Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0021) BANGKOK SHOCKS, SAIGON SHAKES, HANOI ROCKS / HANOI ROCKS 【1981年リリース】

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初めて「ロック」だと意識して聴いたレコードは、同級生のH君がカセットテープに録音くれたSEX PISTOLSセックス・ピストルズ〕のベスト・アルバム「FLOGGING A DEAD HORSE」だった。


初めて「ロック」だと意識して自分で買ったレコードはJAPAN〔ジャパン〕の「QUIET LIFE」だった。


そして、その一ヶ月後くらいに買ったレコードが、GIRL〔ガール〕の「WASTED YOUTH」と、今回取り上げたHANOI ROCKSハノイ・ロックス〕の1stアルバム「BANGKOK SHOCKS, SAIGON SHAKES, HANOI ROCKS」だ。


なかなか長いタイトルだが、当時は「白夜のバイオレンス」という素敵な邦題が付いていた。


ジャケットも、日本盤は薔薇の花とバンド・ロゴを組み合わせたデザインで、オリジナルのジャケットよりも断然カッコ良かった。


BANGKOK SHOCKS~」は、筆者がロックを聴き始めた極々初期に嵌まったレコードであり、30年以上経った今でも聴き続けているアルバムである。


他のアルバムも1980年代にリリースされたアルバムはけっこうな頻度で今でも聴くのだが、一番聴く回数が多いのは、やはり「BANGKOK SHOCKS~」だ。


逆に2000年代に再生してからリリースされたアルバムは買った直後に数回聴いただけで、今では全く聴かなくなった(ただし、「TWELVE SHOTS ON THE ROCKS」収録の"A Day Late, A Dollar Short"だけは頻繁に聴く)。


たぶん、この差はソングライターの違いからきているものだと思う。


1980年代のHANOI ROCKSの曲は殆どがAndy McCoy〔アンディ・マッコイ〕(guitars)一人によって書かれているが、2000年代の再生以降は基本的にAndyとMichael Monroe〔マイケル・モンロー〕(vocals)の共作である。


Michael Monroeという人は、人としてすごく尊敬できる人なのだが、彼の音楽を良いと感じたことが殆どない。


それに対し、Andy McCoyという人は、しょうもない奴っちゃなと思うことが多々あるのだが、彼の音楽には無条件で魅了される。


先ほど、再生後のHANOI ROCKSの曲でも"A Day Late, A Dollar Short"だけは頻繁に聴くと書いたが、この曲はAndyが一人で書いた曲なのだ。


そう、筆者は「Andy McCoyの書いた曲」が好きなのである。


その中でも、「BANGKOK SHOCKS~」は、若きAndy McCoyの才能が爆発したかのような極上のメロディが詰まった傑作だ。


傑作だが、はっきり言って作品としての質が高い訳ではない。


演奏も荒いし、アレンジも練られていない。


しかし、それ故にAndyの書いたメロディの凄さがダイレクトに伝わってくる。


フィンランドで生まれてスウェーデンで育ったAndyの書くメロディは、ロックの本場である英米のバンド/ソングライターが書くメロディとは明確に異なるテイストがある。


これを言葉で表すのは難しいのだが、あえて例えるなら日本の昭和歌謡のようなテイストがある(でも、昭和歌謡とも違うな・・・)。


独特の「泣き」を感じさせるのである。


英国風の湿り気を帯びたメロディや哀愁を感じさせるメロディとも違うので、Andy独特のセンスとしか言いようがない。


バンドとしてのHANOI ROCKSは、THE ROLLING STONESザ・ローリング・ストーンズ〕やNEW YORK DOLLSニューヨーク・ドールズ〕の影響下にあるロックン・ロール・バンドであることは疑いようのない事実だと思うのだが、Andy McCoy というソングライターはSTONESやDOLLSからの影響だけでは絶対に書けないメロディを紡ぎ出す。


1960年代前半生まれのソングライターとしては、筆者の中ではTHE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕のTyla〔タイラ〕と並ぶ双璧である(Andy McCoyは1962年生まれ、Tylaはたぶん1961年生まれ)。


作品の質という点ではメジャー・レーベルのCBSからリリースされた「TWO STEPS FROM THE MOVE」が最高傑作だと思うのだが、Andy McCoyというソングライターのプリミティヴな魅力を楽しむなら「BANGKOK SHOCKS, SAIGON SHAKES, HANOI ROCKS」を推したい。

 

 

#0020) LOVE DELUXE / SADE 【1992年リリース】

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SADEシャーデー〕のことは最初に聴いた時からしばらくの間、女性ソロ・アーティストだと思っていたのだが、実は、


Sade Adu〔シャーデー・アデュ〕(vocals)
・Stuart Matthewman〔スチュアート・マシューマン〕(guitars, saxophone)
・Paul Denman〔ポール・デンマン〕(bass)
・Andrew Hale〔アンドリュー・ハイル〕(keyboards)


