今回取り上げているASH RA TEMPEL[アシュ・ラ・テンペル]は1970年に西ドイツの西ベルリンで結成されたバンドだ(この時代のドイツにはわざわざ「西」と付けなければならないところが歴史のややこしさである)。
ドイツという国は、19世紀に帝政による近代国家として成立し、20世紀は第二次世界大戦を枢軸国として連合国と戦い、大敗を期したにも関わらず戦後に目覚ましい発展を遂げた。
上記の文は「ドイツ」を「日本」に置き換えても成立する。
日本とドイツは近現代史の歩みが非常に似ているため、筆者は欧州の中でも、とりわけドイツ関しては並々ならぬ興味を感じてきた。
今回取り上げている「ASH RA TEMPEL」は、ASH RA TEMPELが1971年にリリースした1stアルバムである。
ASH RA TEMPELはドイツのバンドなのでクラウトロックと呼ばれるが、アンビエントなプログレッシヴ・ロックと言った方が分かり易い。
筆者はこのアルバムを、当ブログでは度々登場する、筆者が学生時代にアルバイト先で出会ったU君のお兄さんから聴かせてもらった。
U君のお兄さんは無類のプログレ・マニアで且つ高給取りだったので、大量のプログレのレコードを所蔵しており、その中から筆者に色々なプログレのレコードを聴かせてくれた。
そんなU君のお兄さんが聴かせてくれたレコードの中でも、とりわけ驚かされたのが今回取り上げている「ASH RA TEMPEL」なのである。
1971年に、英米以外の国で、ここまで独創的で完成度の高いロックをやっていたアーティストがいたことに筆者は度肝を抜かれたのだ。
確かにドイツ(西ドイツ)は、筆者がロックを聴き始めた1980年代から、SCORPIONS[スコーピオンズ]は世界的な成功を修めていたし、Michael Schenker[マイケル・シェンカー]は神と崇められるほどのギタリストだったし、ACCEPT[アクセプト]やHELLOWEEN[ハロウィン]は英米のバンドと互角に渡り合える存在だった。
しかし、「ASH RA TEMPEL」がリリースされたのはTHE BEATLES[ザ・ビートルズ]のデビューからまだ10年も経っていない1971年であり、そんな時代に彼らは、ヴォーカル無しの全2曲約45分でありながら、全く冗長さを感じさせないアンビエント・ロックを作り上げたのだ。
共に似た近現代史を歩みながらも、ことロックに関しては、日本はドイツに大きく水をあけられたと言わざるを得ない。