Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0082) CLOSE TO THE EDGE / YES 【1972年リリース】

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1970年代に名盤と言われるアルバムを数多く制作していたアーティストが1980年代になってMTVを意識すると、どうにも今一つ刺激の無いアルバムを制作してしまうことがある。


例えば、筆者にとってのそれはDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕だったりStevie Wonderスティーヴィー・ワンダー〕だったりするのだが、英国のプログレッシヴ・ロック・バンドYES〔イエス〕もそんなアーティストの一つである。


筆者が洋楽初心者の頃、1983年にリリースされたYESのアルバム「90125」が大ヒットしており、同アルバム収録のシングル"Owner Of A Lonely Heart"を色々な洋楽番組で耳にすることも多かったのだが、同時代に英国から登場してきたポストパンクの若手アーティストの音と比べると、どうにも刺激の無いポップ・ソングに聴こえて仕方がなかった。


ただし、洋楽雑誌で過去の名盤特集的な記事があると、4thアルバム「FRAGILE」か5thアルバム「CLOSE TO THE EDGE」のどちらかが必ず掲載されていたバンドなので、これらのアルバムをいつかは聴きたと思っていた。


聴く機会はその数年後、高校生になってアルバイトを始めてから訪れた。


アルバイト先で出会った2歳年上でプログレッシヴ・ロックへの造詣が深いU君が(正確に言うと彼の兄が)、今回取り上げた「CLOSE TO THE EDGE」を貸してくれたのだ。


このアルバムを手に取って驚いたのは収録曲の少なさである。


全三曲。


A面が"Close to the Edge"一曲のみ、B面が"And You And I"と"Siberian Khatru"の二曲のみなのだが、この三曲の濃さが凄かった。


耳から入ってきて体に浸透していく音の濃さが"Owner Of A Lonely Heart"と桁違いだったのである。


楽器担当メンバーの超絶的な演奏技術も当然のことながら聴きどころなのだが、YESの醍醐味はJon Anderson〔ジョン・アンダーソン〕の天空を駆け巡るようなヴォーカルだろう。


神々しくも美しいハイトーン・ヴォイスで歌われる彼のヴォーカル無しではYESというバンドの音楽は成立しないはずだ。


筆者はこのアルバムを聴いて、バンドのシンガー、特に楽器を持たないシンガーは、声そのものに魅力が無いと成立し得ないことを知ることが出来たのである。

 

#0081) THE SMOKE OF HELL / THE SUPERSUCKERS 【1992年リリース】

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THE SUPERSUCKERS〔ザ・スーパーサッカーズ〕のWebサイトにアクセスすると『The greatest rock'n'roll band in the world』という文字が目に飛び込んでくる。


そして、MOTORHEADモーターヘッド〕のLemmy〔レミー〕が贈った『If you don't like the Supersuckers, you don't like rock'n'roll!』という言葉に気付く。


少々、持ち上げすぎのような気もするが解らなくもない。


THE SUPERSUCKERSというバンドには、「ロックン・ロールが好きならこのバンドの良さが解るよな」と訊いて、相手を頷かせたくなるような説得力がある。


もちろん、筆者も、「Yes」と答えるだろう。


余談だが、このバンドはバンド名に定冠詞のTHEを付けたり付けなかったりするのでバンド名を書く時に記述の仕方で迷ってしまう。


今回取り上げた1stアルバムの「THE SMOKE OF HELL」はグランジの名門レーベルであるサブ・ポップからリリースされている。


それ故、筆者も1990年代初頭に勃発したグランジ・ムーヴメントに嵌っていた頃、その手のバンドだと思ってこのアルバムを買ったのだが、グランジらしい陰鬱さが全く無く、肩透かしを食らった記憶がある。


それでこのアルバムにがっかりしたのかと言えばそんなことはなく、むしろ、良い意味でひねりの無いそのストレートなロックン・ロールは嬉しい不意打ちであり、直ぐにヘヴィー・ローテーションの愛聴盤となった。


このアルバムを聴く限り、MOTORHEADRAMONESラモーンズ〕がこのバンドの2大影響源だと予想できるのだが、このバンドの特徴を決定付けているのは、彼らの出身地であるアリゾナの砂漠を連想させるようなカラカラに乾いた砂漠感だろう。


