Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

自分のロック感を作ったアーティスト(7)Bob Seger [the Bob Seger System ~ Solo]

the Bob Seger System [ザ・ボブ・シーガー・システム]

origin: Detroit, Michigan, U.S.


Ramblin' Gamblin' Man [ランブリン・ギャンブリン・マン]

 1st studio album
 released: 1969/01
 producer: The Bob Seger System & Punch Andrews

  • Side one
    1. Ramblin' Gamblin' Man
    2. Tales of Lucy Blue
    3. Ivory
    4. Gone
    5. Down Home
    6. Train Man
  • Side two
    1. White Wall
    2. Black Eyed Girl
    3. 2 + 2 = ?
    4. Doctor Fine
    5. The Last Song (Love Needs to Be Loved)

[comment]
ボブ・シーガーと言えば「ハートランド・ロックの雄」というのが彼のイメージだと思うのだが、the Bob Seger System 名義でリリースしたデビュー・アルバムは、そんなパブリック・イメージとは全く異なるので初めて聴いたときは戸惑いを覚えた。
 酩酊感の漂うサイケデリック・ロックや、歪んだギターが荒々しく鳴るガレージ・ロックなど、この時期のボブ・シーガーは同郷 (ミシガン州) の the Stooges [ザ・ストゥージズ] や MC5 [エム・シー・ファイヴ] に近い。
 ただしアングラ感は稀薄であり、後に米国の国民的シンガーに登り詰める彼のメジャー感は、この時点で既に感じることができる。


Noah [ノア]

 2nd studio album
 released: 1969/09
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Noah
    2. Innervenus Eyes
    3. Lonely Man
    4. Loneliness Is a Feeling
    5. Cat
  • Side two
    1. Jumpin' Humpin' Hip Hypocrite
    2. Follow the Children
    3. Lennie Johnson
    4. Paint Them a Picture Jane
    5. Death Row

[comment]
 A面1曲目、アルバムのオープニングを飾る "Noah" だけが全体の中で異様に浮いている気がする。
 A面2曲目からB面5曲目までの9曲は同質の緊張感を備えているのだが、"Noah" だけは牧歌的な曲であり、何故この曲をオープニングに選んだのか謎だ(逆に "Noah" だけが、ちょっとハートランド・ロックっぽい)。
 A面ラストに入れて、B面への切り換えとして使うなら納得できるのだが、アルバムのタイトルチューンなので思い入れが深い曲なのかもしれない。
 しかし、A面2曲目の "Innervenus Eyes" をオープニングに持ってきた方がリスナーの心を掴めると思うのだが...


Mongrel [モングレル]

 3rd studio album
 released: 1970/08
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Song to Rufus
    2. Evil Edna
    3. Highway Child
    4. Big River
    5. Mongrel
    6. Lucifer
  • Side two
    1. Teachin' Blues
    2. Leanin on My Dream
    3. Mongrel Too
    4. River Deep, Mountain High

[comment]
 the Bob Seger System というバンド名で、且つ、歌っているのがボブ・シーガーなので彼のワンマン・バンドであることは否めないのだが、このアルバムは the Bob Seger System としてリリースした3作の中で最もバンド・サウンドを感じさせてくれる。
 とりわけボブ・シュルツのオルガンは印象深く、このアルバムでの the Bob Seger System は、Vanilla Fudge [ヴァニラ・ファッジ] や 第1期 Deep Purple [ディープ・パープル] に通じるアート・ロック的側面もある。
 これを最後にバンドは解散となり、ボブ・シーガーはソロ・アーティストになるのだが、成り行きとしてソロになったものの、本当のところボブ・シーガーはバンドとして活動したかったのではないだろうか?


Bob Seger [ボブ・シーガー]

origin: Detroit, Michigan, U.S.


Brand New Morning [ブランド・ニュー・モーニング]

 4th studio album (1st solo album)
 released: 1971/10
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Brand New Morning
    2. Maybe Today
    3. Sometimes
    4. You Know Who You Are
  • Side two
    1. Railroad Days
    2. Louise
    3. Song for Him
    4. Something Like

[comment]
 the Bob Seger System 解散後、ソロ・アーティストとなってリリースされた本作は、ボブ・シーガー自身が弾くギターとピアノの上に憂いのあるヴォーカルを乗せただけのシンプルな弾き語りアルバムとなった。
 バンド時代とは明確に音楽性を変えているのだが、この時点でも、まだ後の「ハートランド・ロックの雄」というイメージからはかけ離れている。
 個人的には、ここに収められているちょっとローファイな曲は好みなのだが、当時リアルタイムでバンド時代からボブ・シーガーを追いかけていた人にしてみれば「全然違うやん」と感じたのアルバムだったのではないだろうか?


Smokin' O.P.'s [スモーキンO.P.’s]

 5th studio album
 released: 1972/08
 producer: Punch Andrews

  • Side one
    1. Bo Diddley
    2. Love the One You're With
    3. If I Were a Carpenter
    4. Hummin' Bird
  • Side two
    1. Let It Rock
    2. Turn on Your Love Light
    3. Jesse James
    4. Someday
    5. Heavy Music

[comment]
 A面はボ・ディドリー、スティーヴン・スティルス、ティム・ハーディン、レオン・ラッセルのカヴァー、そして、B面の1曲目がチャック・ベリーのカヴァー!
 強烈に米国を感じさせる選曲であり、ボブ・シーガーのロック・シンガーとして力量が存分に発揮されたアルバムだ。
 自作曲は2曲だけ最後にひっそりと収められており、カヴァーを前面に押し出した構成は、ここで一区切り付けようとした印象を受ける。
 筆者は煙草を吸わない(というより煙草に嫌悪感がある)ので、このアルバム・カヴァーが有名な煙草の銘柄をモチーフにしていることを永年に渡り気付かなかった。


Back in '72 [バック・イン・72]

 6th studio album
 released: 1973/01
 producer: Punch Andrews, Bob Seger

  • Side one
    1. Midnight Rider
    2. So I Wrote You a Song
    3. Stealer
    4. Rosalie
    5. Turn the Page
  • Side two
    1. Back in '72
    2. Neon Sky
    3. 've Been Working
    4. I've Got Time

[comment]
 これまでのアルバムも名盤揃であり、個人的にボブ・シーガーのアルバムにハズレは無いと思っているのだが、このアルバムは一皮むけた感じがする。
 前作ほどではないが、the Allman Brothers Band [オールマン・ブラザーズ・バンド] の初期の名曲 "Midnight Rider"、ヴァン・モリソンの "I've Been Working"、そして、筆者が愛する Free [フリー] の "Stealer" といった秀逸なカヴァーが収録されている。
 そして、逆に、Thin Lizzy [シン・リジィ] にカヴァーされることになる名曲 "Rosalie" も収録されている。
 シーガーの熱唱に胸が絞めつけられる切ないバラードの "Turn the Page は永遠の名曲だ。"


