Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0440.3) 好きなグラム・メタルのアルバム10選(1985-1989)

■ 第10位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215241j:plain

title LOOK WHAT THE CAT DRAGGED IN[ポイズン・ダメージ]
artist POISON[ポイズン]
released 1986年
origin Mechanicsburg, Pennsylvania, US
comment  POISONが音楽的に成熟するのは、2nd「OPEN UP AND SAY... AHH!」、3rd「Flesh & Blood」なのだが、個人的な思い入れは1st「LOOK WHAT THE CAT DRAGGED IN」になる。
 演奏技術的にはかなり危なっかしいところもあるのだが、このバンドはとにかく曲が良いのである。
 アホっぽいパーティー・ソングを演奏するバンドというイメージで毛嫌いする人もいると思うが、そんな人には「そもそもロックン・ロールなんてそんなものでしょ」と言いたい。
 1曲目の"Cry Tough"なんて、夢を追い続ける思いを歌った曲であり、アホっぽさは無く、むしろ胸にグッとくる名曲だ。
 このバンドはキッズがどんな曲を求めているのかを分かっていて、それを書ける能力があるので、実は賢いバンドなのである。
 アホのくせに賢く見せようとするバンドよりも、賢いのにアホっぽく振舞えるPOISONのようなバンドの方が、筆者は圧倒的に好きだ。

■ 第9位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215304j:plain

title NIGHT SONGS[ナイト・ソングス]
artist CINDERELLA[シンデレラ]
released 1986年
origin Philadelphia, Pennsylvania, US
comment  CINDERELLAも音楽的に成熟するのは、2nd「LONG COLD WINTER」、3rd「HEARTBREAK STATION」なのだが、やはり個人的な思い入れは1st「NIGHT SONGS」になる。
 このバンドは、2nd以降、ブルース・ロックやルーツ・ロックに傾倒していくのだが、この1stでは、AC/DCの影響が強い硬派なハード・ロック/ヘヴィ・メタルをやっている。
 POISONもそうなのだが、このバンドも「好きなグラム・メタルのアルバム」として1枚選ぶのが難しい。
 音楽的には2nd以降で深く惹かれていくのだが、インパクトや思い入れとなると、圧倒的に1stなのである。
 CINDERELLAの場合、ヴィジュアルは完全にグラム・メタルなのだが、音楽的にはグラム・メタルからイメージされるような軽さがなく、上記したとおり硬派なハード・ロック/ヘヴィ・メタルなので、このリストに入れるか否かも迷ったくらいだ。
 しかしながら、グラム・メタルの全盛期において、筆者の青春を彩ってくれた1枚なので、どうしても外すことができないアルバムなのである。

■ 第8位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215318j:plain

title LEATHER BOYZ WITH ELECTRIC TOYZ[レザー・ボーイズ・ウィズ・エレクトリック・トイズ]
artist PRETTY BOY FLOYD[プリティ・ボーイ・フロイド]
released 1989年
origin Hollywood, Los Angeles, California, US
comment  「PRETTY BOY FLOYDはMÖTLEY CRÜE[モトリー・クルー]のフォロワーである」と言ってしまうと身も蓋もないかもしれないが、これはかなり質の高いフォロワーだ。
 学生時代、このアルバムを「これ、MÖTLEY CRÜEのメジャー・デビュー前の音源やねん」と言って、友人に聴かせたところ、その友人はあっさりと筆者の嘘に引っかかった。
 MÖTLEY CRÜとPOISONの中間のような音であり、どちらにも似ているようで、それでいてPRETTY BOY FLOYDとしての個性もしっかりとある。
 1989年のリリースなので、グラム・メタル・ムーヴメント末期のアルバムなのだが、あと2年早くリリースされていたら、もっと売れていたのではないだろうか?
 このアルバムを聴いたとき、筆者はグラム・メタル・ムーヴメントが沈みゆく時期にきたように感じてしまい、曲は最高に良いのに何故か悲しくなった記憶がある。
 PRETTY BOY FLOYDは、グラム・メタル・ムーヴメントが放った「鼬(いたち)の最後っ屁」のようなバンドなのである。

