第1位
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W.A.S.P.[魔人伝]
1st album
released: 1984
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完璧なデビュー・アルバムである。
ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルとアメリカン・ロックン・ロールが絶妙な配分で融合されており、収録曲の全てがポップでキャッチーな名曲揃い。
グラム・メタル(LAメタル)という枠を超え、ロックの歴史に燦然と輝く名盤だ。
W.A.S.P. は 2nd 以降も良いのだが、このデビュー・アルバムが完璧すぎるので、どうしても2以降の数枚が霞んでしまう。
リマスター盤は、レコード会社(キャピトル)から NG が出てオリジナル盤に収録できなかった "F**k Like a Beast" で始まるのだが、やはり、このアルバムは "I Wanna Be Somebody(悪魔の化身)" で始まるオリジナル盤で聴いた方が良い。
W.A.S.P. のフロントマン、Blackie Lawless[ブラッキー・ローレス]は、このアルバムをリリースした時、既に28歳、けっこう遅咲きである。
ネイティヴ・アメリカンにルーツを持つ Blackie Lawless が、自分のバンドを W.A.S.P. と名付けたのは、逆説的であり非常に面白い。
第2位
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The Crimson Idol[クリムゾン・アイドル]
5th album
released: 1992
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このアルバムは、架空のロック・スター、Jonathan Aaron Steel[ジョナサン・アーロン・スティール]の物語を綴ったコンセプト・アルバムである。
Blackie Lawless のソロ・アルバムとして制作を始めたのだが、レコード会社(キャピトル)の意向により、W.A.S.P. のアルバムとしてリリースされた。
架空のロック・スターの物語を綴ったコンセプト・アルバムと言えば、古くは David Bowie[デヴィッド・ボウイ]の The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars という古典的名盤があり、同時代におけるメタル系のコンセプト・アルバムと言えば、少し前に Queensrÿche[クイーンズライク]の Operation: Mindcrime という大傑作がリリースされている。
それ故、どうしても二番煎じな感は否めないのだが、そんな安易な批判を寄せ付けないくらい、このアルバムは上述の2枚にも匹敵する名盤であり、曲の完成度もアルバムの構成も完璧だ。
この時期の W.A.S.P. は完全に正調ヘヴィ・メタルにシフトしており、このアルバムは欧州では売れたが米国ではあまり売れなかった。
米国の W.A.S.P. ファンが彼らに求めるのは、初期のショック・ロック的なロックン・ロールが入ったメタルだったのかもしれない。
第3位
[title]
Dying for the World[ダイイング・フォー・ザ・ワールド]
10th album
released: 2002
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実は、このアルバムを初めて聴いたときは強い違和感を覚えた。
アルバム全体が暗いベールに覆われており、その暗さ故、なかなか感情移入することができず、聴いていると物凄く疲れるのだ。
否、暗い曲でも好きなものは沢山あるのだが、このアルバムから発せられる暗さは、それまで筆者が好きだった暗い曲とは異質だったのである。
実は、このアルバムの曲は「9.11同時多発テロ」や、更に遡って「湾岸戦争」からインスパイアされて制作されている。
更に更に遡って「チェロキー族の強制移住」にインスパイアされた曲もあり、曲のモチーフとなったテーマがことごとく重いのである。
デビュー時、股間にノコギリを付けていた男が、18年後にこんなにもシリアスなアルバムを作るとは、当時、誰が予測し得ただろう。
筆者自身、こういうダークでシリアスな W.A.S.P. も愛聴するようになるとは、当時、全く予想できなかった。
第4位
[title]
The Headless Children[ヘッドレス・チルドレン]
4th album
released: 1989
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デビューから 2ndアルバムの The Last Command までは計算されつくした下品でおバカなキャラを演じていたが、3rdアルバムの Inside the Electric Circus ではシリアスなヘヴィ・メタルに接近し、この 4thアルバムでは完全に正統派ヘヴィ・メタルになった。
言い方を変えると普通のヘヴィ・メタルになったのだが、曲の良さがダイレクトに伝わるようになり、Blackie Lawless が如何に類まれなるソングライターであるかが分かる名盤に仕上がっている。
