Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

自分のロック感を作ったアーティスト(2)Aerosmith【70年代】

Aerosmith [エアロスミス]

origin: Boston, Massachusetts, U.S.


Aerosmith [野獣生誕]

 1st studio album
 released: 1973/01/05
 producer: Adrian Barber

  • Side one
    1. Make It
    2. Somebody
    3. Dream On
    4. One Way Street
  • Side two
    1. Mama Kin
    2. Write Me a Letter
    3. Movin' Out
    4. Walkin' the Dog

[comment]
 69年生まれの筆者にとって、70年代の Aerosmith は後追いであり、当時(80年代)の洋楽雑誌では必ず 3rd か 4th を名盤として取り上げるので、1st と 2nd は聴く回数が少なかった。
 それ故、この 1st の良さが分かったのは2000年代になってからだ。
 後に大ヒットする珠玉の名バラード "Dream On"、そして、ロックン・ロールの定番曲 "Mama Kin" の2曲がとりわけ有名だが、このアルバムの目玉はルーファス・トーマス のカヴァーでアルバムの最終曲 "Walkin' the Dog" だ。
 この "Walkin' the Dog"、60年代には the Rolling Stones もデビュー・アルバムの最終曲として収録し、80年代には Ratt もデビュー・アルバム(7曲入りEP)の最終曲として収録しているのだが、はっきり言って Aerosmith のカヴァーが圧倒的に優れている。
 その理由は簡単で、スティーヴン・タイラーの歌唱力が、他の追随を許さないほど群を抜いて素晴らしいからである。


Get Your Wings [飛べ!エアロスミス]

 2nd studio album
 released: 1974/03/15
 producer: Jack Douglas, Ray Colcord

  • Side one
    1. Same Old Song and Dance
    2. Lord of the Thighs
    3. Spaced
    4. Woman of the World
  • Side two
    1. S.O.S. (Too Bad)
    2. Train Kept A Rollin'
    3. Seasons of Wither
    4. Pandora's Box

[comment]
 アルバム・カヴァーが 1st に比べ、飛躍的にカッコ良くなった。
 しかし、1st 同様、やはり、この 2nd も Aerosmith を知った80年代当時は聴く回数が少なかった。
 "Train Kept A Rollin'" を聴くためのアルバムだと思っていた節があり、他の曲があまり耳に入ってこなかった。
 ところが、いつの間にか、"Same Old Song and Dance" の腰にくるヘヴィなミドル・テンポに引き込まれ、"Spaced" のプログレッシヴな曲構成でこのバンドの奥深さを知り、"Pandora's Box" のグルーヴィーなロックン・ロールにやられていたのである。
 このバンドのディスコグラフィでは少し地味な存在だが、筆者はこのアルバムでミドル・テンポ、そして、アフター・ビートのカッコ良さに気付かされた。
 捨て曲の無しの名盤である。


Toys in the Attic [闇夜のヘヴィ・ロック]

 3rd studio album
 released: 1975/04/08
 producer: Jack Douglas

  • Side one
    1. Toys in the Attic
    2. Uncle Salty
    3. Adam's Apple
    4. Walk This Way
    5. Big Ten Inch Record
  • Side two
    1. Sweet Emotion
    2. No More No More
    3. Round and Round
    4. You See Me Crying

[comment]
 言うまでもないが、ロック史に燦然と輝く不朽の名盤である。
 ここで一気にキャッチーになり、メジャー感が増した。
 80年代にヒップ・ホップ・グループの Run-DMC がカヴァーして大ヒットする "Walk This Way" は、これに収録されている。
 筆者は Run-DMC の "Walk This Way" を先に聴いている世代なのだが、この曲は Aerosmith のオリジナルからして、ヴォーカルが殆どラップなのである。
Aerosmith の音楽性は、ブルーズ、R&B、ファンク等、黒人音楽からの影響が大きいのだが、このアルバムは特にそれが顕著だ。
 アルバムのラストを飾る "You See Me Crying" は珠玉のバラードであり、80年代に隆盛を極めるグラム・メタル・バンドが書く殆どのバラードは、この曲からアイデアを拝借している。


Rocks [ロックス]

 4th studio album
 released: 1976/05/03
 producer: Jack Douglas, Aerosmith

  • Side one
    1. Back in the Saddle
    2. Last Child
    3. Rats in the Cellar
    4. Combination
  • Side two
    1. Sick as a Dog
    2. Nobody's Fault
    3. Get the Lead Out
    4. Lick and a Promise
    5. Home Tonight

