Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0199) NOW I GOT WORRY / THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION 【1996年リリース】

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#0197でPANTERA〔パンテラ〕の「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を取り上げた時に、「アルバム冒頭のけたたましいドラムと雄叫びにやられた」と書いたが、今回取り上げたTHE JON SPENCER BLUES EXPLOSION〔ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン〕(以下、JSBX)の5thアルバム「NOW I GOT WORRY」も冒頭でけたたましい雄叫びが聴けるアルバムだ。


今、改めて気付いたのだが、この2枚のアルバムは同じ年(1996年)にリリースされている。


筆者は1990年代後半から一時的にロックへの興味をじわじわと失い始めたのだが、PANTERAの「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」とJSBXの「NOW I GOT WORRY」の2枚は毎日のように聴いていた記憶がある。


JSBXというバンドは、Jon Spencer〔ジョン・スペンサー〕(vocals, guitar)、Judah Bauer〔ジュダ・バウワー〕(guitar, vocals)、Russell Simins〔ラッセル・シミンズ〕(drums)という3人によるベースレスのバンドだ。


Jon SpencerがJSBX結成以前にやっていたPUSSY GALORE〔プッシー・ガロア〕もベースレスのバンドであり、どうもこの人はベースレスへの強い拘りを持っていそうな気がする。


筆者は、ベースという楽器は、ロック・バンドにおいて、実はギターよりも重要な楽器だと思っているので、ベースレスというバンド編成への拘りが不思議で仕方がない。


この件について、Jon Spencerからその拘りへの理由を聞いてみたいと思っているのだが、Jon Spencerがこの件について洋楽雑誌のインタビュー記事で何かを語っているのを読んだ記憶が無い。


さて、今回取り上げた「NOW I GOT WORRY」はJSBXの代表作と呼べるアルバムなのだろうか?


JSBXの代表作と言うと、当時のロック・シーンに衝撃を与えた前作「ORANGE」のような気がするが、アルバムとしての完成度は「NOW I GOT WORRY」の方が上なのではないだろうか。


このアルバムは、パンクを通過した世代が生み出した非常に優秀なブルース・ロックン・ロール・アルバムだ。


古いようでいて新しく、新しいようでいて古いこのバンドの音はパンク・ブルースというジャンルにカテゴライズされるそうなのだが、成るほど言い得て妙なネーミングである。


男子とは、得てしてカッコ良いものに惹かれる性があると思うのだが、JSBXというバンドはとにかくカッコ良いので男子にとっては看過することの出来ないバンドなのである。

 

#0198) A CAR CRASH IN THE BLUE / ATOMIC SWING 【1993年リリース】

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スウェーデンは、英語を母国語としていない国の中で、最も高い英語力を持っているらしい(そもそも北欧の国々は英語力が高い)。


スウェーデンに限らず北欧の国々は人口が少ないため、その市場が限られており、国内だけでなく世界を市場としたグローバル・ビジネスを国家政策として展開する必要があり、それが高い英語教育に繋がった。


その高い英語教育は音楽産業でも結果が出ており、スウェーデンからはABBA〔アバ〕、EUROPE〔ヨーロッパ〕、THE CARDIGANS〔ザ・カーディガンズ〕等、歌詞を英語で作詞するアーティストが多く、英国や米国でも大きな人気を獲得するアーティストが多い。


特に1990年代以降はスウェーデンから登場するアーティストが急激に増え、最早、スウェーデン出身のアーティストは英語で歌うのが当たり前となり、スウェーデンの母国語が英語であるかのごとく錯覚してしまう時がある。


スウェーデンから登場したアーティストの作品で、筆者が最も衝撃を受けたのは、今回取り上げたATOMIC SWING〔アトミック・スウィング〕の1stアルバム「A CAR CRASH IN THE BLUE」だ。


このアルバムは、洋楽雑誌rockin'onの新譜紹介で高い評価を得ていたので気になっていたのだが、何となく買うのを躊躇していた。


ところが、一時期、一緒にバンドをやっていたT君の家に久しぶりに遊びにいった時に、彼は「A CAR CRASH IN THE BLUE」を買っており、幸運にもこのアルバムを聴かせてもらうことが出来たのである。


