Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0150) I AM / Jill Jones 【2016年リリース】

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2000年を過ぎた頃から洋楽雑誌をあまり買わなくなった。


何故なら多くの情報をインターネットで集められるようになったからだ。


しかし、毎月、洋楽雑誌を数冊買いこんで、隅々まで読み尽くすような情報収集の仕方はインターネットではやらなくなった。


信憑性はともかく、インターネットには公開されている情報の量が多すぎて摘まみ食い的に拾っていくしかない。


そのせいか、好きなアーティストの情報をけっこう見逃すことがある。


1987年にリリースされたJill Jones〔ジル・ジョーンズ〕の1stアルバム「JILL JONES」が大好きだったのだが、

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このアルバムは商業的に成功しなかった。


当時の筆者はPrince〔プリンス〕を崇拝するほど彼の音楽にド嵌りしていたので、彼が楽曲提供するアーティストを片っ端から聴いていたのだが、中でも全ての曲をPrinceが提供したアルバム「JILL JONES」は、Princeのとびきりポップな曲だけを集めて可愛い女性シンガーに歌わせたような素晴らしい作品だった。


しかし、このアルバムは商業的に成功しなかったので、Jill Jonesというアーティストも既に消えたと思っていたのだが、最近、Amazon Music Unlimitedで彼女を検索してみたところ、2000年以降に僅かながらアルバムをリリースしていることが分った。


それも、わりと最近の2016年にアルバムをリリースしている(ちなみに現在は2019年)。


昔のように洋楽雑誌を読んでいたら、ひょっとすると、この情報をキャッチできていたのかもしれないが、インターネットの情報を摘み食いでするだけでは見つけられなかった。


今回取り上げたJill Jonesの「I AM」は、ソロ名義としては「JILL JONES」以来になるようだ。


「I AM」にはPrinceは絡んでいないのでPrinceテイストは無いのだが、ちょっと...と言うか、かなりチープな打ち込みのダンス・ポップをバックに歌うJill Jonesの声が良い。


1stアルバム「JILL JONES」以降、あまり表立った活動はしていなかったと思うのだが、彼女の歌声は全く衰えていない。


今後も表立った活動は期待できなさそうだが、10代の頃からPrinceに激推しされた大好きな女性シンガーに再会できた喜びは大きかった。

 

#0149) ANGEL DUST / FAITH NO MORE 【1992年リリース】

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FAITH NO MORE〔フェイス・ノー・モア〕というバンドは、3rdアルバム「THE REAL THING」に収録されている全米9位のヒット・シングル"Epic"がラップ・メタルの先駆けのような曲であるため、ラップ・メタルやファンク・メタルとしてカテゴライズされることが多い。


しかし、ラップやファンクだけがこのバンドの影響源ではなく、それら以外にも実に様々な音楽からの影響を内包しているのだが、複雑な音楽性を持ちながらも、不思議と難解な部分はなく、極めてキャッチーで解り易い楽曲を提供してくれるバンドだ。


今回取り上げた4thアルバム「ANGEL DUST」は、そんな彼らの多様な音楽性が最も理想的な形で昇華した傑作と言えるだろう。


彼らと同様に、ファンク・メタルにカテゴライズされながらも、実は一言では説明し切れない多様な音楽性を持つバンドとしては、JANE'S ADDICTION〔ジェーンズ・アディクション〕がいるのだが、FAITH NO MOREはJANE'S ADDICTIONに比べるとはるかに聴き易い音楽性を持つ。


昔(1990年代初頭)、筆者が当時の洋楽仲間にJANE'S ADDICTIONの傑作2ndアルバム「RITUAL DE LO HABITUAL」き聴かせると好き嫌いが真っ二つに分かれるのだが、FAITH NO MOREの「ANGEL DUST」を聴かせると好きになってくれる人の方が多かった。


JANE'S ADDICTIONを受け付けなかった人からは、大抵の場合、曲はカッコ良いと感じるが、Perry Farrell〔ペリー・ファレル〕の癖のあるヴォーカルに馴染めないと言われることが多かった。


それに比べると、FAITH NO MOREのMike Pattonマイク・パットン〕は、この手のファンク・メタル・バンドのヴォーカルとしては珍しいくらい王道のロック・シンガーであり、歌が上手いのでメタルでもラップでもバラードでも何でも器用に歌いこなす。


何しろ、あのLionel Richieライオネル・リッチー〕が書いたTHE COMMODORES〔ザ・コモドアーズ〕の名曲"Easy"を見事な美声で朗々と歌い上げてしまうのだからシンガーとしてのスキルはかなり高い。