Blackie Lawless の書く曲は少々一本調子なところもあるのだが、それはそれで貫き通せば「味」になる。
前作の3rdアルバムでは Uriah Heep[ユーライア・ヒープ]の "Easy Livin'" をカヴァーしていたのだが、その縁があったのかどうなのか、今作では、その Uriah Heep の名キーボーディスト Ken Hensley[ケン・ヘンズレー]がゲスト参加し、アルバムに花を添えている。
「ヘヴィ・メタルは好きだけど、ロックン・ロールはちょっと...」という人は、このアルバムから W.A.S.P. を聴き始めた方が良い。
第5位
[title]
Golgotha[ゴルゴタの丘]
15th album
released: 2015
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2018年に Reidolized: The Soundtrack to The Crimson Idol というアニヴァーサリー・アルバムをリリースしているが、このブログを書いている2023年1月の時点で、目下のところ W.A.S.P. の最新スタジオ・アルバムがこれだ。
W.A.S.P.(と言うか Blackie Lawless)は、2004年の The Neon God: Part 1 – The Rise あたりから伝統芸能の域に達した感があり、この路線でアルバムをリリースしてくれれば筆者は常に満足なのだが、新たなリスナーを獲得するのは難しいかもしれない。
ありきたりなことを書いてしまうのだが、やはり、曲が良い。
そして、このアルバムには何かが吹っ切れたかのような爽快感がある。
2曲目の "Last Runaway" は W.A.S.P. の曲にしては異例なほどの爽やかさがあり、Runaway という単語が入っているからという訳ではないが、Bon Jovi[ボン・ジョヴィ]が演奏しても大丈夫そうだ(念のために書いておくが、筆者は Bon Jovi も大好きだ)。
~ 総括 ~
グラム・メタル系のバンドで「好きなアルバム5選」という記事を書こうとすると、殆どのバンドではそれが出来ない。
殆どのグラム・メタル系のバンドはアルバムを数枚リリースした後、売れなくなってしまい、レコード会社から契約を切られて解散してしまうことが多いからだ。
グラム・メタルの代名詞のようなバンド Ratt[ラット]ですら、アルバムを5枚リリースして解散してしまい、1997年の再結成以降は現在(2023年1月)に至るまでアルバムを2枚リリースしただけだ。
Mötley Crüe[モトリー・クルー]は40年以上の活動歴でリリースしたスタジオ・アルバムがたったの9枚、Guns N' Roses[ガンズ・アンド・ローゼズ]は更に酷く、35年以上の活動歴でリリースしたスタジオ・アルバムがたったの6枚であり、この中には EP と言ってもいいボリュームのものとカヴァー・アルバムも含まれている。
インターネットの普及以降はアルバムが売れなくなってしまったので、アルバムを制作することの意義が薄れた感はあるものの、80年代~90年代にはもう少し頑張れば沢山のアルバムを制作できたのではないだろうか?
とにかく、働かなさすぎである。
「ミュージシャンはアーティストなのだから、普通の仕事と同じレベルで考えるな」と言われてしまうと何も言えなくなるのだが、世の中の大人は、もっと頑張って一所懸命に働いているのである。
そこへいくと、W.A.S.P.[ワスプ]は大したものである。
来年2024はデビュー・アルバム W.A.S.P.[魔人伝]の40thアニヴァーサリーとなるが、2015年の Golgotha まで、15枚のアルバムをリリースしている。
「少ないやないか!」と突っ込まれるかもしれないが、W.A.S.P. は、インターネット社会が確立した2000年以降に7枚のアルバムをリリースしており、これは賞賛に値する。
同じくらいコンスタントにアルバムをリリースしているグラム・メタル出身のバンドで、今、パッと思いつくのは Great White[グレイト・ホワイト]くらいだ。
W.A.S.P. の Blackie Lawless[ブラッキー・ローレス] は、Johnny Thunders[ジョニー・サンダース]が抜けた New York Dolls[ニューヨーク・ドールズ]に、その後釜として入った1975年あたりから米国のロック・シーンに登場したのだが、W.A.S.P. として成功を修めるまでに約10年の歳月を費やしている。
実は、けっこうな苦労人なのである。
デビュー時の下品でおバカなキャラも W.A.S.P. を売り出すために計算されつくしたものであり、かなり頭のキレる人物でもある。
そして、ネイティヴ・アメリカンにルーツを持つ彼が、あえて逆説的に W.A.S.P. と名乗ったのも、たぶん計算してのことなのではないだろうか?
上述したとおり、2015年に Golgotha をリリースして以降、アニヴァーサリー・アルバムの Reidolized: The Soundtrack to The Crimson Idol をリリースしたもののニュー・アルバムのリリースが途絶えている。
もしかすると、アルバムというフォーマットは現在のロック・バンドにとって、必要の無いものになってしまったのかもしれない。