そして、こういう言い方はATOMIC SWINGに対し、失礼になるかもしれないが、当時、今ほどロックの先進国ではなかったスウェーデンから出てきた新人のデビュー・アルバムとは思えないその完成度の高さに筆者は完全にやられてしまったのである。


ATOMIC SWINGというバンドの音楽的影響源は未だによく分からないのだが、このアルバムで聴ける音を例えるなら、「ロック大学院でロックの歴史の修士課程を修めた後、ロックの博士号を取得した人が創ったような音楽」と言えば分って頂けるだろうか。


スウェーデンのアーティストには多かれ少なかれそういう部分があるのだが、ATOMIC SWINGはその性質が極端に出ているような気がする。


カセットテープに録音してくれるというT君の有難い申し入れを断り、彼の家から帰る途中でCDショップに立ち寄った筆者は、迷うことなくこのアルバムを購入したのである。

 

#0197) THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL / PANTERA 【1996年リリース】

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今回は、PANTERA〔パンテラ〕の8thアルバム「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を取り上げるが、PANTERAで「この一枚」という時にこれを選ぶ人は少ないのではないだろうか。


ちなみに、PANTERAのオフィシャル・サイトではインディー・レーベルからリリースされた1stから4thまでのアルバムは無かったことにされていて、メジャー・レーベルのAtcoからリリースされた通算では5thアルバムにあたる「COWBOYS FROM HELL」が1stアルバムという扱いになっている。


上記のようなバンド側の意向に従うなら、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」は4thアルバムということになる。


細かい話はこれくらいにするとして、PANTERAで「この一枚」と言えば、6thアルバム(バンド側の意向に従うなら2ndアルバム)の「VULGAR DISPLAY OF POWER」を選ぶのが普通だろう。


はっきり言って、ベスト盤を聴くより「VULGAR DISPLAY OF POWER」を聴いた方がPANTERAというバンドの本質が分かると思う。


筆者も初めて「VULGAR DISPLAY OF POWER」を聴いた時は衝撃を受けた。


スラッシュ・メタルと言われれば確かにその要素もあるのだが、ずるずると深みに引きずり込まれるような重いグルーヴは、それまでに聴いたことのない音であり、同じ年(1992年)にリリースされてHELMET〔ヘルメット〕の「MEANTIME」と共に愛聴した作品だった。


ただし、今回、そんな「VULGAR DISPLAY OF POWER」ではなく、あえて、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を取り上げたのは、やはり、筆者のこのアルバムに対する思い入れが深いからだ。


「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」を初めてCDプレイヤーで再生した時、けたたましいドラムの連打と、雄叫びと言った方がいいであろうヴォーカルに驚き、焦ってヴォリュームを落とした。


そして、「メタルは、まだ大丈夫だ」と思ったのである。


1991年にリリースされたNIRVANAニルヴァーナ〕の「NEVERMIND」により、グランジ/オルタナティヴ・ロックの人気が爆発し、1990年年代のメタル・シーンは焼け野原になっていた。


正直なところ、筆者自身もグランジ/オルタナに嵌っていたので、こんなこと言うのは気が引けるのだが、とにかくヘヴィ・メタルにとって苦難の時代に、「THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL」の出だしのドラムと雄叫びを聴いた瞬間、「メタルは、まだ大丈夫だ」と思えたのである。

 

#0196) HEARTS OF STONE / SOUTHSIDE JOHNNY & THE ASBURY JUKES 【1978年リリース】

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ハートランド・ロックというジャンルにカテゴライズされるアーティストの作品の中で筆者が最初に聴いたのは、中学の同級生だったI君から借りたBruce Springsteenブルース・スプリングスティーン〕の「BORN IN THE U.S.A.」だ。


この「BORN IN THE U.S.A.」でBruce Springsteenに興味を持ち、その後はボスの旧譜をレンタル・レコード店で借りたり、輸入レコード店で買ったりという具合に、いつの間にかハートランド・ロックに傾倒していった。


筆者がロックを聴き始めた頃(1980年代初期)、ハートランド・ロックというジャンル名は無かったような気がする。


heartland」とは「中心地」という意味であり、確かにソウルやR&Bからの影響を強く感じさせる米国らしさの際立ったこのジャンルの音にピッタリな名前だなと思う。


このハートランド・ロックというジャンル名が最もよく似合うアーティストは誰だろうか?


