Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0274) L'EAU ROUGE / THE YOUNG GODS 【1989年リリース】

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今回取り上げているTHE YOUNG GODS〔ザ・ヤング・ゴッズ〕はスイスのインダストリアル・ロック系アーティストだ。


スイスという国名から筆者が連想するのは永世中立国であるということ、そして、世界的な航空機・軍需企業のSAAB〔サーブ〕および同社が開発した戦闘機のサーブ35ドラケンだ。


そう言えば、同社が開発したサーブ900という車もバブル期の日本ではそこそこ人気があり、当時の筆者のバイト先の店長がサーブ900に載っていたことを今思いだした。


とにかくスイスから連想できることと言えばそれくらいであり、ロックのイメージとは結び付きにくい国である。


THE YOUNG GODS以外で聴いたことのあるスイスのアーティストとなると、ハード・ロック・バンドのKROKUS〔クロークス〕と、ブラック・メタル・バンドのCELTIC FROST〔セルティック・フロスト〕くらいのような気がする。


THE YOUNG GODSは冒頭に書いたとおりインダストリアル・ロック系アーティストなのだが、米国のMINISTRY〔ミニストリー〕やNINE INCH NAILSナイン・インチ・ネイルズ〕とはかなりテイストの異なる音楽性を持つアーティストだ。


確かにTHE YOUNG GODSの音楽性もインダストリアル・ロックらしいマシンナリーな響きはあるのだが、MINISTRYやNINE INCH NAILSほど力で捩じ伏せてくるような圧迫感は無い。


今回はそんなTHE YOUNG GODSの2ndアルバム「L'EAU ROUGE」を取り上げてみた。


このアルバムは19世紀の欧州に在りそうな場末の劇場をイメージさせる曲、"La fille de la mort" ("The Daughter of Death")で幕を開けるのだが、この曲が醸し出す「今から何が始まるのだろう」と思わせるワクワク感がたまらなく良い(ちなみに4曲目の"Charlotte"も似た感じの曲である)。


今までいくつかのインダストリアル・ロック系アーティストを聴いてきたが、その中でもTHE YOUNG GODSは極めて個性的なアーティストだ。


インダストリアル・ロックでありながら何故か静寂を感じさせるのである(ただし、普段ロックを聴かない人の耳には十分に激烈な音ではあるのだが)。


なおTHE YOUNG GODSは、あのDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕が自分のお気に入りとしてその名を挙げていたアーティストなのだが、確かにこのアルバムを聴いていると、1990年代以降におけるDavid Bowieの音楽性への影響を薄っすらとではあるが感じ取ることが出来る。

 

#0273) BIGGER AND DEFFER / LL Cool J 【1987年リリース】

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筆者が初めて聴いたヒップ・ホップ・アーティストの曲はRUN-DMC〔ラン・ディーエムシー〕がAEROSMITHエアロスミス〕と共演した"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオ、および、それが収録されている彼らの3rdアルバム「RAISING HELL」だった。


その次に聴いたものとなる、これは間違いなくBEASTIE BOYSビースティ・ボーイズ〕の1stアルバム「LICENSED TO ILL」だ。


ここまでははっきりと記憶にあるのだがRUN-DMCBEASTIE BOYSの次となると、とたんに記憶が不明瞭になるのだが、たぶん今回取り上げているLL Cool J〔エルエル・クール・ジェイ〕の2ndアルバム「BIGGER AND DEFFER」なのではないかと思う。


RUN-DMCでピップ・ポップに興味を持ったものの、筆者の場合、ヒップ・ホップはロックの周辺の音楽としての興味であり、ロックからピップ・ポップに鞍替えすることはなかった。


つまり、筆者にとってのヒップ・ホップとは、ロック以外に聴いているブルース、R&B、ソウル、ファンク、ジャズ、フュージョンと同様、ロック周辺の刺激的なブラック・ミュージックの一つだったのである。


ただ、ヒップ・ホップを聴いた時は、それまでに聴いていた他のブラック・ミュージックとは明確に異なる感触があった。


「他のブラック・ミュージックとは明確に異なる感触」とは何かと言うと、「この音楽(ヒップ・ホップ)は今後のミュージック・シーンにおいて、ロックに取って代わる存在になるかもしれない」ということである。


そして、その嫌な予感は見事なまでに的中してしまったのである。


"Walk This Way"のミュージック・ヴィデオに出演していたAEROSMITHSteven Tylerスティーヴン・タイラー〕とJoe Perryジョー・ペリー〕の二人がRUN-DMCの3人と一緒に写ると古臭く見えてしまったということをRUN-DMCを取り上げた時にも書いたのだが、その後、今回取り上げたLL Cool Jの2ndアルバム「BIGGER AND DEFFER」を聴いた時は、RUN-DMCの更に上を行くスタイリッシュな音楽とファッションに舌を巻いた記憶がある。


「BIGGER AND DEFFER」で聴けるLL Cool Jのラップはその名のとおりクールであり、彼のファッショナブルでセクシーなスタイルは新しい時代のスターとして十分な貫禄があった。


