Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0219) DESERTER'S SONGS / MERCURY REV 【1998年リリース】

 

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MERCURY REVマーキュリー・レヴ〕の最高傑作は大げさなほど華美な5thアルバム「ALL IS DREAM」だと思っているし、1970年代風のレトロなシンセサイザーの音色が心地良い6thアルバム「THE SECRET MIGRATION」も捨て難い。


しかし、自分の中でMERCURY REVのアルバムを1枚選ぶとすると、今回取り上げた4thアルバム「DESERTER'S SONGS」になってしまう。


MERCURY REVにはそのような意識は無いと思うのだが、筆者の中では上記4h~6thまでの3枚は3部作のように捉えている。


初期のMERCURY REV、つまり、1stアルバム「YERSELF IS STEAM」、2ndアルバム「BOCES」、3rdアルバム「SEE YOU ON THE OTHER SIDE」はノイズ・ロックの要素が強く、4thアルバム「DESERTER'S SONGS」から続く3部作のようなシンフォニック・ロックではない。


シンガーがDavid Baker〔デヴィッド・ベイカー〕からJonathan Donahue〔ジョナサン・ドナヒュー〕に変わった3rdアルバム「SEE YOU ON THE OTHER SIDE」には、かろうじてシンフォニック・ロックに続く萌芽のようなものがあるのだが。


筆者の場合、最初に聴いたMERCURY REVのアルバムは2ndアルバム「BOCES」であり、その混沌としたノイズ・ロックの世界も気に入ってはいたのだが、4thアルバム「DESERTER'S SONGS」を聴いて以降、「BOCES」を聴く回数が激減した。


その後、1stアルバム「YERSELF IS STEAM」と3rdアルバム「SEE YOU ON THE OTHER SIDE」も聴いてみたのだが、やっぱり「DESERTER'S SONGS」ばかりを聴いてしまう。


事程左様に筆者にとって「DESERTER'S SONGS」のインパクトは大きかったのである。


「DESERTER'S SONGS」に収録されている曲はオーケストラで使用される弦楽器や管楽器を随所に取り入れたものが多いのだが、曲の構成やコード進行は意外なほど単純な曲が多い。


同じフレーズや似たようなフレーズが何度も繰り返される素朴な曲に、弦楽器や管楽器の荘厳なアレンジが重なり、一聴すると素朴なのか荘厳なのかよく分からないシンフォニック・ロックが鳴り響いているのだ。


このアルバム、不思議なことに、オリジナル盤では最終曲の一つ前に"Pick Up If You're There"が、後にリリースされたデラックス盤では最終曲の一つ前に"Night On Panther Mountain"が収録されており、いずれも、これこそがアルバム最終曲に相応しいという感じの美しい曲なのだが、何故かどちらの盤も、ちょっと素っ頓狂な感じのする"Delta Sun Bottleneck Stomp"で締め括られている。


筆者には、これは蛇足に思えて仕方がない。

 

#0218) PERFORMANCE AND COCKTAILS / STEREOPHONICS 【1999年リリース】

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STEREOPHONICSステレオフォニックス〕はブリットポップに含まれるのかなと思い、Wikipediaで調べてみた。


日本語版のページには「ロック、ハード・ロックオルタナティヴ・ロック、インディー・ロック、ブリットポップ」と書かれており、英語版のページには「Alternative Rock、Post-Britpop、Rock」と書かれている。


ブリットポップ最後の大物バンドMANSUN〔マンサン〕の1stアルバム「ATTACK OF THE GREY LANTERN」のリリースが1997年、そして、STEREOPHONICSの1stアルバム「WORD GETS AROUND」のリリースも同じく1997年なので、時期的にはブリットポップにカスっているという感じだ。


Wikipediaを鵜呑みにするのは如何なものかなとも思うのだが、そのアーティストのベーシックな情報を知るには便利だ。


正直なところ筆者はSTEREOPHONICSのことをブリットポップという範疇にいるバンドとして見たことが無い。


では、オルタナティヴ・ロックやインディー・ロックかと問われればそれも違う。


ハード・ロックかと問われた場合、ちょっとカスっているような気がしてくるが、一番しっくりとくるのは、単に「ロック」という呼び方だ。


STEREOPHONICSはしっかりとした骨太の歌と演奏を聴かせてくれるバンドであり、これはこの時期の英国のバンドとしては珍しい。


ブリットポップや、そのルーツとなったポストパンクやニュー・ウェイヴ等、1980年前後から登場した英国のバンドは技術よりもアイディアで聴かせるバンドが多い。


それに嵌って聴いている時期はカッコ良いなと思うのだが、そこから離れてハード・ロックやサザン・ロックを暫く聴き続ける時期を挟んで再び戻ってくると、件のバンドの多くがあまりにもヘナチョコすぎて驚くことがあるのだ。