■ 第7位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215332j:plain

title YOUNG AND CRAZY[ヤング・アンド・クレイジー
artist TIGERTAILZ[タイガーテイルズ]
released 1987年
origin Cardiff, Wales, UK
comment  英国のウェールズと言えば、後にMANIC STREET PREACHERSマニック・ストリート・プリーチャーズ]、SUPER FURRY ANIMALSスーパー・ファーリー・アニマルズ]、STEREOPHONICSステレオフォニックス]等を輩出した地である。
 筆者が知らないだけかもしれないが、このTIGERTAILZのようなギラついた傾奇者(かぶきもの)が出てくるイメージはない。
 でも、思い出してみれば、MANIC STREET PREACHERSも最初の頃はけっこうな傾奇者だった。
 TIGERTAILZの個性は、この1stアルバムでも歌っている初代シンガーSteevi Jaimz[スティーヴィー・ジェイムズ](この綴り...)のド汚い濁声だ。
 グラム・メタルをやる場合、こういう声は不利な気がするのだが、これが逆にTIGERTAILZにしか出せない個性になっているのだから面白い。
 2nd「BEZERK」ではシンガーがKim Hooker[キム・フッカー]に変わり、彼の声はグラム・メタルに合うハイトーン・ヴォイスなので、かなりキャッチーになったのだが、個性は薄れてしまったような気がする。

■ 第6位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215347j:plain

title SOLDIERS UNDER COMMAND[ソルジャーズ・アンダー・コマンド]
artist STRYPER[ストライパー]
released 1985年
origin Orange County, California, US
comment STRYPERは、クリスチャン・メタルというジャンルを確立したバンドであり、大枠であるグラム・メタルの中でもMÖTLEY CRÜEやW.A.S.P.[ワスプ]のような「悪」を売りにするバンドとは対極の位置に存在するバンドだ。
 クリスチャン・メタルの曲のテーマは「神への賛美」なのである。
 しかしながら、ライヴ中、客席に向けて聖書を投げるパフォーマンスを「けしからん!」と怒られたりもしており、確かに筆者も「クリスチャンなのに聖書の扱い方がぞんざいだな」と思った記憶がある。
 このアルバムは、ギターのハーモニクスや、ヴォーカルのコーラスがとても美しい。
 当時付き合っていた彼女は、日本の女性アイドルやオフコースが好きで、洋楽で聴くのはABBA[アバ]くらいだったのだが、ハーモニクスやコーラスが好きだったので、試しにSTRYPERを聴かせてみたら一発で好きになってくれた。
 筆者はクリスチャンではないのだが、このアルバムを聴いていると、何となく敬虔な気持ちになってくるから不思議なものである。

■ 第5位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215401j:plain

title LAW OF THE ORDER[ロウ・オブ・ジ・オーダー]
artist SHARK ISLAND[シャーク・アイランド]
released 1989年
origin Los Angeles, California, US
comment  5位以上は変化球が多くなってしまい、このSHARK ISLANDもグラム・メタルとしての要件をぎりぎり満たしているか、いないかのボーダーラインに存在するようなバンドだ。
 ただし、グラマラスではないのかと言うと、そんなことはなく、このバンドの曲には、内側から匂い立つような「大人の色気」があるのだ。
 「大人の色気」と言うとブルースやソウル等、ブラック・ミュージックを連想する人がいるかもしれないが、SHARK ISLANDの曲はそういう感じでもない。
 あくまでも、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの範疇にあるものなのだが、同時代の他のバンドに比べて圧倒的な精神年齢の高さを感じるのである。
 このバンドのシンガーRichard Black[リチャード・ブラック]は、GUNS N' ROSES[ガンズ・アンド・ローゼズ]のシンガーW. Axl Rose[W・アクセル・ローズ]が影響を受けたと公言している人物でもある。
 確かに、このアルバムを聴いていると低音域の声の出し方がAxlに影響を与えているように聴こえるし、ミュージック・ビデオを見ているとマイク・スタンドの使い方もAxlに影響を与えているように見える。

