日本でNINE INCH NAILS〔ナイン・インチ・ネイルズ〕というバンドの名が広まったのは、GUNS N' ROSES〔ガンズ・アンド・ローゼズ〕のW. Axl Rose〔W・アクセル・ローズ〕がインタビュー等で度々お気に入りのバンドとして彼らの名を挙げていたからだろう。
「彼ら」と書いてしまったが、その実態がTrent Reznor〔トレント・レズナー〕のソロ・プロジェクトであることは最早説明の必要すらない。
NINE INCH NAILSが1stアルバム「PRETTY HATE MACHINE」をリリースした1989年頃の筆者は、かなりGUNS N' ROSESに入れあげていたので、NINE INCH NAILSの情報も早い段階でキャッチしていたのだが、確かこのアルバムは米国でのリリースと日本でのリリースにけっこう時間差があったような気がする(古いことなので、正確な記憶はなく、間違っていたならお許し頂きたく)。
日本盤のリリースが待てなかった筆者は輸入盤で「PRETTY HATE MACHINE」を買ったのだが、正直なところ、このアルバムを最初に聴いた時の印象はそれほど強いものではなかった。
NINE INCH NAILSに対しそんな印象しかなかった筆者がこのアーティストを無視できなくなったのは1992年にリリースされたEP「BROKEN」の激烈なサウンドを聴いてからなのだが、彼ら(と言うよりTrent Reznor)が他のインダストリアル・ロック系アーティストを大きく引き離し、この分野のトップに君臨する切っ掛けとなったのは1994年にリリースされた2ndアルバム「THE DOWNWARD SPIRAL」であることはロック・ファン共通の認識であろう。
たった今、「インダストリアル・ロック系アーティストのトップ」と書いたが、実は筆者個人としては、NINE INCH NAILS よりもPIG〔ピッグ〕、KMFDM〔ケーエムエフディーエム〕、MINISTRY〔ミニストリー〕を好んで聴いている。
しかし、そんな筆者でも「THE DOWNWARD SPIRAL」を初めて聴いた時の衝撃は凄かった。
もちろん、緻密に構築されていながらも破壊的で激烈なサウンドに衝撃を受けた部分もあるのだが、アルバムのラストを飾る"Hurt"というバラード(と言えるのだろうか?)に最も大きな衝撃を受けたのである。
"Hurt (傷つける)"というタイトルからしてハッピーな内容ではないことは分かるのだが、この曲で傷つける対象となっているのは自分であり、その暗澹たる歌詞の世界観にやられてしまったのである。
この曲は、
I hurt myself today(今日、自分を傷つけてみた)
To see if I still feel(まだ感じるかどうかを確認する)
と始まり、
Full of broken thoughts(壊れた考えが満ち)
I cannot repair(修復できず)
という絶望的な展開になりつつ、最後には、
If I could start again(もし再び始めることができたなら)
と、ほんの僅かの希望で締めくくられる。
この壮絶な世界観を持つ曲をTrent Reznorが書いた時、NINE INCH NAILSはインダストリアル・ロック系アーティストのトップという立ち位置すら抜け出し、THE BEATLES〔ザ・ビートルズ〕やLED ZEPPELIN〔レッド・ツェッペリン〕等と並び立つロック・レジェンドとなったのである。