Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0444) 好きな Bryan Ferry[ブライアン・フェリー]のアルバム5選

第1位

[title]
Boys and Girls[ボーイズ・アンド・ガールズ]
 6th album
 released: 1985/06/03

[comment]
 初めてリアル・タイムで聴いた Bryan Ferry のアルバムがこれだ。
Roxy Music のラスト・アルバム Avalon で到達した、ブラック・ミュージックの影響を受けたソフィスティ・ポップを更なる高みに押し上げたのがこのアルバムでる。
Roxy Music も含め、Ferry のキャリアを通しての最高傑作であり、"Slave to Love"、"Don't Stop the Dance" といったヒット・シングルはもとより、収録されている全9曲は英国の重要無形文化財と言っても過言ではないほどの完成度を持っており、非の打ち所がない。
 ちなみに、当時(80年代)、筆者が好きだった(下心を持っていた)お洒落な女子大生は、判で押したようにみんなこのアルバムを愛聴していた。


第2位

[title]
Bête Noire[ベイト・ノワール
 7th album
 released: 1987/11/02

[comment]
 上述した Boys and Girls の次作がこのアルバムだ。
Boys and Girls の次作としては100点満点のようなアルバムであり、Bryan Ferry が「前作で自分を好きになってくれたリスナーが何を欲しがっているか」ということを徹底的に分析して制作したようなアルバムだ。
The Smiths 解散後の Johnny Marr がギタリストとして参加しており、シングルにもなった "The Right Stuff" では Ferry と共に作曲もしている。
Roxy Music の 3rdアルバム Stranded 収録の "A Song for Europe (ヨーロッパ哀歌)" はフランス語で歌っていたが、本作収録の表題曲 "Bête Noire" もフランス語で歌っている。


第3位

[title]
Taxi[タクシー]
 8th album
 released: 1993/03/10

[comment]
 Bryan Ferry は Bête Noire の次作として Horoscope というタイトルのアルバムを制作していたのだが、その制作は難航し、Horoscope はリリースされるには至らなかった(つまりは The Beach BoysSmile みたいなものである)。
 そんな Ferry が Horoscope による後遺症のリハビリとして制作したアルバムが本作であり、自作曲ではなくカヴァー曲集となった。
 キャリア初期の Ferry は、Roxy Music では自作曲、ソロではカヴァー曲という具合に使い分けていたのだが、そこに立ち戻ったわけである。
 収録曲の中では The Velvet Underground の "All Tomorrow's Parties" が異彩を放つのだが、基本的にバラード中心のアルバムであり、表題曲である J. Blackfoot の "Taxi" は絶品である。


第4位

[title]
Dylanesque[ディラネスク]
 12th album
 released: 2007/03/05

[comment]
 このアルバムには Bob Dylan のカヴァー曲のみが収録されている。
Taxi とは正反対の性質を持つカヴァー・アルバムの名盤だ。
 前作 Frantic の1曲目は Dylan の "It's All Over Now, Baby Blue"、初のソロ・アルバム These Foolish Things の1曲目も Dylan の "A Hard Rain's a-Gonna Fall" であり、Ferry がディープな Dylan マニアであることは有名なのだが、そのマニアっぷりを全開にしたのがこのアルバムだ。
 Ferry と同時代を生きた David Bowie もディープな Dylan マニアであり、Dylan の「腹の底から声を出さずに喉で歌う」というスタイルは、Ferry と Bowie に大きな影響を与え、その Ferry と Bowie に影響を受けた英国のポストパンクやニュー・ウェイヴのシンガーたちの歌唱法の起源は Dylan だ...というのは筆者の持論である。


第5位

[title]
Olympiaオリンピア
 13th album
 released: 2010/10/25

[comment]
Roxy Music のアルバム・カヴァーには女性の写真を使い、ソロ・アルバムには自分の写真を使うというのが Bryan Ferry のスタイルだったのだが、このソロ・アルバムではそれを覆して女性の写真を使っている。
 その先入観があるせいなのか、このアルバムは Roxy Music っぽく聴こえてしまう。
Roxy MusicManifesto (6th) や Flesh + Blood (7th) の中にこのアルバムの曲が入っていても違和感がないような気がする。
Roxy Music はバンドなので、Phil Manzanera も Andy Mackay も 重要なのだが、それでもやはり、Roxy Music は Ferry が1人居れば成立していたバンドだったのかなと思えるアルバムでもある。

~ 総括 ~

Roxy Music で何か文を書こうと思ったのだが頓挫した。

Roxy Music がリリースしたオリジナル・スタジオ・アルバムは8枚だけであり、その全てが傑作なので、「好きな Roxy Music のアルバム」みたいな文は書きようがないのである。

 このブログを始めた頃に 3rdアルバム Stranded を取り上げて文を書いたのだが、実のところ Stranded だけが特別に好きなわけではなく、8枚全てが同じくらい好きだ。

 どうしても1枚取り上げるなら Avalon になってしまうのだが、それは Roxy Music が好きな人の、たぶん90%くらいは同じであり、Avalon ではあまりにも面白味に欠けるので Stranded を選んだのである。

 「好きな Roxy Music のアルバム」は書けないが、「好きな Bryan Ferry のアルバム」なら書けそうな気がしたのでそうすることにした。

 しかし、Ferry はソロ・アルバムにも失敗作や駄作がないので、やはり難しかった。

 Ferry は、バンドでもソロでも失敗作や駄作がないという稀有なアーティストなのである。

 1位はリアルタイムで聴いて感銘を受けた Boys and Girls にすると決めていたのだが、他の順位も全てリアルタイムで聴いたアルバムだけで埋められることになった。

 筆者にとっての Ferry とは、実に不思議なアーティストだ。

 シンガーとして好きなタイプかと訊かれれば、全くもって好きなタイプではない(これは David Bowie も同じだ)。

 もし、自分が Ferry とバンドを組んでいて、そのバンドのリーダーだった場合、練習中に Ferry があのヨーデル調で歌い始めたら、スリッパで頭をビタン!とシバいて「まじめに歌えっ!」と言うだろう。

 そして、Steve Marriott や Paul Rodgers みたいに歌ってくれと注文を付けると思う。

 それにも関わらず、再びあの調子で歌い始めたら「ええかげんにせぇっ!」と言って、もう一度スリッパで頭をビタン!とシバくだろう。

 ただし、自分の音楽的趣味とは離れた場所で客観的に聴くなら、Ferry ほど興味深いシンガーはなかなか居ないのである。

 筆者にとっての Bryan Ferry とは、歌唱力云々という批評を寄せ付けない、稀代の天才総合芸術家なのである。

#0443) 好きなシンセポップ(80年代)のアルバム10選

【10位】How Men Are / Heaven 17

[title]
How Men Are [薔薇のダンディズム]
 3rd album
 released: 1984

[artist]
Heaven 17 [ヘヴン・セヴンティーン]
 origin: Sheffield, England, UK

[comment]
 The Human League を脱退した Martyn Ware と Ian Craig Marsh がシンガーの Glenn Gregory を誘って始めたグループが Heaven 17 だ。
 正直なところ、本家の The Human League には興味を持ったことがないのだが、分家の Heaven 17 はけっこう好きで80年代当時よく聴いていた。
 特にこのアルバムは、1st、2nd よりも煌びやかでファンキーな曲が多く収録されており、Martyn と Ian が Glenn のヴォーカルを活かすことに最も成功したアルバムだと思う。


【9位】With Sympathy / Ministry

[title]
With Sympathy [ウィズ・シンパシー]
 1st album
 released: 1983

[artist]
 Ministry [ミニストリー]
 origin: Chicago, Illinois, US

[comment]
 後にインダストリアル・ロックの先駆者となる Ministry は、何故か 1st アルバムではシンセポップをやっている。
 もしかすると、このアルバムは、Al Jourgensen とっては黒歴史なのかもしれないが、この捻りの無いベタなシンセポップはけっこう好きだったりする。
 しかし、この音のままで売れるのはやはり難しそうであり、早々にこの路線を捨てて、激烈なインダストリアル・ロックに路線変更したのは正解だったと思えるアルバムでもある。


【8位】The Innocents / Erasure

[title]
The Innocents [イノセンツ]
 3rd album
 released: 1988

[artist]
 Erasure [イレイジャー]
 origin: London, England, UK

[comment]
Depeche Mode を脱退した Vince Clarke と、彼にオーディションで選ばれた Andy Bell によって結成されたグループが Erasure だ。
 これも実は本家の Depeche Mode には殆ど興味が無いのだが、Vince Clarke に関しては Yazoo も、そしてこの Erasure もかなり好きで80年代当時よく聴いていた。
 特にこのアルバムは、弾けるようなポップ感と、胸を締め付けるような切なさが同居しており、初期の Erasure の集大成のような名盤だと思う。


