Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0087) PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING? / MEGADETH 【1986年リリース】

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通常、MEGADETHメガデス〕が最も音楽性が充実していて人気があった時期は、Dave Mustaine〔デイヴ・ムステイン〕(vocals & guitars)、David Ellefson〔デイヴィッド・エレフソン〕(bass)、Nick Menza〔ニック・メンザ〕(drums)、Marty Friedmanマーティ・フリードマン〕(guitars)という黄金のラインナップで制作された4thアルバム「RUST IN PEACE」、或いは、5thアルバム「COUNTDOWN TO EXTINCTION」ということになるのだろう。


確かにこの時期のMEGADETHのアルバムはスラッシュ・メタル・ファン以外のリスナーにもアピールできるほどのポピュラリティを獲得しており、実際に筆者の周りでも普段はスラッシュ・メタルを聴かないようなロック・リスナーまでもがMEGADETHのアルバムを聴いている状況であった。


筆者もこの時期のMEGADETHは好きなのだが、MEGADETH本来の魅力が詰め込まれているのは、1stアルバム「KILLING IS MY BUSINESS... AND BUSINESS IS GOOD!」、2ndアルバム「PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING?」、3rdアルバム「SO FAR, SO GOOD... SO WHAT!」の三枚だと思っているし、そう思っているMEGADETHファンも少なくないはずだ。


そして、今回は、その中でも最もMEGADETH本来の魅力が凝縮されている2ndアルバム「PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING?」を取り上げてみる。


それでは、MEGADETH本来の魅力とは何だろうか?


それは自分を解雇したMETALLICAメタリカ〕に対する復讐心を根源とするDave Mustaineの狂気だ。


「PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING? (平和が売られている、しかし、誰が買うんだ?)」というアルバム・タイトルからしてアイロニカルで、この時期のDave Mustaineの屈折した心理状態を現しているいるような気がしてならない。


はっきり言って、このアルバム(というか1st~3rdまでの初期三枚)は、聴き易い音楽性ではない。


たぶん意識的にだと思うのだが、必要以上に複雑な曲構成に拘っているいるような気がするし、覚えやすいメロディも殆ど無い。


METALLICAの「RIDE THE LIGHTNING」や「MASTER OF PUPPETS」が過激でありながらも抒情性やキャッチーな要素も持っていたことを考えると、MEGADETHの「PEACE SELLS... BUT WHO'S BUYING?」は徹底的にアンチ・コマーシャルであり、これをよくメジャーのキャピトル・レコードがリリースしてくれたなと思う。


このアルバムを取り上げておいてこんなことを書くのは如何なものかと思うのだが、初めてMEGADETHを聴くのであれば、4thアルバムの「RUST IN PEACE」にしておいた方が良い。

 

#0086) THE SECRET OF ASSOCIATION / Paul Young 【1985年リリース】

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英国出身の三大ギタリストと言えば有名だが、三大ヴォーカリストとなると誰になるのだろうか?


筆者の個人的な好みでは、

私的英国三大ヴォーカリスト(1970年代)
アーティスト名 生年月日 所属グループ
Rod Stewart〔ロッド・スチュワート 1945/01/10 THE JEFF BECK GROUP〔ザ・ジェフ・ベック・グループ〕、FACES〔フェイセズ
Steve Marriott〔スティーヴ・マリオット〕 1947/01/30 SMALL FACES〔スモール・フェイセス〕、HUMBLE PIE〔ハンブル・パイ〕
Paul Rodgers〔ポール・ロジャース〕 1949/12/17 FREE〔フリー〕、BAD COMPANY〔バッド・カンパニー


という三人を推したい。


いずれも1960年代後半から1970年代前半にかけて全盛期を迎えていた人たちである。


筆者は1980年代前半から洋楽を聴き始めたリスナーだが、1980年代には良いヴォーカリストはいなかったのかと問われると、そんなことはなく、

私的英国三大ヴォーカリスト(1980年代)
アーティスト名 生年月日 所属グループ
Paul Young〔ポール・ヤング〕 1956/01/17 Q-TIPS〔Q-ティップス〕
Mick Hucknall〔ミック・ハックネル〕 1960/06/08 SIMPLY REDシンプリー・レッド
Roland Gift〔ローランド・ギフト〕 1961/05/28 FINE YOUNG CANNIBALS〔ファイン・ヤング・カニバルズ〕