Seven [セヴン]

 7th studio album
 released: 1974/03
 producer: Punch Andrews, Bob Seger

  • Side one
    1. Get Out of Denver
    2. Long Song Comin'
    3. Need Ya
    4. School Teacher
    5. Cross of Gold
  • Side two
    1. U.M.C. (Upper Middle Class)
    2. Seen a Lot of Floors
    3. 20 Years from Now
    4. All Your Love

[comment]
 the Bob Seger System 時代から数えて7枚目のアルバムだから Seven なのだろうか?
 今回は全曲、ボブ・シーガーのペンによるオリジナルであり、カヴァー曲は無い。
 前作から、その兆候はあったが、いよいよハートランド・ロックっぽくなってきた。
ハートランド・ロックというジャンル名は日本では浸透していないので分かりにくいかもしれないが、70年代から80年代を通して人気を博す典型的なアメリカン・ロックなのだが、このアルバムはその原型である。


Beautiful Loser [美しき旅立ち]

 8th studio album
 released: 1975/04
 producer: Bob Seger, Muscle Shoals Rhythm Section, Punch Andrews

  • Side one
    1. Beautiful Loser
    2. Black Night
    3. Katmandu
    4. Jody Girl
  • Side two
    1. Travelin' Man
    2. Momma
    3. Nutbush City Limits
    4. Sailing Nights
    5. Fine Memory

[comment]
ボブ・シーガーが本格的にブレイクするのは、Bob Seger & the Silver Bullet Band [ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド] としてリリースした、次作 Night Moves からだが、このアルバムはチャート成績では次作に及ばないものロックの歴史に刻まれた名盤である。
ハートランド・ロックには「男らしい」とか「勇ましい」というイメージを持たれがちだが、実は意外と弱々しいのである。
 メロディーや歌詞も繊細であり、このアルバムも正にそのとおりのアルバムだ。
 タイトルの「美しい敗者」のとおり、敗れっ去った者たち向けた優しがある。


~ 総括 ~

ハートランド・ロックの四天王と言えば、Bruce Springsteen [ブルース・スプリングスティーン]、Tom Petty [トム・ペティ]、John Mellencamp [ジョン・メレンキャンプ]、そして今回取り上げたボブ・シーガーである。

 はっきり言って、ブルース・スプリングスティーン以外、日本ではあまり人気が無さそうである。

ハートランド・ロックというジャンル名が日本では浸透しておらず、ロックを聴いている人でも「何それ?」って感じなのではないだろうか?

ハートランドとは、米国の中西部地域のことらしいのだが、上記した四天王のうち、ジョン・メレンキャンプインディアナ州の出身なのでハートランドだが、ブルース・スプリングスティーンニュージャージー州トム・ペティフロリダ州ボブ・シーガーミシガン州の出身なのでハートランドではない。

ハートランドには「心のふるさと」という意味もあるようなので、ハートランド・ロックは地域を指したジャンル名ではなさそうにも思えるのだが、未だによく分からない。

 よくわからないのだが、筆者にとっては、ロックン・ロール、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル、サザン・ロックと並んで好きなロックの上位に位置するジャンルである。

 「ブルース・スプリングスティーン以外、日本ではあまり人気が無さそうである」と書いたが、その中でも日本ではボブ・シーガーが最も知られていないと思われる。

 今まで「ロックが好き」という人には何人も出会ってきたが、「ボブ・シーガーが好き」という人には出会ったことが無い。

 筆者がボブ・シーガーを聴く切っ掛けは、80年代に購読していた「音楽専科」という雑誌でボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンドが86年にリリースした Like a Rock というアルバムのレビューを読んだときである。

 当時、ブルース・スプリングスティーンBorn in the U.S.A.トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズSouthern Accentsジョン・クーガー・メレンキャンプScarecrow で、この手のロックに嵌り始めていた筆者は、上記のレビューを読んで「次はこれだ!」と直感的なひらめきを感じ、Like a Rock を購入したのである。

 当時のレコードの価格は2,500~2,800円くらいであり、10代の筆者にとっては大きな買い物なので一か八かの大博打だったのだが(当時は視聴できるような環境は殆どない)、結果は「勝ち」であり、その後、現在に至るまで何十年も聴き続ける愛聴盤となった。

Like a Rock 以降、他のアルバムも徐々に聴いていったのだが、今回取り上げた初期のアルバムは、筆者が好きな80年代のボブ・シーガーとあまりにも違っていたので取っ付きにくかった。

 しかし、これは大金を払ってレコードを買っていた時代の良さだと思うのだが、払った分を何とか取り返そうと思い、何度も何度もレコードを聴くのである。

 そして、何度も聴いているうちにレコードの中に好きな音が見つかり始め、そのレコードが好きになるという現象が起きるのだ(もちろん、時にはどうしても好きになれないケースもある)。

 現在の筆者は配信サービスで音楽を聴いており、レコードやCDなどを全く買わなくなったので、もうボブ・シーガーの初期のアルバムを好きになったときのような音楽の聴き方はできなくなってしまった。

自分のロック感を作ったアーティスト(6)Free

Free [フリー]

origin: London, England, U.K.


Tons of Sobs [トンズ・オブ・ソブス]

 1st studio album
 released: 1969/03
 producer: Guy Stevens

  • Side one
    1. Over the Green Hills (Pt. 1)
    2. Worry
    3. Walk in My Shadow
    4. Wild Indian Woman
    5. Goin' Down Slow
  • Side two
    1. I'm a Mover
    2. The Hunter
    3. Moonshine
    4. Sweet Tooth
    5. Over the Green Hills

[comment]
 このアルバム・リリース時のメンバーはの年齢は、ポール・ロジャース (vo) 19歳、サイモン・カーク (dr) 19歳、ポール・コゾフ (gt) 18歳、アンディ・フレイザー (ba) に至っては 16歳である。
 日本で言うところの未成年から成るバンドなのだが、渋いという言葉では表現しきれないほど大人びた曲ばかりが収録されていて、特にロジャースのヴォーカルの上手さと色気はとても19歳とは思えない。
 ブルーズと言えばブルーズなのだが、本場米国のブルーズとは異なるブリティッシュ・ブルーズ・ロックであり、強烈に湿り気を帯びている。
 今となっては愛聴盤なのだが、最初に聴く Free のアルバムとしては向いていない。


Free [フリー]

 2nd studio album
 released: 1969/10
 producer: Chris Blackwell

  • Side one
    1. I'll Be Creepin
    2. Songs of Yesterday
    3. Lying in the Sunshine
    4. Trouble on Double Time
    5. Mouthful of Grass
  • Side two
    1. Woman
    2. Free Me
    3. Broad Daylight
    4. Mourning Sad Morning