【7位】Underneath the Radar / Underworld

[title]
Underneath the Radar [アンダーニース・ザ・レイダー]
 1st album
 released: 1988

[artist]
Underworld [アンダーワールド]
 origin: Cardiff, Wales, UK

[comment]
 後にテクノ/エレクトロニカの大御所となる Underworld だが、何故か 1st アルバムではシンセポップをやっている。
 Karl Hyde と Rick Smith がこのアルバムを黒歴史だと思っているのかどうかは全く知らないのだが、けっこうカッコ良いファンキーなシンセポップをやっている。
 アルバム・カヴァーのダサさには如何ともし難いものがあるのだが、曲の良さに関しては、後の名盤 Dubnobasswithmyheadman に繋がるキラリと光るセンスを感じる。


【6位】Human's Lib / Howard Jones

[title]
Human's Lib [かくれんぼ]
 1st album
 released: 1984

[artist]
Howard Jones [ハワード・ジョーンズ]
 origin: London, England, UK

[comment]
 筆者がシンセポップと聴いて先ず思い浮かべるのは Howard Jones であり、そしてこのアルバムだ。
 テレビの洋楽番組で "What Is Love?" を聴いて、その曲の良さに感動し、お小遣いをはたいて買ったアルバムであり、洋楽ビギナーの頃にかなりの回数を聴いたアルバムだ。
 シンセポップは殆ど生演奏をしていないことが多いので軽く見られがちなのだが、Howard Jones の曲には深遠な趣があり、どこか人間らしい温かみのあるところが好きだ。


【5位】The Hurting / Tears for Fears

[title]
The Hurting [ザ・ハーティング]
 2nd album
 released: 1983

[artist]
Tears for Fears [ティアーズ・フォー・フィアーズ]
 origin: Bath, Somerset, England

[comment]
Tears for Fears と言えば、"Shout" そして "Everybody Wants to Rule the World" という2大名曲を収録した 2nd アルバム Songs from the Big Chair が有名だが、この 1st アルバムもかなりの名盤である。
Roland Orzabal と Curt Smith は共に離婚家庭で育っており、その影響があるのかどうなのか、The Hurting というタイトルがぴったりとはまるアルバムだ。
 これはシンセポップなのか?と言われると、違うような気もするのだが、シンセサイザーをふんだんに使っているアルバムなので入れることにした。


【4位】Flaunt It / Sigue Sigue Sputnik

[title]
Flaunt It [ラヴ・ミサイル]
 1st album
 released: 1986

[artist]
Sigue Sigue Sputnik [ジグ・ジグ・スパトニック]
 origin: London, England, UK

[comment]
 80年代における最大のハイプと言えば、それは Sigue Sigue Sputnik なのではないだろうか?
 筆者も「EMI と15億円で契約」、「第5世代ロックン・ロール」という謳い文句に踊らされてこのバンドに興味を持ち、1st シングル "Love Missile F1-11" を買って「おや?」となり、でもアルバムは色んな曲があるはずだと思い込んで、1st アルバム Flaunt It を買って「これはエライもんにお金をつぎ込んでしもた!」と気付いたわけである。
 ところが不思議なもので、今となってはかなり大好きなアルバムなのである(なんなんこれ!?)。


【3位】Welcome to the Pleasuredome / Frankie Goes to Hollywood

[title]
Welcome to the Pleasuredome [ウェルカム・トゥ・ザ・プレジャードーム]
 1st album
 released: 1984

[artist]
Frankie Goes to Hollywood [フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド]
 origin: Liverpool, England, UK

[comment]
Sigue Sigue Sputnik が登場するまでは、このバンド Frankie Goes to Hollywood が最大のハイプだったのではないだろうか?
 ただし、Sigue Sigue Sputnik と違い、Frankie Goes to Hollywood には分かり易い曲の良さがあり、デビューから "Relax"、"Two Tribes"、"The Power of Love" の3曲を立て続けで UK チャート1位に叩き込んだのは伊達ではない。
 特に "The Power of Love" の美しさは素晴らしく、筆者の中では Duran Duran の "Save a Prayer"、Culture Club の "Victims" と並ぶ、80年代におけるUKバンド屈指の名バラードだと思っている。


【2位】Hunting High and Low / a-ha

[title]
Hunting High and Low [ハンティング・ハイ・アンド・ロウ]
 1st album
 released: 1985

[artist]
 a-ha [アーハ]
 origin: Oslo, Norway

[comment]
 a-ha はロック・バンドとは言い難いので前回の記事「衝撃を受けたロック・アルバム26選」には入れなかったが、このアルバムにはかなり衝撃を受けた。
 当時の筆者はノルウェーという国がどこにあるのかも知らなかったのだが、馴染みの無い国から登場した彼らのデビュー曲 "Take On Me" の鮮烈な印象は今も忘れ難く、耳に残る印象的なメロデイー、Morten Harket の透明感のある声と美しいファルセットは本当に衝撃的だった。
 このアルバムは、デビュー・シングル "Take On Me" で a-ha を好きになったリスナーの期待を裏切らない完璧なデビュー・アルバムであり、珠玉の名曲が詰ったシンセポップ史に残る名盤である。


【1位】Youthquake / Dead or Alive

[title]
Youthquake [ユースクエイク]
 2nd album
 released: 1985

[artist]
Dead or Alive [デッド・オア・アライヴ]
 origin: Liverpool, England, UK

[comment]
Dead or Alive については、とにかく "You Spin Me Round" という曲の凄さであり、こんな名曲を書けたのであれば筆者がミュージシャンなら「もう引退してもいい」と思ってしまうだろう。
 とにかく "You Spin Me Round" が素晴らしいのだが、Dead or Alive の場合、他の曲が全くダメというわけではなく、他の曲もかなり良いのだが、どうしても "You Spin Me Round" に全部持っていかれてしまうきらいがある。
 このアルバムは、プロデューサー・チーム Stock Aitken Waterman と、ロック・バンドだった頃の名残がある Dead or Alive が絶妙にマッチした彼らの最高傑作である。


総括

 筆者はこのブログでロックン・ロール、ハード・ロックヘヴィ・メタル等のギター・オリエンテッドな音楽を取り上げることが多いのだが、テクノやエレクトロニカ等もかなり好きだったりする。

 そんな嗜好の源流は、たぶんシンセポップにあると思っており、むしろ洋楽を聴き始めの頃はギターよりもシンセサイザーの方が好きだった。

 筆者が洋楽を聴き始めた80年代は、多くのシンセポップ・グループがいた時代であり、洋楽と言えばシンセポップだったような気がする。

 筆者が好きだったのは大衆的でキャッチーでポップなシンセポップであり、実験的だったりアーティスティックだったりするシンセポップは苦手だった。

 今回取り上げた10枚は、いずれも大衆的でキャッチーでポップなシンセポップだと思っている。

 今回取り上げた10枚以外にも、Orchestral Manoeuvres in the Dark、The Associates、Soft Cell、Bronski Beat、Pet Shop Boys 等も好きなのだが、これらのグループはアルバムよりもシングルやベスト盤を聴くことの方が多かったので今回のリストには入れなかった。

 今回取り上げた10枚の中で、自分でも以外だなと思ったのは Sigue Sigue Sputnik だ。

 最初にリストを作るときは、Sigue Sigue Sputnik のことは眼中に無かったのである。

 何しろ、彼らのデビュー・アルバム Flaunt It は悪い意味での凄いアルバムであり、"Love Missile F1-11" 以外の曲は、辛うじて「これは、たぶん "Love Missile F1-11" ではない」ということくらいは薄っすらと分かるのだが、集中して聴かなければ、どの曲を聴いても殆ど一緒なのである。

 どの曲も、おもちゃのような打ち込みをバックに、物凄く下手糞で地声が分からないくらい加工されたヴォーカルが乗る。

 この歌なら、むしろ歌を歌わないラップの方がよほど歌心を感じさせてくれる。

 しかし、ふと思い出し、改めて Flaunt It 聴いてみたら、以外にも「良いな」と思ったのである。

 否、「良いな」ではなく「面白いな」と言うべきかもしれない。

 そして思いついたのは、Sigue Sigue Sputnik は「筆者世代の New York Dolls なのではないだろうか?」ということであり、「New York Dolls の80年代版がSigue Sigue Sputnik なのではないだろうか?」ということだ。

Sigue Sigue Sputnik も New York Dolls と同様に、無駄にケバくて、インチキ臭くて、紛い物っぽくて、まともなロック・ファンからは相手にされなさそうなのだが、逆にそこが彼らの最大の魅力なのである。

