今回取り上げているCHEAP AND NASTY〔チープ・アンド・ナスティ〕の1stアルバム「BEAUTIFUL DISASTER」は1990年代におけるロックン・ロールの名盤だ。
と、言ってみたものの、このアルバムがリリースされた1991年は、米国ではグランジ/オルタナティヴ・ムーヴメントが盛り上がり始めた時期で、英国ではムーヴメントがマッドチェスターやシューゲイザーからブリットポップに移り行く時期だった。
はっきり言ってしまえば、ロックン・ロールなんて時代遅れであり、絶滅し行く恐竜のような存在だったのである。
ロックのトレンドが上記の状況だったので「ロックン・ロールの名盤だ!」と息を巻いてみたところで、当時このアルバムに注目したのはHANOI ROCKS〔ハノイ・ロックス〕のコアなファンくらいだったと思う。
CHEAP AND NASTYとは、元HANOI ROCKSのギタリストNasty Suicide〔ナスティ・スーサイド〕を中心に結成されたバンドなのである。
他のメンバーは、元U.K. SUBS〔U.K.サブス〕~元URBAN DOGS〔アーバン・ドッグス〕のAlvin Gibbs〔アルヴィン・ギブス〕(bass)、HANOI ROCKSのローディーで、Andy McCoy〔アンディ・マッコイ〕とNastyがHANOI ROCKS解散後に立ち上げたTHE CHERRY BOMBZ〔ザ・チェリー・ボムズ〕にも参加していたTimo Caltio〔ティモ・カルティオ〕(guitar)、そして、素性のよく分からないLes Riggs〔レス・リッグス〕(drums)というラインナップだ。
このメンバーの中ではNastyの知名度か最も高いのだか、CHEAP AND NASTYはNastyのワンマン・バンドではなく、他のメンバーが書いた曲もかなり収録されており、民主的なバンドだ。
捨て曲無しの名盤なのだが、中でもTimo CaltioとAlvin Gibbsの共作曲で、Nastyが歌うアルバム表題曲の"Beautiful Disaster"は胸にグッとくる名曲だ。
実はこの時期、1990年には英国でTHE QUIREBOYS〔ザ・クワイアボーイズ〕が1stアルバムをリリースしたり、1989年にはデンマークのD-A-D〔ディー・エー・ディー〕が3rdアルバムでワールドワイドデビューしたりという具合に、こういう古いスタイルのロックン・ロールの需要が全く無かったわけではない。
しかし、いずれのバンドも順調に活動を続けられなかったということは(D-A-Dは現在でも祖国では国民的バンドだが)、1990年代初期がロックン・ロールの晩年だったのかもしれない。
ロックン・ロールはこの時期にそれまで担ってきた役割を終え、終焉の時を迎えたようない気がしてならないのである。