Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0444) 好きな Bryan Ferry[ブライアン・フェリー]のアルバム5選

第1位

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Boys and Girls[ボーイズ・アンド・ガールズ]
 6th album
 released: 1985/06/03

[comment]
 初めてリアル・タイムで聴いた Bryan Ferry のアルバムがこれだ。
Roxy Music のラスト・アルバム Avalon で到達した、ブラック・ミュージックの影響を受けたソフィスティ・ポップを更なる高みに押し上げたのがこのアルバムでる。
Roxy Music も含め、Ferry のキャリアを通しての最高傑作であり、"Slave to Love"、"Don't Stop the Dance" といったヒット・シングルはもとより、収録されている全9曲は英国の重要無形文化財と言っても過言ではないほどの完成度を持っており、非の打ち所がない。
 ちなみに、当時(80年代)、筆者が好きだった(下心を持っていた)お洒落な女子大生は、判で押したようにみんなこのアルバムを愛聴していた。


第2位

[title]
Bête Noire[ベイト・ノワール
 7th album
 released: 1987/11/02

[comment]
 上述した Boys and Girls の次作がこのアルバムだ。
Boys and Girls の次作としては100点満点のようなアルバムであり、Bryan Ferry が「前作で自分を好きになってくれたリスナーが何を欲しがっているか」ということを徹底的に分析して制作したようなアルバムだ。
The Smiths 解散後の Johnny Marr がギタリストとして参加しており、シングルにもなった "The Right Stuff" では Ferry と共に作曲もしている。
Roxy Music の 3rdアルバム Stranded 収録の "A Song for Europe (ヨーロッパ哀歌)" はフランス語で歌っていたが、本作収録の表題曲 "Bête Noire" もフランス語で歌っている。


第3位

[title]
Taxi[タクシー]
 8th album
 released: 1993/03/10

[comment]
 Bryan Ferry は Bête Noire の次作として Horoscope というタイトルのアルバムを制作していたのだが、その制作は難航し、Horoscope はリリースされるには至らなかった(つまりは The Beach BoysSmile みたいなものである)。
 そんな Ferry が Horoscope による後遺症のリハビリとして制作したアルバムが本作であり、自作曲ではなくカヴァー曲集となった。
 キャリア初期の Ferry は、Roxy Music では自作曲、ソロではカヴァー曲という具合に使い分けていたのだが、そこに立ち戻ったわけである。
 収録曲の中では The Velvet Underground の "All Tomorrow's Parties" が異彩を放つのだが、基本的にバラード中心のアルバムであり、表題曲である J. Blackfoot の "Taxi" は絶品である。


第4位

[title]
Dylanesque[ディラネスク]
 12th album
 released: 2007/03/05

[comment]
 このアルバムには Bob Dylan のカヴァー曲のみが収録されている。
Taxi とは正反対の性質を持つカヴァー・アルバムの名盤だ。
 前作 Frantic の1曲目は Dylan の "It's All Over Now, Baby Blue"、初のソロ・アルバム These Foolish Things の1曲目も Dylan の "A Hard Rain's a-Gonna Fall" であり、Ferry がディープな Dylan マニアであることは有名なのだが、そのマニアっぷりを全開にしたのがこのアルバムだ。
 Ferry と同時代を生きた David Bowie もディープな Dylan マニアであり、Dylan の「腹の底から声を出さずに喉で歌う」というスタイルは、Ferry と Bowie に大きな影響を与え、その Ferry と Bowie に影響を受けた英国のポストパンクやニュー・ウェイヴのシンガーたちの歌唱法の起源は Dylan だ...というのは筆者の持論である。


第5位

[title]
Olympiaオリンピア
 13th album
 released: 2010/10/25

[comment]
Roxy Music のアルバム・カヴァーには女性の写真を使い、ソロ・アルバムには自分の写真を使うというのが Bryan Ferry のスタイルだったのだが、このソロ・アルバムではそれを覆して女性の写真を使っている。
 その先入観があるせいなのか、このアルバムは Roxy Music っぽく聴こえてしまう。
Roxy MusicManifesto (6th) や Flesh + Blood (7th) の中にこのアルバムの曲が入っていても違和感がないような気がする。
Roxy Music はバンドなので、Phil Manzanera も Andy Mackay も 重要なのだが、それでもやはり、Roxy Music は Ferry が1人居れば成立していたバンドだったのかなと思えるアルバムでもある。

~ 総括 ~

Roxy Music で何か文を書こうと思ったのだが頓挫した。

Roxy Music がリリースしたオリジナル・スタジオ・アルバムは8枚だけであり、その全てが傑作なので、「好きな Roxy Music のアルバム」みたいな文は書きようがないのである。

 このブログを始めた頃に 3rdアルバム Stranded を取り上げて文を書いたのだが、実のところ Stranded だけが特別に好きなわけではなく、8枚全てが同じくらい好きだ。

 どうしても1枚取り上げるなら Avalon になってしまうのだが、それは Roxy Music が好きな人の、たぶん90%くらいは同じであり、Avalon ではあまりにも面白味に欠けるので Stranded を選んだのである。

 「好きな Roxy Music のアルバム」は書けないが、「好きな Bryan Ferry のアルバム」なら書けそうな気がしたのでそうすることにした。

 しかし、Ferry はソロ・アルバムにも失敗作や駄作がないので、やはり難しかった。

 Ferry は、バンドでもソロでも失敗作や駄作がないという稀有なアーティストなのである。

 1位はリアルタイムで聴いて感銘を受けた Boys and Girls にすると決めていたのだが、他の順位も全てリアルタイムで聴いたアルバムだけで埋められることになった。

 筆者にとっての Ferry とは、実に不思議なアーティストだ。

 シンガーとして好きなタイプかと訊かれれば、全くもって好きなタイプではない(これは David Bowie も同じだ)。

 もし、自分が Ferry とバンドを組んでいて、そのバンドのリーダーだった場合、練習中に Ferry があのヨーデル調で歌い始めたら、スリッパで頭をビタン!とシバいて「まじめに歌えっ!」と言うだろう。

 そして、Steve Marriott や Paul Rodgers みたいに歌ってくれと注文を付けると思う。

 それにも関わらず、再びあの調子で歌い始めたら「ええかげんにせぇっ!」と言って、もう一度スリッパで頭をビタン!とシバくだろう。

 ただし、自分の音楽的趣味とは離れた場所で客観的に聴くなら、Ferry ほど興味深いシンガーはなかなか居ないのである。

 筆者にとっての Bryan Ferry とは、歌唱力云々という批評を寄せ付けない、稀代の天才総合芸術家なのである。