Sigue Sigue Sputnik は、さすがに New York Dolls ほどの伝説にはなれなかったし、音楽的にも New York Dolls には遠く及ばないのだが、今回このリストを作ることにより、自分自身が予想以上に Sigue Sigue Sputnik が好きであることに気付くことができた。

#0442) 衝撃を受けたロック・アルバム26選 【順位付け無し、アルファベット順】

A

Reckless / Bryan Adams】

[title]
Reckless [レックレス]
 4th album
 released: 1984

[artist]
Bryan Adams [ブライアン・アダムス]
 origin: Kingston, Ontario, Canada

[comment]
 筆者がロックを聴き始めた切っ掛けは、同級生の女子にとてもロックに詳しいお姉ちゃんが(3つ年上)おり、彼女から色々なレコード聴かせてもらったのが始まりなのだが、このアルバムもその中の1枚だった。
 それまでに彼女が聴かせてくれたのは英国のニュー・ロマンティック系のアーティストが多かったのだが、カナダ出身の Bryan Adams は彼女のレコード・コレクションの中では異色だった。
 筆者にとっても、Bryan Adams のような、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル以外のギター・オリエンテッドなロックを聴いたのは、ほぼ初めてであり、その爽快なサウンドに衝撃を受けた。
 10代だった当時も、50代のオッサンになった今も、何故か物凄く「青春」を感じさせるアルバムなのである。


Dirt / Alice in Chains】

[title]
Dirt [ダート]
 2nd album
 released: 1992

[artist]
Alice in Chains [アリス・イン・チェインズ]
 origin: Seattle, Washington, US

[comment]
グランジの範疇で最も好きなアルバムは、これか、Stone Temple Pilots の Purple なのだが、衝撃度で選ぶとなると、これになる。
 このアルバムは、音楽の3大要素であるリズム、メロディ、ハーモニーのいずれをとっても最高なのだが、特に奈落の底に沈んでいくようなコーラス・パートにおけるハーモニーの美しさは絶品だ。
 その美しさを例えるなら Simon & Garfunkel に匹敵すると言っても過言ではない。
 Layne Staley はグランジと言うジャンルを超越した素晴らしいシンガーだったのだが、ドラッグという愚かなものに溺れたため、その比類なき才能を棒に振ってしまったのは残念で仕方がない。


B

Badlands / Badlands】

[title]
Badlands [バッドランズ]
 1st album
 released: 1989

[artist]
 Badlands [バッドランズ]
 origin: Los Angeles, California, US

[comment]
Ozzy Osbourne のバンドを去った Jake E. Lee が 新たなバンドを結成し、デビュー・アルバムをリリースすると知ったとき、聴きたいのは Jake E. Lee のギターであり、ヴォーカルへの期待は全く無かったというのが正直なところである。
 しかし、そんな予想を覆し、このバンドのシンガー、Ray Gillen は規格外の歌唱力だったのである。
Jake E. Lee ほど凄腕のギタリストの場合、どうしてもギターを聴くことに集中してしまいがちなのだが、ギターと同じか、時にはそれ以上に Ray Gillen のヴォーカルに耳が奪われるのだ。
Jake E. Lee にとっての Ray Gillen は、Jeff Beck にとっての Rod Stewart のような存在であり、Badlands 解散後の Jake E. Lee は、専属のシンガーを自身のバンドに置かなくなった。


In the Flat Field / Bauhaus】

[title]
In the Flat Field [暗闇の天使]
 1st album
 released: 1980

[artist]
 Bauhaus [バウハウス]
 origin: Northampton, England, UK

[comment]
 1曲目 "Double Dare" のノイジーなギータ―が鳴った瞬間、「怪奇映画が始まったのか?」と思った衝撃を今も鮮明に記憶している(リイシュー盤の1曲目は "Dark Entries" なので印象が異なる)。
 Bauhaus のメンバーはゴシック・ロックと呼ばれることを嫌がっているが、これはどう聴いてもゴシック・ロックだ。
 否、後にゴシック・ロックと呼ばれる音楽を創ったのが Bauhaus であり、自分達のコピーだと思っているムーヴメントの中に、オリジナルである自分達が組み込まれるのが嫌だったのかしれない。
 ポストパンク/ニュー・ウェイヴにおける3大ギタリスト、それは、Echo & the Bunnymen の Will Sergean、Killing Joke の Geordie Walker、そして、Bauhaus の Daniel Ash なのである。


Blow by Blow / Jeff Beck】

[title]
Blow by Blow [ブロウ・バイ・ブロウ]
 released: 1975

[artist]
Jeff Beck [ジェフ・ベック]
 origin: Wallington, Surrey, England, UK

[comment]
 筆者がロックを聴き始めた80年代当時、好きだったバンドのギタリストへのインタビュー記事を読むと、かなりの頻度で好きなギタリストとしてその名が挙がるのが Jeff Beck なのである。
 そうなると、Jeff Beck を聴かずにはいられなくなるわけであり、知り合いのロック好きの大学生に「Jeff Beck、聴きたいねん」と言ったところ、「ほんならこれや」と言って貸してくれたのがこのアルバムだった。
 これは、所謂フュージョン期と呼ばれる時期のアルバムなのだが、後に聴いた Weather Report、Return to Forever、Mahavishnu Orchestra といったガチのフュージョンと比べると、やはりこのアルバムは切れ味が鋭く、圧倒的にロックっぽい。
 80年代は、Joe SatrianiSteve Vai といった技巧派ギタリストによるインストゥルメンタル・ロックが人気を博すことになるのだが、彼らが活躍する道を切り開いた最初の切っ掛けはこのアルバムだと思う。


C

Electric / The Cult】

[title]
Electric [エレクトリック]
 3rd album
 released: 1987

[artist]
 The Cult [ザ・カルト]
 origin: Bradford, West Yorkshire, England, UK

[comment]
 気持ち良いくらいの捨てっぷり、2nd までのゴシック・ロックを完全に捨て去り、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドに生まれ変わった瞬間がこのアルバムだ。
 2nd アルバム Love を聴いたときに思ったのだが、ゴシック・ロックとハード・ロック/ヘヴィ・メタルは親和性が高く、実はけっこう似ている(当時はゴシック・ロックではなくポジティヴ・パンクと呼ばれていた)。
Love は良い作品であり、それなりに売れて、ヒット・シングルもあるのだが、この路線では、これ以上売れるのは無理だと感じていたのではないだろうか?
 そしてこの路線変更は見事に成功し、次作以降、4thアルバム Sonic Temple ~ 5thアルバム Ceremonyハード・ロック/ヘヴィ・メタルを極めることになる。


Colour by Numbers / Culture Club】

[title]
Colour by Numbers [カラー・バイ・ナンバーズ]
 2nd album
 released: 1983

[artist]
Culture Club [カルチャー・クラブ]
 origin: Bradford, West Yorkshire, England, UK

[comment]
 このアルバムはソウルやモータウンをベースにしているのでロックの範疇ではないのかもしれないが、「ベスト盤か?」と錯覚するほど収録されている全ての曲のクオリティーが高い。
 大ヒットした "Karma Chameleon (カーマは気まぐれ)" が収録されているが、他の曲もそれと同等か、それ以上のクオリティーを有しており、シングルにならなかった曲までヒット・シングルっぽい。
 筆者はこのアルバムのせいで、アルバムというフォーマットに対し、このレベルのクオリティーを求めてしまうようになった。
 このアルバムの後、米ソ冷戦の時代にシングル "The War Song (戦争のうた)" で ~ War, war is stupid ~ と歌ってしまい、米国では17位という彼らとしては不甲斐のない結果に終わり、凋落の一途を辿ってしまうのだが、筆者としてはそんな彼らの空気を読めない感じも好きだったりする。


D

Pyromania / Def Leppard】

[title]
Pyromania [炎のターゲット]
 3rd album
 released: 1983

[artist]
Def Leppard [デフ・レパード]
 origin: Sheffield, South Yorkshire, England, UK

[comment]
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルというジャンルの音楽は、普段それを聴かない人にとっては、極めて聴きにくいはずなのだが、その常識を覆したのがこのアルバムだ。
 このアルバムは、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルなのに聴き易いという、それまでに無かったサウンドを確立した、ロックの歴史においてエポックメーキングな作品となった。
 そして、驚くべきは、聴き易いのにハード・ロック/ヘヴィ・メタルとしての激しさや切れ味が失われていないことだ。
 英国から登場したこの若いバンドが示したサウンドが、80年代中期~後期にかけて米国で興るメタル・バブルの勃発を刺激したのは明白である。


