現在では大物となったスラッシュ・メタル・バンドの中には活動初期に分裂を起こし、派生バンドを誕生させたバンドが存在する。
Dave Mustaine 〔デイヴ・ムステイン〕がMETALLICA〔メタリカ〕在籍中に他のメンバーと揉めて、METALLICAを解雇された後に立ち上げたバンドがMEGADETH〔メガデス〕であることは有名な話だ。
ちなみに、この解雇の経緯はロック史上稀に見るえげつない内容である。
今回取り上げているNUCLEAR ASSAULT〔ニュークリア・アソルト〕はANTHRAX〔アンスラックス〕のベーシストだったDan Lilker〔ダン・リルカ〕が、シンガーのNeil Turbin〔ニール・タービン〕と揉めてANTHRAX脱退後に結成したバンドだ。
面白いのは揉めた相手のNeil Turbinも後に歌唱力の問題によりANTHRAXを解雇されていることだ。
そしてDan LilkerがNUCLEAR ASSAULTを結成する際に組んだシンガー/ギタリストのJohn Connelly〔ジョン・コネリー〕はANTHRAX初期のメンバーである。
前述のとおりDan LilkerはNeil Turbinとは揉めたが他のANTHRAXのメンバーとの確執は無かったようであり、ANTHRAXのギタリストScott Ian〔スコット・イアン〕とはSTORMTROOPERS OF DEATH〔ストームトゥルーパーズ・オブ・デス〕(S.O.D.という略称の方が有名)を結成し、一緒に活動していた。
つまり、Dan Lilker とANTHRAX は、Dave MustaineとMETALLICAのような見苦しい泥仕合に縺れ込むことは無かったのである。
NUCLEAR ASSAULTは1stアルバムのリリースが1986年なのでスラッシュ・メタル第2世代とされることもあるが(METALLICAの1stは1983年、ANTHRAXの1stは1984年)、上記のとおりバンドの中心メンバーであるDan LilkerとJohn Connellyはスラッシュ・メタルの黎明期から活動しているミュージシャンなので第2世代とはちょっと言い難いバンドだ。
今回は、そんなNUCLEAR ASSAULTの3rdアルバム「HANDLE WITH CARE」を取り上げている。
このバンドはクロスオーバー・スラッシュ(ハードコア・パンクからの影響が濃いスラッシュ・メタル)にカテゴライズされることが多いのだが、筆者の耳ではハードコア・パンクの要素はそれほど聴きとることは出来ず、初めて聴いた時からかなりメタリックな印象が強い。
所謂ドコドコドラムにザクザクギターが乗るスラッシュ・メタルなのだが、アルバム全体に漲る狂気じみたテンションが凄まじく、特にこのアルバムが放つ喧しさからは四天王を凌駕する危険な匂いが感じられるのである。