[comment]
 アルバム・カヴァーが前作の不気味なデザインとは真逆の美しいデザインに変っており、楽曲の方もブリティッシュ・ブルーズ・ロックであることに変りわないのだが弾むようなしなやかさが増している。
 8曲がポール・ロジャース (vo) とアンディ・フレイザー (ba) のコンビによって書かれ、残りの1曲はメンバー全員によって書かれており、カヴァー曲がないのも前作との大きな違いだ。
 次作のようにビッグ・ヒットを含むキャッチーなアルバムではないのだが、ロジャース/フレイザーの楽曲の基本はここにあるので、このアルバムから Free を聴き始めるのも有りだと思う。
 最終曲 "Mourning Sad Morning" で聴けるクリス・ウッドのフルートの音色が切なくて悲しい。


Fire and Water [ファイアー・アンド・ウォーター]

 3rd studio album
 released: 1970/06
 producer: Free

  • Side one
    1. Fire and Water
    2. Oh I Wept
    3. Remember
    4. Heavy Load
  • Side two
    1. Mr. Big
    2. Don't Say You Love Me
    3. All Right Now

[comment]
 ブリティッシュ・ロックを掘り下げていくと必ず辿り着き、そして、絶対に避けて通ることのできない名盤中の名盤。
 筆者が18~19歳頃(87~88年頃)にバイトしていたレンタル・ビデオ店に、ブリティッシュ・ロックのミュージック・ビデオを集めた VHS があったのだが、それに収録されていた "Mr. Big" に衝撃を受けたことが Free に深入りする切っ掛けだった。
 サイモン・カークの手数少な目ながら絶妙の8ビートでグルーヴを醸し出すドラム、それとシンクロしながらリード楽器のように動き回るアンディ・フレイザーのベース、良い意味でヴィブラートの効かせ方がえげつないポール・コゾフの泣きのギター、そして、誰が聴いても文句の付けようがない歌唱力を持つポール・ロジャースの艶のあるヴォーカル。
 そのような高水準の演奏で高水準の曲を、最初から最後まで聴き続けることができる奇跡のようなアルバム。


Highway [ハイウェイ]

 4th studio album
 released: 1970/12
 producer: Free

  • Side one
    1. The Highway Song
    2. The Stealer
    3. On My Way
    4. Be My Friend
  • Side two
    1. Sunny Day
    2. Ride on a Pony
    3. Love You So
    4. Bodie
    5. Soon I Will Be Gone

[comment]
 Free の最高傑作と言うと、ヒット・シングル "All Right Now" を含む Fire and Water というのが通説なのだが、筆者が最高傑作を選べるならこの Highway を挙げる。
Highway が、前作までと大きく異なるのは「米国感」、というか「カントリー感」のある牧歌的な曲が含まれており、ブリティッシュ・ブルーズ・ロックという枠から飛び出したイメージがある。
 曲も粒ぞろいで、ポール・ロジャースは前作よりも更に抑揚を効かせて歌っている。
 中でも "Be My Friend"、"Love You So" というバラードにおけるロジャースの歌唱力は尋常ではなく、「誰もカヴァーできないぞ」というレベルに達している。


Free Live! [フリー・ライヴ]

 1st live album
 released: 1971/06
 producer: Andy Johns

  • Side one
    1. All Right Now
    2. I'm a Mover
    3. Be My Friend
    4. Fire and Water
  • Side two
    1. Ride on Pony
    2. Mr. Big
    3. The Hunter
    4. Get Where I Belong

[comment]
 解散を決めた Free の「解散記念」的な意味でアイランド・レコードがリリースしたライヴ盤であり、たぶんバンド側の意向は反映されていない。
 それでも、この時期の Free のライヴ演奏を収録した正規盤は貴重であり、「ありがとう!アイランド・レコード」と言いたい。
 7曲("Get Where I Belong" のみスタジオ録音)というのは、正直なところ物足りなさを感じるのだが、バンド絶頂期のライヴ演奏、特に "Be My Friend" と "Mr. Big" を聴けるのは、このバンドのファンとして幸せである。
 ヒット曲を出し、バンドが成功してからの Free はメンバーどうし、特にポール・ロジャース (vo) とアンディ・フレイザー (ba) の関係が険悪だったらしいのだが、このライヴ盤からはそれを感じることは無い(さすがプロ!)。


Free at Last [フリー・アット・ラスト]

 5th studio album
 released: 1972/05
 producer: Free

  • Side one
    1. Catch a Train
    2. Soldier Boy
    3. Magic Ship
    4. Sail On
    5. Travellin' Man
  • Side two
    1. Little Bit of Love
    2. Guardian of the Universe
    3. Child
    4. Goodbye

[comment]
 解散していたバンドが、レコード会社の思惑に操られるように再結成してリリースしたアルバムなのだが、前向きな再結成ではなく、アルバム・タイトルどおり、これで本当に Free を終わらせようとして制作されたアルバムだ。
 71年に解散し、翌72年に再結成というのは、あまりにも節操が無いように思われるが、アーティストと言えども売り上げを期待できる活動をするのは当然のことであり、この選択は正しい。
 普通、この手の再結成によるアルバムは駄作になるのだが、またもや新たな名盤を作ってしまうところが、このバンドの凄いところだ。
 これぞ Free と言える泣きのメロディーが印象的な曲が多く、この時期のポール・コゾフはドラッグに蝕まれていたと思うのだが、このアルバムでの彼のギターからは、まだ衰えを感じることはない。


Heartbreaker [ハートブレイカー]

 6th studio album
 released: 197301
 producer: Free & Andy Johns

  • Side one
    1. Wishing Well
    2. Come Together in the Morning
    3. Travellin' in Style
    4. Heartbreaker
  • Side two
    1. Muddy Water
    2. Common Mortal Man
    3. Easy on My Soul
    4. Seven Angels

[comment]
Free at Last というタイトルのアルバムをリリースしておきながら、更にもう一枚というのが、この時期のバンドのグダグダ感を物語っている。
 不安定な状況で制作されたとは、とても思えない名盤であり、Free 史上最もマイルドで歌もの嗜好のアルバムだ。
 ただし、ポール・コゾフはドラッグのオーヴァードーズにより安定した演奏が困難だったため、アディショナル・ミュージシャン扱いであり、彼が弾けなかった分のギターはポール・ロジャースやサイモン・カーク、ゲストのスナッフィーが弾いている。
 そして、ベーシストのアンディ・フレイザーが脱退したので、日本人の山内テツが正式メンバーとして参加しており、米国人キーボーディストのラビットも正式メンバーとして参加している。
 アルバム・タイトルになっている Heartbreaker だが、「他者を傷つける人」という言葉がカッコいいと感じるのか、ロック・ミュージシャンにチョイスされがちな言葉である。