Hear Nothing See Nothing Say Nothing / Discharge】

[title]
Hear Nothing See Nothing Say Nothing [ヒア・ナッシング・シー・ナッシング・セイ・ナッシング]
 1st album
 released: 1982

[artist]
 Discharge [ディスチャージ]
 origin: Stoke-on-Trent, Staffordshire, England, UK

[comment]
 筆者は中一のときに(1983年)、同級生の H 君から Sex Pistols のコンピレーション・アルバムを聴かせてもらい、「なるほどパンクとはこういうものか」と理解したつもりになったのだが、その後に聴いた他の UK パンクのバンド(The ClashThe Damned、The Stranglers、The Jam等)は全くパンクのイメージと結びつかなかった。
 他の UK パンクのバンドは聴く順番を間違え、80 年代にリリースされたアルバムを先に聴いたので、尚更だったというのもある。
 そんな中、この Discharge の 1stアルバムは筆者の中のパンクのイメージとピタリと一致し、この音がハードコア・パンクであるとこと後から知った。
 当時の筆者は、このアルバムで歌われている「反戦」「反核」「反権力」というメッセージには全く気付いておらず、とにかくサウンドに痺れただけなのだが。


The Doors / The Doors】

[title]
The Doors [ハートに火をつけて]
 1st album
 released: 1967

[artist]
The Doors [ザ・ドアーズ]
 origin: Los Angeles, California, US

[comment]
The Doors を聴く場合、シンガーの Jim Morrison にまつわるスキャンダラスな話しは全て無視して、純粋に彼らの曲の良さを楽しむべきだ。
The Doors の曲が素晴らしい理由はドラッグにあるのではなく、優秀なソングライターがいたからに他ならない(特にギタリストの Robby Krieger が書いた曲が好きだ)。
 Jim Morrison が優れたシンガーであることは確かなのだが、呪術的な彼のヴォーカルが何故ここまで輝いているのかと言えば、それはジャズや米国のルーツミュージックに根差した楽器隊が驚異的にセンスの良い演奏をしているからだ。
 そして、そんな豊かなバックグラウンドを持ちながらも、難解になり過ぎることなく、ポップでキャッチーで、それでいてミステリアスなところがこのアルバムの最大の魅力なのである。


Rio / Duran Duran】

[title]
Rio [リオ]
 2nd album
 released: 1982

[artist]
Duran Duran [デュラン・デュラン]
 origin: Birmingham, England, UK

[comment]
 目の前に閃光が走ったかのような衝撃を受けたのは Duran Duran のシングル "Rio" が最初だったかもしれない。
 とにかく、"Rio" の入っているアルバムが聴きたくて、同級生の女子のロックに詳しいお姉ちゃんに訊いたところ、彼女が聴かせてくれたのがこのアルバム Rio だったのである。
Duran Duran は当時の洋楽雑誌でアイドル的な取り上げられ方をしていたので、本格派を自称するようなのロック・ファンからは敬遠されがちだったのだが、このアルバムをを聴いたら「アイドルだから云々」なんて言ってられないほど、Duran Duran の曲が素晴らしいのは明白である。
Duran Duran なんて聴かないと言っていたカッコつけのへそ曲がりも、絶対にこっそりと Duran Duran を聴いていたはずだと筆者は思っている。


E


F


G

Appetite for Destruction / Guns N' Roses】

[title]
Appetite for Destruction [アペタイト・フォー・ディストラクション]
 1st album
 released: 1987

[artist]
 Guns N' Roses [ガンズ・アンド・ローゼズ]
 origin: Los Angeles, California, US

[comment]
 後追いで過去のアルバムを聴いたのではなく、リアルタイムで聴いて最も衝撃を受けたのがこのアルバムだ。
 今では、グラム・メタルとして Mötley Crüe、RattBon Jovi 等と同じ土俵で語られたりするが、 当時を原体験した者から言わせてもらうと Guns N' Roses は彼らより前のバンドと比べて明確な新しさがあった(念ため言っておくが筆者は Mötley Crüe も RattBon Jovi も大好きだ)。
 その新しさとはストリート感覚であり、明らかにパンクを通過した後のハード・ロック/ヘヴィ・メタルだったのである。
 90年代以降、グランジ/オルタナ系のバンドから「リアルではない」と馬鹿にされたが、後から出てきた者は先人に対してそういう反発的なことを言うものであり、気にする必要はないのである。


H

See the Light / The Jeff Healey Band】

[title]
See the Light [シー・ザ・ライト]
 1st album
 released: 1988

[artist]
 The Jeff Healey Band [ザ・ジェフ・ヒーリー・バンド]
 origin: Toronto, Ontario, Canada

[comment]
 ロックを聴き始めてから今まで色んなギタリストを見てきた(聴いてきた)が、度肝を抜かれるほどの衝撃を受けたのは Jeff Healey 唯一人だ。
 盲目の彼が、スクワイアの黒いストラトを膝の上に置いて、座ったまま縦横無尽にギターを操り、ブルージーなフレーズをヒステリックに弾きまくっているその姿には鬼気迫るものを感じた。
 そんな彼が率いる The Jeff Healey Band のデビュー・アルバムがこれであり、もちろん、レコードなので映像は無いのだが、音だけでも充分に彼のセンスを感じ取ることができ、見ることのできない彼がアルバム・タイトルを See the Light と名付けたのも素敵だ。
 筆者は自分の好きなアーティストが死んでも悲しいという感情が湧き上がらないタイプなのだが、Jeff Healey が永年患っていたガンにより、41歳という若さで2008年に亡くなったときだけは悲しいというより辛い気持ちになった。


I


J


K

In the Court of the Crimson King / King Crimson】

[title]
In the Court of the Crimson King [クリムゾン・キングの宮殿]
 1st album
 released: 1969

[artist]
King Crimson [キング・クリムゾン]
 origin: London, England, UK

[comment]
 ロックを聴き始めて以降、どれだけの枚数のアルバムを聴いてきたか分からないが、最も衝撃を受けたアルバムをどうしても1枚だけ選ばなければならないのであれば、このアルバムになる。
 このアルバムのリリースは1969年、筆者は1969年生れ、当然ながら後追いで聴いたアルバムだが、筆者が生まれた頃にこんな先鋭的な曲を書くロック・バンドがいたことが信じられなかった。
 ロックを聴く以前に LP で聴く音楽はクラシックくらいであり、その影響をこのアルバムから感じ取ることができたし、後にジャズを聴くようになってからは、その影響をこのアルバムの中に見つけることができた。
 この先、何年くらい生きられるか分からないが、もうこれ以上の衝撃には出会わないような気がする。


L

Vivid / Living Colour】

[title]
Vivid [ヴィヴィッド]
 1st album
 released: 1988

[artist]
 Living Colour [リヴィング・カラー]
 origin: New York City, US

[comment]
 当時は(今もか?)、「黒人はソウル/R&B/ファンク/ヒップ・ホップ等をやるもの」という押し付けのようなジャンル分けがあり、ここまでガッツリとハード・ロック/ヘヴィ・メタルをやる黒人のバンドは珍しかった(今もか?)。
 Bad Brains や Fishbone 等、部分的にメタルの要素を取り入れる黒人のバンドはいたのだが、ほぼ丸ごとメタルというのは Living Colour が最初だったのではないだろうか?
 もちろん、当時はメタル・バブルだったので「売れるかも?」という下心はあったのかもしれないが、それでは済まされないほど、このアルバムのクオリティーは高いのである。
 Living Colour のメタルはファンク・メタルではあるが、ラップ・メタルではなく、歌うメタルであり、その点も当時としては異色だった(今もか?)。


Thunder in the East / Loudness】

[title]
Thunder in the East [サンダー・イン・ジ・イースト]
 5th album
 released: 1985

[artist]
Loudness [ラウドネス]
 origin: Osaka, Japan

[comment]
 世界進出した日本のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドの中では Vow Wow の方が好きなのだが、衝撃ということになると、やはり、Loudness だ。
 曲、演奏、歌、いずれにおいても日本的な要素(歌謡曲的な要素)が皆無であり、欧米のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドとシャッフルして聴いても全く遜色が無いのである。
 筆者は英語が苦手なので、この英語の歌唱がどれほどのものか分からないのだが、二井原実はプロデューサーの Max Norman から、かなり厳しく英語の発音を指導されたので、けっこう良い線を言っているのではないだろうか。
 欧米に似せればそれで良いという訳ではないと思うのだが、それでもやはり、このアルバムは驚異的としか言いようがない。


