Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0016) THE MADCAP LAUGHS / Syd Barrett 【1970年リリース】

f:id:DesertOrchid:20171111144353j:plain

 

富と名声を求めてロック・ミュージシャンを志すというのは、よくある話だ。


それが悪いことだとは全く思わない。


「Sex, Drugs & Rock 'n' Roll」という言葉があるように、そもそもロックとは享楽的なものであり、普通ではない「狂気」が横行する世界なのだろう。


今回取り上げた作品は、そんな狂気の世界の住人となってはみたものの、自分を制御することが出来なくなって壊れてしまった不世出の天才Syd Barrettシド・バレット〕がPINK FLOYDピンク・フロイド〕を脱退後にリリースした1stアルバム「THE MADCAP LAUGHS」だ。


この人のバイオグラフィーは、様々な音楽雑誌でかなりの量を読んできたが、結局のところ、何故あちら側の世界に行ってしまったのか、その理由が未だによく解らない。


正直なところ、その理由を知りたいとも思わない。


筆者にとってのSyd Barrettとは、彼の曲を聴くだけで充分な存在なのである。


筆者がSyd Barrettに興味を持つ切っ掛けとなったのは、David Bowieデヴィッド・ボウイ〕が彼からの影響を度々口にしていたからだ。


10代の頃の筆者は「Bowieに影響を受けた」もしくは「Bowieが影響を受けた」を基準にしてレコードを買っていた時期があったので、Syd Barrettに対しては過剰な期待を寄せていた。


この「THE MADCAP LAUGHS」というアルバムは、ロックの歴史的名盤というものではないと思うし、実のところそれほど頻繁に聴く作品でもない。


PINK FLOYDのアルバムも、Syd Barrettが唯一フルで参加して彼の主導で制作された1stアルバム「THE PIPER AT THE GATES OF DAWN」より、Roger Waters〔ロジャー・ウォーターズ〕の主導で制作されたSyd Barrett脱退後の作品の方が名盤と呼ぶに相応しいと思っているし、聴いてきた回数も圧倒的に多い。


しかし、Syd Barrettというミュージシャンの魅力は、歴史的名盤云々で語れるものではないと思っている。


「THE MADCAP LAUGHS」を聴いて感じるのは、閉ざされていた心が解放されていくような、奔放なまでに自由に書かれた曲の美しさだ。


「こんな曲を書いたら、聴いた人は何を感じるのだろうか?」等という打算的なことは全く考えてないように思える。


とにかくプリミティヴなのである。


筆者もSyd Barrettのように自由でプリミティヴになってみたいと感じることもあるのだが、凡人で俗人な筆者のような人間に天才の真似など出来るはずもない。

 

#0015) GIRLS GO WILD / THE FABULOUS THUNDERBIRDS 【1979年リリース】

f:id:DesertOrchid:20171104153029j:plain

 

筆者が持っているブルースのCDは圧倒的に黒人ミュージシャンのものが多い。


そもそもブルースという音楽が黒人発のものなので、黒人ミュージシャンの絶対数が多いのかもしれない(数えたことがないので事実は不明だが)。


ブルースを覚えたての頃は、ホワイト・ブルース(白人のブルース)に対して、何となく偽物っぽいという偏見を持っていた。


そんなくだらない偏見も、年齢が30歳に近づく頃にはいつの間にか無くなっていて、気が付けば某大手ECサイトでホワイト・ブルースのCDを頻繁に購入するようになっていた。


今回取り上げた「GIRLS GO WILD」は、米国テキサス州出身のホワイト・ブルース・バンドTHE FABULOUS THUNDERBIRDS〔ザ・ファビュラス・サンダーバーズ〕の1stアルバムであり、某大手ECサイトで購入した一枚だ。


THE FABULOUS THUNDERBIRDSについては、1986年リリースの5thアルバム「TUFF ENUFF」をリアルタイムで買って聴いていたのだが、殆ど記憶に無い。


そのまま忘れてしまっても不思議ではないバンドだったのだが、某ECサイトを閲覧した時に「おすすめ」として「GIRLS GO WILD」が表示されていたので、何となく気になって購入したところ、その燻銀(いぶしぎん)のブルースに魅入られてしまった。


THE FABULOUS THUNDERBIRDSの音楽性は、ブルース・ロックと言えなくもないが、どちらかと言えばブルースそのものである。


先ほど、燻銀と書いたが、バンドの中心メンバーであるヴォーカルのKim Wilson〔キム・ウィルソン〕とギターのJimmie Vaughan〔ジミー・ヴォーン〕は共に1951年生まれなので、「GIRLS GO WILD」がリリースされた1979年当時は28歳である。


意外なほど若い。


このむせ返るような毒気のあるブルースを20代の若造が演奏しているという事実に驚かされる


これほど若いバンドが、1stアルバムの時点で、こんなにも本格的なブルースを演奏できるのは、やはりテキサスというブルースの本場で生まれ育った血がそうさせるのだろうか?