~ 総括 ~

 Free は、最初に聴いたとき、とても分かりにくいバンドだった。

 英国におけるハード・ロック黎明期のバンドの1つだが、他のバンドに比べると圧倒的に派手さに欠けるのである。

 筆者は、ハード・ロックを勉強するつもりで、Deep Purple in RockLed Zeppelin (1st)を、同じ日に聴いたのだが、Deep Purple の曲、特に速くてラウドな曲はド派手で分かりやすく、すぐに好きになった。

Led Zeppelin の方は想像していたよりも難解で、良さが分かるまでに時間が掛かった。

 一発で気に入ったのは "Communication Breakdown" だけだったのだが、難解ながらも華があったので聴き続けることができ、その後、Led Zeppelinの凄さを分かるようになった。

 Free のアルバムは、能動的な聴き方ではなかった。

 当時(80年代後半)、仲良くしていた10歳以上年上のバンドマンのお兄さんが「勉強しなはれ」と言って、段ボール箱に詰った50枚ほどのレコードを貸してくれたのだが、その中に Heartbreaker があったのだ。

 50枚ものレコードを無料で聴けるというだけでも嬉しかったのだが、「あの有名な Free のアルバムを聴ける」ということが更に嬉しくて、かなり期待して Heartbreaker を聴いたのだが、速い曲が1曲も入ってなかったので残念ながら当時の筆者にはピンとこなかったのである。

 結局、Heartbreaker は数回聴いただけで段ボール箱の中で眠らせてしまった。

 その後、筆者が Free に対し、再度興味を持った切っ掛けは、上述した Fire and Water のコメントに書いたとおり、バイト先のレンタル・ビデオ店で "Mr. Big" のミュージック・ビデオを見たときだ。

 先ずは、ポール・ロジャースの歌の上手さに引き込まれ、続けて、ポール・コゾフ (gt)、アンディ・フレイザー (ba)、サイモン・カーク (dr) の演奏にも引き込まれた。

 Free の演奏の上手さは、ロックを聴き始めた人にとって、分かりにくい上手さだと思う。

Deep Purple のように、聴いた瞬間に分かる上手さではなく、職人的な燻し銀の上手さなのである。

 Free のアルバムは、一枚まるごとギター、ベース、ドラム、それぞれの楽器を主役にして聴き続けることができる。

 中でも、アンディ・フレイザーのベースを主役にして聴き続けると、Free の曲の別の魅力が聴こえてくる。

 Free の音楽性は、ブルーズ・ロックと言えば確かにそうなのだが、同時代の英国3大ブルーズ・ロック・バンド、Fleetwood Mac、Chicken Shack、Savoy Brown あたりとは明確な違いがある。

 3大バンドは、かなり忠実に米国のブルーズを再現しようとしていたと思う(ただし、どうしても英国らしさが出てしまう)。

 それに対し、Free は、ブルーズ・ファン以外も自分たちのファンに取り込もうとしていたような気がする。

 そして、それを明確に打ち出していたのは、ポール・ロジャースのヴォーカルだ。

 緩やかな「こぶし」の効いた彼の歌は万人向けであり、誰が聴いても上手いと感じるシンガーだ。

 筆者は、「一番好きなロック・シンガーは?」と聴かれたら、迷わずスティーヴ・マリオット(Small Faces ~ Humble Pie)の名を挙げるが、「一番歌が上手いロック・シンガーは?」と聴かれたらポール・ロジャースの名をあげる。

 スティーヴ・マリオットもポール・ロジャースも、歌の上手さでは拮抗しているのだが、万人受けを考えるとポール・ロジャースを選ぶことになる。

 正に、ポール・ロジャースの歌は、英国の国宝なのである。

 Free 解散後、ポール・ロジャースとサイモン・カークは、Bad Company を結成するのだが、このバンドも筆者のロック感を作ったバンドなので、いずれ取り上げたいと思っている。

自分のロック感を作ったアーティスト(5)Small Faces

Small Faces [スモール・フェイセス]

origin: London, England, U.K.


Small Faces [スモール・フェイセス]

 1st studio album
 released: 1966/05
 producer: Ian Samwell, Kenny Lynch, Don Arden

  • Side one
    1. Shake
    2. Come on Children
    3. You Better Believe It
    4. It's Too Late
    5. One Night Stand
    6. Whatcha Gonna Do About It
  • Side two
    1. Sorry She's Mine
    2. Own Up Time
    3. You Need Loving
    4. Don't Stop What You're Doing
    5. E Too D
    6. Sha-La-La-La-Lee

[comment]
 デッカ・レコードからリリースされた Small Faces のデビュー・アルバム。
 自らのバンド名をアルバム・タイトルにしているのだが、これが後にややこしいことになる。
 R&Bやソウルをルーツに持つモッズ・バンドなのだが、この時代としては異例なくらいハードな演奏と、スティーヴ・マリオットのパワフルなヴォーカルにガツンとやられる。
 モッズ的なスタイリッシュさもあるのだが、後のハード・ロックに繋がる激しさが際立っている。


From the Beginning [フロム・ザ・ビギニング]

 compilation album
 released: 1967/06/02
 producer: Ian Samwell, Kenny Lynch, Steve Marriott, Ronnie Lane

  • Side one
    1. Runaway
    2. My Mind's Eye
    3. Yesterday, Today and Tomorrow
    4. That Man
    5. My Way of Giving
    6. Hey Girl
    7. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?
  • Side two
    1. Come Back and Take This Hurt Off Me
    2. All or Nothing
    3. Baby Don't You Do It
    4. Plum Nellie
    5. Sha-La-La-La-Lee
    6. You've Really Got a Hold on Me
    7. Whatcha Gonna Do About It

[comment]
 デビュー直後に人気バンドになった Small Faces がイミディエイト・レコードに移籍したため、デッカ・レコードが Small Faces でもう一稼ぎするために制作したコンピレーション・アルバム。
 それ故、アーティスト側の意向は無視されていて、デビュー・アルバムとの曲の重複もあるのだが、「これが正式な 2nd でもえぇやん」と思えるくらい充実した内容だ。
 筆者は、これに収録されている "All or Nothing" を the Dogs D'Amour [ザ・ドッグス・ダムール] がカヴァーしたことにより、このバンドを知った。
 コンピレーション・アルバムだが、"All or Nothing" も含め、このバンドがデッカ・レコード時代に残したアウトテイクを聴けるため、非常に重要なアルバムでもある。


Small Faces [スモール・フェイセス]

 2nd studio album
 released: 1967/06
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?
    2. Something I Want to Tell You
    3. Feeling Lonely
    4. Happy Boys Happy
    5. Things Are Going to Get Better
    6. My Way of Giving
    7. Green Circles
  • Side two
    1. Become Like You
    2. Get Yourself Together
    3. All Our Yesterdays
    4. Talk to You
    5. Show Me the Way
    6. Up the Wooden Hills to Bedfordshire
    7. Eddie's Dreaming

