もし、今回取り上げているNATIONAL PASTIME[ナショナル・パスタイム]というバンドを知っている人が居れば、その人は筆者と同世代(2021年現在でアラフィフ)で、1980年代の洋楽雑誌を読み漁っていた人ではないだろうか。
このブログで取り上げてきたアーティストの中でもダントツにマイナーなバンドである。
筆者がこのバンドを知った切っ掛けは、当時毎月買っていた「ROCK SHOW」という洋楽雑誌だ。
「ROCK SHOW」とは、1980年代当時、おそらく最も洋楽ファンへの影響力を持っていた総合洋楽雑誌「MUSIC LIFE」の姉妹誌として1977年に創刊されたヴィジュアル嗜好の洋楽雑誌であり、取り上げるアーティストはアイドル性の高いバンドやシンガーに限定されていた。
その「ROCK SHOW」でG.I. ORANGE[ジー・アイ・オレンジ]と共に見開き2ページを使って紹介されていたのが今回取り上げているNATIONAL PASTIMEなのである。
当時(1980年代中期)の英国では「音楽性」、「アイドル性」共に極めて高いスペックを持つDURAN DURAN[デュラン・デュラン]の人気が凄まじく、G.I. ORANGEとNATIONAL PASTIMEは「DURAN DURANに続く次世代のスター」として「ROCK SHOW」で大々的に紹介されていたのである。
筆者はその当時から洋楽雑誌の煽りに簡単に踊らされるミーハーな人間だったので、貯金していたお年玉を次ぎ込んでG.I. ORANGEとNATIONAL PASTIMEのレコードを買ったのだが、圧倒的に聴く回数が多かったのはNATIONAL PASTIMEの方だった。
今回取り上げているのは、そんなNATIONAL PASTIMEの最初で最後のアルバム「BUILT TO BREAK」である。
G.I. ORANGEもNATIONAL PASTIMEも、ニューロマンティックの影響下にあるヴィジュアルを持つシンセポップ・バンドなのだが、明るく弾けた感じのG.I. ORANGEの曲よりも、大人びた哀愁を感じさせるNATIONAL PASTIMEの曲に筆者は魅かれたのだ。
彼らの曲にはサックスが効果的に使われていることが多く、そこが筆者の好きなSPANDAU BALLET[スパンダー・バレエ]に似ていたので、その辺りも筆者がNATIONAL PASTIMEを好んだ理由である。
このアルバムには「愛なき嵐」という、原題の「BUILT TO BREAK」とは全く関係のない邦題が付けられているのだがそれも1980年代的で面白い。
そして、レコード会社が主導で作ったと思われるアルバム・カヴァーが素晴らしい。
たぶん、このアルバム・カヴァーを気に入っているメンバーはバンドの中に一人もいないのではないだろうか。