しかし、STEREOPHONICSに関してはそれがなく、歌も演奏も安心して聴いていられるのである。


今回取り上げた2ndアルバムの「PERFORMANCE AND COCKTAILS」を聴いた時は、その王道ロックぶりに歓喜したものである。


この逞しい王道ロックを聴いていると、Jimmy Pageジミー・ペイジ〕やPaul Wellerポール・ウェラー〕等、多くの大物達から賛辞を贈られるのも成程と頷けるのである。

 

#0217) HOLLYWOOD VAMPIRES / L.A. GUNS 【1991年リリース】

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L.A. GUNS〔L.A.ガンズ / エル・エー・ガンズ〕とは、1980年代後期におけるグラム・メタル・シーンのスーパーグループである。


シンガーが元GIRL〔ガール〕のPhil Lewis〔フィル・ルイス〕、リード・ギタリストが元GUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕のTracii Guns〔トレイシー・ガンズ〕、ベーシストが元FASTER PUSSYCAT〔ファスター・プッシーキャット〕のKelly Nickels〔ケリー・ニケルス〕、ドラマーが元W.A.S.P.〔ワスプ〕のSteve Riley〔スティーヴ・ライリー〕、リズム・ギタリストはMick Cripps〔ミック・クリップス〕なのだがこの人だけはL.A. GUNS加入前の経歴がよく分からない。


Tracii Guns の居たGUNS N' ROSESが飛び抜けてビッグだが、GIRL、FASTER PUSSYCAT、W.A.S.P.だってグラム・メタル・マニアの間ではよく知られた存在だ。


Tracii Gunsが元GUNS N' ROSESのメンバーであるが故に、デビュー当時のL.A. GUNSはGUNS N' ROSESのライバルとして扱われた。


1988年に1stアルバムの「L.A. GUNS」がリリースされた頃はかなり注目されていて、けっこうな人気バンドだった記憶がある。


1989年には2ndアルバムの「COCKED & LOADED」がリリースされ、シングル・カットしたバラードの"The Ballad Of Jayne"が全米33位のヒットとなり、GUNS N' ROSESのライバルと呼ぶには無理があるものの、一定の人気を維持していたと思う。


しかし、1991年に、今回取り上げた3rdアルバムの「HOLLYWOOD VAMPIRES」をリリースした後くらいから雲行きが怪しくなってきた。


この「HOLLYWOOD VAMPIRES」というアルバム、1曲目 "Over The Edge"が日本の「能」からヒントを得たサウンドエフェクトで始まるのである。


こういう始まり方は、持っていかれる人は持っていかれるが、拒絶する人も少なからずいるはずである。


もちろん筆者は持っていかれた方だが、筆者の周りに居たグラム・メタル・マニアからの評判はあまり良くなかった。


とにかくアルバムのオープニングがミステリアスな雰囲気で始まるのだが、2曲目以降の曲もじっくりとアレンジを練り上げたような曲が多く、1st~2ndのような分かり易いメタリックなロックン・ロールは減っている。


その代わり、聴き込むほどに味わいが増すスルメのような曲が増えており、筆者にとっては、L.A. GUNSに対して他のグラム・メタル・バンドとは明確に異なる個性を見出すことが出来た彼らの最高傑作なのである。

 

#0216) THE WAY IT IS / BRUCE HORNSBY & THE RANGE 【1986年リリース】

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ロック・ミュージシャンを象徴する楽器と言えば、それはたぶんギターなのだろう。


しかし、ロック黎明期の1950年代中期においては、Little Richard〔リトル・リチャード〕、Fats Dominoファッツ・ドミノ〕、Jerry Lee Lewis〔ジェリー・リー・ルイス〕等、ピアノを演奏しながら歌うロックン・ローラーも人気を博しており、ピアノもロック・ミュージシャンを象徴する楽器だった。


