1970年代後半から1980年代前半にかけて英国で勃興したポストパンク~ニュー・ウェーヴのムーヴメントからは多くのバンドが登場したが、その中でもU2〔ユートゥー〕、THE CURE〔ザ・キュアー〕、NEW ORDER〔ニュー・オーダー〕、DEPECHE MODE〔デペッシュ・モード〕あたりは現在でも人気があり、その影響を公言する後続のバンドも多い。
それに比べ、ECHO & THE BUNNYMEN〔エコー&ザ・バニーメン〕やTHE PSYCHEDELIC FURS〔ザ・サイケデリック・ファーズ〕あたりは当時と現在での人気と評価に大きな差があり、後続のバンドからもその影響を公言されることが少ない。
今回取り上げたSIMPLE MINDS〔シンプル・マインズ〕もどちらかと言えば後者のような気がする。
SIMPLE MINDSの場合、シングル"Don't You (Forget About Me)"が米国のビルボード・チャートで1位となり、その勢いのままリリースした7thアルバム「ONCE UPON A TIME」も米国でゴールド・ディスクに認定され、大きな成功を手に入れたのだが、これが良くなかったような気がする。
そもそも"Don't You (Forget About Me)"は彼らの自作曲ではなく、レコーディング・プロデューサーのKeith Forsey〔キース・フォーシー〕とSteve Schiff〔スティーヴ・シフ〕が、映画「ブレックファスト・クラブ」のために書いた曲であり、これと言った特徴の無いその平凡な曲調はSIMPLE MINDSというバンドの持ち味が全く生かされていない。
ゴールド・ディスク認定された「ONCE UPON A TIME」も非常に大味なスタジアム・ロックであり、これもまたSIMPLE MINDS本来の魅力からはかけ離れているように筆者には感じられる。
筆者はSIMPLE MINDSのアルバムなら5thアルバム「NEW GOLD DREAM (81-82-83-84)」を推したい。
内省的でありながらも煌めくようなそのサウンドは、後期ROXY MUSIC〔ロキシー・ミュージック〕にも通ずる「大人が聴けるロック」だ。
ポストパンク~ニュー・ウェーヴ期に出てきたバンドの中にはDavid Bowie〔デヴィッド・ボウイ〕からの影響を受けたバンドが多い。
SIMPLE MINDSもその一つと言えるのだが、彼らの場合、Bowieと同じくらいの比率でROXY MUSICからの影響も感じさせてくれるところが面白い。
「NEW GOLD DREAM (81-82-83-84)」のオープニング曲"Someone Somewhere In Summertime"はBowieの美しさとROXY(と言うよりBryan Ferry〔ブライアン・フェリー〕と言うべきか?)のダンディズムが融合されたSIMPLE MINDS屈指の名曲であり、彼らにはこの路線を推し進めてほしかった。
SIMPLE MINDSはU2の後を追ってスタジアム・バンドを目指すより、BowieやROXYの後継者としてマニアックな道を選ぶべきだったのではないかと思う。