の4人によるバンドだと知って、けっこう驚いた。


Sade Aduというシンガーは、歌もルックスも、とてつもなく個性的なので、ソロ・アーティストとしてデビューしていたとしても確実に売れていたはずだ。


バンドとしてデビューすることに何らかのアドバンテージがあったとはとても思えないし、あえてバンドと名乗っているのにドラムが居ないのは不完全だ。


筆者はSADEの長年のリスナーだが、未だにSADEのことを、バンドではなく女性ソロ・アーティストだと認識してしまっている。


SADEのアルバムを取り上げるにあたり、どれを選ぶか迷ったのだが、珠玉の名曲"Kiss Of Life"が収録されている4thアルバム「LOVE DELUXE」を選ぶことにした。


「LOVE DELUXE」のジャジーで高貴なそのサウンドは、少し贅沢な気分に浸りたい時にぴったりだ。


ただし、SADEに関しては、どれか一枚だけアルバムを選ぶ意味はあまりないような気がしている。


寡作(かさく)なアーティストなので、お金に余裕のある人なら全アルバムを大人買いすることも可能だろう。


デビューした1980年代には「DIAMOND LIFE」、「PROMISE」、「STRONGER THAN PRIDE」という具合に、かろうじて3枚のアルバムを発表したが、1990年代は今回取り上げた「LOVE DELUXE」のみ、2000年代は「LOVERS ROCK」のみ、2010年代は今のところ「SOLDIER OF LOVE」のみだ。


ダウンロード世代にとってはアルバムというフォーマットに大きな価値は無いのかもしれないが、アナログ・レコード~CD世代の筆者にとっては、どのアルバムに手を出しても高水準のクオリティを提供してくれるSADEは、何時でも何処でも安心して聴けるありがたい存在である。

 

#0019) SWEET OBLIVION / SCREAMING TREES 【1992年リリース】

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英国で1970年代後半に興ったパンク・ロック・ムーヴメントと、米国で1990年代前半に興ったグランジ・ロック・ムーヴメントが似ていると言われているのは、ロック・ファンの共通の認識だ。


パンク・バンドがパンク以前に人気のあったハード・ロックプログレッシヴ・ロックを否定する姿勢と、グランジ・バンドがグランジ以前に人気のあったヘヴィ・メタルやグラム・メタル(ヘア・メタル)を否定する姿勢は確かによく似ていた。


しかし、パンクとグランジには大きな違いもある。


パンク・バンドの多くがパンクと呼ばれることを肯定し、パンクという言葉に好感を示していたのに対し、グランジ・バンドの多くはグランジと呼ばれることを否定し、グランジという言葉に嫌悪感を示していた。


たぶん、グランジ・バンドの多くは自分たちのことをパンクと呼んで欲しかったのではないだろうか?


今回取り上げたSCREAMING TREES〔スクリーミング・トゥリーズ〕もグランジと呼ばれることに嫌悪感を示していたように記憶している。


確かに、彼らの最高傑作と言われている6thアルバム「SWEET OBLIVION」を聴いても、グランジという言葉から連想されるようなノイジーな印象は無い。


グランジというよりは、むしろ、ハード・ロック近い。


所謂、古典的なハード・ロックのような「キメのギター・ソロ」は無いが、Mark Lanegan〔マーク・ラネガン〕のエモーショナルな低音で歌いあげられる上質な楽曲は、グランジ・ファンよりも、むしろハード・ロック・ファンに受け入れられるのではないかと思える(とにかくギター・ソロが聴きたいという人には無理かもしれないが)。


NIRVANAニルヴァーナ〕、PEARL JAMパール・ジャム〕、SOUNDGARDENサウンドガーデン〕、ALICE IN CHAINS〔アリス・イン・チェインズ〕といったグランジの大御所たちに比べ、SCREAMING TREESの人気は悲しいくらいに低い。


グランジに限った話ではないが、ムーヴメントが終焉すると多くのバンドは忘れ去られる。


SCREAMING TREESも忘れ去られつつあるバンドだ。


今回取り上げた「SWEET OBLIVION」や次作「DUST」はグランジという一過性のブームに埋もれさせてしまっては惜しい作品なので、筆者は今後もずっと聴き続けていくだろう。

 

#0018) NEW GOLD DREAM (81-82-83-84) / SIMPLE MINDS 【1982年リリース】

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1970年代後半から1980年代前半にかけて英国で勃興したポストパンク~ニュー・ウェーヴのムーヴメントからは多くのバンドが登場したが、その中でもU2〔ユートゥー〕、THE CUREザ・キュアー〕、NEW ORDERニュー・オーダー〕、DEPECHE MODEデペッシュ・モード〕あたりは現在でも人気があり、その影響を公言する後続のバンドも多い。


それに比べ、ECHO & THE BUNNYMEN〔エコー&ザ・バニーメン〕やTHE PSYCHEDELIC FURS〔ザ・サイケデリック・ファーズ〕あたりは当時と現在での人気と評価に大きな差があり、後続のバンドからもその影響を公言されることが少ない。