聴いていると喉が渇いてきそうなくらい、湿ったところがまるで無い。


そして、動画サイトが普及してからこのバンドの動く姿を観れたのだが、ヴォーカル&ベースのEddie Spaghetti〔エディ・スパゲッティ〕がそのふざけた名前に反して、ベースを弾く佇まいと言い、歌い方と言い、めったやたらとカッコ良いのである。


歌うベーシストとしては、ポール・マッカートニーPaul McCartney〕は殿堂入りにするとして、筆者の中ではTHIN LIZZYシン・リジィ〕のPhil Lynott〔フィル・ライノット〕、MOTORHEAD のLemmyに匹敵する存在だ。

 

#0080) LIFE / THE CARDIGANS 【1995年リリース】

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スウェーデンを代表するアーティストと言えば、筆者の場合、先ず思い浮かぶのはABBAだ。


しかし、今回取り上げるTHE CARDIGANS〔ザ・カーディガンズ〕もそれに匹敵するくらいの存在だと言っても言い過ぎではないだろう。


筆者にとってもTHE CARDIGANS は1990年代の一時期、かなりお気に入りのバンドだった。


このバンドに関してはスウェディッシュ・ポップとか渋谷系とか、ちょっと小洒落たイメージがあるが、シンガーのNina Persson〔ニーナ・パーション〕がBACKYARD BABIES〔バックヤード・ベイビー〕やMANIC STREET PREACHERSマニック・ストリート・プリーチャーズ〕の曲に参加していたり、ギタリストのPeter Svensson〔ピーター・スヴェンソン〕とベーシストのMagnus Sveningsson〔マグナス・スヴェニンソン〕が元々はヘヴィ・メタル・バンドをやっていたりと、なかなかどうして、ロック・スピリットを感じさせてくれるエピソードを持っていたりする。


しかし、THE CARDIGANSの曲は春風のように爽やかで、お洒落で、ハイセンスで、メンバーが本来持っている音楽的資質とは別のことを実に器用にやっていて、彼らのアルバムを聴く度に、「プロフェッショナルなバンドだな」と感心させられる。


まぁ、ビジネスでやっているわけではなく、THE CARDIGANSでやっている音楽も彼らの音楽的資質の一つだとは思うのだが、それにしても器用なバンドである。


特に今回取り上げた2ndアルバムの「LIFE」は日本でも大ヒットしていたし、普段は洋楽を聴かなさそうなリスナー層まで巻き込んでいたように記憶している。


特にアルバムのオープニングを飾る"Carnival"の完成度が凄すぎる。


筆者の場合、とにかく"Carnival"が聴きたくてこのアルバムを再生するのだが、"Carnival"が終わっても、続く2曲目以降もハイ・クオリティなポップ・ソングの連続であり、そもそも"Carnival"が聴きたくてこのアルバムの再生を始めたことを忘れさせられている。


そして、結局のところ、いつも最後までこのアルバムを聴くことに没頭させられてしまうのである。


曲もよく出来ているのだが、Nina Perssonのビロードのような滑らかな声が素晴らしく、実に中毒性の高い声質であり、彼女の声がこのアルバムをリピートしたくなる要因でもある。


実によく出来たアルバムだ。

 

#0079) COME ON FEEL THE LEMONHEADS / THE LEMONHEADS 【1993年リリース】

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THE LEMONHEADS〔ザ・レモンヘッズ〕は3rdアルバム「LICK」の頃まではバンドとしての体裁を成していたが、今回取り上げる6thアルバム「COME ON FEEL THE LEMONHEADS」の頃にはEvan Dando〔イヴァン・ダンド〕のソロ・プロジェクトに限りなく近い状態になっている。


本音を言うと筆者は「バンド名を名乗っているのに実質はソロ・プロジェクト」のようなアーティストが好きではない。


それならもうソロ名義で作品をリリースした方が潔いのではないかと思う。


つまり、THE LEMONHEADSもその一つなのである。


ある特定のメンバーが曲作りでイニシアチブを取るのはありだと思うし、バンドとは大抵そうなるものであるが、やはり他のメンバーも個性的で魅力溢れる人達の方がバンドは面白くなる。