[comment]
 前作に続き、これもロック史に燦然と輝く不朽の名盤であり、もし、Aerosmith の名盤を1枚だけ選べと言われたら、筆者はこれを挙げる。
 前作と双璧をなす名盤だがテイストはかなり異なり、このアルバムの方が圧倒的にヘヴィだ。
 そして、Aerosmithディスコグラフィで最もヘヴィなアルバムでもあり、前作の邦題に使われている「ヘヴィ・ロック」という言葉は、実はこのアルバムの方が似合っている。
 このヘヴィ・ロックの名盤が無ければ、後の Mötley Crüe、Ratt、Guns N' Roses、Skid Row あたりの音楽性は違ったものなっていただろう。
 "Home Tonight" は、アルバムのラストを飾に相応しい珠玉のバラードであり、スティーヴン・タイラーの最初の歌い出しだけで完全に持っていかれる名曲だ。
 筆者にとって、Aerosmith のバラードと言えば、有名な "Dream On" よりも、むしろこの "Home Tonight" なのである。


Draw the Line [ドロー・ザ・ライン]

 5th studio album
 released: 1977/12/09
 producer: Jack Douglas, Aerosmith

  • Side one
    1. Draw the Line
    2. I Wanna Know Why
    3. Critical Mass
    4. Get It Up
    5. Bright Light Fright
  • Side two
    1. Kings and Queens
    2. The Hand That Feeds
    3. Sight for Sore Eyes
    4. Milk Cow Blues

[comment]
 3rd と 4th が名盤として取り上げられることが多いのだが、それらに拮抗するくらい、この 5th も名盤だ。
 ただし、3rd ほどキャッチーではなく、4th ほどヘヴィでもない。
 これまでに施してきた装飾を外しており、Aerosmithディスコグラフィでは、最もプリミティヴなロックン・ロール・アルバムだ。
 ギタリストのジョー・ペリーが単独で書き、自ら歌う "Bright Light Fright" はガレージ・ロックのようだ。
 何故か、ジョー・ペリー以外のメンバー4人と、プロデューサーのジャック・ダグラスによって書かれたヘヴィなバラード "Kings and Queens" だけが浮いた感じがする。
ジョー・ペリーは、次の6thの完成前に脱退するのだが、"Bright Light Fright" と "Kings and Queens" の乖離に、その原因があったのではないだろうか?


Live! Bootleg [ライヴ・ブートレッグ]

 1st live album
 released: 1978/10/27
 producer: Jack Douglas, Aerosmith

  • Side one
    1. Back in the Saddle
    2. Sweet Emotion
    3. Lord of the Thighs
    4. Toys in the Attic
  • Side two
    1. Last Child
    2. Come Together
    3. Walk This Way
    4. Sick as a Dog
  • Side three
    1. Dream On
    2. Chip Away the Stone
    3. Sight for Sore Eyes
    4. Mama Kin
    5. S.O.S. (Too Bad)
  • Side four
    1. I Ain't Got You"
    2. Mother Popcorn
    3. Train Kept A-Rollin' / Strangers in the Night

[comment]
 全くもって紛らわしいタイトルだが、海賊盤(ブートレッグ)ではなく、正真正銘の正規盤である。
 ライヴ・アルバムだが、1つの公演を収録したものではなく、各曲をあちこちの公演から寄せ集めている。
 "Mother Popcorn" だけが73年の音源で、他は77~78年の音源だ。
 この時期の Aerosmith は極度のドラッグ中毒であり、演奏が荒すぎるため、ライヴ・アルバムとしては名盤とは言い難い。
 録音状態が悪いのだが、とても貴重な音源であり、当時の「危ういバンドの状態」を知るための資料としての価値は高い。
 しかし、Aerosmith のライブ・アルバムなら、彼らがクリーンになってからのタイトな演奏を収めた98年の A Little South of Sanity の方がお薦めだ。


Night in the Ruts [ナイト・イン・ザ・ラッツ]

 6th studio album
 released: 1979/11/16
 producer: Gary Lyons, Aerosmith

  • Side one
    1. No Surprize
    2. Chiquita
    3. Remember (Walking in the Sand)
    4. Cheese Cake
  • Side two
    1. Three Mile Smile
    2. Reefer Head Woman
    3. Bone to Bone (Coney Island White Fish Boy)
    4. Think About It
    5. Mia