[comment]
 イミディエイト・レコードに移籍してリリースされた 2nd アルバムなのだが、デッカ・レコードからリリースされたデビュー・アルバムと同じタイトル(=バンド名)なので紛らわしい。
 そして、"My Way of Giving" と "(Tell Me) Have You Ever Seen Me?" は、デッカ・レコードがリリースした編集版 From the Beginning と重複している(権利関係はどうなってるの?)。
 デッカ時代に比べるとR&Bやソウルなどのブラック・ミュージック色が後退しており、時代の影響なのかフォーク風の曲が増えた。
 ロニー・レーン (ba) のリード・ヴォーカル曲が増えており、これにより1枚のアルバムにおけるコントラストが鮮やかになった。


There Are But Four Small Faces [ゼア・アー・バット・フォー・スモール・フェイセス]

 1st studio album (U.S.)
 released: 1968/03/17
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. Itchycoo Park
    2. Talk to You
    3. Up the Wooden Hills
    4. My Way of Giving
    5. I'm Only Dreaming
    6. I Feel Much Better
  • Side two
    1. Tin Soldier"
    2. Get Yourself Together
    3. Show Me the Way
    4. Here Come The Nice
    5. Green Circles
    6. (Tell Me) Have You Ever Seen Me?

[comment]
 Small Faces の米国でのデビュー・アルバムであり、はっきり言って、彼らのディスコグラフィの中では重要視されていないアルバムだと思うのだが、米国でのブレイクを狙って曲が厳選されており、筆者はけっこうな頻度でこのアルバムを聴く。
 何よりも素晴らしいのは、名曲 "Itchycoo Park" がアルバムの冒頭を飾っていることだ。
 この曲は彼らの名曲のなかでもスティーヴ・マリオットの歌の上手さが際立つ曲だ。
 Small Faces のシンガーはマリオットだけではないので、彼だけを持ち上げるのは他のシンガーに申し訳なのだが、マリオットの歌が上手すぎるので、こればかりは如何ともしがたい。


Ogdens' Nut Gone Flake [オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク]

 3rd studio album
 released: 1968/05
 producer: Ronnie Lane, Steve Marriott

  • Side one
    1. Ogdens' Nut Gone Flake
    2. Afterglow
    3. Long Agos and Worlds Apart
    4. Rene
    5. Song of a Baker
    6. Lazy Sunday
  • Side two
    1. Happiness Stan
    2. Rollin' Over
    3. The Hungry Intruder
    4. The Journey
    5. Mad John
    6. HappyDaysToyTown

[comment]
 リリースが68年であり、サイケ感漂うその音楽性は、前年にリリースされた the BeatlesSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band の影響が強いと言われている。
 筆者は、60年代のバンドの中では the Beatles よりも圧倒的に Small Faces の方が好きなので贔屓目があるのかもしれないが、スティーヴ・マリオットの熱いソウルフルなヴォーカルが聴けるこのアルバムの方が上だと思っている。
 イアン・マクレガンのキーボードがサウンドの要になっている曲が多い。
 全英1位を獲得したこのアルバムの後、マリオットはバンドを脱退し、結成からデビューに向けて試行錯誤中の Humble Pie に合流する。
 そして、Small Faces は、元 the Jeff Beck Group のロッド・スチュワートロニー・ウッドを迎えて Faces となる。


Playmates [プレイメイツ]

 4th studio album
 released: 1977/08
 producer: Kemastri; Shel Talmy on "Lookin' for a Love"

  • Side one
    1. "High and Happy
    2. Never Too Late
    3. Tonight
    4. Saylarvee
    5. Find It
  • Side two
    1. Lookin' for a Love
    2. Playmates
    3. This Song's Just for You
    4. Drive-In Romance
    5. Smilin' in Tune

[comment]
 奇しくも時期を同じくして解散した Humble Pie と Faces。
 スティーヴ・マリオット (vo/gt)、イアン・マクレガン (key)、ケニー・ジョーンズ (dr) による Small Faces の再結成・復活作。
 残念ながら、ロニー・レーン (ba) は本作リリース前に脱退したので不参加であり、Roxy Music のツアー・メンバーや、後に Foreigner のメンバーとなるリック・ウィルスが参加している。
 「枯れている」と言うと、鮮烈な印象を残さないものへの遠まわしの表現として使われることが多いのだだ、このアルバムの楽曲は本当に良い意味で枯れている。
 「こういうのいい」ではなく「こういうのいい」、そんな一枚である。


78 in the Shade [78イン・ザ・シェイド]

 5th studio album
 released: 1978/09
 producer: Kemastri

  • Side one
    1. Over Too Soon
    2. Too Many Crossroads
    3. Let Me Down Gently
    4. Thinkin' About Love
    5. Stand by Me (Stand by You)
  • Side two
    1. Brown Man Do
    2. Real Sour
    3. Soldier
    4. You Ain't Seen Nothing Yet
    5. Filthy Rich

[comment]
 再結成 Small Faces の第二弾。
 この時期の Small Faces の活動期は、英国におけるパンク/ニュー・ウェイヴの勃興期と重なっており、当時は良くも悪くも素人臭いバンドが多かったのだが、このアルバムにはそれと対局にある玄人芸と呼ぶべき完成度の高い歌と演奏が収められている。
 ベースは前作に続きリック・ウィルス、"Thinkin' About Love" と "You Ain't Seen Nothing Yet" では、Wings のジミー・マカロックがリード・ギターを弾いている。
 前作もそうだったのだが、今作でもスティーヴ・マリオットは Humble Pie 時代の泥臭いヴォーカルは封印し、都会的な洗練された歌を聴かせてくれる。
 上手いだけでなく、実に器用なシンガーなのである。


~ 総括 ~

 the Dogs D'Amour [ザ・ドッグス・ダムール] が93年にリリースしたアルバム ...More Unchartered Heights of Disgrace (邦題: 許されざる恥辱) にボーナス・トラックとして収録されていた "All or Nothing" を聴いたのが Small Faces を知った切っ掛けだった。

 否、厳密に言うと、当時の筆者はロックを聴き始めてから、既に10年くらい経っていたので Small Faces 自体は知っていたのだが、Small Faces を意識したのが上述した "All or Nothing" のカヴァーだったのだ。

 とにかく、曲の良さに打ちのめされ、the Dogs D'Amour、というより タイラ (vo/gt) の書く曲とは明らかに印象か違っていることに気付き、クレジットを見て、それが Small Faces (スティーヴ・マリオット/ロニー・レーン) の曲であることを知った。

 その後、Small Faces のオリジナルを聴いてみたところ、the Dogs D'Amour のスリージーR&Rな印象とは全く異なるものの、キーボードの効いたスタイリッシュな演奏と歌に魅了された。