M

Rising Force / Yngwie Malmsteen】

[title]
Rising Force [ライジング・フォース]
 1st album
 released: 1984

[artist]
Yngwie Malmsteen [イングヴェイ・マルムスティーン]
 origin: Hässelby-Vällingby, Sweden

[comment]
 ロックの歴史において、革命を起こしたギタリストとは、結局のところ Jimi Hendrix、Edward Van HalenYngwie Malmsteen の三人だけなのではないだろうか?
Yngwie Malmsteen の場合、驚異的な速弾きで脚光を浴びたわけだが、彼の凄さは「速弾き」に加えて「良い曲が書ける」ことであり、ネオクラシカル・メタルというジャンルを確立させた功績は大きい。
 このデビュー・アルバムは全8曲中、6曲がインストゥルメンタル、2曲でヴォーカルをとっているのが Jeff Scott Soto なのだが、結局のところ Yngwie の曲に一番合うシンガーは Jeff なのではないだろうか?
 Iron Maiden のシンガー Bruce Dickinson に対し、「俺様の先祖は貴族だ」と言ったところ、「それがどうした?」と返されて激怒したという有名なエピソードも面白い。


Faith / George Michael】

[title]
Faith [フェイス]
 1st album
 released: 1987

[artist]
George Michael [ジョージ・マイケル]
 origin: East Finchley, Middlesex, England, UK

[comment]
 このアルバムをロックの範疇で取り上げるのはちょっと無理があるとは思うのだが、それでも初めて聴いたときの衝撃が大きかったので取り上げることにした。
 ソロになる前の Wham! もけっこう好きだったのだが、Duran DuranSpandau BalletCulture Club、Kajagoogoo あたりと比べると、Wham! はそこまでではなく、「George Michael って苗字も名前みたいやないか!」と変な突っ込みを入れたりしていた。
 しかし、このアルバムを聴いた時は、「Wham! よりも更に数段良くなってるやん!」というのがストレートな感想であり、Wham! 時代よりも更にブラック・ミュージックに傾倒したポップ・ミュージックにド嵌りしたのである。
 この頃の George Michael は Princ に匹敵すると言っても言い過ぎではないと思っている。


N

New York Dolls / New York Dolls

[title]
New York Dolls [ニューヨーク・ドールズ]
 1st album
 released: 1973

[artist]
 New York Dolls [ニューヨーク・ドールズ]
 origin: New York City, US

[comment]
 速すぎたパンクとか、プロトパンクとか、色々な言われ方をするが、このアルバムの凄さや魅力を言い現わすなら難しい説明は全て捨てて、単にロックン・ロールとだけ言えばそれで充分だ。
 演奏が下手と言われることもあるが、これといった高度なテクニックを使わずに、これほど一瞬で人を惹き付ける演奏をするのは逆に難しいはずであり、練習を積み重ねて出来たものではなく、メンバー各人か持っているセンスの賜物だろう。
 筆者がロックン・ロールに引き摺り込まれたのは、このアルバムを聴いてしまったからであり、これを聴かなければもっと真っ当な人生を歩めていたような気がする。
 それを後悔しているかと訊かれたときに「後悔していない」と答えられればカッコ良いのだが、最近はけっこう後悔している。


O


P

Around the World in a Day / Prince & the Revolution】

[title]
Around the World in a Day [アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ]
 7th album
 released: 1985

[artist]
 Prince & the Revolution [プリンス&ザ・レヴォリューション]
 origin: Minneapolis, Minnesota, US

[comment]
 このアルバムの衝撃は、初めて聴いたときの衝撃ではなく、2回、3回、4回と繰り返し聴いてからの衝撃だ。
 このアルバムの一つ前が、あの記録的大ヒットとなった全曲がポップな大名盤 Purple Rain であり、同じ路線を期待して聴いたので、最初に聴いたときはこの音を好きになれるとは思えなかった。
 ところか繰り返し聴いていると、変な夢にうなされそうな、このサイケデリックな音が、聴けば聴くほど好きになっていくのである。
 安っぽい言い方になってしまうが、こういうアルバムまで好きにさせてしまう Prince は天才としか言いようがない。


Q

Operation: Mindcrime / Queensrÿche】

[title]
Operation: Mindcrime [オペレーション:マインドクライム]
 3rd album
 released: 1988

[artist]
 Queensrÿche [クイーンズライク]
 origin: Bellevue, Washington, US

[comment]
プログレッシヴ・メタルの名盤と言えば、Savatage の Streets: A Rock Opera、W.A.S.P. の The Crimson Idol 等があるが、その出発点にして最高峰と言えるのが、Queensrÿche Operation: Mindcrime だ。
プログレッシヴ・メタルとは、文字通り、70年代に人気を博したプログレッシヴ・ロックの要素を取り入れたヘヴィ・メタルだ。
 犯罪組織の黒幕であるドクターXと、彼にヘロインを餌に操られる殺し屋のニッキー、そんなニッキーが心の拠り所とするシスター・メアリー、ある意味この物語のキーパーソンとも言えるウィリアム神父、こういった登場人物が絡み合う複雑で壮大なストーリー。
 そのストーリーが、確かな演奏と素晴らしい楽曲で展開される掛け値なしの名盤である。


R

Eat 'Em and Smile / David Lee Roth】

[title]
Eat 'Em and Smile [イート・エム・アンド・スマイル]
 1st album
 released: 1986

[artist]
David Lee Roth [デイヴィッド・リー・ロス]
 origin: Bloomington, Indiana, US

[comment]
 とにかく、このアルバムの衝撃は、Steve Vai、Billy Sheehan、Gregg Bissonette という、超絶技巧派ミュージシャンを David Lee Roth終結させたということだ。
Van Halen という、当時、世界最強とも言えるバンドを脱退したシンガーがソロ活動を始めるためには、ここまでやらなければダメなのかと、非常に驚いたものである。
Steve Vai のお喋りするギターに度肝を抜かれる "Yankee Rose" が始まった瞬間、Diamond Dave Quartet が織りなすド派手なロックン・ロール・パーティの幕が上がる。
Van Halen が世界最強のバンドなら、そのシンガーだった David Lee Roth は世界最強のフロントマンであり、このアルバムがリリースされた直後は、「これは Dave の勝ちだな」と思ったのだが...


S

Reign in Blood / Slayer】

[title]
Reign in Blood [レイン・イン・ブラッド]
 3rd album
 released: 1986

[artist]
 Slayer [スレイヤー]
 origin: Huntington Park, California, US

[comment]
 高校の同級生、H君はバリバリのスラッシャーで、この Reign in Blood と、MetallicaMaster of Puppets を筆者に聴かせてくれたのだが、筆者が速攻で嵌ったのは Reign in Blood の方だった。
 後に Master of Puppets も楽しんで聴けるようになったのだが、Master of Puppets は最初の2曲は高速なので嵌れるのだが、3曲目でペースダウンして以降は最後まで集中力が持たなかったのだ。
 それに比べて Reign in Blood は、高速のまま全10曲を30分足らずで走り切ってくれるので、最初から最後までテンション高く聴いていられるのである。
 今では Slayer より高速で演奏するバンドは、ごまんといるのだが、筆者にとって「速い」と言えば、Slayer であり、Reign in Blood なのである。


Born to Run / Bruce Springsteen】

[title]
Born to Run [明日なき暴走]
 3rd album
 released: 1975

[artist]
Bruce Springsteen [ブルース・スプリングスティーン]
 origin: Long Branch, New Jersey, US

[comment]
 筆者の世代のロック・リスナーが Bruce Springsteen と出会ったのは大ヒットアルバム Born in the U.S.A. になるのだが、当時の筆者は "Born in the U.S.A." という曲の真意が分からず今一つピンときていなかった。
Bruce Springsteen が気になりだしたのは、Frankie Goes to Hollywood がド直球にカヴァーした "Born to Run (明日なき暴走)" を聴いてからであり、オリジナが収録されているアルバム Born to Run に嵌ることになる。
 しかし、その後、ロック・リスナーとしてある程度キャリアを重ねてからは斜に構えてしまい、「走るために生まれてきた」というのがカッコ良すぎて、Bruce Springsteen から距離を置くようになったのだが、10年くらい前に無性にこのアルバムが聴きたくなり、そこで改めて衝撃を受けたのである。
 2000年以降、ロックの音があまりにも綺麗になってしまい、それに馴染めなかった筆者にとって、このアルバムの生々しい音が「もう少しロックを好きなままでいようかな」と感じさせてくれたのだ。