[comment]
 失敗作扱いされることの多いアルバムだが、個人的には、そんなことはないと思っている。
 評価の低い理由は、9曲中3曲もカヴァー曲があるということと、レコーディングの終了前にジョー・ペリーが脱退してしまったからだろう。
 全体の 1/3 がカヴァー曲なので多すぎるように感じるが、the Beatlesのデビュー・アルバムは14曲中6曲がカヴァー曲だったし、the Rolling Stones のデビュー・アルバムは12曲中11曲がカヴァー曲だった。
 ただし、カヴァーの良さが目立つことは確かであり、the Shangri-Las の "Remember" は特に出来がいい。
 Jazz Gillum の "Reefer Head Woman" は古いブルーズがエアロ流のヘヴィ・ロックにアレンジされており、the Yardbirds の "Think About It" はスティーヴン・タイラーの歌の良さにより原曲を超えている。
 オリジナル曲では、スティーヴン・タイラーが、当時生まれたばかりの娘のために書いた美しいバラード "Mia" が素晴らしい。


~ 総括 ~

Aerosmith については、ロックを聴き始めた頃(82年、中1の頃)、音楽雑誌『ミュージック・ライフ』で、KISS、Queen と共に3大バンドと言われていたことを何となく知るようになったのだが、レコードを買って聴きたいとは思わなかった。

 いきなり話を逸らしてしまうが、Aerosmith というバンド名は造語なので Aerosmith だけで問題ないと思うのだが、KISS と Queen は the を付けなくても英語圏の人はバンド名として直ぐに解釈できるのだろうか?

 学生時代に習った程度の英語の知識では、KISS と Queen をバンド名にするには the が必要に思えるのだが...Queen は、かつて女王陛下のいた英国のバンドなので the を付けると、逆にややこしくなるのだろうか?

 世の中には the が必要そうなのに the の付いていないバンド名がけっこうあるので、バンド名に the が必要か否かの基準が、未だによく分からない...

Aerosmith に話を戻す。

 筆者が Aerosmith を聴きたくなったのは、80年代に大好きだったグラム・メタル(LAメタル)のバンド、Mötley Crüe や Ratt が音楽雑誌のインタビューで Aerosmith からの影響を語っていたからだ。

 そして、タイムリーなことに、当時、脱退していた二人のギタリスト、ジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードが Aerosmith に復帰して制作された Done with Mirrors がリリースされたので、期待して聴いてみたのだが1曲目の "Let the Music Do the Talking" 以外は地味だったので今一つピンとこなかったというのが正直な感想だった。

 その後、Guns N' Roses の登場により、彼らのルーツの1つである Aerosmith に再度注目が集まり、3rd の Toys in the Attic と 4th の Rocks が名盤であることを知ったので聴いてみたところ、完全に Aerosmith にド嵌りすることになった。

 たぶん、この2枚のアルバムを聴いた回数は、人生の中で間違いなく上位10枚に入ると思う。

 とにかく、この2枚のアルバムはスティーヴン・タイラーのヴォーカルが上手すぎる。

スティーヴン・タイラーは、自分の声をどのようにコントロールすれば、より一層、曲が良くなるのかを知り尽くしたシンガーなのである。

 これまでに生で聴いたことのあるシンガーの中でも、トップ・クラスの歌唱力だ。

 そして、当然、ジョー・ペリーもカッコいいギター・リフやソロを決めてくれるのだが、Aerosmith 独特の黒人音楽に根ざしたグルーヴを生み出しているのは、ブラッド・ウィットフォードのギターと、トム・ハミルトンのベースと、ジョーイ・クレイマーのドラムスだ。

 実は、アルバムのクレジットを見たり、ライヴを見たりすると、一捻りあるリードやソロはブラッド・ウィットフォードが弾いていたりする("Back in the Saddle"、"Last Child" 等)。

 ド派手なジョー・ペリーの陰に隠れてしまいがちだが、ブラッド・ウィットフォードは凄腕のギタリストだ。

 そして、Aerosmith の素晴らしさは、70年代のドラッグ漬けの生活を断ち切り、87年の Permanent Vacation 以降は心身ともにクリーンな状態で名盤を連発し、完全無欠のライヴ・バンドになったことである(一説によると、一時期、危ういメンバーもいたらしいのだが、それも過去の話となっている)。

 ドラッグとは、大切なものを失うばかりであり、得られるものは何も無く、創作活動への好影響も無く、良いロックを生み出すにはクリーンで健康であることが一番だということを Aerosmith は証明してくれた。

 これは、本当に素晴らしいことだと思う。