを興奮しながら聴いたものである。
しかし、2020年現在では、当時あれほど興奮しながら聴いていたマッドチェスターやシューゲイザーのアルバムを殆ど聴かなくなった...というより、正直なところこの十数年ほど全く聴いていない。
1990年前後と言えば、マッドチェスターやシューゲイザーの人気の陰に隠れてあまり目立たなかったのだが、THE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕、THE QUIREBOYS〔ザ・クワイアボーイズ〕、そして、今回1stアルバム「BACKSTREET SYMPHONY」を取り上げているTHUNDER〔サンダー〕のような古き良き時代のストレートなロックン・ロール・バンド、或いは、ハード・ロック・バンドもこの時期に登場した。
マッドチェスターやシューゲイザーに関しては既に述べたとおり、今では聴かなくなってしまったのだが、THE DOGS D'AMOUR、THE QUIREBOYS、THUNDERといったバンドは彼らがデビューして以来、現在まで定期的に聴き続けており、ここ数年で聴く頻度が上がってきている。
これらの中で筆者が一番好きなバンドはTHE DOGS D'AMOURなのだが、最も実力と安定感を兼ね備えたバンドはTHUNDERだと思っている。
THUNDERの音楽性というのは1970年代のBAD COMPANY〔バッド・カンパニー〕やNAZARETH〔ナザレス〕に通じるブルースをベースにした何の変哲もない王道のブリティッシュ・ハード・ロックなのだが、Danny Bowes〔ダニー・ボウズ〕の歌が抜群に上手く、ギタリストのLuke Morley〔ルーク・モーリー〕が書くフックのあるメロディが素晴らしい上に、バンドの演奏技術にも安定感があり、曲のアレンジやアンサンブルも見事だ。
そして、このバンドの何より素晴らしいところは、現在までに2度の解散を挟んではいるものの、活動期間中は比較的コンスタントにアルバムのリリースを続けており、必ず安心して聴けるTHUNDERらしいアルバムを届けてくれるところなのである。