 そして何よりも筆者が Small Faces に惹かれたのはスティーヴ・マリオットの歌の上手さだった。

 英国のバンドのシンガーには、以外と歌の上手い人が少ない。

 どちらかと言うと、技術的な上手さではなく、独特の個性で聴かせようとする人の方が多い。

 そんな英国において、スティーヴ・マリオットは、ポール・ロジャース(Free、Bad Company)、ロッド・スチュワート(the Jeff Beck Group、Faces)、スティーヴ・ウィンウッド(tSpencer Davis Group、Traffic、Blind Faith)あたりと並ぶ、技術的に上手い歌を聴かせることのできるシンガーだ。

 やはり、貴重な時間を使ってヴォーカル入りの曲を聴くなら、上手い歌を聴きたい。

 歳を取ってからは、それが顕著になった。

 若いころに好んで聴いていたポストパンク、ニュー・ウェイヴ、ローファイあたりは、ヴォーカルの弱い曲が多いので、ちょっと聴くのが辛くなってきた。

 人は歳を重ねると嗜好がコンサバになっていく傾向にあるというが、筆者はモロにそれである。

 最近は、ほぼ 100% くらい、音楽を聴くとなると YouTube Music を利用しているのだが、ヴォーカル入りの曲をピックアップするときは上述した上手いシンガーの曲を無意識に選んでいる。

 この傾向は、この先、自分が認知症などで音楽への興味を失わない限り、深化してゆきそうな感じだ。

 スティーヴ・マリオットのもう一つのバンド、Humble Pie も、Small Faces とは一味違うマリオットの泥臭いヴォーカルが楽しめるアルバムが多いので、いずれ取り上げたいと思う。

自分のロック感を作ったアーティスト(4)Creedence Clearwater Revival

Creedence Clearwater Revival [クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル]

origin: El Cerrito, California, U.S.


Creedence Clearwater Revival [スージー・Q]

 1st studio album
 released: 1968/07
 producer Saul Zaentz, John Fogerty

  • Side one
    1. I Put a Spell on You
    2. The Working Man
    3. Susie Q
  • Side two
    1. Ninety-Nine and a Half (Won't Do)
    2. Get Down Woman
    3. Porterville
    4. Gloomy
    5. Walk on the Water

[comment]
 「デビュー・アルバムとは、こうあるべき!」と言いたくなるような、全くもって奇を衒ったところのない王道のロックン・ロールだ。
 1曲目は、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズの名曲 "I Put a Spell on You" のカヴァーであり、CCR のアルバムの中ではカヴァー曲が多めだ。
 デビュー・アルバムだけに、次作以降と比べると粗削りなのだが、逆にそこが良かったりする。


Bayou Country [バイヲー・カントリー]

 2nd studio album
 released: 1969/01
 producer John Fogerty

  • Side one
    1. Born on the Bayou
    2. Bootleg
    3. Graveyard Train
  • Side two
    1. Good Golly, Miss Molly
    2. Penthouse Pauper
    3. Proud Mary
    4. Keep On Chooglin'

[comment]
 初期の代表曲 "Proud Mary" の存在感は大きいのだが、それ以外の曲も秀逸だ。
 デビュー・アルバムは、当時の流行を反映して、少々サイケで混沌とした感じもあったが、このアルバムは南部っぽさが前面に出ており、後のサザン・ロックに繋がるような曲が増えた。
 南部出身ではなく、カリフォルニア出身のバンドなのに、所謂ウェストコースト・サウンドらしさは殆どない。


Green River [グリーン・リヴァー]

 3rd studio album
 released: 1969/08
 producer John Fogerty

  • Side one
    1. Green River
    2. Commotion
    3. Tombstone Shadow
    4. Wrote a Song for Everyone
  • Side two
    1. Bad Moon Rising
    2. Lodi
    3. Cross-Tie Walker
    4. Sinister Purpose
    5. The Night Time Is the Right Time

[comment]
 前作よりも更に商業的成功を意識した曲作りがなされていて、CCR が単なるカリフォルニアの一バンドから、商品価値の高いバンドに昇格したことを世に知らしめたアルバムだ。
 長い曲が無くなり、最長の "Wrote a Song for Everyone" でも5分弱、大ヒット曲の "Bad Moon Rising" は2分ちょっとだ。
 ジョン・フォガティは、ブルーズやカントリーなど、米国のルーツ・ミュージックをベースにした、ポップなロックン・ロールを書くのが実に上手い。


Willy and the Poor Boys [ウィリー・アンド・ザ・プアボーイズ]

 4th studio album
 released: 1969/10
 producer John Fogerty

  • Side one
    1. Down on the Corner
    2. It Came Out of the Sky
    3. Cotton Fields
    4. Poorboy Shuffle
    5. Feelin' Blue
  • Side two
    1. Fortunate Son
    2. Don't Look Now (It Ain't You or Me)
    3. The Midnight Special
    4. Side o' the Road
    5. Effigy

[comment]
 このアルバムは、CCR を知らない人が見たら、タイトルとバンド名が逆だと勘違いしてしまうのではないだろうか?
 ロックン・ロール、ブルーズ、カントリー、更にはフォークまで、ジョン・フォガティというソングライター、ミュージシャンの幅の広さが感じられ、且つ、バランスの取れたアルバムであり、個人的には CCR を初めて聴くならこれが良いと思っている。
 2nd、3rd、そして、この 3rd は、全て1969年のリリースであり、レコード会社から急かされたのかもしれないが、素晴らしい働きっぷりで好感が持てる。


Cosmo's Factory [コスモズ・ファクトリー]

 5th studio album
 released: 1970/07
 producer John Fogerty

  • Side one
    1. Ramble Tamble
    2. Before You Accuse Me
    3. Travelin' Band
    4. Ooby Dooby
    5. Lookin' out My Back Door
    6. Run Through the Jungle
  • Side two
    1. Up Around the Bend
    2. My Baby Left Me
    3. Who'll Stop the Rain
    4. I Heard It Through the Grapevine
    5. Long as I Can See the Light

[comment]
Hanoi Rocks がカヴァーした "Up Around the Bend" が収録されており、筆者世代(2024年で50代半ば)のロック・リスナーの多くは、このアルバムから CCR を聴き始めた人が多いのではないだろうか?
 一般的に CCR の最高傑作というと、このアルバムが挙げられることが多いのだが、確かに曲の質や配置、全体を通してのテンポの良さなど全てにおいて完璧である。
 優秀なバンド・マスターが作曲/編曲し、彼の指揮の下で最高の演奏を聴かせるバンドが創り上げた理想的なロック・アルバムだ。


Pendulum [ペンデュラム]

 6th studio album
 released: 1970/12
 producer John Fogerty

  • Side one
    1. Pagan Baby
    2. Sailor's Lament
    3. Chameleon
    4. Have You Ever Seen the Rain
    5. (Wish I Could) Hideaway
  • Side two
    1. Born to Move
    2. Hey Tonight
    3. It's Just a Thought
    4. Molina
    5. Rude Awakening #2