■ 第4位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215417j:plain

title VELVET KISS, LICK OF THE LIME[ヴェルヴェット・キス、リック・オブ・ザ・ライム]
artist LIONS & GHOSTS[ライオンズ&ゴースツ]
released 1987年
origin Los Angeles, California, US
comment  LIONS & GHOSTSは、ヴィジュアル的にはグラマラスなのだが、音楽的にはグラム・メタルというよりも、メタルですらないような気がする。
 当時、このデビュー・アルバムがメタル系洋楽雑誌「BURRN!」のディスク・レビューでも取り上げられており、リリースの時期がGUNS N' ROSESのデビュー・アルバムの少し後くらいだったので、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル的な音を期待して買った人の多くはズッコケたのではないだろうか?
 筆者の場合は、逆にこのバンドにドハマりした少数派の方だ。
 GENE LOVES JEZEBEL[ジーン・ラヴズ・ジザベル]のような、英国のポップなゴシック・ロック・バンドが、米国の市場を意識してアメリカナイズしてみた感じの音なのである。
 この時期だと、音はポップでも、ギター・ソロだけはテクニカルでフラッシーだったりするのだが、それすらも無く、今回選んだ10枚の中では、メタルを聴かない人でも聴ける唯一のアルバムだと思う。
 ちなみに、2年後にリリースする2nd「WILD GARDEN」では、完全にネオアコになってしまうのである。

■ 第3位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215432j:plain

title NO RESPECT[ノー・リスペクト
artist VAIN[ヴェイン]
released 1989年
origin San Francisco Bay Area, California, US
comment  このDavy Vain[デイヴィー・ヴェイン]率いるVAINには、異端のグラム・メタル・バンドというイメージがある。
 ざっくりとだが、当時、同じカリフォルニア州でも、ロサンゼルスはグラム・メタル、サンフランシスコはスラッシュ・メタルというイメージがあった(ただし、イメージだけであり、実際にはそうでもない)。
 このVAINは、サンフランシスコから登場したグラム・メタル・バンドということで、当時の筆者はこのバンドに対し、異端のイメージを持ったのである。
 そして、1987年にリリースされたGUNS N' ROSESのデビュー・アルバムが記録的な大ヒットとなって以降、グラマラスではなく、ラフでワイルドなイメージのバンドが増えたのだが、VAINはGUNS N' ROSES以前のグラム・メタルのイメージを持っており、その点でも異端のイメージがあった。
 ただし、このVAINが凡百(ぼんぴゃく)のグラム・メタル・バンドと一線を画しているのは、曲の良さ、曲の個性、そして、爬虫類のようにねちっこいDavy Vainのヴォーカルである。
 このデビュー・アルバム以降、一度の解散と再結成を挟み、2022年現在まで、7枚のアルバムをリリースしているのだが、駄作を1枚も作っていない稀有な存在でもある。

■ 第2位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215444j:plain

title ATOMIC PLAYBOYS[アトミック・プレイボーイズ]
artist Steve Stevens[スティーヴ・スティーヴンス]
released 1989年
origin New York City, New York, US
comment  当時、このアルバムは、STEVE STEVENS ATOMIC PLAYBOYSというバンドのアルバムとてリリースされたが、現在では、Steve Stevensのソロ・アルバムという扱いになっているようだ。
 これまでに聴いた回数では、確実に上位に入るアルバムであり、あらゆる面で好きなアルバムだ。
Steve Stevensのテクニカルなギターにつていは、Billy Idol[ビリー・アイドル]のバック・バンドにいたときから、既に度肝を抜かれていたが、このアルバムはPerry McCarty[ペリー・マッカーティ]のヴォーカルも素晴らしいのである。
 Perry McCartyは、WARRIOR[ウォーリアー]というパワー・メタル・バンドにいたシンガーなのだが、彼の正確かつ艶のある歌声が、Steve Stevensのフラッシーなギターと実によく合うのだ。
 このバンドは、1989年12月31日に東京ドームで行われたカウントダウン・ライヴに出演する予定だったのだが、解散によりドタキャンとなった。
 当時、このバンドが見たくて、京都から東京に向かった筆者にとっては、苦い記憶が蘇る思い出の1枚でもある。

