筆者が初めて聴いたヒップ・ホップ・アーティストの曲はRUN-DMC〔ラン・ディーエムシー〕がAEROSMITH〔エアロスミス〕と共演した"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオ、および、それが収録されている彼らの3rdアルバム「RAISING HELL」だった。
その次に聴いたものとなる、これは間違いなくBEASTIE BOYS〔ビースティ・ボーイズ〕の1stアルバム「LICENSED TO ILL」だ。
ここまでははっきりと記憶にあるのだがRUN-DMC、BEASTIE BOYSの次となると、とたんに記憶が不明瞭になるのだが、たぶん今回取り上げているLL Cool J〔エルエル・クール・ジェイ〕の2ndアルバム「BIGGER AND DEFFER」なのではないかと思う。
RUN-DMCでピップ・ポップに興味を持ったものの、筆者の場合、ヒップ・ホップはロックの周辺の音楽としての興味であり、ロックからピップ・ポップに鞍替えすることはなかった。
つまり、筆者にとってのヒップ・ホップとは、ロック以外に聴いているブルース、R&B、ソウル、ファンク、ジャズ、フュージョンと同様、ロック周辺の刺激的なブラック・ミュージックの一つだったのである。
ただ、ヒップ・ホップを聴いた時は、それまでに聴いていた他のブラック・ミュージックとは明確に異なる感触があった。
「他のブラック・ミュージックとは明確に異なる感触」とは何かと言うと、「この音楽(ヒップ・ホップ)は今後のミュージック・シーンにおいて、ロックに取って代わる存在になるかもしれない」ということである。
そして、その嫌な予感は見事なまでに的中してしまったのである。
"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオに出演していたAEROSMITHのSteven Tyler〔スティーヴン・タイラー〕とJoe Perry〔ジョー・ペリー〕の二人がRUN-DMCの3人と一緒に写ると古臭く見えてしまったということをRUN-DMCを取り上げた時にも書いたのだが、その後、今回取り上げたLL Cool Jの2ndアルバム「BIGGER AND DEFFER」を聴いた時は、RUN-DMCの更に上を行くスタイリッシュな音楽とファッションに舌を巻いた記憶がある。
「BIGGER AND DEFFER」で聴けるLL Cool Jのラップはその名のとおりクールであり、彼のファッショナブルでセクシーなスタイルは新しい時代のスターとして十分な貫禄があった。
筆者はこのLL Cool J というアーティストを聴いた時、今後はヒップ・ホップのような、文字どおりヒップな音楽が隆盛を極めるであろうことを確信し、ロック・ファンとして大きな敗北感を味わったのである。