Rock'n'Roll Prisoner's Melancholy

好きな音楽についての四方山話

#0123) INTRODUCING THE HARDLINE ACCORDING TO TERENCE TRENT D'ARBY / Terence Trent D'Arby 【1987年リリース】

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1987年は天才Prince〔プリンス〕が大傑作の9thアルバム「SIGN O' THE TIMES」をリリースした年なのだが、Princeに匹敵する天才的な新人アーティストが1stアルバムをリリースした年でもある。


その天才の名はTerence Trent D'Arbyであり、リリースした1stアルバムは「INTRODUCING THE HARDLINE ACCORDING TO TERENCE TRENT D'ARBY」だ。


長いアルバム・タイトルなので、日本では「T.T.D.」というダサい邦題が付けられていた。


この時期の筆者はPrinceにぞっこんだったのだが、Princeを脅かすほどのアーティストが出てこないことに少し不満を感じていたりもした。


そんな時に凄まじい完成度の1stアルバムを引っ提げて鮮烈なデビューを果たしたのがTerence Trent D'Arbyだったのである。


Princeとの比較で文章を書き始めてしまったが、PrinceとTerence Trent D'Arbyでは同じ天才でも、創り出す音楽のテイストはかなり異なる。


殆どの楽器を自分で演奏してレコーディングするというアルバム制作のスタイルは共通している。


ファンク、ソウル、R&B、ロック、ポップ等をごった煮にしたカテゴライズ不能の音楽性も共通しているのだが、Terence Trent D'ArbyにはPrinceのような変態的で気色の悪いセクシャリティは無い。


Terence Trent D'Arbyの創り出す音楽はとても都会的で洗練されているのである。


「INTRODUCING THE HARDLINE ACCORDING TO TERENCE TRENT D'ARBY」というアルバムは上に列挙した様々な音楽をごった煮にしたような作品なのだが、普通これだけ乱暴にごった煮にするとなかなか綺麗に纏めることは難しいはずである。


ところが、このアルバムはTerence Trent D'Arbyという天才の手腕により綺麗に纏められ、且つ、一般受けも合わせ持ったポピュラリティの高い作品に仕上げられているのである。


この新たに登場した天才の才能はPrinceも認めており、このアルバムの収録曲である"If You Let Me Stay"と"Wishing Well"を自身のライヴでカヴァーしている。


これだけ鮮烈な登場を果たしたTerence Trent D'Arbyだったが、2ndアルバム「NEITHER FISH NOR FLESH」で失敗を犯す。


ある意味1stアルバムを上回る傑作なのだが、あまりにも芸術性を高めてしまったが故にポピュラリティを失ってしまったのだ。


天才が犯しやすい失敗である。


この辺りが強かなPrinceとの違いなのだろう。


Princeは芸術性を追求した1stアルバム「FOR YOU」ではそれほど高い評価を得られなかったが、2ndアルバム「PRINCE」では独特のポピュラリティが開花し、その後はポップ・ミュージック界のトップに昇り詰めた。


Terence Trent D'Arbyは5thアルバムの「WILDCARD」からはアーティスト名をSananda Maitreya〔サナンダ・マイトレイヤ〕と変えて現在でも活躍している。


Princeのようにポップ・ミュージック界のトップに昇り詰めることは出来なかったが天才であることは今も変わっていない。

 

#0122) THE BEST LITTLE SECRETS ARE KEPT / LOUIS XIV 【2005年リリース】

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1970年代初頭の英国で興ったグラム・ロック・ムーヴメントが輩出した2大スターと言えば、David Bowieデヴィッド・ボウイ〕とT. REX〔T・レックス〕のMarc Bolanマーク・ボラン〕である。


常々、思っていたのだが、David Bowieの後継者はけっこういるのだが、Marc Bolanの後継者となると殆どいないのではないだろうか?