そんな達者なシンガーと高水準の演奏技術を持つ楽器隊が渾然一体となって、複雑でありながらもポップな音をぶつけてくるのが、この「ANGEL DUST」というアルバムの凄さだ。


繰り返しになるが、Mike Pattonという人は実に歌の上手いシンガーだ。


しかし、そんな彼の歌の裏側に何とも言えない闇を感じてしまうところもこのバンドの面白さである。

 

#0148) IMMIGRANTS, EMIGRANTS AND ME / POWER OF DREAMS 【1990年リリース】

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以前、あまり売れなかったが個人的には大好きな英国のアーティストとして、 THE SEERS〔ザ・シアーズ〕ADORABLE〔アドラブル〕を取り上げたが、同じ時代(1990年代前半)のアイルランドにもそのようなアーティストがいた。


それは、POWER OF DREAMS〔パワー・オブ・ドリームズ〕というバンドであり、本日は彼らの1stアルバム「IMMIGRANTS, EMIGRANTS AND ME」を取り上げることにする。


2019年現在でPOWER OF DREAMSを知っている人など殆どいないのかもしれないし、このアルバムもロックの歴史において重要な作品ではない。


しかし、筆者はこのアルバムがリリースされた当時、毎日のように聴いていた。


POWER OF DREAMSというバンドは若くして結成されたバンドだ。


デビュー時のメンバー全員が10代であり、筆者にとっては自分より若いバンドなのである。


このバンドのどこがそれほど好きだったのかと言えば、彼らがインタビューで見せてくれたその攻撃的な姿勢である。


彼らにとっては祖国の英雄であるはずのU2〔ユートゥー〕を歯に衣着せぬ言葉で批判したり、メディアに対して「俺たちをアイリッシュ・ロックなんて呼ぶな」と言って安易なカテゴライズを拒否したりと言う具合に、巨大な力に立ち向かう10代の若者らしい姿が筆者にとっては美しく映ったのである。


きっと、U2のフォロワー扱いされたり、出身国だけで固定されたイメージを持たれたりすることが嫌だったのだろう。


そして、そんな彼らが奏でるのは、力強く、儚く、激しく、美しく、正に彼らの姿勢そのものが現されている偽りのない音だったのである。


新しさなんて無い、普通のインディー・ギター・ロックと言ってしまえばそれまでなのだが、このアルバムで聴ける音は、巨大な権力や社会の不公平さ、人を愛することの意味に対し、疑問や不安を感じる10代にしか作れない音である。


このアルバムに収録されている"100 Ways To Kill A Love"という曲はとても美しい曲なのだが、完全に大人になってしまった今の耳で聴くと、とても青臭く聴こえる。


そして、自分が大人になる過程で、現実社会に迎合するために捨ててしまったイノセントな心を思い出し、悲しい気分になるのである。

 

#0147) TOO FAST FOR LOVE / MOTLEY CRUE 【1981年リリース】

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1980年代に全米チャートを圧巻したグラム・メタル(当時の日本ではLAメタルと言っていた)において、その代表的なアーティストと言えば、やはりMOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕になるのではないだろうか。


このバンドの正式なバンド名はOとUにウムラウトが付いてMÖTLEY CRÜEとなる。


このバンドのリーダーでありベーシストのNikki Sixx〔ニッキー・シックス〕という人物は優れたソングライターであると共に、極めてイメージ戦略に長けたアーティストだ。


同じグラム・メタルにカテゴライズされているRATT〔ラット〕がアルバムのリリースを重ねても音楽性とバンド名のロゴを頑なに変えなかったのとは対照的に、MOTLEY CRUEはアルバムのリリース毎に音楽性と共にバンド名のロゴも変えていった。


グラム・メタルにおける音楽性とイメージのトレンドの変遷は、MOTLEY CRUEによって牽引されたと言えるだろう。


今回は、そんなグラム・メタルのトレンドセッターMOTLEY CRUEの原点とも言える彼らの1stアルバム「TOO FAST FOR LOVE」を取り上げることにする。


よく知られているように、このアルバムは自主製作された同名のアルバムを、Roy Thomas Baker〔ロイ・トーマス・ベイカー〕がリミックスし、ヴォーカルの一部を再録し、収録曲を全10曲から全9曲に減らし、曲順を変更し、メジャー・レーベルのエレクトラからリリースされたアルバムである。


メジャー・リリースされるにあたり外された曲は"Stick To Your Guns"なのだが、現在出回っているCDにはこの曲がボーナス・トラックとして収録されているので自主製作盤と同じ数の曲が揃っている。