T


U


V

5150 / Van Halen】

[title]
5150 [5150]
 7th album
 released: 1986

[artist]
Van Halen [ヴァン・ヘイレン]
 origin: Pasadena, California, US

[comment]
 筆者の周りでは、David Lee Roth が抜けた Van Halen は、いくら Edward Van Halen という天才ギタリストがいたとしても、この先はちょっとヤバいんじゃないかというのが専らの噂だった。
 筆者世代のロック・リスナーにとって、新しいシンガーの Sammy Hagar は、名前を聴いたことがあるくらいで、彼のキャリアを知らない人が多かったので不安は尚更だった。
 そこへ出てきたのがシングル "Why Can't This Be Love" と アルバム 5150 なのだが、Dave とは全くタイプの違う、しっかりと歌い上げる Sammy の歌を聴いて、不安は杞憂だったことに気付いたのである。
 冷静に考えてみれば、当時、世界最強のバンドだった Van Halen が並のシンガーを入れるわけが無いのである。


W


X


Y

jaguar hard pain / The Yellow Monkey】

[title]
jaguar hard pain [ジャガー・ハード・ペイン]
 3rd album
 released: 1994

[artist]
The Yellow Monkey [ザ・イエロー・モンキー]
 origin: Tokyo, Japan

[comment]
 このアルバムは彼らの3rdアルバムであり、「1944年に戦死したジャガーが1994年の現代(当時)に蘇り、恋人のマリーを探す」という物語を綴ったコンセプト・アルバムなのだが、実はこの物語は2ndアルバム EXPERIENCE MOVIE 収録の最終曲 "シルクスカーフに帽子のマダム" で既に始まっている。
 シンガーでメイン・ソングライターの吉井和哉が言うには、イエモンの版の Ziggy Stardust ということらしいのだが、個人的には、このスケールの大きな物語と音楽性は既に Ziggy Stardust を超えていると思っている。
 リリース当時は全く思いつかなかったのだが、1944年に戦死したということは、ジャガー第二次世界大戦に出征した兵士だったのだろうか?
オリコンチャート上位の常連になる前のダークなイエモンの最後のアルバムであり、4thアルバム smile 以降ではダークの表現方法を変えていくことになる。


Z


~ 総括 ~

 今回は「衝撃を受けたロック・アルバム」を選んだんわけだが、「衝撃を受けたロック・アルバム」というのは「好きなロック・アルバム」とは少し様相を異にする。

 ここで選んだ「衝撃を受けたロック・アルバム」をリリースしたアーティストは、もちろん好きなのだが一番好きというわけではない。

 単純に「一番好き好きなアーティストは?」と訊かれたら、The Dogs D'Amour と答えるし、続けて「他には?」と訊かれたら、Hanoi RocksAC/DCMotörhead、The Georgia Satellites、The Replacements、Soul AsylumGoo Goo Dolls あたりの名前を挙げると思う。

 しかし、これらのアーティストには衝撃を受けていない。

 これらのアーティストの音は、筆者の耳に物凄く馴染むのである(AC/DCMotörhead には少し衝撃を受けたかもしれない)。

 ここで選んだ「衝撃を受けたロック・アルバム」とは、筆者の「その後のロックの聴き方に影響を与えたロック・アルバム」であり、とにかく「聴いた時にガツンときたロック・アルバム」なのである。

 今回は、自分のロック人生を振り返ることにもなったのだが、よく分かったのは、自分は、やはりメインストリームを中心に聴いてきたロック・リスナーであり、オルタナティヴではないということだ。

 もちろん、オルタナティヴにも好きなアルバムはあるのだが、中心は必ずメインストリームなのである。

 実際には、今回選んだアルバム以外でも衝撃を受けたアルバムは何枚もある。

 例えば、Kate BushThe Kick InsideAphex TwinSelected Ambient Works 85–92、Goldie の Timeless 等には大きな衝撃を受けたのだが、ロックという範疇で選ぶには無理があったので入れなかった。

 いずれ、ロック以外でも衝撃を受けたアルバムを選んでみようと思う。

#0441) 好きな W.A.S.P.[ワスプ]のアルバム5選

第1位

[title]
W.A.S.P.[魔人伝]
 1st album
 released: 1984

[comment]
 完璧なデビュー・アルバムである。
 ブリティッシュヘヴィ・メタルアメリカン・ロックン・ロールが絶妙な配分で融合されており、収録曲の全てがポップでキャッチーな名曲揃い。
 グラム・メタル(LAメタル)という枠を超え、ロックの歴史に燦然と輝く名盤だ。
 W.A.S.P. は 2nd 以降も良いのだが、このデビュー・アルバムが完璧すぎるので、どうしても2以降の数枚が霞んでしまう。
 リマスター盤は、レコード会社(キャピトル)から NG が出てオリジナル盤に収録できなかった "F**k Like a Beast" で始まるのだが、やはり、このアルバムは "I Wanna Be Somebody(悪魔の化身)" で始まるオリジナル盤で聴いた方が良い。
 W.A.S.P. のフロントマン、Blackie Lawless[ブラッキー・ローレス]は、このアルバムをリリースした時、既に28歳、けっこう遅咲きである。
ネイティヴ・アメリカンにルーツを持つ Blackie Lawless が、自分のバンドを W.A.S.P. と名付けたのは、逆説的であり非常に面白い。

第2位

[title]
The Crimson Idol[クリムゾン・アイドル]
 5th album
 released: 1992

[comment]
 このアルバムは、架空のロック・スター、Jonathan Aaron Steel[ジョナサン・アーロン・スティール]の物語を綴ったコンセプト・アルバムである。
 Blackie Lawless のソロ・アルバムとして制作を始めたのだが、レコード会社(キャピトル)の意向により、W.A.S.P. のアルバムとしてリリースされた。
 架空のロック・スターの物語を綴ったコンセプト・アルバムと言えば、古くは David Bowieデヴィッド・ボウイ]の The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars という古典的名盤があり、同時代におけるメタル系のコンセプト・アルバムと言えば、少し前に Queensrÿche[クイーンズライク]の Operation: Mindcrime という大傑作がリリースされている。
 それ故、どうしても二番煎じな感は否めないのだが、そんな安易な批判を寄せ付けないくらい、このアルバムは上述の2枚にも匹敵する名盤であり、曲の完成度もアルバムの構成も完璧だ。
 この時期の W.A.S.P. は完全に正調ヘヴィ・メタルにシフトしており、このアルバムは欧州では売れたが米国ではあまり売れなかった。
 米国の W.A.S.P. ファンが彼らに求めるのは、初期のショック・ロック的なロックン・ロールが入ったメタルだったのかもしれない。

第3位

[title]
Dying for the World[ダイイング・フォー・ザ・ワールド]
 10th album
 released: 2002

[comment]
 実は、このアルバムを初めて聴いたときは強い違和感を覚えた。
 アルバム全体が暗いベールに覆われており、その暗さ故、なかなか感情移入することができず、聴いていると物凄く疲れるのだ。
 否、暗い曲でも好きなものは沢山あるのだが、このアルバムから発せられる暗さは、それまで筆者が好きだった暗い曲とは異質だったのである。
 実は、このアルバムの曲は「9.11同時多発テロ」や、更に遡って「湾岸戦争」からインスパイアされて制作されている。
 更に更に遡って「チェロキー族の強制移住」にインスパイアされた曲もあり、曲のモチーフとなったテーマがことごとく重いのである。
 デビュー時、股間にノコギリを付けていた男が、18年後にこんなにもシリアスなアルバムを作るとは、当時、誰が予測し得ただろう。
 筆者自身、こういうダークでシリアスな W.A.S.P. も愛聴するようになるとは、当時、全く予想できなかった。

第4位

[title]
The Headless Children[ヘッドレス・チルドレン]
 4th album
 released: 1989

[comment]
 デビューから 2ndアルバムの The Last Command までは計算されつくした下品でおバカなキャラを演じていたが、3rdアルバムの Inside the Electric Circus ではシリアスなヘヴィ・メタルに接近し、この 4thアルバムでは完全に正統派ヘヴィ・メタルになった。
 言い方を変えると普通のヘヴィ・メタルになったのだが、曲の良さがダイレクトに伝わるようになり、Blackie Lawless が如何に類まれなるソングライターであるかが分かる名盤に仕上がっている。
 Blackie Lawless の書く曲は少々一本調子なところもあるのだが、それはそれで貫き通せば「味」になる。
 前作の3rdアルバムでは Uriah Heepユーライア・ヒープ]の "Easy Livin'" をカヴァーしていたのだが、その縁があったのかどうなのか、今作では、その Uriah Heep の名キーボーディスト Ken Hensley[ケン・ヘンズレー]がゲスト参加し、アルバムに花を添えている。
 「ヘヴィ・メタルは好きだけど、ロックン・ロールはちょっと...」という人は、このアルバムから W.A.S.P. を聴き始めた方が良い。