■ 第1位

cover

f:id:DesertOrchid:20220115215457j:plain

title ENUFF Z'NUFF[イナフ・ズナフ]
artist ENUFF Z'NUFF[イナフ・ズナフ]
released 1989年
origin Blue Island, Illinois, US
comment  多くのロック・リスナーにとって、THE BEATLESザ・ビートルズ]の血を受け継ぐバンドはOASIS[オアシス]なのかもしれないが、筆者にとってのそれはENUFF Z'NUFFなのである。
 音楽的にはグラム・メタルではなく、パワー・ポップだと思うのだが、そのパワー・ポップには一聴すると不似合いなDerek Frigo[デレク・フリーゴ]のテクニカルでフラッシーなギターが入るところが、このバンドの最大の個性だ。
 シンガーのDonnie Vie[ドニー・ヴィー]は、たぶん、John Lennonジョン・レノン]を意識した歌い方をしていると思うのだが、安っぽい模倣にならず、既にこの1stの時点で、Donnie VieでなければENUFF Z'NUFFにはならないと言えるだけの輝きがある。
 ドラマーのVikki Fox[ヴィッキー・フォックス]は、ヴィジュアルも良く、ドラムの腕前も達者だったので、後にVince Neil[ヴィンス・ニール]がMÖTLEY CRÜEを解雇されてソロ活動を始めるときに引き抜かれることになるのだが、それがこのバンドの活動に暗雲をもたらしたのは残念だった。
 Donnie VieとベーシストのChip Z'Nuff[チップ・ズナフ]のソングライター・コンビが書く曲は唯一無二であり、同時代のこのムーヴメントの中で彼らとの共通点を持つソングライターはいない。
 グラム・メタル・ムーヴメントでは、THE ROLLING STONESザ・ローリング・ストーンズ]、LED ZEPPELINレッド・ツェッペリン]、AEROSMITHエアロスミス]、KISS[キッス]等を追いかけるバンドは多かったが、THE BEATLESを追いかけるバンドは少なかったのである。

 

【総括】
1980-1984からの10選も難しかったが、1985-1989からの10選は更に難しかった。


MÖTLEY CRÜEやRATTの成功で「これは金になる」と睨んだレコード会社が、この手のバンドを青田買いしたため、1985年以降に多くのバンドがデビュー・アルバムをリリースしているからだ。


その上、グラム・メタルが葬られたと思われている1990年以降も、けっこう名盤が多いのである。


はっきり言って、1985-1989のグラム・メタルとなると、とても10枚では足りないのだ。


そして、1980-1984のときも1985-1989ときも迷ったのは、ベテランのアルバムを入れるか否かだ。


例えば、Y&T[ワイ・アンド・ティー]やWHITESNAKEホワイトスネイク]は、この時期、グラム・メタル的なアプローチをしていて、リリースしたアルバムも超絶的にクオリティの高い名盤なのだが、今回のようなリストに入れるには安定感が有り過ぎて面白味が無い。


結局、ベテランを入れるのは止めにした。


そして、更に、筆者を迷わせたのはGUNS N' ROSESの存在である。


NIRVANAニルヴァーナ]以降のグランジ/オルタナティヴ・ロックのリスナーにとって、GUNS N' ROSESは、80年代を代表するグラム・メタルの権化のように思われているだろう。


しかし、80年代初期からグラム・メタルを聴いていた筆者にとってのGUNS N' ROSESとは、それまでのグラム・メタルとは一味違う新しい存在だったのである。


SKID ROWスキッド・ロウ]が登場したときも、GUNS N' ROSESと同様に感じた。


それ故、この二つのバンドは今回のリストに入れなかった。


これらは、別途、「GUNS N' ROSES以降の10選」を書く機会があれば取り上げたい。


2回に渡り、グラム・メタルを取り上げたのだが、やはり、筆者のロックの原点はここにあるなと、改めて確認することができた。


グラム・メタルをやり玉にあげて、商業主義だのリアリティが無いだの、的外れな批判をしたり、バカにしたりする人がいるが、そんな攻撃には洒落臭いと言いたい。


何故なら、音源をリリースする以上、それがメジャー・レーベルでも、インディー・レーベルでも、音源を販売しているのであれば、商業主義であることに違いはないからだ。


リアリティがないというのもお門違いであり、メインストリームであろうが、オルタナティヴであろうが、ミュージシャンなんてものは企業や組織に与するものではなく、明日の事も分からない世界で生きているわけだから、どの道、reality(現実)なんてものは無いのだ。


今回のような記事は書くのが大変なのだが、面白かったので、また書きたいと思う。