筆者はCDから落としたMP3音源を自主製作盤と同じ曲順に並べ替えて聴いてみたのだが、曲順を変更したり、"Stick To Your Guns"を外したりする必要があったのかなと感じた。


自主製作盤は未聴なのだが、リミックスとヴォーカルの一部を再録するだけで十分だったような気がする。


ただ、いずれにせよ、Nikki Sixxによって書かれた収録曲のクオリティは凄まじい。


AEROSMITHエアロスミス〕から影響された重みのあるハード・ロックン・ロールをルーツに持ちつつも、パンクを通過した攻撃性、New Wave Of British Heavy Metalにインスパイアされた革新性を併せ持つ曲の数々は、明らかに1970年代までのバンドとは異なる新しい感触がある。


特に1曲目の"Live Wire"のインパクトが凄い。


キャッチーでありながらも突き刺さるギター・リフ、やたらと耳に残る歌メロは、もし、それがMOTLEY CRUEの曲と知らずに聴いたとしても必ず惹き付けられるはずだ。


所謂グラム・メタルにカテゴライズされているバンドの1stアルバムの1曲目としては、この"Live Wire"に太刀打ちできるのはGUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕の"Welcome To The Jungle"くらいしか思いつかない。


このアルバムは、この時期のグラム・メタルのアルバムとしては完成形であるため、MOTLEY CRUEはこのスタイルをこの一作でバッサリと捨て、次作ではバンド史上最もヘヴィ・メタルなアルバム「SHOUT AT THE DEVIL」を制作する。

 

#0146) RUMBLE / TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERS 【1988年リリース】

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これは間違いなく大物になると睨んだ新人アーティストが、思いのほか評価されることなく失速していくことがある。


自分の目が節穴だったのか、或いは、ショービジネスとは実力だけで成功を掴み取れるような世界ではないのか?


筆者は、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERS〔トミー・コンウェル&ザ・ヤング・ランブラーズ〕が登場した時、「これは、Bruce Springsteenブルース・スプリングスティーン〕やTom Pettyトム・ペティ〕クラスの大物になるぞ」と睨んだ。


今回は、米国フィラデルフィア出身、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERSの2ndアルバムにしてメジャー・デビュー・アルバムである「RUMBLE」を取り上げる。


既に述べたとおり、筆者はこのアルバムがリリースされた時、Tommy Conwell〔トミー・コンウェル〕こそは将来のハートランド・ロックの担い手となるビッグ・スターだと感じ、周りの洋楽仲間にも聴かせたのだが、彼らからの反応も概ね上々だった(ただし、当時はハートランド・ロックというジャンル名は無かったと記憶している)。


「RUMBLE」に収録されている曲の多くは、特に新しさなんてまるで無い8ビートの効いた普通のロックン・ロールで、歌詞も地方都市の若者の心情を歌った素朴なものなのだが、こういうアーティストは、曲が良ければ米国では大抵受けるのである。


先ほど、「新しさなんてまるで無い」と書いたが、Tommy Conwellのヴィジュアルは新しかった。


明らかにパンクを通過した彼のヴィジュアルは、新しい世代のロックン・ローラーの息吹を感じさせ、少しかすれ気味の声で歌われる曲と共にヴィジュアルも完璧だったのである。


ところが全米チャートでの結果は芳しいものではなく、このアルバムに収録されているシングルの"I'm Not Your Man"は74位、"If We Never Meet Again"は48位という具合に、トップ40に入らなかったのである。


ちなみにアルバム「RUMBLE」も103位である。


メジャー・レーベルからデビューした新人アーティストが出した結果としては、それほど悪くは無いのかもしれないが、ちょっと期待外れの感は否めない。


しかし、Bruce Springsteenも本格的にブレイクしたのは3rdアルバム「BORN TO RUN」からなので、Tommy Conwellもこれから徐々にブレイクしていくのだろうと思っていたところ、次作の「GUITAR TROUBLE」や、そこからカットしたシングルは全米チャートに入ることもなく、その後は徐々にフェード・アウトし、バンドは解散となる。


しかし、いまだにこのアルバムが何故、全米でヒットしなかったのか分からない。


収録曲のクオリティが高く、しかし、マニアックに渋くなることもなく、適度にキャッチーであり、この手の(ハートランドロック系)のアーティストのメジャー・デビュー作としては完璧だった。


一つ弊害があったとするなら、この時期の米国はグラム・メタルがチャートの上位を占めることが多く、その波が去った後はグランジ・ロックが台頭し始めるので、そんな時代にあって、TOMMY CONWELL & THE YOUNG RUMBLERSの何の変哲もないロックン・ロールは少々地味に映ってしまったのかもしれない。