筆者はこのLL Cool J というアーティストを聴いた時、今後はヒップ・ホップのような、文字どおりヒップな音楽が隆盛を極めるであろうことを確信し、ロック・ファンとして大きな敗北感を味わったのである。

 

#0272) DESOLATION BOULEVARD / SWEET 【1974年リリース】

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筆者にとって、1970年代初頭に英国で勃発したグラム・ロック・ムーヴメントの3大バンドと言えば、T. REX〔T・レックス〕、SLADE〔スレイド〕、SWEET〔スウィート〕である。


以前、SLADE を取り上げた時にも同じことを書いたのだが、T. REXは殿堂入りの別格という感じがするので、SLADEとSWEETがこのムーヴメントの東西両横綱というイメージがある。


しかし、SLADEとSWEETの評価は、同じムーヴメントから登場したDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕やROXY MUSICロキシー・ミュージック〕と比べた場合、現在の日本ではあまり高い評価を得ていないような気がして仕方がない。


たぶん、BowieやROXYは時代に合わせて音楽性を器用に変えていったため、アーティスティックで高尚なイメージが定着し、それが現在の日本での高い評価に繋がっているのだろう。


それに対し、SLADEやSWEETには何となくバブルガム・ポップなイメージがあるため、子供向けバンドと思われているふしがあり、それが原因となって現在の日本では高い評価を得られていないのではないだろうか?


このブログでは既にSLADEは取り上げているので、今回はSWEETを取り上げることにする。


SWEETはヒット曲の多いバンドなのでグレイテスト・ヒッツ・アルバムから聴くのもOKなのだが、このブログではオリジナル・アルバムを優先しているので、3rdアルバム「DESOLATION BOULEVARD」を取り上げることにした。


SWEETと言えばNicky Chinn〔ニッキー・チン〕とMike Chapman〔マイク・チャップマン〕のヒット・メーカー・コンビに制御されていたバンドというイメージもあるが、このアルバムではChinnとChapmanの曲は2曲のみであり、SWEETが彼らの制御から離れ始めたアルバムだと言える。


次作以降のアルバムにも同じことが言えるのだが、この頃のSWEETの曲は後の1980年代に盛り上がりを見せるグラム・メタルの雛形のようである(これはSLADEも同じだ)。


SWEETは演奏面でもグラム・メタルに与えた影響が大きいと思うのだが、何よりもBrian Connolly〔ブライアン・コノリー〕の歌い方が筆者のような1980年代からロックを聴き始めた人間にとってはグラム・メタルに聴こえるのだ。


本来はそんなに潰れていないはずの声をわざと潰れているように聴かせたり、そうかと思えば甘く魅惑的な声で聴かせたりという具合なのだが、これは後の1980年代に数多く登場するグラム・メタル・バンドのシンガー達のお手本とも言える歌い方なのである。

 

#0271) SHOOTING GALLERY / SHOOTING GALLERY 【1992年リリース】

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筆者はAndy McCoy〔アンディ・マッコイ〕が書く曲に関しては常に無条件降伏である。


それは、中学生の頃にHANOI ROCKSハノイ・ロックス〕の1stアルバムを聴いた時から変わっておらず、駄曲や捨て曲だと思える曲が無い。


これは、筆者がAndy McCoyをアイドル視しているからではない。


正直なところ、筆者は人としてのAndy McCoyには全く興味が無いので、Andy McCoyの書いた曲なら何でも良いという訳ではないのである。


筆者が興味の対象としているのは作曲家としての、或いは、演奏家(ギタリスト)としてAndy McCoyのみである。


それは他のお気に入りのミュージシャンに関しても同じであり、永年に渡りロックを聴いてきてきたが、ロック・ミュージシャンをアイドル視したことは一度もなく、常に作曲家、或いは、演奏家としてロック・ミュージシャンに興味を持ってきた。


それ故、筆者はAndy McCoyの書く曲の素晴らしさに関して、常に無条件降伏となるである。


今回取り上げたのは、そのAndy McCoyがHANOI ROCKS、THE CHERRY BOMBZ〔ザ・チェリー・ボムズ〕に続き本格的に始動させたバンド、SHOOTING GALLERY〔シューティング・ギャラリー〕の最初で最後のアルバム「SHOOTING GALLERY」だ。


このバンドは、ギターは当然のことながらAndy McCoyなのだが、脇を固めるメンバーが凄い。


ベースは元SHAM 69〔シャム・シックスティーナイン〕~元THE LORDS OF THE NEW CHURCH〔ザ・ローズ・オブ・ザ・ニュー・チャーチ〕~元KILL CITY DRAGONS〔キル・シティ・ドラゴンズ〕のDave Tregunna〔デイヴ・トレガンナ〕、ドラムは元THE PSYCHEDELIC FURS〔ザ・サイケデリック・ファーズ〕のPaul Garisto〔ポール・ガリスト〕、ヴォーカルは元KILL CITY DRAGONSのBilly G. Bang〔ビリー・G・バン〕という面子となっている(アルバムには未参加だがツアーには元THE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕のギタリストJo Dog〔ジョー・ドッグ〕も参加している)。


