【10位】Argus / Wishbone Ash
[title]
Argus [百眼の巨人アーガス]
3rd album
released: 1972
[artist]
Wishbone Ash [ウィッシュボーン・アッシュ]
origin: Torquay, Devon, England, UK
[comment]
このアルバムはあまりにも繊細すぎるので、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの文脈で語るには少々無理があるのかもしれない。
しかし、Andy Powell と Ted Turner による完全無欠のツイン・リード・ギターと、ここに足すことも、ここから引くこともできない完璧なアンサンブルは、後に登場する HR/HM のバンドに計り知れない影響を与えた。
そして、ロック史上でもトップクラスと言えるアルバム・カヴァーの美しさは、このアルバムの曲と見事にマッチしている。
【9位】Hair of the Dog / Nazareth
[title]
Hair of the Dog [人食い犬]
6th album
released: 1975
[artist]
Nazareth [ナザレス]
origin: Dunfermline, Fife, Scotland, UK
[comment]
日本人の筆者にはスコットランドとイングランドの違いがイマイチ分からないのだが、それでも Nazareth を聴いているとスコットランドっぽい感じがしなくもない。
このバンドはポップでキャッチーな曲を書くのが上手いのだが、このアルバムは特に粒ぞろいだ。
Guns N' Roses の Axl Rose がハイトーンで歌うようになった切っ掛けは、彼がこのアルバム収録の "Love Hurts" を歌っているときに、それを聴いていた Izzy Stradlin に褒められたからである。
【8位】Never Turn Your Back on a Friend / Budgie
[title]
Never Turn Your Back on a Friend [ネヴァー・ターン・ユア・バック・オン・ア・フレンド (友情)]
3rd album
released: 1973
[artist]
Budgie [バッジー]
origin: Cardiff, Wales, UK
[comment]
ウェールズにはイングランドとは異なる独特の文化があるということを、かつてウェールズで働いていた職場の先輩から聞いたことがあるのだが、確かにこのウェールズ出身バンド Budgie の音は独特だ。
これは 73年にリリースされた古いアルバムなのだが、80年代のメタルに通じる怜悧な切れ味があり、当時の感覚からすると物凄くモダンな音なのではないだろうか?
Metallica にカヴァーされた 1曲目の "Breadfan" は、Metallica がカヴァーしたからメタルになったのではなく、オリジナルの時点で既にメタルなのである。
【7位】Stained Class / Judas Priest
[title]
Stained Class [ステンド・クラス]
4th album
released: 1978
[artist]
Judas Priest [ジューダス・プリースト]
origin: Birmingham, England, UK
[comment]
現在のヘヴィ・メタル・バンドは、直接的にしろ間接的にしろ、すべからく Judas Priest の影響を受けているはずだ。
2nd アルバム Sad Wings of Destiny、3rd アルバム Sin After Sin でブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの礎を築き、この 4th アルバムで更にそれを研ぎ澄ませて完成させた。
もしも、このアルバムがなければ、ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルは、今とは違う形になっていたのではないだろうか?
【6位】Taken by Force / Scorpions
[title]
Taken by Force [暴虐の蠍団 テイクン・バイ・フォース]
5th album
released: 1977
[artist]
Scorpions [スコーピオンズ]
origin: Hanover, West Germany
[comment]
このアルバムの一番良いところは、Ulrich Roth が一曲も歌わずにリード・ギターに専念しているということだ。
これよりも前のアルバムでは何故か Uli の歌う曲が入っており、その曲が始まった瞬間のガッカリ感ときたら(3rd アルバムの In Trance なんて、1曲目から Uli の歌だもの...)
