1980年代に全米チャートを圧巻したグラム・メタル(当時の日本ではLAメタルと言っていた)において、その代表的なアーティストと言えば、やはりMOTLEY CRUE〔モトリー・クルー〕になるのではないだろうか。
このバンドの正式なバンド名はOとUにウムラウトが付いてMÖTLEY CRÜEとなる。
このバンドのリーダーでありベーシストのNikki Sixx〔ニッキー・シックス〕という人物は優れたソングライターであると共に、極めてイメージ戦略に長けたアーティストだ。
同じグラム・メタルにカテゴライズされているRATT〔ラット〕がアルバムのリリースを重ねても音楽性とバンド名のロゴを頑なに変えなかったのとは対照的に、MOTLEY CRUEはアルバムのリリース毎に音楽性と共にバンド名のロゴも変えていった。
グラム・メタルにおける音楽性とイメージのトレンドの変遷は、MOTLEY CRUEによって牽引されたと言えるだろう。
今回は、そんなグラム・メタルのトレンドセッターMOTLEY CRUEの原点とも言える彼らの1stアルバム「TOO FAST FOR LOVE」を取り上げることにする。
よく知られているように、このアルバムは自主製作された同名のアルバムを、Roy Thomas Baker〔ロイ・トーマス・ベイカー〕がリミックスし、ヴォーカルの一部を再録し、収録曲を全10曲から全9曲に減らし、曲順を変更し、メジャー・レーベルのエレクトラからリリースされたアルバムである。
メジャー・リリースされるにあたり外された曲は"Stick To Your Guns"なのだが、現在出回っているCDにはこの曲がボーナス・トラックとして収録されているので自主製作盤と同じ数の曲が揃っている。
筆者はCDから落としたMP3音源を自主製作盤と同じ曲順に並べ替えて聴いてみたのだが、曲順を変更したり、"Stick To Your Guns"を外したりする必要があったのかなと感じた。
自主製作盤は未聴なのだが、リミックスとヴォーカルの一部を再録するだけで十分だったような気がする。
ただ、いずれにせよ、Nikki Sixxによって書かれた収録曲のクオリティは凄まじい。
AEROSMITH〔エアロスミス〕から影響された重みのあるハード・ロックン・ロールをルーツに持ちつつも、パンクを通過した攻撃性、New Wave Of British Heavy Metalにインスパイアされた革新性を併せ持つ曲の数々は、明らかに1970年代までのバンドとは異なる新しい感触がある。
キャッチーでありながらも突き刺さるギター・リフ、やたらと耳に残る歌メロは、もし、それがMOTLEY CRUEの曲と知らずに聴いたとしても必ず惹き付けられるはずだ。
所謂グラム・メタルにカテゴライズされているバンドの1stアルバムの1曲目としては、この"Live Wire"に太刀打ちできるのはGUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕の"Welcome To The Jungle"くらいしか思いつかない。
このアルバムは、この時期のグラム・メタルのアルバムとしては完成形であるため、MOTLEY CRUEはこのスタイルをこの一作でバッサリと捨て、次作ではバンド史上最もヘヴィ・メタルなアルバム「SHOUT AT THE DEVIL」を制作する。