こんな面子が揃っている故、つまらないアルバムになるはずもなく、スリージー・ロックン・ロールの大名盤となっている。


Billy G. Bangのヴォーカルが弱いと言われることもあるが、筆者は全くそう感じることはなく、この声があってこそのSHOOTING GALLERYだと思っており、初期HANOI ROCKSにおけるMichael Monroe〔マイケル・モンロー〕の荒っぽいヴォーカルが好きな人なら全然OKなシンガーだと思っている。

 

#0270.6) 2000年代の個人的お気に入りアルバム

リリース年 タイトル アーティスト 形態 ジャンル 出身国
2000年

HIGH AS HELL

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NASHVILLE PUSSY〔ナッシュヴィル・プッシー〕 バンド ハード・ロック/サザン・メタル 米国
2001年

YOUR NEW FAVOURITE BAND

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THE HIVES〔ザ・ハイヴス バンド ガレージ・パンク/ガレージ・ロック スウェーデン
2002年

BY THE GRACE OF GOD

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THE HELLACOPTERS〔ザ・ヘラコプターズ〕 バンド ハード・ロック/ガレージ・ロック スウェーデン
2003年

SCANDINAVIAN LEATHER

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TURBONEGRO〔ターボネグロ〕 バンド デスパンク/グラム・パンク ノルウェー
2004年

BLACK SKIES IN BROAD DAYLIGHT

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LIVING THINGS〔リヴィング・シングス〕 バンド ガレージ・ロック 米国
2005年

DEMONS

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SPIRITUAL BEGGARS〔スピリチュアル・ベガーズ〕 バンド ストーナー・メタル/ヘヴィ・メタル スウェーデン
2006年

CORINNE BAILEY RAE

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Corinne Bailey Raeコリーヌ・ベイリー・レイ ソロ ネオ・ソウル 英国
2007年

RIBBED MUSIC FOR THE NUMB GENERATION

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SOHODOLLS〔ソーホードールズ〕 バンド シンセポップ/エレクトロパンク 英国
2008年

ROCKFERRY

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Duffy〔ダフィー〕 ソロ ソウル/ポップ/ロック 英国
2009年

FINO + BLEED

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DIE MANNEQUIN〔ダイ・マネキン〕 バンド オルタナティヴ・ロック カナダ

 

「2010年代の個人的お気に入りアルバム」を選んだので、その勢いで「2000年代の個人的お気に入りアルバム」も選んでみることにした。


「2010年代~」は2001年以降に1stアルバムをリリースしたアーティストから選んだので(ただし、一つだけ例外があった)、「2000年代~」は1991年以降(つまり、20世紀最後の10年以降)に1stアルバムをリリースしたアーティストから選んでみた。


こういうものを選ぶ時に、何十年も前から活動している贔屓のアーティストのアルバムだらけにするのは面白くも何ともないような気がするので、そういう古いアーティストだけで固めるリストにはしたくなかった。


そして、いざ、「2000年代の個人的お気に入りアルバム」を選んでみたところ、最初はAIRBOURNE〔エアボーン〕、STEEL PANTHER〔スティール・パンサー〕、LITTLE BARRIEリトル・バーリー〕、BLACKBERRY SMOKE〔ブラックベリー・スモーク〕、ELECTRIC MARY〔エレクトリック・メアリー〕、LAST GREAT DREAMERS〔ラスト・グレイト・ドリーマーズ〕等、半分以上が「2010年代~」と変わらない顔ぶれになったので、「おもんないリストになった、なんぼなんでも、もちょっと聴いてるんちゃうん?」と思い、再び選び直したリストが上記だ。


選んでみて改めて感じたことは、北欧のアーティストが多いということである。


今回のリストには入れなかったが、BACKYARD BABIES〔バックヤード・ベイビーズ〕MANDO DIAOマンドゥ・ディアオ〕、THE SOUNDTRACK OF OUR LIVES〔ザ・サウンドトラック・オブ・アワー・ライブズ〕(以上、スウェーデン出身)、GLUECIFER〔グルシファー〕、THE YUM YUMS〔ザ・ヤム・ヤムズ〕(以上、ノルウェー出身)、MEW〔ミュー〕、VOLBEAT〔ヴォルビート〕(以上、デンマーク出身)、HIM〔ヒム〕、NEGATIVE〔ネガティヴ〕(以上、フィンランド出身)等もよく聴いていた。


筆者がロックを聴き始めた1980年代初期に世界規模で活動する北欧のロック・バンドと言えばHANOI ROCKSハノイ・ロックス〕(フォンランド出身)とEUROPE〔ヨーロッパ〕(スウェーデン出身)くらいだったが、今や北欧はロック先進国になった(やはり、英語が達者な国はロックに強いのだろうか?)。


そして、何故か2006年から2009年までの4枚は女性アーティスト、或いは、女性シンガーがフロントを務めるバンドになった。


このリストを作って改めて認識した(というよりもぞっとした)のは、音楽よりも、むしろ、2000年から既に20年近い時間が経過しているという、去り行く時間の速さだった。