今回取り上げたSIMPLE MINDS〔シンプル・マインズ〕もどちらかと言えば後者のような気がする。


SIMPLE MINDSの場合、シングル"Don't You (Forget About Me)"が米国のビルボード・チャートで1位となり、その勢いのままリリースした7thアルバム「ONCE UPON A TIME」も米国でゴールド・ディスクに認定され、大きな成功を手に入れたのだが、これが良くなかったような気がする。


そもそも"Don't You (Forget About Me)"は彼らの自作曲ではなく、レコーディング・プロデューサーのKeith Forsey〔キース・フォーシー〕とSteve Schiff〔スティーヴ・シフ〕が、映画「ブレックファスト・クラブ」のために書いた曲であり、これと言った特徴の無いその平凡な曲調はSIMPLE MINDSというバンドの持ち味が全く生かされていない。


ゴールド・ディスク認定された「ONCE UPON A TIME」も非常に大味なスタジアム・ロックであり、これもまたSIMPLE MINDS本来の魅力からはかけ離れているように筆者には感じられる。


筆者はSIMPLE MINDSのアルバムなら5thアルバム「NEW GOLD DREAM (81-82-83-84)」を推したい。


内省的でありながらも煌めくようなそのサウンドは、後期ROXY MUSICロキシー・ミュージック〕にも通ずる「大人が聴けるロック」だ。


ストパンク~ニュー・ウェーヴ期に出てきたバンドの中にはDavid Bowieデヴィッド・ボウイ〕からの影響を受けたバンドが多い。


SIMPLE MINDSもその一つと言えるのだが、彼らの場合、Bowieと同じくらいの比率でROXY MUSICからの影響も感じさせてくれるところが面白い。


「NEW GOLD DREAM (81-82-83-84)」のオープニング曲"Someone Somewhere In Summertime"はBowieの美しさとROXY(と言うよりBryan Ferry〔ブライアン・フェリー〕と言うべきか?)のダンディズムが融合されたSIMPLE MINDS屈指の名曲であり、彼らにはこの路線を推し進めてほしかった。


SIMPLE MINDSU2の後を追ってスタジアム・バンドを目指すより、BowieやROXYの後継者としてマニアックな道を選ぶべきだったのではないかと思う。

 

#0017) DEAD WINTER DEAD / SAVATAGE 【1995年リリース】

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SAVATAGE〔サヴァタージ〕と言えば、一般的には6thアルバム「STREETS: A ROCK OPERA」の評価が高い。


プログレッシヴ・メタル愛好家の間では、「STREETS: A ROCK OPERA」と言えば、QUEENSRYCHE〔クイーンズライク〕の「OPERATION: MINDCRIME」と双璧をなすコンセプト・アルバムの傑作として認知されている。


筆者も「STREETS: A ROCK OPERA」が傑作であることに関して異論を唱えるつもりはない。


しかし、個人的な好みで言えば、今回取り上げた9thアルバム「DEAD WINTER DEAD」の方が愛聴盤になっている。


米国の社会問題とも言えるドラッグがらみのストーリーが展開される「STREETS: A ROCK OPERA」は、パクった訳ではないと思うのだが、何となくQUEENSRYCHEの「OPERATION: MINDCRIME」に似ていて、二番煎じと言えなくもない。


それに対し、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景にした人種や信仰に纏わる重厚なストーリーが展開される「DEAD WINTER DEAD」はSAVATAGE(と言うよりJon Oliva〔ジョン・オリヴァ〕とPaul O'Neill〔ポール・オニール〕と言うべきか?)によって創り出されたオリジナリティの高い作品であり、聴いていると、まるで映画を見ているかのような錯覚を覚える。


そして、この重厚なストーリーに花を添えているのが、Al Pitrelli〔アル・ピトレリ〕のテクニカルで流麗ギターだ。


筆者は、MEGADETHメガデス〕の「THE WORLD NEEDS A HERO」でAl Pitrelliを知って彼のファンになった。


技巧派のギタリストがある程度名の知れたバンドに途中加入した場合、とにかく自分の色を前へ前へと押し出すことが多いのだが、Al Pitrelliというギタリストは自分が加入したバンドの音楽性を分析し、そのバンドに最適なギターを提供してくれる職人のようなギタリストである。


「DEAD WINTER DEAD」のギターも本来なら、今は亡きオリジナル・ギタリストのCriss Oliva〔クリス・オリヴァ〕が弾ければそれがベストなはずだ。


そんな叶わぬ思いを掬い上げてくれるかのように、「DEAD WINTER DEAD」におけるAl Pitrelliのギターは、Criss Olivaの不在を埋めてくれる見事な仕事ぶりである。


この「DEAD WINTER DEAD」というアルバムを通して、Al Pitrelliというギタリストの存在を一人でも多くの人に知ってもらいたい。