今、思いついたDavid Bowieの後継者を挙げてみると、


John Foxxジョン・フォックス〕/ULTRAVOX〔ウルトラヴォックス〕
・Gary Numan〔ゲイリー・ニューマン〕/TUBEWAY ARMY〔チューブウェイ・アーミー〕
David Sylvianデヴィッド・シルヴィアン〕/ JAPAN〔ジャパン〕
・Peter Murphy〔ピーター・マーフィー〕/BAUHAUS〔バウハウス
・Ian McCulloch〔イアン・マッカロク〕/ECHO & THE BUNNYMEN〔エコー&ザ・バニーメン〕
Morrisseyモリッシー〕/THE SMITHSザ・スミス
・Jarvis Cocker〔ジャーヴィス・コッカー〕/PULP〔パルプ〕
・Brett Anderson〔ブレット・アンダーソン〕/SUEDEスウェード


等々、きりがないのでこれくらいにしおく。


中には、「Bowieの影響なんか受けていないよ」と言う人もいそうだが、「いやいや、そんなはずないでしょ」と即座に突っ込みを入れられるだろう。


対して、Marc Bolanの後継者を挙げようとすると、「この人だ」と明確に言い切れる人がなかなか挙がらない。


David Bowieの模倣を試みた場合、時代の空気を敏感に読み取り、カメレオンの如く自らの音楽性を器用に変遷させていったBowieの様々なパーツを取り入れることでDavid Bowieそのものになることは避けられ、オリジナリティを出すことも可能である。


これが、Marc Bolanの模倣を試みた場合、キャリア初期はフォークの影響を受けていたり、キャリア後期はブラック・ミュージックの影響を受けていたりするものの、自らのキャリアの大部分を、ほぼボラン・ブギー一本で華麗に駆け抜けたBolanのパーツを取り入れるとMarc Bolanそのものになってしまい、オリジナリティを出し難いからではないだろうか?


T. REXの公式トリビュート・バンドであるT. REXTASY〔T・レクスタシー〕が、その良い例だと言えるだろう。


前置きが長くなったが、ここで漸く登場するのが米国カリフォルニア州サンディエゴ出身のロック・バンドLOUIS XIV〔ルイ・ザ・フォーティーンス〕であり、取り上げるのが彼らの2ndアルバム「THE BEST LITTLE SECRETS ARE KEPT」だ。


これは、かなり優秀なT. REXの後継者である。


T. REXの影響を受けつつも、T. REXそのものにはなっておらず、LOUIS XIVとしてのオリジナリティもしっかりと出せているところが凄い。


繰り返しになるが、T. REX(Marc Bolan)を目指すとオリジナリティを出すのは難しいのである。


2000年代以降に出てきたアーティストについてはプロフィールをあまり調べなくなったのだが、Jason Hill〔ジェイソン・ヒル〕とBrian Karscig〔ブライアン・カシグ〕という二人がこのバンドの中核のようだ。


Jason Hillという人物は再結成したNEW YORK DOLLSニューヨーク・ドールズ〕のアルバム「DANCING BACKWARD IN HIGH HEELS」にベーシストとして参加しているのでDOLLSのファンならもしかするとその名を聞いたことがあるのではないだろうか?


バンドは、2003年に結成され、2009年に一度解散しているのだが、2013年に再結成し、2018年現在でも継続されているようだ。


作品は、2008年に3rdアルバム「SLICK DOGS AND PONIES」をリリースしたのが最後のようだが、是非ともニュー・アルバムをリリースしてもらいたいものである。


この記事を書いていて、今、思い出したのだが、日本のMARCHOSIAS VAMP〔マルコシアス・バンプ〕も優秀なT. REXの後継者なので、いつか取り上げてみたくなった。

 

#0121) OUTSIDE LOOKING INSIDE / FLIES ON FIRE 【1991年リリース】

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マイクロソフトWindows 95をリリースして以降、インターネットは人々の生活における重要なインフラとして定着し、筆者の暮らしもインターネット無しでは成立し難くなった。


自分の下に届く情報もインターネット普及以前とは比べ物にならないほど増え、趣味である音楽(主にロック)の分野でも思いがけず有用な情報を得られることがある。


これは、ロックを聴き始めた1980年代に洋楽雑誌で情報を集めていた頃とは比較にならない膨大な量だ。


そして、得られた情報から稀に大きな驚きを与えられることがある。


今回取り上げるFLIES ON FIRE〔フライズ・オン・ファィア〕が1991年にリリースした2ndアルバム「OUTSIDE LOOKING INSIDE」は、筆者に対し、かなり大きな驚きを与えてくれた一枚である。


その驚きとは、このアルバムの内容ではない。


このアルバムは特に奇を衒ったところのないオーソドックスなブルース・ベースのロックン・ロールだ。


筆者が驚いたのは、1990年頃に筆者がこのバンドを見逃していたことなのである。


「奇を衒ったところのないオーソドックスなブルース・ベースのロックン・ロール」というのは筆者の大好物だ。


FLIES ON FIREというバンドの音楽性を筆者の中で位置付けするなら、THE GEORGIA SATELLITES〔ジョージア・サテライツ〕とTHE DOGS D'AMOUR〔ザ・ドッグス・ダムール〕の間ということになる(FLIES ON FIREは米国のバンドなのでTHE GEORGIA SATELLITESの方により近いかもしれない)。