あたりはかなり良いヴォーカリストだったと今でも思っている。


その中から今日はPaul Youngの2ndアルバム「THE SECRET OF ASSOCIATION」を取り上げてみる。


このアルバムには全米1位となったダリル・ホール&ジョン・オーツ〔Daryl Hall & John Oates〕のカヴァー"Everytime You Go Away"が収録されており、それが多くのリスナーにとって、このアルバムを買う切っ掛けとなっている。


確かにこの美しいバラードはPaul Youngのハスキーな声に向いている。


そして、とにかく、この人は歌が上手いヴォーカリストだ。


感情表現が豊かであり、それを巧みにコントロールして歌声に乗せることが出来る歌唱力を持っていながら、どこか垢抜けない田舎っぽさのあるところがまた良いのである。


1stアルバム「NO PARLEZ」には、あのポストパンクの雄であるJOY DIVISIONジョイ・ディヴィジョン〕の名曲"Love Will Tear Us Apart"のカヴァーが収録されているのだが、Paul Youngがカヴァーするとあの殺伐とした曲が温かみのあるソウル・ミュージックになっている。


これはもう、彼の個性であり、歌うために生まれてきたような人なのである。


しかし、ヴォーカリストとしては一流だった彼だが、キャッチーなシングル向けの曲を書くソングライターとしての資質は持っていなかった。


彼の代表曲はカヴァーがその大半を占める。


この「THE SECRET OF ASSOCIATION」にも彼の書いた曲が収録されていて、いずれも良い曲なのだが渋すぎてシングル向きとは言いにくい。


彼はソロとして活動するよりも、キャッチーなメロディーを書けるメンバーを見つけてバンドを組んだ方が息の長い活動が出来ていたのではないかと思えて仕方がない。

 

#0085) THE MARSHALL TUCKER BAND / THE MARSHALL TUCKER BAND 【1973年リリース】

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バンド名がTHE MARSHALL TUCKER BAND〔ザ・マーシャル・タッカー・バンド〕だと、何となくメンバーにMarshall Tucker〔マーシャル・タッカー〕という人が居るような気がしてしまうが、このバンドにはその名を持つ人は居ない。


Marshall Tuckerとは、このバンドが練習のために使っていた部屋の家主だそうだ。


こういうバンド名の付け方は、「曲と演奏が良ければバンド名なんて何でもいい」という感じがして、筆者としてはけっこう好きなバンド名の付け方である。


THE MARSHALL TUCKER BANDはカプリコーン・レコードがTHE ALLMAN BROTHERS BAND〔ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド〕に続き送り出した第2弾となるサザン・ロック・バンドであり、今回はそんな彼らの1stアルバム「THE MARSHALL TUCKER BAND」を取り上げてみる。


一口にサザン・ロックと言っても色々なバンドがあるわけだが、このバンドはサザン・ロックと言うよりは、カントリー・ロックと言った方がしっくりくるのではないだろうか?


所謂サザン・ロックと聞いて連想させられる豪快で荒くれた印象はなく、アルバムの始まりから終わりまで牧歌的で穏やかな印象の曲で統一されている。


聴く者に牧歌的な印象を与える要因はシンガーのDoug Gray〔ダグ・グレー〕の声質によるところもあると思うのだが、最も大きな要因はJerry Eubanks〔ジェリー・ユーバンクス〕が奏でるフルートによるものだろう。


同じ木管楽器でもサクソフォーンはロック・バンドでもよく使われるが、フルートがロック・バンドで使われることは少ない。


ロック・バンドのフルート奏者として、Jerry Eubanks以外で直ぐに思い浮かぶのはJETHRO TULLジェスロ・タル〕のIan Anderson〔イアン・アンダーソン〕が居るが、Ian Andersonはフルートも演奏するシンガーだが、Jerry Eubanksはメインの担当楽器がフルートであり(ただし、サクソフォーンも演奏する)、これはけっこう珍しいのではないだろうか?


筆者は、このアルバムを休日の朝に聴くことが多い。


牧歌的でカントリー・テイスト溢れる曲調、そして、小鳥のさえずりの様なフルートの音がけだるい休日の朝にぴたりとマッチする。


そして、このアルバムを聴きながら、しばし、ウィークデイの少し厳しい現実から逃避するのである。

 

#0084) WRECKED / PIG 【1996年リリース】

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インダストリアル・ロックと言えば、一番有名なのがNINE INCH NAILSナイン・インチ・ネイルズ〕で、次に有名なのがその先輩格とも言えるMINISTRY〔ミニストリー〕ということになるのだろうか?


いずれも米国のアーティストである。


では、英国におけるインダストリアル・ロックの代表と言うと、どのアーティストになるのだろうか?