第5位

[title]
Golgothaゴルゴタの丘
 15th album
 released: 2015

[comment]
 2018年に Reidolized: The Soundtrack to The Crimson Idol というアニヴァーサリー・アルバムをリリースしているが、このブログを書いている2023年1月の時点で、目下のところ W.A.S.P. の最新スタジオ・アルバムがこれだ。
 W.A.S.P.(と言うか Blackie Lawless)は、2004年の The Neon God: Part 1 – The Rise あたりから伝統芸能の域に達した感があり、この路線でアルバムをリリースしてくれれば筆者は常に満足なのだが、新たなリスナーを獲得するのは難しいかもしれない。
 ありきたりなことを書いてしまうのだが、やはり、曲が良い。
 そして、このアルバムには何かが吹っ切れたかのような爽快感がある。
 2曲目の "Last Runaway" は W.A.S.P. の曲にしては異例なほどの爽やかさがあり、Runaway という単語が入っているからという訳ではないが、Bon Joviボン・ジョヴィ]が演奏しても大丈夫そうだ(念のために書いておくが、筆者は Bon Jovi も大好きだ)。

~ 総括 ~

 グラム・メタル系のバンドで「好きなアルバム5選」という記事を書こうとすると、殆どのバンドではそれが出来ない。

 殆どのグラム・メタル系のバンドはアルバムを数枚リリースした後、売れなくなってしまい、レコード会社から契約を切られて解散してしまうことが多いからだ。

 グラム・メタルの代名詞のようなバンド Ratt[ラット]ですら、アルバムを5枚リリースして解散してしまい、1997年の再結成以降は現在(2023年1月)に至るまでアルバムを2枚リリースしただけだ。

 Mötley Crüe[モトリー・クルー]は40年以上の活動歴でリリースしたスタジオ・アルバムがたったの9枚、Guns N' Roses[ガンズ・アンド・ローゼズ]は更に酷く、35年以上の活動歴でリリースしたスタジオ・アルバムがたったの6枚であり、この中には EP と言ってもいいボリュームのものとカヴァー・アルバムも含まれている。

 インターネットの普及以降はアルバムが売れなくなってしまったので、アルバムを制作することの意義が薄れた感はあるものの、80年代~90年代にはもう少し頑張れば沢山のアルバムを制作できたのではないだろうか?

 とにかく、働かなさすぎである。

 「ミュージシャンはアーティストなのだから、普通の仕事と同じレベルで考えるな」と言われてしまうと何も言えなくなるのだが、世の中の大人は、もっと頑張って一所懸命に働いているのである。

 そこへいくと、W.A.S.P.[ワスプ]は大したものである。

 来年2024はデビュー・アルバム W.A.S.P.[魔人伝]の40thアニヴァーサリーとなるが、2015年の Golgotha まで、15枚のアルバムをリリースしている。

 「少ないやないか!」と突っ込まれるかもしれないが、W.A.S.P. は、インターネット社会が確立した2000年以降に7枚のアルバムをリリースしており、これは賞賛に値する。

 同じくらいコンスタントにアルバムをリリースしているグラム・メタル出身のバンドで、今、パッと思いつくのは Great White[グレイト・ホワイト]くらいだ。

 W.A.S.P. の Blackie Lawless[ブラッキー・ローレス] は、Johnny Thundersジョニー・サンダース]が抜けた New York Dollsニューヨーク・ドールズ]に、その後釜として入った1975年あたりから米国のロック・シーンに登場したのだが、W.A.S.P. として成功を修めるまでに約10年の歳月を費やしている。

 実は、けっこうな苦労人なのである。

 デビュー時の下品でおバカなキャラも W.A.S.P. を売り出すために計算されつくしたものであり、かなり頭のキレる人物でもある。

 そして、ネイティヴ・アメリカンにルーツを持つ彼が、あえて逆説的に W.A.S.P. と名乗ったのも、たぶん計算してのことなのではないだろうか?

 上述したとおり、2015年に Golgotha をリリースして以降、アニヴァーサリー・アルバムの Reidolized: The Soundtrack to The Crimson Idol をリリースしたもののニュー・アルバムのリリースが途絶えている。

 もしかすると、アルバムというフォーマットは現在のロック・バンドにとって、必要の無いものになってしまったのかもしれない。

#0440.21) 好きなUKロック(90年代・中堅編)のアルバム14選

【14位】Mexican R'n'B / The Stairs

[title]
Mexican R'n'B
 1st album
 released: 1992

[artist]
The Stairs (ザ・ステアーズ)
 origin: Liverpool, England, UK

[comment]
 60年代の The Rolling Stonesザ・ローリング・ストーンズ]のレコードを、そのまま再現したようなこのデビュー・アルバムを手放しで評価するのは躊躇われる。
 しかし、それを差し置いてでも、一度聴いてしまったら繰り返し聴かずにはいられないほど、このアルバムに収められている曲は素晴らしいのである。
 そして、このアルバム・カヴァーに、このアルバム・タイトル!これを見て興味を持つなという方が土対無理な話なのではないだろうか?

【13位】Ferment / Catherine Wheel

[title]
Ferment
 1st album
 released: 1992

[artist]
Catherine Wheel (キャサリン・ホイール)
 origin: Great Yarmouth, England, UK

[comment]
 所謂シューゲイザーの中では、My Bloody Valentineマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン]や Ride[ライド]のような人気者よりも、Catherine Wheel の方が好きだと言うと「おまえはアホか?」と思われるのかもしれない(と言うか、筆者はシューゲイザーへの思入れが殆どない)。
シューゲイザーというムーヴメントには、稽古が足りず基礎体力が出来ていないのに試合に出てきたようなバンドが多かった。
 Catherine Wheel はシューゲイザー独特のヘナチョコ感は薄く、Dinosaur Jr.[ダイナソー・ジュニア]や Mudhoney[マッドハニー]あたりの米国産オルタナティヴ・ロックに近いと言うと褒めすぎだろうか?

【12位】Pigeonhole / New Fast Automatic Daffodils

[title]
Pigeonhole
 1st album
 released: 1990

[artist]
New Fast Automatic Daffodils (ニュー・ファスト・オートマティック・ダフォディルズ)
 origin: Manchester, England, UK

[comment]
 マッドチェスターやダンス・ロックの名盤と言えば、The Stone Rosesザ・ストーン・ローゼズ]の The Stone RosesPrimal Screamプライマル・スクリーム]の Screamadelica あたりを選ぶのが妥当なのだろう。
 もちろん、筆者にとってもその2枚は名盤であり、かなりの回数を聴いているのだが、一番聴いた回数が多いのは、たぶん The Soup Dragons[ザ・スープ・ドラゴンズ]の Hotwired と、この New Fast Automatic Daffodils の 1stアルバムだと思う(The Soup Dragons は80年代のデビューなので今回のリストには入れなかった)。
 このアルバムの硬質なビートはマッドチェスターらしくないのだが、この時期、安易に The Stone Roses のフォロワーに陥らなかったのは凄いことなのではないだろうか?

【11位】New Wave / The Auteurs

[title]
New Wave
 1st album
 released: 1993

[artist]
The Auteurs (ジ・オトゥールズ)
 origin: London, England, UK

[comment]
ブリットポップの勃興期にリリースされたアルバムだが、大衆向けの弾けるような感じが全く無い、ブリットポップとは正反対のアルバムだ。
 このアルバムの曲は、美しく柔らかい印象を与えながらも、その根底にはどこか寒々としたニヒリズムが隠されているような気がする。
 アルバム・タイトルの New Wave とは、80年代初期に英国で興ったロックのムーヴメントではなく、1950年代にフランスで興った映画運動である Nouvelle Vague[ヌーヴェル・ヴァーグ]から取っているとのことだが、この音はどう聴いても英国産ニュー・ウェイヴの後継である。

【10位】Tindersticks / Tindersticks

[title]
Tindersticks
 1st album
 released: 1993

[artist]
Tindersticks (ティンダースティックス)
 origin: Nottingham, England, UK

[comment]
 前出の The Auteurs も暗いのだが、この Tindersticks も絶望的に暗い。
 「世間はブリットポップで楽しく盛り上がっているのに、なんでこんな暗い曲を書くんですか?」と問いたくなるほど暗いのだが、それを好んで聴いていた筆者も実は暗い人間なのかもしれない。
 一番近い音を例えとして挙げるなら、Lou Reedルー・リード]の Berlin が近いと思うのだが、米国人らしいロックン・ローラー気質も合わせ持つ Lou Reed とは違い、Tindersticks の暗さには欧州の歴史的な闇を感じさせる哀愁さがある。