[comment]
 本作収録の 名曲 "Have You Ever Seen the Rain" (雨を見たかい) のサビを聴いたとき、「どこかで聴いたことがある」と思ったのだが、結局どこで聴いたのかは思い出せなかった。
 鍵盤や管楽器が効果的に使われ、CCRディスコグラフィの中では最もゴージャスな印象を受けるアルバムなのだが、同時に「最後のあがき」を感じさせるアルバムでもある。
 このアルバムを最後にギターのトム・フォガティ(ジョンの兄)が脱退し、バンドの崩壊が始まる。


Mardi Gras [マルディ・グラ]

 1st live album
 released: 1972/04
 producer Doug Clifford, Stu Cook, John Fogerty

  • Side one
    1. Lookin' for a Reason
    2. Take It Like a Friend
    3. Need Someone to Hold
    4. Tearin' Up the Country
    5. Someday Never Comes
  • Side two
    1. What Are You Gonna Do
    2. Sail Away
    3. Hello Mary Lou
    4. Door to Door
    5. Sweet Hitch-Hiker

[comment]
 前作までとは大きく異なり、ステュ・クック (ba) の曲が 3、ダグ・クリフォード (dr) の曲が 2、ステュとダグの共作曲が 1 という具合に、ジョン・フォガティ以外の曲が増えている(これらの曲はリード・ヴォーカルもジョンではない)。
 最後のアルバムで民主的なバンド運営に変ったのだが、CCR らしさは薄れてしまい、蛇足のようなアルバムでもある。
 これまで短期間でアルバムを制作してきたこのバンドにしては、異例なほど前作との間隔が開いたアルバムであり、制作が難航したことを想像させられる。


~ 総括 ~

Cosmo's Factory のコメントに書いたとおり、筆者が CCR を知ったのは、大好きだった Hanoi Rocks が、5th アルバム Two Steps from the Move で、CCR の "Up Around the Bend" をカヴァーしたからである。

 このカヴァーは同アルバムの1曲目であり、インパクトが強く、とにかく滅茶苦茶カッコいい(ちなみに、日本の the Ryders というバンドも同曲をカヴァーしてるのだが、これもかなりカッコいい)。

 その後、CCR のアルバムが CD 化されたときに Cosmo's Factory を買って、オリジナルを初めて聴いたときは感動したのだが、アルバム1枚を通して聴いたときに「古いな」という印象も否めなかった。

 当時の筆者は、CCR (ジョン・フォガティ) の音楽的ルーツであるブルーズやカントリーに対し、まだそれほど興味を持っていなかったので、CCR の深い音楽性を受け入れる土台ができていなかったのだ。

 その後、ブルーズやカントリーをベースに持つサザン・ロックを掘り下げるようになり、「あっ、この泥臭さ、CCR っぽい!」と感じ、そこから改めて CCR を聴き、ド嵌りしていったのである。

CCR はカリフォルニア出身であり、南部出身ではないのだが、筆者の中では殆どサザン・ロックと同じカテゴリーに入っている。

 60年代後期~70年代初期にかけてのカリフォルニア出身のアーティストと言えば、ジム・モリソンのいた the Doorsジャニス・ジョプリンのいた Big Brother and the Holding Company、アーサー・リーのいた Love など、フロントに強烈なカリスマ性を持つアーティストの評価高い(夭折していると更に評価が上がる)。

 筆者が80年代に読んでいた洋楽雑誌『ミュージック・ライフ』でも、the Doorsジャニス・ジョプリン のレコードは「過去の名盤」として取り上げられることが多かった。

 それに比べると、CCR のレコードが取り上げられることは無かったような気がする。

 もしかすると、CCR の評価は、日本ではあまり高くないのかもしれない。

 しかし、筆者が、今でも聴く機会が多い、この時代のカリフォルニア出身のアーティストは CCR なのである。

 その理由は、筆者が一番好きなロックが「単純明快なロックン・ロール」だからだ。

CCR は、クオリティの高いロックン・ロールが担保されているので、安心して聴けるバンドなのである。

 この数か月、「自分のロック感を作ったアーティスト」と銘打って駄文を書いているのだが、「自分のロック感を作った」というくらいなので、聴いた曲の多いアーティストを取り上げるようにしている。

 これまでに取り上げた、AC/DCAerosmith も70年代にデビューし、2024年現在でも現役だ。

 前回取り上げた the Jeff Beck Group は短命だったが、ジェフ・ベックは生涯現役のギタリストだった。

 それに比べると、CCR はアルバム・デビューから解散まで、4年ちょっとのバンドだ。

 しかし、短い期間に7枚のもスタジオ・アルバムをリリースしており、そのうち、69年には3枚、70年には2枚ものアルバムをリリースしている。

 この働き者っぷりは、掛け値なしで賞賛に値する。

 アルバムといフォーマットが無価値なものになった現在では、アルバムを創る必要がなくなってしまったのだが、アルバムといフォーマットが価値を有していた 80 ~ 90 年代でも、CCR ほど働き者のアーティストは殆どいなかった。

CCR がアルバムを量産しても、その質を落とさなかったのは、言うまでもなくジョン・フォガティの才能によるところが大きい。

CCR はジョン・フォガティのワンマン・バンドと言われがちだが、実は、殆どのバンドはワンマン・バンドだったりする。

 バンド経験のある人には理解してもらい易いと思うのだが、バンドを民主的に運営するというのは難しいのである。

 一人の才能あふれる人物に、強いリーダーシップを発揮してもらい、バンドを引っ張っていってもらった方が、バンド運営は遥かに楽なのである。

自分のロック感を作ったアーティスト(3)the Jeff Beck Group

the Jeff Beck Group [ザ・ジェフ・ベック・グループ]

origin: London, England, U.K.