元々、テキサスという地には、THE 13TH FLOOR ELEVATORS〔ザ・サーティーンス・フロア・エレベーターズ〕、ZZ TOP〔ズィーズィー・トップ〕、BUTTHOLE SURFERS〔バットホール・サーファーズ〕、PANTERA〔パンテラ〕等、ジャンルを問わず、一筋縄ではいかないバンドが多い。


THE FABULOUS THUNDERBIRDSが奏でる燻銀のブルースにもテキサスのバンド特有のクレイジネスが感じられる。


このアルバムを切っ掛けに、2nd、3rd、4thと聴き進めていったのだが、5thアルバムの「TUFF ENUFF」は音がモダンすぎて、初めて聴いた10代の頃と同様、あまり好きになれなかった。

 

#0014) RICHARD D. JAMES ALBUM / APHEX TWIN 【1996年リリース】

f:id:DesertOrchid:20171028154410j:plain

 

APHEX TWINエイフェックス・ツイン〕ことRichard D. James〔リチャード・D・ジェームス〕を知ったのは、JESUS JONES〔ジーザス・ジョーンズ〕のMike Edwards〔マイク・エドワーズ〕が自身のフェイバリットとして、その名を上げていたからだ。


その後、JESUS JONESに限らず、1990年代初期に活動していた英国のロック・ミュージシャンの多くがAPHEX TWINのことをインタビューで語り始めた。


当時、次々と出てくるロック・バンドにはダボハゼのように喰らいついていた筆者だったが、APHEX TWINのようなエレクトロニック・ミュージックには距離を置いていた。


と言うよりも、むしろエレクトロニック・ミュージックのことは積極的に嫌っていた。


それが180度変わって、エレクトロニック・ミュージックを好きになったのは、Goldie〔ゴールディー〕の1995年のアルバム「TIMELESS」を聴いて、ドラムン・ベースを知ってからだ。


そして、1996年に絶妙のタイミングでAPHEX TWINドラムン・ベースに取り組んだアルバム「RICHARD D. JAMES ALBUM」がリリースされた。


最初に聴いた時は、Goldieの「TIMELESS」が持っているようなエレガンスもなく、リズムも玩具(おもちゃ)のようで、「なんだ、こりゃ?」って感じだったのだが、聴き終わると直ぐにまた聴きたくなる不思議な魅力があった。


一言で表現するなら、「無邪気な悪意」という感じだろうか?


凶器を持った子供が、その凶器の使い方が分からず闇雲に振り回しながら、どんどん自分の方に近づいてくるような、そんな危うさを感じさせる音楽である。


エレクトロニック・ミュージックというのは、クラブで踊るための音楽という認識が筆者の中にはあるのだが、果たして、こういう音楽で踊れるものなのだろうか?


筆者はクラブに行く習慣が無いので、その辺のことは全く分からない。


以前、PLUG〔プラグ〕の「DRUM 'N' BASS FOR PAPA」を取り上げた時にも同じことを書いたのだが、むしろ聴くための音楽のような気がする。


なので、筆者は、この「RICHARD D. JAMES ALBUM」を聴く時は、部屋を暗くして、ヘッドフォンで聴くことにしている。

 

#0013) DOWN AND OUT BLUES / Sonny Boy Williamson II 【1959年リリース】

f:id:DesertOrchid:20171021173706j:plain

 

行きつけの輸入レコード店のオーナーから薦められたRobert Johnson〔ロバート・ジョンソン〕でブルースに目覚めた筆者がRobert Johnsonの次に聴いたブルースのレコードが、今回取り上げたSonny Boy Williamson II〔サニー・ボーイ・ウィリアムソンII〕の1stアルバム「DOWN AND OUT BLUES」だ。


オーナーからは「ハープの名手」と聞かされたのだが、当時の筆者はハープというと西洋音楽で使われるハープ(竪琴)のことしか知らなかったので、最初はそのハープ(竪琴)とブルースが結びつかず、頭の中は疑問符だらけだった。


「ハープってこれのことですか?」と言いながらハープ(竪琴)を弾くジェスチャーをオーナーに見せたところ、オーナーはブルースハープ(10ホールズハーモニカ)という楽器を筆者に教えてくれた。