そんなものは人それぞれだと思うのだが、筆者の中ではSouthside Johnny〔サウスサイド・ジョニー〕が最もハートランド・ロックというジャンル名が似合うのではないかと思っている。


今回は、そんなSouthside Johnnyが率いるSOUTHSIDE JOHNNY & THE ASBURY JUKES〔サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークス〕の3rdアルバム「HEARTS OF STONE」を取り上げることにする。


筆者の中でのSouthside Johnnyというアーティストは「歌手」という印象が強い。


この「HEARTS OF STONE」には9曲収録されているが、Southside Johnnyが作曲に名を連ねているのは1曲のみであり、他の曲は同郷ニュージャージーの盟友であるBruce Springsteen とLittle Steven〔リトル・スティーヴン〕からの提供曲だ(Little Stevenはマサチューセッツ生れだが、心はニュージャージーにあると言えるだろう)。


THE BEATLESザ・ビートルズ〕の登場以降、自作自演がロック・ミュージシャンのルールのようになってしまった感があるが、他人から提供された曲を自分のものにして歌い上げるというのも立派な芸である。


ニュージャージーという都市に育まれたボスやLittle Stevenが描く曲を、同じニュージャージーという都市に育まれたSouthside Johnnyという歌手が歌い上げる、このアルバムを聴いていると、そんな男の友情が心に沁み込んでくるのだ。


「男の友情」なんてダサいと言われたって、「だからどうした」と言いたくなるのである。

 

#0195) AMERICAN BEAUTY / GRATEFUL DEAD 【1970年リリース】

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1980年代初期から洋楽ロックを聴き始めた筆者は主にその時代に活動していたアーティストのレコードの新譜を聴いていたのだが(ざっくり言うとニュー・ウェイヴやヘヴィ・メタルが多かった)、数年後の1980年代中期になると時代を遡って1960年代から1970年代初期の旧譜を積極的に聴くようになっていた。


そのような旧譜はレンタル・レコード店では見つからないことも多かったので、大抵の場合は街の輸入レコード店をハシゴして探し出していた。


今回取り上げたGRATEFUL DEADグレイトフル・デッド〕の5thアルバム「AMERICAN BEAUTY」も上記のように輸入レコード店で購入した一枚だ。


30年以上も昔のことなのだが、確か、このアルバムはMOTT THE HOOPLE〔モット・ザ・フープル〕の1stと一緒に買ったことを鮮明に憶えている。


GRATEFUL DEADというバンド名がチベット仏教の経典などに由来する「感謝する死者」という意味であることはだいぶ後になってから知ったのだが、当時の筆者はDead(死んだ)という単語のイメージから勝手にBLACK SABBATHブラック・サバス〕のようなドゥーム感漂うヘヴィなロックを想像していた。


ところが、買ってきた「AMERICAN BEAUTY」に針を落として流れてきた音はフォークやカントリーのテイストが漂うあまりにもアメリカンで牧歌的な音であり、これにはかなりの肩透かしを喰らってしまった。


ただし、フォークやカントリーというのはその頃の筆者にとって、ロックという枠を超えて聴き始めていた音楽であり、「AMERICAN BEAUTY」の懐の深い音楽性に引き込まれるのにそれほど時間は掛からなかった。


多彩な才能を持つリーダーJerry Garcia〔ジェリー・ガルシア〕のヴォーカル、ギター、ピアノの流麗な演奏に引っ張られる形で、各々のメンバーも確かな技術で表現力豊かな演奏を聴かせてくれる。


筆者がロックを聴き始めたのは1980年代初期、つまりは、パンク以降であるため、演奏が上手いのは悪とされる傾向があったのだが、やはり上手い演奏というのは良い音楽を創るための大きなアドバンテージになることは確かだ。


GRATEFUL DEADのファンはDead Heads〔デッドヘッズ〕と呼ばれ、GRATEFUL DEADのコンサート・ツアーを追いかけるそうだが、確かにGRATEFUL DEADの音を聴いていると俗世間なんて捨て去り、Jerry Garciaが率いるGRATEFUL DEADという自由な楽団と一緒に旅をしたい気持ちになるのも分かる気がする。