筆者がヒップ・ホップというジャンルの音楽を意識したのはRUN-DMC〔ラン・ディーエムシー〕の"Walk This Way"を聴いた時である。
言うまでもなくの"Walk This Way"はAEROSMITH〔エアロスミス〕の曲な訳だが、当時の筆者はAEROSMITHについては名前こそ知っていたものの、1970年代に活躍した大物バンドという認識があるくらいで、AEROSMITHのアルバムはまだ聴いたことが無い状態だった。
そんな状態で"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオを初めて見た時、強烈な衝撃を受けたことを今でもはっきりと憶えている。
何に対し強烈な衝撃を受けたのかと言えば、"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオにはSteven Tyler〔スティーヴン・タイラー〕とJoe Perry〔ジョー・ペリー〕がフューチャーされる形でRUN-DMCと共演していたのだが、RUN-DMCのメンバー3人の新しさに対し、Steven TylerとJoe Perryがとても古臭く見えたからである。
もちろん、RUN-DMCを知った後も、筆者が聴く音楽の中心がロックからヒップ・ホップに変わった訳ではなく、AEROSMITHが最高にカッコ良いロック・バンドであることに変わりは無い。
ただ、"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオを見た時に、「ロック・ミュージシャンがカッコ良いと思われる時代は終わるのかもしれない」と感じてしまい、一ロックファンとして何とも言えない危機感を覚えたのである。
今回取り上げたのは、その"Walk This Way"が収録されたRUN-DMCの3rdアルバム「RAISING HELL」である。
このアルバムを聴き始めた頃は、サンプリングや打ち込みでバックトラックを作るという技術的なことは全く知らず、単にMCがリズミカルにラップすることに、それまで聴いていた音楽とは全く違う新しさを感じていた。
そして、この「RAISING HELL」というアルバムを聴いて強く感じたのは、「この音楽は自分でやるのは無理だな」ということである。
当時の筆者はロック好きの友達とバンドの真似事をやり始めた時期なのだが、ロックは何とか頑張ってやってみようという気になれたのだが、ヒップ・ホップはやってみようという気になれなかったのである。
その後、1年ほどして"Walk This Way"のオリジナルが収録されているAEROSMITHの3rdアルバム「TOYS IN THE ATTIC」を聴いたのだが、筆者はここで再び衝撃を受けることになった。
何故ならオリジナルの"Walk This Way"という曲が、殆どラップそのものだったからである。