Truth [トゥルース] / Jeff Beck [ジェフ・ベック]

 1st studio album
 released: 1968/07
 producer Mickie Most

  • Side one
    1. Shapes of Things
    2. Let Me Love You
    3. Morning Dew
    4. You Shook Me
    5. Ol' Man River
  • Side two
    1. Greensleeves
    2. Rock My Plimsoul
    3. Beck's Bolero
    4. Blues De Luxe
    5. I Ain't Superstitious

[comment]
 元 the Yardbirdsジェフ・ベックが、ロッド・スチュワート(vo)、ロン・ウッド(ba)、ミック・ウォーラー(dr) と組んだバンドのデビュー・アルバム。
 アーティスト名は Jeff Beck と書かれているが、事実上、the Jeff Beck Group というバンドのアルバムだ。
 正にブルーズ・ロックからハード・ロックが生み出される過渡期の音であり、この翌年にデビュー・アルバムをリリースする Led Zeppelinジミー・ペイジが、このアルバムを参考にしたらしい。
 後に名ヴォーカリストとして名を馳せるロッド・スチュワートの歌が素晴らしいのは当然なのだが、ベックのギターはロッドの歌をサポートしようという意識が稀薄で、ギターが主役で歌が脇役のように聴こえる。
 80年代になってから "People Get Ready" で復縁するまで、ベックとロッドは犬猿の仲となる。


Beck-Ola [ベック・オラ] / the Jeff Beck Group [ザ・ジェフ・ベック・グループ]

 2nd studio album
 released: 1969/06
 producer Mickie Most

  • Side one
    1. All Shook Up
    2. Spanish Boots
    3. Girl from Mill Valley
    4. Jailhouse Rock
  • Side two
    1. Plynth (Water Down the Drain)
    2. The Hangman's Knee
    3. Rice Pudding

[comment]
 前作ではアディショナル・ミュージシャンだった、ピアノおよびオルガン奏者のニッキー・ホプキンスが正式メンバーとして参加している。
 ニッキー・ホプキンスは、the Rolling Stones の60年代後期から70年代初期の数々の名盤に参加している有名なセッション・ミュージシャンだ(余談だが、この時代、最も尊敬される最上位のミュージシャンはセッション・ミュージシャンだった)。
 前作よりもオリジナル曲が増えており、ベック自身が作曲に関わっている曲も多く、前作以上に弾きまくっている。
ロッド・スチュワートが歌っているので成立しいるが、並みのシンガーなら掻き消されてしまいそうだ。
 "Plynth" は、後に Beck, Bogert & Appice でも演奏されるのだが、この曲に関しては BB&A の方がカッコ良い。


Rough and Ready [ラフ・アンド・レディ] / the Jeff Beck Group [ザ・ジェフ・ベック・グループ]

 3rd studio album
 released: 1971/10
 producer Jeff Beck

  • Side one
    1. Got the Feeling
    2. Situation
    3. Short Business
    4. Max's Tune (Raynes Park Blues)
  • Side two
    1. I've Been Used
    2. New Ways / Train Train
    3. Jody

[comment]
 前作を最後に「第1期 Jeff Beck Group」は解散し、これが「第2期 Jeff Beck Group」の最初のアルバムである。
 第1期は解散というより、ロッド・スチュワートロン・ウッドが Small Faces (後の Faces) に加入するために脱退したため、正式な解散というよりは空中分解のような幕切れだった。
 引き続き the Jeff Beck Group を冠してはいるが、ベック以外のメンバーが全て変っており、音楽性もハード・ロックではなく、黒人音楽からの影響が強いジャズ・ロックに変っている。
 ドラマーはコージー・パウエルであり、彼を発掘したベックの功績は大きい(このアルバムでのドラムは、後の Rainbow 比べると控え目だ)。
 ボブ・テンチのヴォーカルはベックのギターと張り合うことはなく、曲を構成する楽器の1つとして美しく機能している。


Jeff Beck Group [ジェフ・ベック・グループ] / the Jeff Beck Group [ザ・ジェフ・ベック・グループ]

 4th studio album
 released: 1972/05
 producer Steve Cropper

  • Side one
    1. Ice Cream Cakes
    2. Glad All Over
    3. Tonight I'll Be Staying Here with You
    4. Sugar Cane
    5. I Can't Give Back the Love I Feel for You
  • Side two
    1. Going Down
    2. I Got to Have a Song
    3. Highways
    4. Definitely Maybe

[comment]
 前作は黒人音楽への憧憬が顕著だったが、今作は更にそれを推し進めた名盤であり、モータウンからの影響も垣間見られる。
 前作はベック自身がプロデュースしていたのだが、今作は Booker T. & the M.G.'s のスティーヴ・クロッパーがプロデュースを担当している。
 そのせいか、このアルバムでのベックは良い意味でコントロールされている感があるのだが、そこはやはり「ジェフ・ベック」なので、彼のギターが鳴ると一瞬で空気が変る。
 ボブ・テンチという専属のシンガーいるにも関わらず、このアルバムで最も耳に残るメロディーを持つ曲はインストゥルメンタルの "I Can't Give Back the Love I Feel for You" だ。
 こういう曲にはヴォーカルを入れた方が良いように思えるのだが、そうしないところが「ジェフ・ベック」なのである。


~ 総括 ~

ジェフ・ベック、それは筆者にとって、常に頂点に君臨するギタリストだ。

 ロックの歴史には、約束事のようなギタリストの序列が存在する。

 最上位がジミ・ヘンドリックスなのだが、この人はエレクトリック・ギターの革命児であり、それに加えて夭折してるので、その地位が不動のものとなっている。

 そして、次に来るのが、ジェフ・ベックジミー・ペイジエリック・クラプトンという3大ギタリストであり、彼らと殆ど同じ位置にいるのがリッチー・ブラックモアだ。

 筆者にとっても、全て好きなギタリストなのだが、筆者の好みで序列を付けるなら以下となる。

 1. ジェフ・ベック
 2. リッチー・ブラックモア
 3. ジミー・ペイジ
 4. エリック・クラプトン
 5. ジミ・ヘンドリックス

 つまり、筆者は「歌わないギタリスト」の方が好きなのである(ジミ・ヘンドリックスは活動期間が短すぎるので、他の4人と同列に語るのは難しい気がする)。

 ギタリストに歌われると、ギターの音を聴く集中力を邪魔される感じがするのだ。

 筆者にとってはジェフ・ベックが不動の1位なのだが、ベックのどこに一番魅力を感じるのかと言えば、その「表現力の豊かさ」である。

ジェフ・ベックは、ブルース、ジャズ、ロックンロール、ファンクなど、何でも弾けるギタリストだ。

 逆に、「これを弾けばジェフ・ベックっぽく聴こえる」ようなフレーズは無い。

 正に変幻自在のギタリストである。

 そのため、ジェフ・ベックの音楽性は時期によって大きく異なるので、今回は the Jeff Beck Group だけを取り上げることにした。

 第2期 Jeff Beck Group の解散以降、Beck, Bogert & Appice 経て、ソロ・ギタリストとなるのだが、これらのアルバムもいずれ取り上げたい。

 ソロになってからは、インストゥルメンタルが多くなるのだが、歌ものバンドをやらなくなった理由は「ロッド・スチュワートのように歌えるシンガーがいないから」だと言っている。

 "People Get Ready" で復縁するまでロッドとは犬猿の仲だったが、シンガーとしてのロッドのことは認めていたのである。

ジェフ・ベックには、有名なロック・ミュージシャンにありがちなドラッグやアルコールや女性問題によるスキャンダルが無いところも、筆者がベックを大好きな理由である。

 生涯をかけて「ギターで表現すること」を追及し続けたジェフ・ベックの人生は本当に美しいと思う。