ギタリストとしての Uli は素晴らしいプレイヤーであり、Scorpions には Klaus Meine という素晴らしいシンガーいるのだから、このアルバムの制作方法が正解なのである(ちなみに Scorpions はドイツ出身ではなく西ドイツ出身だ)。
【5位】Back on the Streets / Gary Moore
[title]
Back on the Streets [バック・オン・ザ・ストリーツ]
1st solo album
released: 1979
[artist]
Gary Moore [ゲイリー・ムーア]
origin: Belfast, Northern Ireland, UK
[comment]
筆者の場合、アイルランドと聴いて思い浮かぶミュージシャンの筆頭は、Thin Lizzy と Gary Moore だ。
このアルバムには Thin Lizzy の Phil Lynott も参加しており、"Don't Believe a Word" は Phil が書いた Thin Lizzy の曲であり、歌っているのもPhil だ(本人が歌っているのでカヴァーとはちょっと違う)。
"Parisienne Walkways (パリの散歩道)" がズバ抜けて有名だが、全編に渡り Gary の超絶テクニックによる哀愁溢れるギターが聴ける名盤である。
【4位】Johnny the Fox / Thin Lizzy
[title]
Johnny the Fox [サギ師ジョニー]
7th album
released: 1976
[artist]
Thin Lizzy [シン・リジィ]
origin: Dublin, Irland
[comment]
Thin Lizzy の Scott Gorham と Brian Robertson による哀愁のツイン・リード・ギターは本当に美しく、いつ聴いても胸が締め付けられる。
前出の Gary Moore の Back on the Streets に収録されている "Don't Believe a Word" は、このアルバムにオリジナルが収録されているのだが、Gary Moore 版と Thin Lizzy 版では、一聴しただけでは同じ曲とは気付かないくらいアレンジが違っているのが面白い。
Thin Lizzy に関しては全てのアルバムが好きなのだが、最近よく聴くのは、ちょっとゴージャスな感じのするこのアルバムだ。
【3位】Phenomenon / UFO
[title]
Phenomenon [フォース・イット]
3rd album
released: 1974
[artist]
UFO [ユー・エフ・オー]
origin: London, England, UK
[comment]
このアルバムは "Doctor Doctor" と "Rock Bottom" に比べて、他の曲のクオリティが落ちると言われることがあるが、"Doctor Doctor" と "Rock Bottom" が凄すぎるので、他の曲が目立たないだけであり、全ての曲は標準以上のクオリティを有している。
Michael Schenker という、ペンタトニック・スケールの達人が奏でるギターを存分に味わえる、ブリティッシュ・ハード・ロックの名盤だ(Michael はドイツ人だが)。
"Doctor Doctor" はイントロが始まった瞬間に聴く者を号泣させ、"Rock Bottom" のリフの高揚感は「神」の成せる技としか言いようがない。
【2位】Look at Yourself / Uriah Heep
[title]
Look at Yourself [対自核]
3rd album
released: 1971
[artist]
Uriah Heep [ユーライア・ヒープ]
origin: London, England, UK
[comment]
Uriah Heep は、Led Zeppelin、Deep Purple、Black Sabbath という3大ハード・ロック・バンドの一番近いところにいるバンドだと思う(他の国での序列は知らないが日本ではそうだと思う)。
Purple 同様オルガン奏者のいるバンドだが、暴力的な疾走感でグイグイ圧してくる Purple とは異なり、Heep の曲は絢爛豪華であり "July Morning" に至っては荘厳ですらある。
今回は、このリストを作ったときの気分で2位に置いてしまったが、これが1位でも良かったと思っている。
【1位】Overkill / Motörhead
[title]
Overkill [オーヴァーキル]
2nd album
released: 1979
[artist]
Motörhead [モーターヘッド]
origin: London, England, UK
[comment]
1st アルバム Motörhead は、少しだけ Lemmy の古巣 Hawkwind の残像があり、リミッターが効いているのだが、この 2nd アルバムでは完全にメーターを振り切っている。
このバンドが存在しなかったら、スラッシュ・メタルもハードコア・パンクも存在しなかったかもしれない、というのは言い過ぎかもしれないが、メタルとパンクのクロスオーヴァーに多大なる影響を与えたのは揺るぎない事実である。
彼ら自身は、自らのことをメタルでもパンクでもなく、常に「俺たちはロックン・ロール・バンド!」だと言い切っており、その迷いの無さから生まれたのが Motörhead の爆走型ロックン・ロールなのである。
総括
筆者が最も「ロックっぽい」と感じるジャンルは、ロックン・ロール、ハートランド・ロック、サザン・ロック、そして、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルだ。
日常的にロックを聴かない人がロックに対して持っている「ロックっぽい」というイメージも、だいたいこの辺りなではないだろうか?
筆者は、パンクやオルタナティヴも聴くが、やはり、最も好きで且つ聴いていて安心できるのは、ロックン・ロール、ハートランド・ロック、サザン・ロック、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル辺りなのである。
その中から、今回は、「好きなハード・ロック/ヘヴィ・メタル(70年代・欧州編 ~Zep、Purple、Sabbath以外~)のアルバム10選」ということでリストを作った。
ハード・ロック/ヘヴィ・メタル、特にヘヴィ・メタルは極めれば極めるほど、ロックのルーツであるブルースから遠ざかり、ブルースに頼らないロックを築き上げた。
メタルとは、ブラック・ミュージックから最も離れた所にいるロック史上最も「白いロック」なのである。
こういうスタイルのロックは、ロックの歴史の中でも極めて珍しいと思うのだが、それにも関わらず「ロックっぽい」と感じさせるのは、どうにも不思議で興味深い。
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルは、間違いなく筆者が死ぬまで聴き続けるジャンルの音楽だと思う。
【補足】
今回の10枚を選ぶにあたり、Led Zeppelin、Deep Purple、Black Sabbath の三つは大物過ぎるので外した(Uriah Heep は微妙なラインだが外さなかった)。
Humble Pie、Bad Company、Rainbow、Whitesnake、Gillan 等、大物からの派生も外した。
70年代にアルバムをリリースしていても、New Wave Of British Heavy Metal 系バンドは、ちょっと企画にそぐわない気がしたので外した。