米国のグラム・メタル・バンドであるWINGER〔ウィンガー〕が1988年にリリースしたセルフタイトルのデビュー・アルバムを聴いた時の印象は「洗練されとるなぁ」だった。
WINGERと同じ時期の米国のグラム・メタルとしては、前年の1987年にはGUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕、FASTER PUSSYCAT〔ファスター・プッシーキャット〕、同年の1988年にはL.A. GUNS〔エルエー・ガンズ〕、CIRCUS OF POWER〔サーカス・オブ・パワー〕等がデビュー・アルバムをリリースしている。
当時の筆者はこういったロックン・ロール色の強いバンドを好んで追いかけていたのでWINGERのように洗練されていて、ちょっとプログレッシヴな要素も持つポップ・メタルの音は新鮮に聴こえたものである。
WINGERは、Alice Cooper〔アリス・クーパー〕のバンドにいたKip Winger〔キップ・ウィンガー〕(vocals & bass)とPaul Taylor〔ポール・テイラー〕(keyboards)、Eric Clapton〔エリック・クラプトン〕やBob Dylan〔ボブ・ディラン〕等多くの大物ミュージシャンとの仕事で知られるセッション・ギタリストのReb Beach〔レブ・ビーチ〕(guitar)、ジャズ・ロック・バンドDIXIE DREGS〔ディキシー・ドレッグス〕のベテラン・ドラマーRod Morgenstein〔ロッド・モーゲンスタイン〕(drums)という、錚々たるメンバーで構成されていたためデビュー時の注目は大きかった。
Kip Wingerはクラシックにも精通していて、交響曲やヴァイオリン協奏曲も書いてしまうほど音楽的教養の高い人なので、1stアルバムの「WINGER」は楽曲やアレンジの完成度の高さが新人ロック・バンドのデビュー作という域を遥かに超えており、筆者もこの文章の冒頭で一応グラム・メタルというジャンル名を使ってはいるが、とてもそれだけに納まりきれる内容のアルバムではなかった。
ただし、1stアルバム「WINGER」にはJimi Hendrix〔ジミ・ヘンドリックス〕の"Purple Haze"のカヴァーが収録されており、それがアルバム全体の雰囲気をと合っていないため、途中で一瞬だけガクッとなる瞬間があるのが残念だった。
これは「いなかる名曲でも使いどころを間違うと失敗しますよ」というお手本である。
今回取り上げている2ndアルバムの「IN THE HEART OF THE YOUNG」は全てがオリジナル曲となった完全無欠のWINGERの最高傑作である。
「非の打ち所がない」とは、まさにこのアルバムのことであり、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルというジャンルを超越した、20世紀におけるポピュラー・ミュージックの金字塔と呼ぶべきアルバムなのである。