【9位】The Golden Mile / My Life Story

[title]
The Golden Mile
 2nd album
 released: 1997

[artist]
My Life Story (マイ・ライフ・ストーリー)
 origin: London, England, UK

[comment]
 90年代におけるバロック・ポップ/チェンバー・ポップの双頭と言えば、The Divine Comedy[ザ・ディヴァイン・コメディ]と、この My Life Story だ(The Divine Comedyは前回の「好きなアイリッシュ・ロック(90年代)のアルバム5選」で取り上げた)。
 My Life Story の曲は結末の予測できるベタベタのメロドラマのようであり、この世界観に入り込めるか否かは、かなりの個人差が出てしまうと思う。
 筆者はロックやポップ・ミュージックに対し、real よりも imaginary を求めるタイプなので、My Life Story が描くこの世界観は大歓迎なのである。

【8位】The Sun Is Often Out / Longpigs

[title]
The Sun Is Often Out
 1st album
 released: 1996

[artist]
Longpigs (ロングピッグス)
 origin: Sheffield, England, UK

[comment]
 Longpigs について語るときに必ず引き合いに出されるのが Radioheadレディオヘッド]なのだが(そういう筆者も引き合いに出している)、個人的にはRadioheadよりもLongpigsの方が好みだ。
 確かに、Pablo HoneyThe Bends 期の Radiohead から影響を受けてそうな音なのだが、シンガーの声質がかなり違うので、それほど似ているとは感じない。
Radiohead の Thom Yorke[トム・ヨーク]よりも、Longpigs の Crispin Hunt[クリスピン・ハント]の方が正統派のロック・シンガーに近くて男らしい感じだ。

【7位】Hope Is Important / Idlewild

[title]
Hope Is Important
 1st album
 released: 1998

[artist]
Idlewild (アイドルワイルド)
 origin: Edinburgh, Scotland, UK

[comment]
 このアルバムの1曲目 "You've Lost Your Way" を聴いたときはハードコア・パンク・バンドかと思った。
 このバンドも、ヘナチョコなバンドが多かった90年代のUKロック・シーンにおいては、異端といってもいいくらいの荒々しさと猛々しさと持ったバンドである。
 このバンドを評価するときは、度々「米国のグランジ/オルタナティヴ・ロックに近い」と言われることがあり、確かにそれも一理あるのだが、このメロディ・センスは、やはりどう聴いても英国を感じさせる音なのである。

【6位】Northern Uproar / Northern Uproar

[title]
Northern Uproar
 1st album
 released: 1996

[artist]
Northern Uproar (ノーザン・アップロアー)
 origin: Stockport, England, UK

[comment]
 このアルバムに興味を持った切っ掛けは、Manic Street Preachersマニック・ストリート・プリーチャーズ]の James Dean Bradfield[ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド]がプロデュースしているという、ただそれだけの理由だった。
 正直なところ全く期待していなかったのだが、このアルバムの骨太で逞しいロック・サウンドは秀逸であり、一聴してすぐに好きになってしまった。
 90年代のUKロック・シーンはヘナチョコなバンドが多かったのだが、Northern Uproar はそんなシーンとは真逆のパワフルなバンドだった。

【5位】The Big 3 / 60ft Dolls

[title]
The Big 3
 2nd album
 released: 1996

[artist]
60ft Dolls (シックスティ・フット・ドールズ)
 origin: Newport, Wales, UK

[comment]
 筆者は本能的にというくらい3ピース・バンドが好きなのだが、この 60ft Dollsウェールズから登場した3ピース・バンドであり、自ら「The Big 3」と言ってしまう厚かましいセンスが好きだ(こういうのは大抵の場合、自分から言うのではなく、人が言ってくれるものである)。
 このバンドも前出の Northern Uproar に負けつ劣らずパワフルなバンドであり、3ピースのお手本のようなロックン・ロール・バンドだ。
 もし、自分が演者側であるなら「このバンドの曲をライヴで演奏してみたい!」と思わせる、そんな名曲がギッシリと詰っているアルバムだ。

【4位】Olympian / Gene

[title]
Olympian
 1st album
 released: 1995

[artist]
Gene (ジーン)
 origin: London, England, UK

[comment]
 1stアルバムとしては「出来過ぎ」と言って良いくらい、実によく出来たロック・アルバムである。
ブリットポップ期に登場したバンドだが、当時の他のブリットポップ・バンドのような瑞々しさは皆無であり、老成した大人の魅力を感じさせてくれるバンドだった。
 常に The Smithsザ・スミス]に似ていると言われ続けたバンドだったが、Martin Rossiter[マーティン・ロッシター]の歌方が Morrisseyモリッシー]に似ているくらいで、ギターの音やリズムの組み立て方は The Smiths とは全く異なる。
 曲調は繊細でありながらもパワフルであり、ロマンティシズム溢れる捨て曲無しの名盤である。

【3位】The Program / Marion

[title]
The Program
 2nd album
 released: 1998

[artist]
Marion (マリオン)
 origin: Macclesfield, England, UK

[comment]
 マックルズフィールドというマンチェスター近郊の街の出身ながら、マッドチェスターっぽさは皆無であり、実に潔さを感じさせるロック・バンドである。
 一般的には 1st の This World and Body 方が評価が高く、元 The Smithsザ・スミス]の Johnny Marr[ジョニー・マー]がプロデュースしたこの 2nd をリリースした頃には、既にこのバンドへの興味が失われつつあった。
 しかし、そんな一般的な評価はどうでもよく、筆者にとって、このアルバムは90年代UKロックを代表する名盤なのである。
 実に真っ直ぐで且つロマンティックなロック・アルバムであり、人によってはこれを「コンサバ」と言うかもしれないが、ロックの本質とは、やはり王道であり正統派なのである。

【2位】Attack of the Grey Lantern / Mansun

[title]
Attack of the Grey Lantern
 1st album
 released: 1997

[artist]
Mansun (マンサン)
 origin: Chester, England, UK

[comment]
Mansun は活動期間中にリリースした全てのアルバムが名盤だと思うのだが、この 1st を聴いたときのインパクトは物凄かった。
 それは、デビュー作ながら素人っぽさが皆無であり、プロとしての意識の高さを感じさせてくれるクオリティだったからである。
 90年代のUKロック・シーンは素人っぽいバンドやヘナチョコなバンドが多かったのだが、前出の Gene、Marion、そしてこの Mansun を聴いて、いよいよ Suedeスウェード]や Manic Street Preachersマニック・ストリート・プリーチャーズ]に匹敵するプロらしいバンドが出てきたなと感じたものである。
 そして、このバンドの曲も、Gene や Marion と同様に、重要な要素となっているのがロマンティシズムなのである。

【1位】Fake / Adorable

[title]
Fake
 2nd album
 released: 1994

[artist]
Adorable (アドラブル)
 origin: Coventry, England, UK

[comment]
 初期の Adorable はシューゲイザーの一派として紹介されており、正直なところシューゲイザーの軟弱なイメージに好感を持っていなかった筆者はこのバンドへの興味を持てないでいた。
 しかし、その後、徐々に Suedeスウェード]あたりに通じるネオ・グラム的な紹介もされるようになり、俄然興味が湧いて買った 1st の Against Perfection が素晴らしい名盤だったのである。
 このバンドは、1stシングル "Sunshine Smile" リリース時の評価が最も高く、1stアルバムのリリース時には徐々に興味が失われつつあり、今回取り上げた 2ndアルバムのリリース時には既に興味を失われていた。
 しかし、筆者にとってはこの 2nd が Adorable の最高傑作であり、シングルにもなった狂おしいほどのカタルシスを感じさせる名曲 "Vendetta" を聴いたときの感動は今も忘れていない。
 Ian McCulloch[イアン・マッカロク]が歌う The House of Love[ザ・ハウス・オブ・ラヴ]と揶揄されることもあったが、それは誉め言葉として受け止めるべきである。

~ 総括 ~

 今回は「好きなUKロック(90年代・中堅編)のアルバム14選」ということで選んだので、Suedeスウェード]、Manic Street Preachersマニック・ストリート・プリーチャーズ]、Ocean Colour Sceneオーシャン・カラー・シーン]、Supergrassスーパーグラス]、Stereophonicsステレオフォニックス]、Kula Shakerクーラ・シェイカー]あたりの大物感のあるバンドは入れなかった。

 UKロックと題しているが、前回「好きなアイリッシュ・ロック(90年代)のアルバム5選」を書いているので、北アイルランドは入れず、イングランドスコットランドウェールズのみを入れた。

 メタル系やスリージー・ロックン・ロール系は別の機会に取り上げたいので入れなかった(入れると収拾がつかなくなるので)。