THE ROLLING STONESザ・ローリング・ストーンズ〕のMick Jaggerミック・ジャガー〕やNEW YORK DOLLSニューヨーク・ドールズ〕のDavid Johansen〔デヴィッド・ヨハンセン〕、HANOI ROCKSハノイ・ロックス〕のMichael Monroe〔マイケル・モンロー〕等、ロックン・ロール・バンドのシンガーがハーモニカを吹いていたことは知っていたが、それが幼稚園の頃に吹いていたハーモニカではなく、ブルースハープであるということを、この時、初めて知った。


筆者にとって、Sonny Boy Williamson IIとは、それまであまり意識することのなかったブルースハープという楽器を強く意識させてくれたアーティストだ。


筆者はSonny Boy Williamson IIを知ってから、前述のシンガー達が吹くブルースハープを意識して聴くようになり、ブルースハープという楽器の魅力を知った。


Sonny Boy Williamson IIはロックを聴いていたリスナーにとっては非常に聴きやすいブルース・マンだ。


初めて聴いた時から普段聴いているロックと殆ど同じ感覚で楽しんで聴くことができた。


THE YARDBIRDS〔ザ・ヤードバーズ〕と共演したり、NEW YORK DOLLSに楽曲をカヴァーされたりしているのでロックとの距離が近い。


そう言えば、NEW YORK DOLLSの2ndアルバム「TOO MUCH TOO SOON」にはSonny Boy Williamson IIの"Don't Start Me Talkin'"が収録されているが、DOLLSのカヴァーあまりにも自己流すぎて、かなり後になるまで同じ曲だと気づかなかった。


ちなみに、このアルバム「DOWN AND OUT BLUES」のジャケットには、地ベタに寝そべっている小汚いオッサンの写真が使われているが、このオッサンはSonny Boy Williamson IIではない。


本人は、もっと小洒落たオッサンである。


この事実を知ったのも、かなり後になってからだ。


ややこしいことをしてくれたものだ。

 

#0012) SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS) / David Bowie 【1980年リリース】

f:id:DesertOrchid:20171015193148j:plain

 

David Bowieデヴィッド・ボウイ〕のアルバムを1枚選ぶとなると、架空のロック・スターであるZiggy Stardust〔ジギー・スターダスト〕を演じた1970年代前半のグラム・ロック期や、Brian Enoブライアン・イーノ〕とコラボレートした1970年代後半のベルリン三部作あたりから選ぶのが妥当であろう。


しかし、筆者が最も愛着を持つBowieのアルバムは、今回取り上げた「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」だ。


前述したグラム・ロック期やベルリン三部作に限らず、筆者にとってBowieのアルバムは、1stアルバム「DAVID BOWIE」から、この14thアルバム「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」まで、全てが傑作アルバムなのである。


Bowieとの出会いは「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」の次作である「LET'S DANCE」だった。


当時(1983年頃)、音楽雑誌「MUSIC LIFE」の表紙でBowieを知り、表紙になるくらいだから凄いロック・ミュージシャンなのだろうと信じて買った「LET'S DANCE」は全く筆者の心に響かなかった。


あまりにもコマーシャルなそのサウンドは、当時、先鋭的なロックを欲していた筆者が求める音ではなかった。


これ以降、Bowieのことは忘れかけていたのだが、音楽雑誌「音楽専科」に掲載されていたグラム・ロック特集でBowieが取り上げられており、どうやら昔のBowieは凄かったらしいことを知った。


そして、グラム・ロックの傑作「THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS」購入し、一瞬にして完全に打ちのめされた。


その後、Bowieの過去のアルバムを徐々に買い集め、「LET'S DANCE」の前作である「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」に辿り着いた。


「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」は1980年のアルバムだ。


Bowieが影響を与えたであろう当時のポストパンクやニュー・ウェーヴのアーティストから、逆にBowieが影響を与えられているような音楽性が面白い。


そして、少し、コマーシャルな匂いがする。


Bowieの曲には初期の頃からコマーシャルな要素はあった。


しかし、それは、Bowieのメロディー・メイカーとしての類い稀なる才能が結果としてコマーシャリズムに結びついただけだ。


「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」で微かに漂うコマーシャルな匂いは、何となく狙ったように思える。


これを最大限に狙って作って大ヒットしたのが次作「LET'S DANCE」なのだろう。


「LET'S DANCE」以降のアルバムも、遺作となった「BLACKSTAR」まで、「次こそは好きだったあのBowieが帰ってくるかも」という思いで買い続けた。


しかし、結局のところ好きになれるアルバムは1枚も無かった。


筆者の好きな最後のBowieのアルバムが「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」なのである。


それ故に、このアルバムへの愛着が強い。


「SCARY MONSTERS (AND SUPER CREEPS)」を聴いていると、Bowieが過去の自分に別れを告げ、新しい世界へ旅立っていく姿が目に浮かぶ