THE BEATLESザ・ビートルズ〕なんて、その最も顕著な例だ。


と、長々と書いてしまったが、THE LEMONHEADSの場合、Evan Dandoの書く曲がたまらなく好きで、どうしても聴いてしまうのである。


Evan Dandoはオルタナティヴ・ロックの世界ではダントツにルックスが良く、アイドル性の高い人物なのだが、彼の人間としてのヘタレっぷりが凄い。


そのヘタレっぷりはLast.fmなど様々なWebページで確認できるのでここでは掘り下げないが、とにかく、やることなすことの全てがダメダメなのである。


そして、この「COME ON FEEL THE LEMONHEADS」とは、そんなEvan Dandoのヘタレっぷりが良い感じで全開になったアルバムなのである。


先ずとろけるようなメロディの甘さが良い。


リズムだって、けしてタイトではないのだが、そこがまた良い。


何よりもアルバム全体に漂う生ぬるい感じが良い。


この時代(1990年代前半)のオルタナティヴ・ロックは殺伐とした空気感を漂わせるバンドが多かったが、THE LEMONHEADS、と言うより、Evan Dandoの書く曲にはそういった空気感はまるで無い。


オルタナの申し子のようなバンドとして捉えられることも多い存在だが、この時代にあってこの緩さは逆に異色でもある。

 

#0078) THE PROGRAM / MARION 【1998年リリース】

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#0068でMANSUN〔マンサン〕の1stアルバム「ATTACK OF THE GREY LANTERN」を取り上げた時に、「今(2018年現在)でも聴くブリットポップのアーティストはGENE〔ジーン〕、MARION〔マリオン〕、MANSUNくらいだ」と書いたので、今日はその中の一つ、MARIONの2ndアルバム「THE PROGRAM」を取り上げてみる。


MARIONはブリットポップのオピニオン・リーダーとも言えるOASIS〔オアシス〕と同じマンチェスター出身のバンドだが、その知名度となるとOASISとは比べようもないくらい低い。


この世代のマンチェスター出身のバンドにしては異例とも言えるほどTHE STONE ROSESザ・ストーン・ローゼズ〕からの影響を感じさせないバンドだ。


むしろ、彼らの音楽的ルーツは同じマンチェスター出身のバンドでも、THE STONE ROSESのようなマッドチェスターではなく、JOY DIVISIONジョイ・ディヴィジョン〕やTHE SMITHSザ・スミス〕のようなポストパンク~ニュー・ウェーヴにある。


これは筆者の想像ではなく、何かの雑誌のインタビューでMARIONのシンガーJaime Harding〔ジェイミー・ハーディング〕が言っているのを読んだことがある。


ブリットポップにはマッドチェスターが持っていた外側に向かう享楽的な要素が引き継がれているが、MARIONにはそういう要素が皆無であり、むしろ内側に向かう美意識を研ぎ澄ませる傾向が強い。


1stアルバム「THIS WORLD AND BODY」は粗削りながらも自らのロマンティシズムを貫き通した名盤だったが、今回取り上げた2ndアルバム「THE PROGRAM」はそのロマンティシズムを更に昇華させた大傑作となっている。


Jaime Hardingの狂おしく歌い上げるヴォーカルとポストパンク~ニュー・ウェーヴからの影響を隠そうとしないプリミティヴな輝きを放つ楽曲が収録されたこのアルバムは、1980年代初期にUKロックで洋楽に嵌った筆者のようなリスナーにとっては垂涎の一枚となっている。


これは元々MARIONというバンドが持っていた資質だと思うのだが、このアルバムは元THE SMITHSザ・スミス〕のJohnny Marr〔ジョニー・マー〕がプロデュースを手掛けているので、彼によって引き出されている部分も少なからずあるのだろう。


実はMARIONが持つこのロマンティシズムは冒頭に書いたGENEとMANSUNにも通ずるものであり、それがこれらのバンドのCDをいまだに筆者が聴き続ける理由なのである。