THE GEORGIA SATELLITESほど泥臭さくは無く、THE DOGS D'AMOURほど感傷的ではない。


正に筆者の好みにドンピシャで嵌るバンドなのである。


10年ほど前に(この記事を書いているのは2018年)、Amazonで筆者へのお薦めとして上がっていたのがFLIES ON FIRE との出会いである。


早速、世界最大の動画共有サービスサイトで試聴し、即決で中古盤を購入した。


とにもかくにも、1990年代初期に筆者がこのバンドを見逃していたのが自分自身でどうにも信じられない。


このバンドはインターネットを使っていなかったら、たぶん見つけられなかっただろう。


今回取り上げた「OUTSIDE LOOKING INSIDE」以外には、1989年に1stアルバム「FLIES ON FIRE」をリリースしているが、どうもこの2枚を残して解散しているようだ。


2枚のアルバムに大した違いは無いのでどちらを取り上げてもよかったのだが、「OUTSIDE LOOKING INSIDE」収録の"Blues #33"という曲がたまらなく好きなのでこちらを取り上げることにした。


筆者にとって、このバンドは隠し玉とも呼べる存在であり、「これ、良いから聴いてみて」と自信を持って言えるバンドなのだが、2018年現在、このアルバムは残念ながらAmazon Music Unlimitedでは提供されていない。


試聴するには、世界最大の動画共有サービスサイトで個々の曲を個別に拾うしかないのだが、そんな面倒くさいことをしてでもロックン・ロール・プリズナー達に聴いてもらいたいバンドである。

 

#0120) STRAWBERRY SWITCHBLADE / STRAWBERRY SWITCHBLADE 【1985年リリース】

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ゴシック・アンド・ロリータ(通称、ゴシック・ロリータ、ゴスロリ)と言われるファッションの原点がどこにあるのかについて、筆者はその歴史に全く明るくない人間だが、1985年に1stアルバムをリリースしたSTRAWBERRY SWITCHBLADEストロベリー・スウィッチブレイド〕のファッションを今改めて見てみるとゴスロリのように見える。


当時はまだゴスロリという言葉は無かったと記憶しているのだが、ロックの世界ではポストパンクから派生したゴシック・ロックというジャンルが既に成立しており、SIOUXSIE & THE BANSHEES〔スージー&ザ・バンシーズ〕、JOY DIVISIONジョイ・ディヴィジョン〕、BAUHAUS〔バウハウス〕、THE CUREザ・キュアー〕、CHRISTIAN DEATH〔クリスチャン・デス〕等がその代表的なバンドだと言えるだろう。


STRAWBERRY SWITCHBLADEのRose McDowall〔ローズ・マクドゥール〕とJill Bryson〔ジル・ブライスン〕の二人のファッションは、ゴシック・ロックを可愛らしくガーリーにアレンジしてみたら、たまたま今のゴスロリに通ずる容姿になったのだろう。


今回取り上げたSTRAWBERRY SWITCHBLADEの1stアルバム「STRAWBERRY SWITCHBLADE」は、中学生の頃にレンタルレコード店で借りてカセット・テープに録音し、テープが伸びて音質が劣化するほど聴きまくった作品である。


このアルバムも現在ではAmazon Music Unlimitedで聴けるので最近よく聴いているのだが、聴く度にノスタルジアが刺激され、過ぎ去った時代への想いが溢れ出してしまい、何だかとても困っている。


女の子のデュオと言うと、何となくプロデューサーやマネジメントの操り人形のようなイメージを持たれるかもしれないが、楽曲は彼女たち自身のペンによるもので、そのソングライティング・センスはけっこう達者だ。


英国スコットランドグラスゴー出身というバックグラウンドが先入観になっているのかもしれないが、どこかAZTEC CAMERA〔アズテック・カメラ〕やORANGE JUICE〔オレンジ・ジュース〕に通ずるネオアコ的なテイストがそこはかとなく漂っている。


しかし、楽曲の土台はエレポップであり、1980年代という時代性を強く感じさせる打ち込みをバックに、あまり上手くないがとても可愛らしい女の子のヴォーカルとコーラスが乗る楽曲は今聴いてもなかなか斬新である。


