筆者が洋楽を聴き始めたのは中学生の頃であり、時代としては1980年代初期だ。
それ故、英国で1980年頃から興り始めたNew Wave Of British Heavy Metal(以下、NWOBHM)というヘヴィ・メタルの歴史に刻まれる一大ムーヴメントにはタッチの差で間に合っていない。
当時、洋楽雑誌MUSIC LIFEのバック・ナンバーを購入し、そこに掲載されていたNWOBHMバンドを紹介する記事を読んで、「自分が洋楽を聴き始める少し前にはこういうムーヴメントがあったのだな」という思い耽るだけでレコードを聴くまでには至らなかった。
DEF LEPPARD〔デフ・レパード〕だけは3rdアルバム「PYROMANIA(邦題:炎のターゲット)」が大ヒットしていたので彼らがNWOBHM出身ということを意識せずに聴いていたが、NWOBHMというムーヴメントを意識し、そこから登場したバンドに俄然興味が湧き始めたのは後にスラッシュ・メタルを聴くようになってからだ。
もちろん、その理由はスラッシュ・メタルのルーツの一つがNWOBHMだからだ。
同級生のH君(彼はバリバリのスラッシャーであり、高校生としては凄腕のギタリストだった)からMETALLICA〔メタリカ〕の「MASTER OF PUPPETS」とSLAYER〔スレイヤー〕の「REIGN IN BLOOD」を借りてスラッシュ・メタルに目覚めた筆者に対し、H君が「次はこれやな」と言って貸してくれたのが今回取り上げているIRON MAIDEN〔アイアン・メイデン〕の1stアルバム「IRON MAIDEN」だった。
H君はメタルを解り切っていたので1stアルバム「IRON MAIDEN」は絶妙のチョイスであり、これを聴いて筆者はIRON MAIDENに嵌ったのである。
これが6thアルバム「SOMEWHERE IN TIME」だったら、ちょっと状況は違っていたような気がする。
スラッシュ・メタルを初めて聴いた時は複雑な曲構成をも持ちながらもハードコア・パンクに由来する粗暴なところに魅力を感じたのだが、IRON MAIDENを聴いた時は複雑な曲構成はスラッシュ・メタルと同様ながらも1曲1曲が極めて高度に制御されている上にメロディも起伏に富んで流麗であることに感銘を受けた。
1stアルバムでありながら、その内容は極めて高い音楽的教養が無ければ制作できないものであり、新人バンドのレベルではないのだ。
ちなみに、NWOBHMの四天王はIRON MAIDEN、DEF LEPPARD、GIRL〔ガール〕、WILD HORSES〔ワイルド・ホーシズ〕ということになっているらしいが、この中で純粋にヘヴィ・メタルと言い切れる音楽性を持つバンドはIRON MAIDENだけである。