筆者の場合、PIG〔ピッグ〕ことRaymond Watts〔レイモンド・ワッツ 〕が思い浮かぶのだが、NINE INCH NAILSやMINISTRYと比べると、かなりマイナーなアーティストであると言わざるを得ない。


PIGという名前については、それがRaymond Wattsという男の芸名なのか、或いは、ユニット名なのか、その辺りのプロフィール的なことがよく解らないのだが、いずれにしてもメチャメチャ男前のくせに自らをPIG(豚)と名乗るのだから、何となく嫌味な奴だなと思えてしまう。


PIGもNINE INCH NAILSもMINISTRYも、同じインダストリアル・ロックと呼ばれるジャンルに属しているわけだが、米国産のMINISTRYやNINE INCH NAILSと、英国産のPIGでは、当然と言えば当然なのだが、ずいぶんとその音のテイストが異なる。


スラッシーなギターとデジタル・ビートの融合というスタイルはどのアーティストにも共通しているのだが、PIG の音からはNINE INCH NAILSやMINISTRYが持っているような逞しさはあまり感じ取ることが出来ず、欧州らしい耽美的な美しさを感じ取ることが出来る。


今回取り上げた5thアルバムの「WRECKED」はPIGのアルバムの中でも特にそれを感じさせてくれる一枚である。


David Bowieデヴィッド・ボウイ〕のベルリン三部作(「LOW」、「"HEROES"」、「LODGER」)に通ずる欧州型アート・ロックを過激に発展させた音と言えば、その音楽性をイメージして頂けるだろうか。


このブログの記事を書くにあたって、今週は主にインダストリアル・ロック系アーティストのアルバムを聴いていたのだが、「WRECKED」の音の質感がドイツのKMFDM〔ケー・エム・エフ・ディー・エム〕のアルバム「NIHIL」に似ていることに気付いた。


この時期のKMFDMにはPIG(Raymond Watts)がメンバーとして参加していたので、この時期の両者の音が似ているのは自然なことなのだが、ブログの記事を書いていると忘れていたことを思い出すことが出来て面白いものである。

 

#0083) VIVID / LIVING COLOUR 【1988年リリース】

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米国のバンドでありながら、米国式綴りのColorではなく英国式綴りのColourを使っているのは何故なのだろうか。


LIVING COLOUR〔リヴィング・カラー〕がロック・シーン登場した時に最も気になったのがそこだった。


その理由は結局のところ今でも判らない。


黒人ロックバンドで一番好きなのはFISHBONE〔フィッシュボーン〕なのだが(というか、黒人に限定せずとも筆者にとってFISHBONEは全てのロックバンドの中でもかなり上位に入るバンドだ)、ロック・シーンに与えた衝撃度ではLIVING COLOURの方が遥かに上であったことは認めざるを得ない。


LIVING COLOURが今回取り上げた1stアルバム「VIVID」をリリースしたのは1988年である。


その前年の1987年にはGUNS N' ROSESが1stアルバム「APPETITE FOR DESTRUCTION」をリリースしており、当時の米国のロック・シーンはハード・ロック/ヘヴィ・メタルのバブルが最高潮に盛り上がっていた時期だったと言える。


そんな中で黒人流に解釈した独創的なハード・ロック/ヘヴィ・メタルでシーンに風穴を開けたのがLIVING COLOURの「VIVID」だった。


LIVING COLOUR以前にもFISHBONEやBAD BRAINS〔バッド・ブレインズ〕等、黒人ロックバンドは既に存在していたが、LIVING COLOURは他の黒人ロックバンドと比べると圧倒的にキャッチーで解りやすかった。


FISHBONEは曲によってはかなりダンサブルであり、BAD BRAINSも曲によってはハードコアすぎるので、保守的なロック・リスナーまで巻き込むのは難しかった。


しかしLIVING COLOURは黒人らしいファンキーな要素も多分にあったが、その音楽性のベースにはハード・ロック/ヘヴィ・メタルがあり、「黒いLED ZEPPELINレッド・ツェッペリン〕」という評価もなるほど言い得て妙だと感じた。


"Cult Of Personality"なんて、間違いなくライヴで一緒に大合唱したくなるようなキャッチーなメロディを備えたロック・アンセムだ。


ここまでの文章で便宜上「黒人ロックバンド」と書いてきたが、筆者はこの呼び方が実はあまり好きではない。


何故なら、ロックとは、或いは、ロックン・ロールとはChuck Berryチャック・ベリー〕やLittle Richard〔リトル・リチャード〕等、黒人によって産み出された音楽だからである。