ロックを象徴する楽器として、ピアノが衰退し、ギターが繁栄した理由は、ギターの方がピアノよりも持ち運びが楽だったからだろう。


ツアーの多いロック・ミュージシャンに選ばれる理由として、「持ち運びが楽」というのは大きなアドバンテージになる。


筆者の世代(2019年現在でアラフィフ)では子供の頃にピアノを習っている女子が非常に多く(これは今でも同じなのだろうか?)、筆者のイトコも女子は全員ピアノを習っていた。


ピアノを習っていた従姉とは、今でも時々音楽の話をするのだが、話していて凄いなと思うのは、楽譜も読めるし、絶対音感もあり、音楽理論的なことも解っているということだ。


故に、何となくピアノを弾くミュージシャンを見ると、無条件で「この人は音楽的な資質が高い」と感じてしまう。


ロックの世界で「ピアノ・マン」と言えば、そのものズバリの「PIANO MAN」というアルバムをリリースしたBilly Joelビリー・ジョエル〕、或いは、「DON'T SHOOT ME, I'M ONLY THE PIANO PLAYER」というアルバムをリリースしたElton Johnということになると思うのだが、筆者の世代にとって、この二人はリアルタイムでその登場を確認できたピアノ・マンではない。


では、筆者の世代にとって、リアルタイムでその登場を確認できたピアノ・マンが誰なのか言えば、それはBruce Hornsby〔ブルース・ホーンズビー〕であり、その象徴が今回取り上げたBRUCE HORNSBY & THE RANGE〔ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ〕の1stアルバム「THE WAY IT IS」なのである。


ジャジーでお洒落なサウンドでありながら、大ヒットした表題曲の"The Way It Is"には、失業や生活不安に苦しむ貧困層から当時の米国のレーガン政権に向けた一種の諦めとも言える悲痛なメッセージが込められている。


米国では、このような社会性の強い曲はヒットしないと言われているのだが、卓越したソングライティングと高度なピアノの演奏技術でBruce Hornsbyはその定説を覆したのである。

 

#0215) CHAMPAGNE JAM / ATLANTA RHYTHM SECTION 【1978年リリース】

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筆者の生まれ育った京都という場所は、日本の都市の中でもバンド活動が盛んな地域なのではないかと思う。


磔磔(たくたく)や拾得(じっとく)といった他府県のバンドマンにも名が知れている老舗のライヴハウスが在り、中堅どころのライヴハウスもひしめき合っているし、新規参戦してくるライヴハウスもある。


街を歩けばライヴハウスを簡単に見つけられるし、筆者も若かりし頃はライヴハウスにはよく出入りしていた。


同級生のお兄さんや近所の大学生にもバンドをやっている人が何人かいて、筆者が洋楽を聴き始めた頃(1980年代初期)は、バンドマンのお兄さん達から色々なアーティストやアルバムを教えてもらったものである。


そして、どう言う訳か、筆者の近くに居たそのバンドマンのお兄さん達はハード・ロックとサザン・ロックを好む人が多かった。


中でも、ハード・ロックではDEEP PURPLE〔ディープ・パープル〕、サザン・ロックではLYNYRD SKYNYRDレーナード・スキナード〕の人気が圧倒的に高かった。


逆に、バンドマンのお兄さん達はパンクやニュー・ウェイヴには否定的で、パンク以前のロックでもガレージ・ロックグラム・ロックにも否定的だった。


筆者が当時人気のあったNEW ORDERニュー・オーダー〕やECHO & THE BUNNYMEN〔エコー&ザ・バニーメン〕を聴いていると、仲の良かったバンドマンのお兄さんが「そんな下手糞なん聴くのやめとけ、俺がレコード貸したるわ」と言って持ってきてくれた膨大なレコードの中に入っていた一枚が今回取り上げたATLANTA RHYTHM SECTION〔アトランタ・リズム・セクション〕(以下、ARS)の7thアルバム「CHAMPAGNE JAM」だったのである。


「余計なお世話やなぁ~」と思いながらも、「CHAMPAGNE JAM」を聴いてみたところ、まぁ、今までに聴いたことのないくらい達者な演奏に打ちのめされたのである。


後からバンドマンのお兄さんに「ARSはスタジオ・ミュージシャンが集まって作ったバンドやねん」という話を聞いて、成る程と合点がいった。


ARSは一応サザン・ロックに分類されるバンドだが、それほど豪快な感触はなく、この「CHAMPAGNE JAM」はバンドとして最も脂の乗っていた頃のアルバムなので、その演奏は実にしなやかで神々しさすら感じられるのである。