筆者のような1980年代からロックを聴き始めた者にとって、ヒップ・ホップというジャンルは避けて通り難い音楽である。
それ故、筆者も1980年代後半から1990年代前半にかけては結構な頻度でヒップ・ホップを好んで聴いていた。
ヒップ・ホップ系アーティストのアルバムを取り上げるのは#0283でPUBLIC ENEMY〔パブリック・エナミー〕の「IT TAKES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK」以来である。
今回取り上げているのはEric B. & Rakim〔エリックB&ラキム〕の1stアルバム「PAID IN FULL」だが、このアルバムはリリース当時、各方面から大絶賛されていた記憶がある。
そして、この記事を書いている2020年現在でも、その価値は全く失われていない。
筆者は基本的にロックを中心に音楽を聴いてきたリスナーなのでヒップ・ホップに関しては全くのド素人だが、確かにこの「PAID IN FULL」は今聴いても古さを感じることが無い。
既に述べたとおり、このアルバムは各方面から絶賛されていたので、たぶんリリースとほぼ同時に買ったと思うのだが、確かに初めて聴いた時は、それまでに聴いていたRUN-DMC〔ラン・ディーエムシー〕、BEASTIE BOYS〔ビースティ・ボーイズ〕PUBLIC ENEMYあたりと比べて、「今までとは何かが違うな」と感じる新しさがあった。
とにかく筆者はヒップ・ホップに関してはド素人なので上手く表現し難いのだが、所謂ヒップ・ホップで言うところの「フロウ(Flow)」に荒々しさがなく、レイドバックしており、リラックスして聴けるのである。
それでいて、よく聴いてみると絶妙に「パンチライン(Punchline)」が効いていて、聴いていると耳に残って仕方がないのである。
バック・トラックもジャジーと言うか、パーカッシヴと言うか、何とも言えない小洒落た雰囲気が漂っており、バック・トラックだけ取り出して聴いても成立しそうなのである。
もちろん、それまでに聴いていたRUN-DMC、BEASTIE BOYS、PUBLIC ENEMY等の荒々しいヒップ・ホップも変わらず好きで聴き続けたのだが、Eric B. & Rakimのレイドバックした醒めた炎のようなヒップ・ホップは、当時の筆者にとって何かとてつもなく新しいものに出会った感覚があった。
ヒップ・ホップの世界では、これ以降も新しいものが続々と登場するが、この「PAID IN FULL」がポピュラー音楽の歴史においてエポックメイキングな作品なのは間違いないのである。