RAGE AGAINST THE MACHINE〔レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン〕やLIMP BIZKIT〔リンプ・ビズキット〕が売れたことにより1990年代にはラップ・メタルというジャンルが確立したが、そのルーツは何だろうかと考えた場合、やはり、スラッシュ・メタル・バンドのANTHRAX〔アンスラックス〕とヒップ・ホップ・グループのPUBLIC ENEMY〔パブリック・エナミー〕が共演し、1991年にリリースしたシングル"Bring The Noise"であると答えるのが妥当なのだろう。
筆者もこの"Bring The Noise"のミュージック・ヴィデオを初めて見た時はぶっ飛んだ記憶がある。
そもそも筆者はメタルとラップは最も融合し難い音楽だと思っていたので、それを見事にカッコ良く融合させているANTHRAXとPUBLIC ENEMYに驚かされたのである。
当時のANTHRAXは生きの良い若手バンドという感じだったが、今では(2020年)、METALLICA〔メタリカ〕、MEGADETH〔メガデス〕、SLAYER〔スレイヤー〕と並び、スラッシュ・メタル四天王と言われる大物バンドになった。
SLAYERはヒップ・ホップのようなトレンドに魅かれやすいANTHRAXを揶揄するように「四天王のツアーはANTHRAXを外してMACHINE HEAD〔マシーン・ヘッド〕を入れようぜ」と言っていたようだが、それを聞いたANTHRAXのScott Ian〔スコット・イアン〕は「俺たちみたいにニューヨークで生まれ育って音楽活動をしている人間はヒップ・ホップから影響を受けないなんて無理なんだよ」と言っていて、面白いなと思った。
筆者はあくまでもロック・ファンであり、最も多く聴く音楽はロックなのだが、ヒップ・ホップはロック周辺の刺激的な音楽として、どうしても避けて通れないと思っている。
上記の"Bring The Noise"のミュージック・ヴィデオを見てPUBLIC ENEMYに興味を持った筆者が、当時矢も楯もたまらず買いに走ったアルバムが今回取り上げているPUBLIC ENEMYの2ndアルバム「IT TAKES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK」だ。
ラップ/ヒップ・ホップは英語が理解できないとその面白みが分からないという説もあるが、PUBLIC ENEMYの音楽にはアフロアメリカンとして米国で生きる彼らのヒリヒリとした緊張感が漲っており、筆者はPUBLIC ENEMYこそがロック・ファンが最も入り易いヒップ・ホップ・グループだと思っている。
そう言えば、あの英国の国民的バンド、MANIC STREET PREACHERS〔マニック・ストリート・プリーチャーズ〕がデビュー当時、「現存するアーティストで好きなのはGUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕とPUBLIC ENEMYだけ」と言っていたことを今思い出した。