昨日、TEENAGE FANCLUBの「GRAND PRIX」を取り上げた時に"Don't Look Back (振り返るな)"という曲が良いと書いた翌日であるにも関わらず、いきなり過去を振り返り想い出に浸るような作品を聴いている自分は本当にダメ人間だなと感じている。


歳のせいにはしたくないのだが、50に手が届くようになってから、過去を、それも自分が良い時代だったと思っていた頃の過去を振り返ることが増えた。


これは少しまずい傾向である。

 

#0119) GRAND PRIX / TEENAGE FANCLUB 【1994年リリース】

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THE BEATLESザ・ビートルズ〕から大きな影響を受けたバンドとして、よく例えに挙げられるのはBADFINGER〔バッドフィンガー〕、CHEAP TRICK〔チープ・トリック〕、ENUFF Z'NUFF〔イナフ・ズナフ〕、TEENAGE FANCLUBティーンエイジ・ファンクラブ〕、OASIS〔オアシス〕あたりになるのだろうか?


他にもあるはずだが、今、パッと思いついたものだけを書いてみた。


OASIS以外は筆者が今でもよく聴くバンドである。


OASISは、2ndアルバム「(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?」がリリースされた頃まではよく聴いていたのだが、「ある日、突然に」と言えるくらい、急激に興味を失ってしまった。


逆にTEENAGE FANCLUBは、1991年に名盤と言われる3rdアルバム「BANDWAGONESQUE」がリリースされた頃は、「良い曲が詰まったアルバムだな」と思いながらも、それほど聴き込むことはなかった。


普通、それほど聴き込まないアルバムは中古CDショップに売ってしまったりするのだが、「BANDWAGONESQUE」は聴き込まないながらも、何となく捨て難いものがあり、部屋のCDラックに眠ったまま数年が過ぎた。


そして、TEENAGE FANCLUBのその後のアルバムを追いかけることなく、2000年を少し過ぎた頃、気まぐれで「BANDWAGONESQUE」を久しぶりに聴いてみたところ、「えっ、こんなに良かったっけ?」という驚きと共に、遅ればせながらTEENAGE FANCLUBに嵌ってしまったのである。


その後、少しずつ「BANDWAGONESQUE」以降のTEENAGE FANCLUBのアルバムを買い揃えていったのだが、その中でも特に心を鷲掴みにされたのが、今回取り上げた5thアルバムの「GRAND PRIX」だ。


余談だが、このバンド、2ndアルバムの「THE KING」が無かったことにされているような節がある。


故に、「GRAND PRIX」も5thアルバムではなく、4thアルバムとしてカウントされている場合がある。


話が逸れたが、この「GRAND PRIX」というアルバム、1990年代屈指のグッド・メロディが詰まった作品である。


「BANDWAGONESQUE」で話題になった頃は、時代性を反映させ、グランジオルタナティヴ・ロックからの影響を伺わせるテイストもあったのだが、この「GRAND PRIX」というアルバムは唯々良質なポップ・ミュージックを楽しめる作品になっている。


THE BEATLESに似ているかと問われれば、それほど似ていないような気がする。


特に中期以降のTHE BEATLESが持っていたエクスペリメンタルな要素は希薄である。


Norman Blake〔ノーマン・ブレイク/vocals, guitars〕、Gerard Love〔ジェラード・ラヴ/vocals, bass〕、Raymond McGinley〔レイモンド・マッギンリー/vocals, guitars〕という優れたソングライターがそれぞれ個別に書いた曲を持ち寄り、バンドで録音しただけのようなアルバムなのだが、不思議と統一感がある。


どの曲も名曲なのだが、人に聴かせる時に1曲選ぶならGerard Love の書いた"Don't Look Back"だ。


優しく、「振り返るな」と語りかけてくれるようなこの曲は、もう、何もかもが嫌になったと思える時に聴くと涙が出そうになる。


そう言えば、昔、洋楽雑誌MUSIC LIFEに掲載されたMANIC STREET PREACHERSマニック・ストリート・プリーチャーズ〕のNicky Wire〔ニッキー・ワイアー〕のインタビュー記事で、彼が少し言い難そうに、「実はTEENAGE FANCLUBが好きなんだ」と言っていたのを読んだ記憶がある(古い記憶なので間違っていたらお許し頂きたく)。


この、少し言い難そうに「TEENAGE FANCLUBが好き」とカミングアウトする感じ、何となく解る気がする。